京都に着いた私達は宿泊施設で長旅の疲れを癒していた。特に目立ったトラブルも無く暗殺修学旅行が始まるかと思っていたが、
「メモが無い?」
「確かにバッグに入れてたんだけど……」
「神崎さんは真面目ですねぇ。まぁ、このしおりを持っていれば安心ですよ」
「そのしおりを持ちたくないんだよ」
神崎さんから相談を受けた私達は、一緒に予定を記したメモを探したが、結局見つかることはなかった。
殺せんせーの言うように、しおりがあれば大丈夫だが、鈍器のように重いしおりを持つのはやはり面倒なのだ。
そんな思いを抱きながら、明日の班行動では結局しおりを持ち運ぶことになった。
◆
次の日を迎え、カルマや神崎さん達と京都を回り始めた私達は、古都の雰囲気を味わっていた。
「本能寺の変に近江屋での龍馬暗殺。京都は暗殺の聖地で、多くの偉人が死を遂げているの。だから殺せんせーの暗殺にうってつけなんだよ」
「確かにね。でもあのタコが簡単に殺されるとは思わないし、油断はしない方がいい」
「やっぱり、瑠海ちゃんもテンション上がってるんだね」
「ええ。なんだかドキドキする」
歴史上の多くの人物が死を遂げてきた古都には、独特の空気を感じる。それは雅な空気と血と陰謀の空気。それは私の触手を疼かせるのに十分なモノだ。
絶対に良い結果を出す。その為に皆と生活を共にして人として生きようとしてきた。
「それじゃあ祇園の方に行こっか。始めよう。暗殺の準備を」
渚の呟きに意識のスイッチを切り替える。今から始まるのは特別な課外授業。旅行者ではなく暗殺者として行動を開始する。
「なんだか人が全然いないね」
「ここら辺は一見さんお断りの店ばっかりだから人通りが少ないんだよ。だから暗殺には最適だと思ったの」
初めて訪れる祇園は、静かな場所だった。薄暗く狭い路地は動ける場所を限定し、スナイパーの狙いを定める良い場所だ。こんな場所を発見するとは、神崎さんの努力にはただただ驚かされるばかりだ。
そんな皆と予定時間を待っていると、少しずつ足音が聞こえてくる。
「ギャハハ! 本当に居るよ。なんでこんな拉致りますやすい場所をうろつくかねぇ」
「早くしろ。とっととやる事やって仕事を終わらせるぞ」
そう呟くガラの悪い男達は、白いコートを纏い片手に刃物を持っている。
その姿を見たカルマと私は皆を庇うように前に出る。
「何? お兄さん達観光目的には見えないけど……」
「トラブルを起こしたくないし、パパっとやっちゃおうか。カルマは皆をよろしく」
「瑠海さんも気をつけてよ」
そう言葉を交わして、同時に駆け出す。カルマが下がる姿を横目に見ながら、一人目を片付ける為に前へ出る。
狭い路地で触手を使うのは約束を破るし、人目につく。そこで手に握られたナイフを落とすため、相手の手首を狙っていく。
「ガキがァ!」
「ふっ」
怒号と共に振りかぶる腕は明らかに隙だらけで、丁寧に拳を叩きつけるだけでナイフを落とさせる。
「一人目」
「あっ……」
「テメェら! あれ使え!!」
そうしてよろめいた男にとどめの蹴りを与えると、仲間が倒された事で周囲の男達の意識が変わるのが分かった。
私を囲むように立つ男達の一人が声を張り上げる。
そのリーダー格の男の命令で取り出されたのは、玩具の銃。明らかに偽物のソレが、一斉に放たれた。
「お前達ーーー」
その行先は背後のカルマ達。触手には害のない銃弾は、ただの人間であるカルマ達に迫っていく。
「きゃあああっ!!!」
「くそっ!」
玩具とはいえ、銃声には人を恐怖に陥れるだけの力はある。そうして着弾したのはカルマだった。
「カルマっ!」
「おい、動くなよ。お前ら、女だけ連れてこい」
そうして彼らはカエデと神崎さんを車に乗せていく。おそらく入念に準備された計画に太刀打ち出来なかった悔しさとこれ以上傷つけたくないという思いが、身体を縛り付けていた。
◆
そうして私達三人を連れた車は、どこかの廃墟へと移動し、男達は私達を拘束して雑談をしている。
そんな彼らをよそ目に、神崎さんはカエデと私に昔の話をしてくれた。
それは肩書きという鎖に縛られた彼女の苦悩。それに対し、私がかけられる言葉を私は持っていなかった。
「そこのお前。俺はお前には興味が無いんだ。べっぴんさんだが、お前を捕まえたら大金をくれるって大人との約束でな」
そうして語りだしたのは、今回の行いの動機。新幹線で神崎さんのメモを拾った彼らは、私達を拉致して遊ぼうと計画した。
そして、そんな彼らに一人の男が言ったらしい。
曰く、私を捕まえて引渡してくれたら大金を用意すると。
「え……。どういうことなの、瑠海ちゃん」
「何だか、コイツは相当ヤベぇ奴らしいぜ。そこの嬢ちゃんみたいに夜遊びしてるなんてレベルじゃねぇ。化物だってな」
そこで気づいた。コイツに約束を取りつけた男の名を。
(またお前か、柳沢)
「止めてくれる? それ以上言うと身体をバラさなきゃ行けなくなる」
「……分かったよ。化物らしいヤツを怒らせて金が手に入らないんじゃ、意味が無いからな。だが、ほかの二人には手を出させてもらうぜ」
そう言って、男達はカエデ達に集ってくる。その姿は明らかに悪い物で、どうにかしなければと訴えてくる。
しかし、ただのケンカで捌ききれるかは分からないうえ、人質を取られるのは厄介だ。
「実験を始めようかしら」
触手を呼び覚ます。しかし、触手による攻撃は約束を破る事になる。ならば、拳を触手で強化すればいい。
体内の筋繊維に触手のアシストを施し、身体能力の強化を行う。その結果起こるのは触手の力を人体の力の底上げに用いた、文字通り超人的な肉体。
「すぐに私達を解放して貰えるかしら。さもなければ実力行使でいくわ」
「何言ってんだよ。今からお楽しみの始まりだろう。それに、アンタも拘束されてるんだぜ」
「……交渉決裂ね」
確認と共に行動を開始する。今から始まるのは、個人的なテスト。私の力で皆を守れるかという、先生には怒られそうなテスト内容だ。
足に力を込め、触手にエネルギーを溜める。加速は小爆発と共に、この拳を敵の頬にぶち当てていた。