第二章的な何か「乙坂有菜の平凡なようでいて平凡でない日常」
ジリリリリリリリリリ。
それはなんて事のないいつも通りの朝だった。なんてことのない日常。私、乙坂有菜16歳は目を覚ます。目覚めはとても良い方ではない。
「後、5分、後5分だけ、むにゃむにゃ」
そんな定番のような台詞を唱え、長い時間をかけて私は起床した。
私の職業は学生である。そう、花の女子高生である。
平凡な女子高生。そう、平凡な。
と言いたいところではあるが、平凡というには言い切れない。そう、私はある特殊な能力を持っていたのである。その原因はよくわかっていない。私は物心ついた頃からある特殊能力を持ったのである。その能力とは相手に乗り移れる能力。この能力を屈指し、私は成績優秀で頭脳明晰な学園のマドンナ、として君臨していたのである。要はカンニングに使用していたのだ。私は見栄っ張りである。そう。そのくせ怠け者だ。本当の努力家ならそんなカンニングなどせずとも良い点を取りそうなものである。
これはそんなどこにでもいる、わけではない私という16歳女子高生の平凡なようでいて、平凡でないただの日常の話である。
起床した私は慌てて、身支度を始めた。慌ててパジャマを脱いで、制服に着替える。
「やばっ」
時間は既に8時を回っていた。遅刻ラインギリギリだった。
ジリリリリリリリリ。
私は目覚ましを止めるのも忘れ、
「遅刻! 遅刻!」
これまた朝のぐーたらな女子高生にありがちな台詞を言い始めた。
ーーと、私が服を脱ぎ、下着姿になっていた時の事だった。
ガチャリ。
唐突に私の部屋のドアノブが回った。
現れたのは一人の少年だった。活発そうな少年だった。年は中学一年生。少年はパジャマ姿だった。そして眠たそうな顔をしていた。
彼の名前は乙坂歩(おとさかあゆむ)。何を隠そう、私の弟である。
「姉ちゃん・・・・・・・・」
※注釈ではありますが、男の子で「ござる!」とか言ったりするのはおかしいし、かわいくないのでこの作品中では歩未男バージョンの歩(あゆむ)は標準語をしゃべります。注釈終了。
「ちょ、ちょっと歩! 部屋、入る時はノックくらいしてって言ってるでしょ! ノック!」
いくら姉弟(きょうだい)とはいえ、異性は異性である。着替えを見られるのは些か恥ずかしいものがあった。
私は制服を重ねて下着姿を隠した。
「って、それより、あんた、なんでそんな格好してるのよ! もうすぐ学校なのよ。遅刻しちゃうじゃない!」
歩(あゆむ)は星ノ海学園の中等部に通っている。始業時間及び年間のスケジュールは高等部と大差ない。故に歩もまた時間的余裕はないはずだった。
「いいから、うるさいから目覚まし消してよ。近所迷惑だよ」
面倒くさそうに髪をボサボサとかいている歩。
「ちょ、ちょっと! なにそんなに落ち着いてられるのよ! 私はこれでも優等生で通ってるのよ! 遅刻するわけにはいかないのよ! 遅刻するわけには!」
「何言ってるんだよ、姉ちゃん」
「何って、私は至極真っ当な」
歩は告げる。
「今日、『日曜日』だよ」
「え!?」
私の中の時が止まった。目覚ましの音だけが私の部屋に鳴り響いている。そう、これは私、乙坂有菜の平凡なようで平凡でない、そんな日常の記録である。
「・・・・・・・くっ」
仕方なく私は普段着ている私服に着替えた。
「・・・・・・隼子お姉ちゃんは?」
私は聞いた。リビングには隼子の姿はない。ちなみにではあるが、両親は遠いところに住んでおり、このアパートというか、マンションに住んでいるのは私たち姉弟(きょうだい)だけである。このマンションから私たち姉弟(きょうだい)は星ノ海学園に通っているのである。
「隼子お姉ちゃんなら生徒会の仕事があるからって朝早く出て行ったよ。そんなの同じ生徒会に所属しているんだから聞かされてなかった?」
「ああ・・・・・・・」
言ってたかもしれないけど、色々あってぼーっとしてて聞いてなかったかもしれない。
「もう、大丈夫? お姉ちゃん。しっかりしてよ」
「・・・・・・・それが色々あって」
「色々って、具体的に何があったのさ」
「西森柚咲緒って知ってる?」
「あの有名なアイドルの。勿論、知ってるけど」
「そう、その西森柚咲緒が私達の学園に転入してきて、それで。色々、
そう色々あったのよ本当」
「嘘。あの有名なアイドルがこの学園に!」
