「うっ・・・・・・・ここは」
意識を失っていた有菜は目を覚ます。目を覚まして感じたのはコンクリートの地面の冷たさ、そして胴回りに感じた痛みだった。身動きのできないように縄できつく縛られている。
「目を覚ましたようですね」
聞き覚えのある声。しかし、冷徹で機械的な声色はとても同一人物のものとは思えなかった。
「三嶋さん・・・・・・・」
隣には高城が眠っている。
「西森くん・・・・・だめ、だめです、こんな人気のないところで、むにゃむにゃ、わたし達、まだ健全な高校生なんですから、むにゃむにゃ」
暢気な寝言までたてて、熟睡をしている高城の姿があった。
「高城さん・・・・・」
ある意味うらやましいくらいの脳天気ぶりだった。この非常時に実に緊張感のない様子。
「た、高城さん! 寝てる場合じゃないわよ! 早く起きて!」
「・・・・・・ううっ、ここは」
「目を覚まされたようですね。私どもとしてはどちらでもいい事なのですが」
「・・・・・・あなたはいったい。どうしてこんな事をそして、私達をどうするつもりなの?」
疑問は尽きなかった。
「あなた達の質問に答える義務はない・・・・・・・ですが、答えてあげてもいいでしょう」
三嶋は語る。表情ひとつ変えずに。
「私達はESP開発機関といいます」
「ESP?」
「平たく言えば超能力者などの事です。そう、あなた達のような、特別な力を持った人たちの事。私たちはそういった能力者の研究、開発機構なんです」
今までよりも饒舌に語り始める。
「そういった研究機関は数多に存在します。例えば医療分野などの分野、そういった平和な分野での研究開発機構も存在します」
「あなた達は、どういう目的で研究をするつもりなの?」
「いい質問ですね。例えばハイジャックをしようとしましょう。アメリカの同時多発テロ以降、X線による身体検査は義務となっています。そういった中でナイフや銃火器などの旧来型の兵器は検査に引っかかってしまう。しかし、能力者による能力を規制する事はできません。これってすごい事だとは思いませんか?」
「何となく、あなた達がろくでもない事をしようとしているって事だけは理解できるわ」
「ふふっ。察しがいいですね。私達は能力者の兵器転用を主な研究として行っているのです。どのような状況下でも規制されず、また行動を予知しづらい。我々のような機関によって、能力者とはこれ以上ないというくらい好都合なテクノロジーなのです」
「・・・・・・それで、なぜ私たちを」
「あなた達は餌なのです。かつてより私たちは次の被験者候補として西森柚咲緒をターゲットとして選定していました。既にこの場所に西森柚咲緒は向かっています」
「どうして、そんなにペラペラと話すの?」
「決まっているじゃないですか」
嗜虐敵な笑みをもらす。
「あなた達もまた、研究材料なのです。無事に返すつもりはありません。廃人となったあなた達は先程の話の内容など覚えてはいないでしょう。だからどうでもいいのです」
クックック。不気味な笑みをもらす。その笑みは薄気味悪く、不気味で背筋は凍るようだった。
「そんな目的で・・・・・・和私達の学園にあなたは潜入していたの」
「ええ。あなた達の学園は多くの能力者が在学しています。そして今回の西森柚咲尾の転入を受けて、私達は今回の計画を決行する事にしたのです。・・・・・・そろそろおしゃべりはおしまいにしましょう。メインゲストの登場です」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・はぁ」
走ってきたからだろう、彼は肩で息をしていた。
「西森君! そんな、私(高城)を助ける為に! こんな危機の中駆けつけるなんて! なんてヒーローなの!」
