生徒総会から2日後、校内は静まり返っていた。休み時間には誰も雑談をせず、教室に籠る。校内に響き渡る筆記の音がその理由を物語っていた。
即ち、勉強の集大成。定期テストである。
この椚ヶ丘中学校は勉強が出来なければすぐさま底辺に落とされる場であり、その例がE組という場である。
そんなタイミングで我らがころせんせーは生徒に1つ告げた。
「明日の定期テストで全員50位以内を取りなさい。それができなければ先生はここから立ち去ります」
それはE組の弱点を限りなく突き刺す言葉。底辺に落とされ、周りから蔑まれてきたクラスメイトには陰鬱な空気が漂っていた。
ある2人を除いて。
「……」
一人は赤羽業。恐らくこのクラスで最も勉強ができ、殺せんせーの特訓授業を受けた彼にはハードルが低いだろう。
今もそこまでダメージを負っていないように見える。
そしてもうひとりが、私だ。業程頭の出来は良くないが、一日中殺せんせーから触手抜きで生きていく為の特別授業を受けている。
自分で言うのも恥ずかしいが、ここが正念場の一つであるのは確かだろう。
「皆はもっと自分を信じたら? 暗殺者になるんだったらまずは自分を信じるべきじゃないの」
「瑠海さん」
「でも私達E組だよ。本校舎の生徒に勝てる訳無いって……」
「それじゃあ、皆死んじゃうね。この前読んでる本に出てきたよ。
『考えることをやめた人間は問題を解く時に諦めて死ぬ人間だ』ってね」
つまり、
「いつも暗殺でやってきた思考を問題相手に行えば良いってことでしょ。なら俺には問題ないね。いつも先生のこと殺そうとしてるんだから」
「……」
そう言って業は教室へと戻って行った。他の皆も少しづつ教室へと足を向けている。
初めて同じ位の年頃の人と話す場を得たんだ。これから学習していく為にも、皆に諦めて欲しくない。
それが私の心からの思いだった。それが皆の背中を押せば良いのだが。
「ふむ。中々いいことを言いますね。流石は私の触手の持ち主です。これならば明日のテストも相応の結果が出るでしょう」
「そんなに褒めるんなら、早く触手寄越して欲しいのだけどね」
まずは目の前の問題だ。それを攻略しなければ、暗殺教室が終わってしまう。
その覚悟を胸に、生徒達は一夜を過ごした。
◆
目の前からモンスターが迫る。その背にはおびただしいほどの単語問題が備わっている。
一つ一つの問題は大したことないが、その量は視覚的に受け入れ難い。
「何だよこの問題量は! おかしいだろ」
「待って前原君。この問題はこの前先生が押してくれた問題とそっくりだよ」
「その通り。渚言う通り、経験済みの問題って訳。だから怯えずにっ!!」
モンスターの装甲に傷を重ね、削り切る。何度も練習した方法は確実に問題を無くしてくれる。
それを理解した他の皆も、着実に終盤戦へと進んで行った。
「さて、これが問11。周りの皆は……」
崩壊。意識外からの攻撃に仲間達は倒れ伏していた。
それは見たことのないモンスター。恐らくは初見での攻略は難しい。それに対して残っているのは、私と業のみ。
「諦める?」
「全然大丈夫。むしろあのタコに赤丸を叩きつけたいくらい」
「やっぱり交戦的だね。業のそんな所、案外嫌いじゃない」
意外にも気の合う2人でモンスターに銃を構える。恐らく撃破出来るかは五分五分で、勝機があるとすれば互いを信じること。
それを頭に置き、戦闘を開始する。
タイムリミットはあと15分。
◆
結果は負けだった。完膚なきまでに負かされた。
その結果は私達の心に大きな跡を残していった。そんな暗い雰囲気が漂う中で、いつも通りなの私達だった。
いつも通りに照準を定め引き金を引く。その動作により放たれる2つの弾丸は目標の頭部を貫通しない。
「こんな時に何をするんですか2人は!?」
「いや。今なら殺せるかなぁ、と思って」
「殺せんせー。私達は問題が変わっても大丈夫です。自分を信じて他人も信じれたら無敵でしょう? それは先生が最初に教えてくれた事ですよ」
「業君に瑠海さん……」
そんな殺せんせーに答案用紙を渡す。そこには高得点を付けられた2人分の答案用紙が存在する。
「俺達にはプラスアルファで教えてくれたでしょ。その結果だよ」
今回の戦いは負けだった。だがその代わりに勝つ為のヒントも手に入れた。
少しずつ成長を続ける暗殺教室は、そのヒントと負けを糧に今日も成長する。そうした積み重ねで人は成長するのかもしれない。
そう考える様になったのも私の成長なのだろうか?
そんな私の生活は今日も暗殺で染まっている。
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