冥界で、けろっとした顔を見て、一瞬ぽかんとしてしまった。
しかし、我に返り、本人を前にしていると認識した途端、身の内に湧いてくる感情があった。
のんきに声をかけてきたギルガメッシュとの間の距離を一気に詰め、そのまま服を掴んでやった。胸ぐらを掴むように。
くそ、布地が少なくてやりにくい。無駄に苛つく。
「──一瞬、本当に死んだかと、思っただろ!」
怒鳴ってしまった。しまった、とはいえ後悔は感じなかった。
死んだと聞いたときの俺の気持ちが分かるか。上手く理解が出来なかった。目の前が真っ暗になった。世界がぐるぐると回って、全ての思考が止まった。
そんな言葉の数々は実際に声になることはなく、一度言葉が詰まった。
言いたいことが山ほどあるのに、追い付かない。
それでも息を吸い、別の言葉をぶつける。
「だから睡眠時間とか削るなって言ったんだ!!」
疲労が極まったところで、魂を持って行かれたなんて、洒落にならない。
人のことを構っている暇ではないだろう!
対してギルガメッシュは、虚を突かれたように、赤い瞳を瞬いていた。
「我のことがそんなに心配だったか」
「当たり前だろ!」
当たり前のことを聞くなと思って、まだ切れ気味に返答すると、ギルガメッシュはふっと笑った。
「愛い奴よな」
「反省してんのかよ」
さっきから乱暴な言葉使いばかりしているが、もう知ったことではない。
どこまで行っても自分のペースを崩さないと言えば聞こえがいいが、状況を読め。
地上でだって、王が死んだと思った人々が悲しんでいた。
それに、彼は人々の希望であったはずだ。きっと、最後まで彼らを導き続ける人。
そんな存在が死んだと思われる事態が、どれほど大きなことか。
どんなときにもぶれないのは良いことだが、周りからすれば時に腹立だしいことになりうる。今のリンドウがその状態だった。
「怒る様も愛いが、そう目くじらを立てるな。冥界にいた時間、我も中々に休めたわ」
その様子に、また口を開こうとすると、
「それに、一人死んだくらいでそのようになってどうする」
頭を撫でられた。
目が合うギルガメッシュの瞳が、細められた。その表情、瞳に過ったものがあった気がして──だが、分からなかった。
ただその瞬間、一つ、気がついてしまったことがあって、リンドウの動きが止まった。
その間に、ギルガメッシュの手が離れる。
「行くぞ。我はこのままでは冥界から出られぬ。エレシュキガルに会わねばな」
冥界でも変わらぬ姿、促し行く姿を、リンドウは追わず見ていた。
「リンドウ、どうしたの? 行くわよ」
イシュタルに言われ、やっと動きはじめたほどだった。
気がついたことが、一つ。
彼が死んだと、聞いたときに抱いた感情と、先程のギルガメッシュの言葉を聞いて。
自分は、彼が死ぬことを恐れているのだ。