私(高城)って。なぜ限定なのだろうか。もはや危機に瀕しているヒロインを助けにきたヒーロー、その感動のご対面といったところだろうか。急速に高城の中で自分が空気化している事に不満を持たざるを得ない有菜だった。
ともかくとして。
「約束通り、一人で来たようですね。感心しましたよ。西森柚咲緒」
「二人は無事か!?」
「ええ・・・・・・無事です。無論、今のところはですが・・・・・・」
「約束通り一人で来たんだ。二人を解放しろ!」
「ええ。その前に、あなたを拘束させてください」
「くっ」
影から二名程の黒づくめの男達が西森を拘束しようとする。
「クックック。逃げようなんて思うなよ。逃げたら女達の無事は保証できないぜ」
黒づくめの男達は手錠をもって、じわりじわりと近づいてくる。
万事休すと思われた。
ーーだが。
「そのへんにしとけよ」
「誰だ!?」
誰もいないはずの空間。その場にはいないはずの声だった。冷徹(クール)な印象を受ける少年の声。
男達は声の主を探す。
ーーと。高台ーーこの場所はコンテナの倉庫のようだった。誰もいなかったはずの空間より、少年は姿を表す。
「貴様! 何者だ!」
「友利君!」
有菜は叫ぶ。
さらわれたお姫様(ヒロイン)を助けるべく、現れた王子様(ヒーロー)とでも取れるベタな展開だった。
「貴様! いったいいつの間に!」
男達は身構える。ーーしかし。遅い。
友利が降り立つと同時に首筋に鋭い蹴りが見舞われた。
「ぐあっ!」
男は崩れ落ちる。一瞬で意識が昏倒したのだろう。
「くっ!」
もう一人の黒づくめ男は懐に手を入れた。銃を取りだそうとしたのだろう。
「おせーよ」
しかし、拳銃とはいえ、至近距離ではもはや意味をなさない。
構えるより前に友利の回転蹴りが炸裂する。
「ぐっ、ぐああああああ!」
無様な悲鳴をあげつつ、男は壁に打ち付けられ、意識を失った。
「透明化能力、そうですか・・・・・・・・。あなたも能力者でしたか」
そう、三嶋は言う。
「・・・・・・・くそっ。僕に手を出すだけならまだしも、他の人にまで。うっ!」
「西森君!」
と、有菜。突如、西森が頭を抱え始めた。
「どうした! キザ野郎!」
「ーー頭が、頭が」
突如の頭痛を訴え始める。
ーーしかし。数秒ほどした後、あっさりと立ち上がった。
「なっ!?」
その表情は別人そのものだった。今まで西森にあった、優しく、穏やかな眼差しは鋭い眼光に変わっていた。その瞳はまるで炎を宿しているかのようだった。
有菜は思い出す。西森のしていた話を。
『二重人格』
その言葉を思い出していた。
「貴様ぁ!」
黒づくめの男は他にもいたようだった。男は適当な鉄パイプをもって襲いかかる。
ーーだが。
流れるような動きと共にかわされ、
「なっ!?」
こめかみを片手で掴まれた。
「燃えろや。雑魚野郎」
「なっ! ぐあああああああああ!」
突如の炎が男の頭部を焼き始める。
「あついっ! あついっ!」
手は放されるが、放たれた炎は消えはしない。男は狂ったように転げ回っていた。
『発火能力』
西森に秘められた能力だった。そしてこの発火能力は二重人格とセットになっているようだ。
好戦的な表情はいつもの温厚な西森のものとは思えない。もはや理性のタガが外れてしまっているかのようだ。
三嶋は一瞬驚きを表したが、すぐに冷静さを取り戻したようだ。元々は西森の能力を知っていて今回の誘拐計画を企てたのだろう。驚く程の事ではないという事だった。
「誰だ!? 俺を目覚めさせた野郎は!」
「・・・・・・・西森柚咲緒・・・・・あなたの能力が目覚めたのは予定外でしたが、もういい。こうなったら力付くです」
痺れるような空気だった。
「・・・・・・いたっ!」
バチッ、という音がした。静電気のようだった。
「組織からは『殺さず連れてこい』との事でしたが、やもうえない場合は仕方ないでしょう。なに、死んでいたとしても肉片からDNA程度なら採取できるでしょう。もっとも」
