魔術師ともう一人の王   作:からくさ

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そして彼と再会して

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルデアに戻った。

 

 疲労感にまみれていて、すぐにでも倒れ込みたい有り様だった。

 だから、全然そんなつもりはなかったのに……、顔を見た瞬間、涙が零れ落ちてきた。

 ぼろぼろ、ぼろぼろと。

 

 泣き顔を初めて見たであろうサーヴァントが複数ぎょっとしたようだったが、魔術師自身は周りを構ってはいられなかった。

 

 前方に、ギルガメッシュが立っていた。

 駆け寄りたい衝動に駆られて、でも、足を動かせなかった。

 代わりに、彼の方から近づいて来てくれた。

 

「戻ってくるなり、みっともない顔を見ることになるとはな」

 

 何も言い返せなかった。

 複雑な感情が胸に渦巻き、出口を失い、さ迷っている。

 

──彼の死を見た

 

 その事実は、いっそ現実味を無くすほどの衝撃があった。浸る暇も整理する暇もなかったせいもあるかもしれない。

 今、彼を前にして、思い出す。

 確かに目にした、死を。

 

「──」

 

 やはり、声も出せなかった。出せたところで、何を言ったのだろう。

 

 自分は、あの時代に生きるギルガメッシュが死ぬことを恐れていた。共に過ごす内に、恐れているということに気がついてしまった。

 

 今まで、当たり前ながら出会ったギルガメッシュはサーヴァントで、彼が強い力を持っていることもあって「死」を想像したこともなかった。

 

 厳密に言えば、彼は、そもそも当の昔に死んでいる。それがゆえにサーヴァントになっているのだ。その点では、「死」はすでにギルガメッシュにあるものだ。

 

 だけれど、実際に、あの時代で一度きりの生を持つ彼が死ぬ場を目の当たりにするのは──。

 

「我が泣けと言うときには下手な笑顔を浮かべておるくせに。それほど泣くようなことはなかっただろう」

 

 あった。

 

 やはり返答は出来なかっただろうが、物理的に阻むものがあって、出来なかったことでもあった。

 ごしごしと、それは手荒に顔を拭われたのだ。痛いくらいに。

 

 突然の手荒さに驚き反射的に閉じていた目を開くと、涙が拭われたことで、ぼんやりとしていた視界が明確になった。

 目の前に来てくれたときには、滲んで見えなくなっていたギルガメッシュは。

 不機嫌そうな表情をしていた。

 

 ギルガメッシュはまた、ごし、と魔術師の目元を擦る。

 

「……いたいんだけど……」

「ようやく口を開いて言うことがそれか? 貴様が悪いのだという自覚がないようだな」

 

 赤い眼が、魔術師を見下ろす。

 

「我以外の前で、そんな顔をしおって」

「? ──ぁ」

 

 唐突な言葉に、とっさには心当たりがなかった。が、首を傾げそうになって、見つけた。

 それから──

 

「我ではない我に抱かれるなど、覚悟は出来ておるのだろうな」

 

 その事実も。

 

「──なんで、」

 

 なんで、知ってる。

 

 第七特異点、あの地のあの時代に生きるギルガメッシュとの出来事は、彼のみ知るところのはず。

 それを、どうしてカルデアにいるギルガメッシュが。

 同じ姿の彼を、見て、瞠目する。

 

「さてな」

 

 ギルガメッシュは、はぐらかした。

 魔術師は、指摘された事項に後ろめたさを感じた。

 

 初めは、拒絶した。ギルガメッシュであり、自分が元から知るギルガメッシュではなかったからだ。

 しかし、受け入れた。あの時代に生きる彼のことが知りたくなった。

 

 甦った死への感情から流れ続ける涙と、後ろめたさが混ざり、よく分からない心境になる。

 自分は、あの地で過ごすにつれ、あの時代のギルガメッシュと共にいるにつれ、『あの場のギルガメッシュ』に心を傾けていたのだ。

 

「ようやく分かったようだな」

「……ギルガメッシュ」

「一連のことについてねちねち言うつもりはない。我はそこまで狭い男ではないからな」

 

 濡れるばかりの頬を、涙を掬う指が撫でていく。さっきと比べると、かなり優しい手つきで。

 ギルガメッシュは、事実を暴くだけ暴き、言葉通り深くは追及しなかった。性格ゆえだろう。

 

 しかし。

 

 彼は、微かに笑った。唇を歪め、笑い、魔術師の目を深く捉え、滑らかに手で頬をなぞる。

 

「ただ、覚悟は出来ているのだろうな?」

 

 第七特異、彼が生きた土地で、寝所に連れ込まれ馬乗りされたときに見上げた顔を、思い出した。

 他の存在と関係があると知りながらも、知ったことかとばかりに逃がさず、捕らえてきた眼。

 

 

──その後、魔術師が連れ込まれた部屋から出られて報告が出来るまで後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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