注釈。男のアイドルを男の子好きになるのかな、どうなんだろ。女のアイドルを女の子好きになるのは自然な気するけど、男が男アイドル好きっていうのも、まあ、なくはないのか。歩が西森をアイドルとして好きかどうかの設定はあまり掘り下げない方が無難かもしれない。すみませんちょっと性転換物なかなか難しくて手探りな部分あります。
「そうそう。それで大変だったのよ。色々」
「へー。そうだったんだ。本当に大変だったんだね。それでこれから姉ちゃんはどうするの?」
「せっかく起きたし家にいてももったいないしそこら辺ふらふらする」
「青春を無駄にしてるね、青春を。早く彼氏の一人でも作ってデートにでも行けばいいのに」
「う、うるさい! ほっとけ!」
できるならすぐにでも作ってるっつーの。
私はマイバッグを手にとり、そそくさと自宅から出た。
「まったく、どいつもこいつも」
私は街中を歩いていた。日曜日だからか、あるいはそういうスポットなのか。あるいは私の自意識過剰だからか、やけにカップルが目につく。
私だってそう、今はたまたま、縁がなくてフリーなだけで。縁やきっかけさえあればすぐに彼氏位できるもん。
ーーと、その時だった。
「はーい。彼女」
「かわいいね」
「よかったら俺達とお茶しない」
そんなテンプレ通りの台詞をはいて三人のチャラそうな男達。通称チャラ男が姿を現す。
明らかに今まで数打てば当たるで適当に声をかけてきたというだけの事が伺えた。そんなに私はチョロそうに見えるのだろうか? いくら、私が今現在絶賛フリー中の身とはいえ。それでも相手に対する許容範囲というものがあるだろう。いくらなんでも、このような下半身で生きているような男達など、こちらから願い下げである。
「ちょっと、忙しいで」
「ちょっと待てよ」
ガシッ、男の一人に肩を掴まれる。
「お姉さん、どうせ彼氏いないんでしょ。さみしーそうな顔してるもん」
ぐっ。ず、図星をつかれた。
「そうそう。そんな寂しいお姉さんも俺達と遊べばきっと寂しくなくなるぜ」
「とっておきの店知ってるんだよ。すっげーおしゃれで。なっ、だから俺たちと」
「くっ! し、しつこい!」
ーーと、その時だった。
「乙坂、お前なにやってるんだ」
見慣れた声。そして顔だった。友利奈緒希である。当然のように今は私服ではあるが、ジーンズにダボダボとしたパーカーを着ている。
偶然ではあったが、この偶然を活かさない手はない。
「ダーリン(ハート)」
私はとびっきりの甘い声と笑顔で友利の腕に抱きつく。
「なっ!?」
「ど、どこいってたのよ! 待ち合わせの場所間違えて。有菜ずっと探してたんだから」
「な、なにいってんだよお前!」
こいつ、抱きつかれたら明らかに動揺している。意外にシャイなのか。かわいいところがあるじゃないか。
(いいから)
私は耳打ちする。
(いいから話合わせてよ。こいつらしつこいのよ)
(こいつら・・・・・・・そういう事か。ちっわかったよ)
友利は渋々だが合わせてくれたようだ。
作者注釈。なんとなくジャンプのニセコイみたいな感じだ。どうでもいいけど。
「ハニー。ずっと気味を探してたんだよ。どこにいってたんだ。マイスイートハニー」
満面の笑顔で言う。
「ちっ。コブつきだったか。次いくか、次」
「ああ。仕切り直しといこうぜ」
ナンパのセオリーは数である。数。望み薄だとわかればそれ以上深追いはしないだろう。男達は新たな獲物を
「おい」
「な、なに」
「いつまで腕にくっついてるつもりだ。もういい加減いいだろ」
「ご、ごめんっ!」
私は友利の腕から離れる。
「・・・・・・・・それで、おまえはどうしてこんなところにいるんだ?」
「そ、それは暇だからぶらぶらと。友利君はどうしたの?」
「俺は別に・・・・・・・・・面白い用事じゃねーよ、別に」
「面白くない用事?」
「ああ・・・・・・・少なくともお前にとってはな。それでも暇を持て余している、っていうなら一緒にくるか?」
友利はそう言った。
私は頷く。面白くない用事だったとしても、一人でいるよりは恐らくはずっとマシな休日になる事だろう。そう思ったのだった。
私は友利君から行き先を教わってなかった。ただ彼の行く先に従っているだけである。電車を乗り継ぎ、バスに乗り、そしてたどり着いた先にあったのは郊外にある、大きな総合病院だった。清潔感のある建物の中に入っていく。
何となく、私はこれからどこへ向かおうとしているのかを理解しつつあった。
