確かな手応え。振り抜いた拳は正確に男の頬を捉えていた。不意に受けた衝撃のまま、男が数メートル吹き飛んでいく。
「な、なにしやがるんだ!」
「何って。正当防衛ですが」
急に加速した両足は触手により保護はされている。しかし、人体には確実にダメージが溜まっていくだろう。おそらくは数分で影響が出てくる。
「化け物が!!」
「知ってるわ。なら早く解放してほしいのだけれど」
「それはダメだ。相当の金が貰えるってのに、女子中学生にやられました。なんて言えねぇだろ!」
その叫びと共に男達が迫ってくる。手には鉄パイプやナイフといった武器を握っている。だが、月を破壊した力には遠く及ばない。
「三十秒で決着をつけてあげるわ」
一。やって来る男の内、もっとも近い坊主頭に狙いを定める。彼の手には刃渡り数センチのナイフが握られている。
二。そのナイフを振るよりも早く、握る手に右の拳を振り下ろす。
「がっ!?」
三。痛みと共に出る呟きを聞きながら首に手刀を叩き込む。
四。そうして一人が倒れ込んだのを横目に、他の三人が同時に鉄パイプやらハンマーを振り下ろしてくる。
五。倒れた男を踏み台にして彼らの頭上に跳ね上がる。
六。それぞれの額、うなじ、鳩尾に狙いをつけて右拳と左拳、蹴りを突き刺す。
「この程度で勘弁してあげる。地獄を見る前に眠って」
「クソガキが。シロさんの言う通りだ」
それだけを呟くと、リーダー格の男も床に倒れ伏す。
一人に一撃入れるだけで意識を刈り取る触手の補助に少しの不安を抱きながらも、触手を抑えていく。
「瑠海ちゃん。今のは……」
そう言って、こちらの様子を伺ってくるのは神崎さんだった。その表情に恐れが含まれているのは、さすがの私でも察することが出来た。
多分、神崎さんに嘘を吐いても意味が無いだろう。そして教室での居場所を守る為にも、しっかりと話すべきなのだろう。
そう判断して神崎さん達の目の前に足を進めつつ、口を開く。
「私は殺せんせーと同じ触手の怪物。本来なら殺されるべきだけど、一人の人間として生きる為に暗殺教室に入学した一人の暗殺者よ」
◆
「瑠海さんが、殺せんせーと同じ?」
当然の呟きをする神崎さんを横目に、瑠海ちゃんをじっと見つめる。
私が殺すべき奴と同じ怪物にして、暗殺者としてのクラスメイト。そして、触手を身体に宿す人間として参考になる最大の人物。
彼女の話をしっかりと聞き、自分の参考にする。それが奴への復讐に繋がるのだから。
「これで話はお終い。それと皆には内緒にして欲しいの」
「分かった。瑠海さんも、色々あるんだね」
「大丈夫だよ。瑠海ちゃんには助けてもらった恩があるから」
◆
それから三十分後。殺せんせーと共に助けに来た渚達は、現場の平和な空気に面食らっていた。そうして殺せんせーが男達に色々施している間に宿へ戻る準備を終え、私達は皆と再開したのだった。
「にしても災難だったね。瑠海さんがどうにかしたんでしょ? もしかして空手でもっやってたの?」
「うーん。まぁ昔にちょっとね。家族が色々と技術の必要な職業だったから」
「そっか。じゃあ俺は男子部屋行くから」
話している時の顔を見るに、カルマは私が何か隠していることに気づいているのだろう。しかしカルマに触手の事を伝えればイタズラされるのは目に見えている。なら話をするのはもう少し先でもいいだろう。
「ねぇ瑠海ちゃん。ちょっと二人で話したいことがあるの」
今話をするべきなのは目の前に立つカエデとだろう。
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