魔術師ともう一人の王   作:からくさ

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知りたくなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ち目はなかっただろうに、なぜ、逃げようとしなかったんだい? マスターであるきみは、誰よりも無事でいなければならないだろうに」

 

 ある夜、マーリンに言われた。

 リンドウは、痛む腹を感じながらも、ぼんやりとしていた。

 

 逃げるしかない敵に遭った。逃げることが最善だった。けれど、そうしたくなくて、抗ってしまった。

 結果、相応の怪我をし、半ば引きずられる形でその場を後にした。

 

 傷は深かった。手当てがされた今でも、痛みを感じる。だが、どこか鈍く感じていた。

 

「……許せなかったんだ……」

 

 ぽつりと、呟いた。

 なぜ、逃げようとしなかったのか。答えはひとつだ。あのとき、自分は怒っていた。

 

「何を許せなかったというんだい」

 

 問いに、リンドウは目を閉じた。

 

 

 破壊され、殺される光景を見た。

 

 

 彼が統治する地を、守ろうとしている地を、簡単に蹂躙する者が許せなかった。

 リンドウは、来たばかりのこの地を愛せるほどの慈しむ心など持っていない。他の時代と全てひっくるめて、いずれは守る世界の一部。

 そもそも、世界を救うなどという思いさえ、リンドウは持っていなかったから。成り行きで来ていたと言っても過言ではない。

 

 だが、この地、この時代は。

 彼が生き、今抗っている場所だ。

 

 

 無性に、彼に、会いたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんなことが起こっても、かの王は表情を変えない。だから、リンドウの自己満足でしかないのだろう。

 ……いや、違う。そもそも、自分がそうしたいだけに過ぎない。自分ではどうすることも出来ない怒りを、どうにかしたかった。

 

「どうした、最近は随分素っ気なかったように記憶しているのだが」

 

 出会うなり、ぶつかるようにして額を胸に押し付けた魔術師を、王は退けようとはしなかった。

 むしろ、抱き締めてくれる彼に、リンドウは俯いたまま、ますます額を押し付けた。

 

 無力だった。出来ることはたかが知れていた。

 世界を救うために、この時代にやって来た。この地で起きていることを、収めに。

 けれど、これまでとは明らかに規模が違った。敵の力の強大さも。

 

 おそらく、本来の時代ではあるはずのなかった出来事ばかり。そんな数々の危機に見舞われながらも、最善を尽くす彼。

 

──この状況で、あなたは一体何を思うのだろう

 

 なぜそのように立てるのだろうか。

 分からなくて、分かりたくて、傲慢にも分かってあげたい気持ちでいっぱいになった。

 

「怪我をして、弱気にでもなったか」

「……違う」

「ならば、ようやく大人しく我に抱かれる気になったか?」

 

 違う。とは、言えなかった。

 

 知りたいと思った。

 この絶望的な状況で、なくなる一方の貴い時間の中。今さら、この時代に生きるこの王のことを、知りたくなった。

 

「……あなたのことが、大嫌いなんて、嘘だ」

「知っておる」

「あなたが俺の知っているギルガメッシュでなくても、嫌いなはずがない。俺は……あなたが生きたこの時代を、この地を、失わせたくなんか、ない」

「──傲慢な事を言う」

 

 そうだ、傲慢だ。自分に言われる筋合いなど、ないだろう。

 

「だが、特別に許してやろう。その傲慢な言をな」

 

 どうしようもない魔術師を、その時代の王はその腕で深く包み込んだ。

 

 

 

 

──泣くならば、己の前で泣けと知るギルガメッシュは言った。

この王の前で泣いてしまうことを、許してくれるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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