その病室には「友利一美」という表札に書かれていた。聞いた事がある、友利君にはお姉さんがいて、そのお姉さんは今入院中らしい。間違いなく、この病室に友利君のお姉さんがいるのだ。
注釈。原作では、友利の兄は廃人状態ですが、小説で廃人を書くとその場に全く存在しないような空気みたいな存在になってしまう為、この作中内では人体実験により一時廃人状態だったが現在は日常会話程度なら可能であるが、下半身不随の為退院する事はかなっていない、程度の症状と設定します。注釈終了。
コンコン。
ノックの後、友利君と私は病室に入る。そこには長い髪の女性がいた。彼女は窓辺から景色を見てたそがれているかのようだ。他にやる事もないし、退屈しているという事もあるだろう。すぐ近くに車椅子が置かれている事から、彼女の足が不自由である事は容易に察する事ができた。
彼女が友利君の姉なのだ。名前は表札に書いてあった。一美というのだろう。「友利一美」それが彼女の名なのだろう。
「姉さん・・・・・・」
「あら。珍しいわね。奈緒希君が女の子を連れてくるなんて」
彼女は穏和な笑みを浮かべる。
「もしかして、彼女できた?」
「ち、ちげーよ。なんでそんな話になるんだよ」
「まっ。そうなの。自慢の弟だから、ついに彼女の一人や二人できたものだと思って喜んだのに。なんだ、違うんだ」
いやいや。二人目っていうのはちょっと。浮気相手。
「こいつは同じ生徒会の一員だ。それ以上でもそれ以下でもねーよ」
そっけなく言われる。その言い方はその言い方でなんていうか、女の子としていしきされてないようで傷つくといえば傷つく。
「はじめまして。乙坂有菜ともうします」
「はじめまして。奈緒希の姉で、一美といいます」
「はじめまして、一美さん」
「はい。はじめまして。けど遠い中、わざわざありがとう。私のお見舞いになんて付きあわさせちゃって。退屈でしょう」
「い、いえ。そんな事ないですよ」
どうせ家にいても退屈で暇を持て余していたのだ。基本的にぐーたらな私は。勉強や部活動にいそしむタイプでもない。怠惰な女子高生として、適当にぐーたらな休日を過ごしてた事だろう。
結局、その場は適当な日常会話をしてお見舞いは終わった。
本人がいる前では色々と話しづらかった。とはいえ、こちらから聞くわけにもいかなかった。友利君が話したくなければそれでいい。その話題には触れない方がいいだろう。
「姉さんは元々は能力者だったんだ」
「え?」
能力者として生まれるかどうかには遺伝的形質が大きく影響する。原理は私もよくわかっていないのだが、兄姉、姉妹で能力者として生まれてくる事がよくあるのだ。私と隼子お姉ちゃんがそう。歩に関しては私もよくわかっていない。
「お前達を拉致った組織。ああいう組織に今より幼い頃に捕まって、それで姉さんは研究材料にされたんだ」
「・・・・・・・なんなんだ」
思っていた以上の重い話に、私は絶句する。もし助けがこなければ私もそうなっていたに違いない。いや、それどころか、あんなことやこんなこと、全年齢版では表現できないようなR18展開になっていたかもしれない。
「数年間の実験の末に、姉さんは保護された。その時の姉さんは廃人同然で当時は一言も言葉をは話せなかった。奴らにどんなひどい実験をされていたのか、想像もつかない。このまま話せないままだったと思った。だけど姉さんは奇跡的に回復した。何とか日常会話ができる程度までは回復したんだ。今ではああやってたまに笑顔を見せるし、冗談を言ったりする。けど、後遺症は残った。姉さんの下半身は不随したままだ。医者が言うには一生治る事はないらしい」
「・・・・・・・そうなんだ」
それを聞いて、私はなんと言えばいいのだろうか。言葉を紡ぐのは難しい。
「退屈な用事な上につまんない話まで聞かせちまったな」
「い、いいよ。別に」
「この話、他の奴には話すな。余計な心配はかけさせたくない」
「う、うん。わかった、他言しない。約束する。け、けど、どうして?」
「ん?」
「なんで、私なら話していいと思ったの?」
「別に。何となくだよ。何となく。ただお前なら話しやすかった、それだけの事だ」
彼なりに何か背負っているのだ。話す事で少し肩の荷をおろせた、それだけの事だろう。
「帰るか。病院なんていても辛気くさいし、仕方ないしな」
「う、うん」
こうして、私、乙坂有菜の平凡なようで平凡でない休日は終了した。