魔術師ともう一人の王   作:からくさ

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大嫌いだ

 

 

 

 

 

 目を開いて、見えた顔に、一瞬カルデアの部屋で寝ているのだと思った。

 

 けれど、すぐに周りの内装が見慣れないものであると認識し、「あぁ……」と全てを思い出した。

 

 体は、一切の布を身につけていなかった。

 それは、目の前にいる男も同様のようだった。リンドウを抱きしめる腕も、何もかも剥き出し。

 

 綺麗な顔をしている王は、目を閉じていた。寝ているらしい。

 何度となく見た顔で、寝ている姿はけっこう好きだったけれど、今は眺めている気分ではなかった。

 

 ふと、自分の手を見下ろした。

 手首には、もう拘束はない。途中で、取れてはいたのだろうと思う。うっすらと、痕だけが残っていた。

 

 ぎゅっと唇を引き結ぶ。

 昨夜の記憶は、生々しく残っていた。それはそうだ。酔っていたわけでも、寝ぼけていたわけでもない。

 体に残る全ての感覚と共に、刻まれていた。

 

 色々な感情が混ざり合う。

 悲しさ、むなしさ、怒り。

 あとは、何だ。分からない。

 ただ、妙にやりきれなくなって、この場を離れたくなる。

 

「我の許しなく、どこへ行く」

 

 起きていたのか。

 

 王が起きないうちに、さっさと出ていこうとまずは腕の中から逃れようとしていたら、逆に引き寄せられた。

 胸板に顔をぶつけ、次に目を開いたときには、赤い瞳がこちらを見ていた。

 

「……いつから起きてたんですか」

「貴様が起きる一時間は前だな」

「……暇かよ」

「誰が暇だ。忙しいわ」

「なら、起きたら仕事に取りかかって下さいよ」

 

 あと睡眠時間も削らずに、大人しく寝ろよ。そういうところ、非効率的とか思わないのか。

 とか、声にはしないがぶつぶつ思いながら、寝床から出ていくことを再開する。

 

「離してくれません?」

「我が許しておらぬだろう」

 

 いや、起きて仕事でもしろよ。

 緩められない腕に負けじと、外そうとしたりと試みる。とにかく、今、ここから、彼から離れたい。一旦、離れたい。

 でないと、何だか、ぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。

 

「全く、強情な奴だ」

 

 けれど、それどころかまた引き寄せられて、密着して。

 

「我がまだここに居れと言うのだから、いろ」

 

 

 ──機会なら、もっと早くにあったかもしれないが、なぜかここだった

 リンドウの中で、何かが限界を越え、切れたのは。

 

 

「……うるさい」

 

唸るような、声が出た。

 

「うるさい?」

 

 そうだ。うるさい、勝手だ、今ここにいるあなたは勝手すぎる。今に始まったことではないのかもしれない。自分が知っているギルガメッシュだって、同じ性格なのだろう。

 

 それでも、ストップって言ったのに。止めろって言ったのに。

 最終的には、最大限の抵抗をしなかった自分自身の問題でもあるのかもしれない。

 

 でも、でも、だ。

 結局は、最大の原因は、無理矢理事に及んだこの王にあるはずだ。

 

 リンドウは、王の腕の中、鋭く王を見上げた。睨む。

 

「あんたなんて」

 

 頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 感情のままに、口を開き、言葉を叩きつける。

 

「あんたなんて──大っ嫌いだ!」

 

 

 

 

 

──カルデアの魔術師と、この時代の王は仲違いした(内情は、魔術師の一方的な敬遠である)

 魔術師は、決して一人の呼び出しには応じず、会話も必要最低限ものにする避けっぷりだったとか

 

 

 

 

「やあ」

「……マーリン」

 

 此度、生き続けているのに、生まれていない時代だから死んでいると捉えられるだとか何だとかいう理由で、サーヴァントとなっているらしい偉大な魔術師がいた。

 

 偉大で有名と言えど、笑顔はどことなく胡散臭い。

 

「昨日は帰って来なかったようだけれど、ギルガメッシュ王とお楽しみでも──ぐふっ」

「フォウさんナイス」

 

 言葉の途中で、可愛いフォウさんがマーリンにアタックしてくれた。有能すぎる。

 

「マーリン」

 

 カルデアの魔術師はと言うと、底冷えしそうな声でマーリンを呼んだ。

 

「その話題、今後一切出すなよ」

 

 偉大な魔術師は、その魔術師の顔を見て、らしくなくぎこちなく頷いたとか頷かなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 敏感になっているのは、自分がよく分かっていた。

 

「付き合えと我が言っているだろう」

「王様の貴重なお時間を邪魔するわけにはいきませんから」

 

 出来る限り、それまで通り、けれど素っ気なくリンドウは応じた。

 毎度毎度の報告の時間だ。

 これは来ないわけにはいかず、来て、報告をして、さっさと帰っている。そうやってやり過ごしている状況。

 

 対して、今日も突っぱねられた王は玉座で大層不機嫌そうにした。赤い瞳を細める。

 

「リンドウ」

 

 その声で呼んでくれるな。

 そう、言いたくなった。

 

 大嫌いだなんて言ったけれど、心の底から嫌いになれるはずはない。

 だけど、やっぱり『彼』ではないから、流されるわけにはいかないのだ。

 

 

 だから、魔術師は、この時代の王から距離を置いた。

 

 何があっても、ずっとその距離で終えるつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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