静電気はただの偶然ではなかったようだ。幾多もの電流がほとばしり、光を放つ。
「へっ。まさか、てめーも能力者だったとはな」
どうやら三嶋も能力者だったようだ。
発電能力、とでもいえばいいのだろうか。雷を発生させるような能力だった。発火能力と同じ位にありきたりな能力だった。・・・・・・なんだろうか、この少年バトル漫画のような能力バトルもの展開は。シャーロットってこういう作品だったのか。ともかくとして。
炎と雷のせめぎ合いは、例え回りに可燃物がなかったとしても火を回らせてしまう程のものだった。
「や、やばいですよ! 乙坂さん」
高城は叫び始める。そういえば先ほどから熱い。
「って、燃えてる!」
炎がいつのまにか、コンテナ倉庫を覆っていた。一瞬にして灼熱地獄と呈している。
「ちっ。しかたねーな」
落ちていたナイフ(おそらくは黒づくめの男達の物だろう)で縛れていたロープを切る友利。
「ありがとう。友利君」
「別に、大した事はしてねーよ」
ツンデレなんだろう。今はそんな事を気にしている場合ではない。
「急げ。火が回るより前に」
友利はそう言った。
逃げる三人。しかし、高温で体力が奪われたのか、その足取りは思っていたよりおぼつかない。
「急げ! このままだと!」
その時だった。炎に飲み込まれた柱が倒壊する。
「なっ!?」
万事休す、と思われた。
「起きろ! ・・・・・・いいから起きろ!」
「・・・・・・・・ここは」
有菜は目を覚ます。そう、最後の記憶だった。柱が倒れてきた。そしてそこで記憶がとぎれた、自分は本気で死んだと思ったが、どうやら助かったらしい。目をあけた時、自分を抱き抱えていたのは自分の姉ーー隼子だった。
隼子の能力は時間を停止する能力だった。時間制限こそあるがこの能力で隼子は有菜を救ったのだった。
「無事か? 有菜」
「ありがとう、お姉ちゃん、お姉ちゃんのおかげだよ。それより、西森君」
「見つかったぜ、あのキザ野郎」
と、友利はいった。
「うっ・・・・・・・・ここは」
西森が目を覚ました。幸い、外傷はないようだった。炎に対して高い耐性があるのだろう。発火能力者ならば当然だが、自らの炎でやけどを追うわけにもいかないだろう。
「また、僕は・・・・・・迷惑をかけてしまったんだね、本当ごめん」
周囲を見回し、状況を理解した様子だ。本人は人格が入れ替わった後の事など覚えていないようだった。
「そ、そんなことないよ。西森君のおかげで私達は助かったんだから」
「そ、そうよ。そうよ。西森君は私を助けてくれた王子様なんだから」
なぜ私(高城)限定なのだろうか。疑念を抱くが言及している暇はない。
「それより、あの女はどこにいった?」
「死んだとは思えない。恐らくはにげたんだろう」
隼子は言った。
「それより」
消防車の音が聞こえる。
「この場は帰ろう。何かと面倒になりそうだ」
おそらくは誰かが通報したのだろう。放火魔だと思われても面倒だ。もっとも、放火の原因は自分たちにあるから、あながち間違いとも言えまい。
こうして激動の一日が幕を閉じる。
「申し訳有りません。総帥」
真っ暗闇のような空間。不気味な空間の中、三嶋はいた。そこには不気味な男がいた。素顔を見せない、仮面で顔を隠した男だった。
「数多もの能力者をとりにがしました。この失態、死をもって償うより他に」
「もうよい。下がれ。ナンバー14」
「はっ」
「貴様にはまだ役にたってもらわねばならん。それに、次のターゲットはもう決まっている」
男は写真を投げつける。
そこには静観な表情をした少年が移っていた。
「次こそ、任務を成功させよ。ナンバー14」
「はっ。次こそは必ず」
激動の日々は、まだ終わりそうにもなかった。