投稿が遅くなり本当に申し訳ありません。
ポタリ。ポタリ。
と、滴り落ちる液体の音が聞こえる。
言うまでもなく、俺の体とイリナの体から落ちる血の音だ。
気を失っているイリナの体から背中に伝わる温度は、どんどんと低くなっているように感じる。
……完全に見誤ったな。コカビエルをただの堕天使と。
それだけじゃない。聖剣を持ったフリードと過去の、聖剣も神器も持たなかった頃のフリードと。
それが致命的だったな。
「銀七」
エリアルが俺の周りを飛び回りながら名前を呼ぶ。
「ああ、誰か戦ってるな」
さっきから魔力の反応がする。
恐らく結界。その中からも魔力と光力の衝突を感知できる。
陰陽術を習得しておいてよかったな。風水は結界を作る術でもあるが、結界を探る術でもある。本来は土地の力を調べるためのものだったらしいしな。
「そうではない」
だとしたら……あぁそうか。気を使ってくれているのか。
「大丈夫だ」
「だが……」
「そんなことより、イリナを運ぼう」
血塗れの状態で歩を進める。
イリナはかなり衰弱している。
俺の場合、仙術でいくらか誤魔化しがきく。千切れた筋肉を無理矢理にでも動かせるし、痛みも感じないようにすることもできる。
だが、イリナは違う。
今は俺が生命力を分け与えているから良いが、さすがにいつまでも出来るわけじゃない。
体を引きちぎって無理に移植しているようなモンだからな。
「……ついた」
歩くこと数十分。
いつもボロいと思っていた民家が、救いのように……いや。ように、ではなく救いそのものだ。
「エリアル、お湯の用意を頼む」
「了解した」
俺はイリナを背負って俺の部屋まで運び込む。
あそこには医療器具がある。イリナの部屋にもあるだろうが、探している暇がない。器具の場所を知っている俺の部屋がベストだ。
「……」
そっと、イリナをベッドに寝かせる。
「すまん。後でいくらでも、小言なりなんなり言ってくれ」
机の棚の中から医療器具と一緒に取り出したナイフでイリナの戦闘装束を切って裸にする。
形のいい乳房と淡い色をした先端、そして陰部が露になる。
本来なら男の情欲を掻き立てる肉体も肌が裂け、真っ赤な血が、ピンクの肉が、黄ばんだ脂肪が、白い骨が露出している状態では、泣いてしまいそうなほどの痛々しさしか感じない。
「……畜生」
コカビエル――!
俺の仲間を瀕死にまで追いやった元凶!
戦争がしたい?
そんな下らねぇ願いでこいつを……女を斬りやがった……!
許せるかよ。
ああ、そうだ。許せねぇ!
エクソシストとしても、戦士としても、男としてもだ!
俺の知っている男の背中は違う。
そりゃあ、コカビエルと比べりゃあ小さな背中だった。
だけど! 背負ってるモンを精一杯、守ろうと必死だった! 上司に頭の下げてでも、相手に怒られようと、どんなに疲れていようと、俺たちの前では気丈に笑ってた。
最後の最後まで。死ぬそのときまで仲間のために、家族のために努力していた!
――俺が憧れたのは、そんな
だから――!
「エリアル。コカビエルの首、俺たちが取るぞ」
「無理だ」
「従え」
「無茶だ! お前はイリナ嬢と同じくらい、もしかすればそれ以上――」
「それがどうした」
「なッ!」
エリアルが驚愕の声を上げる。
「本気で言っているのか」
「こんな趣味の悪いジョークは言わねぇ主義だ」
「もう一度だけ警告しよう。死ぬぞ」
「構わねぇ」
元より、戦場で命を散らす覚悟は何年も前からしている。
今更だ。
「エリアル、俺ももう一度だけ問う。七銭がわりに……コカビエルの首を持っていく。付き合うか?」
「……ハァ」
エリアルは、その小さな口から溜め息を漏らす。
「仕方ない。主の意向には従おう。……それに、コカビエルの首を持っていった時の閻魔の間抜け面も拝みたいしな」
「ハン。いい趣味しているぜ」
「なに。お互い様だ」
エリアルはクツクツと笑い、俺は鼻を鳴らす。
お互い、見慣れた光景だ。
「そうと決まれば善は急げだ。……行ってくるぜイリナ。てめぇの分まで殴って来てやる。だから少しだけ待っていてくれ。すぐ帰ってくる」
エリアルが持ってきたぬるま湯で体を清潔にして、治療を終わらせて包帯を身体中に巻いたイリナの頭を優しく撫でながら呟く。
「それじゃ」
「ああ。最期に大きな花火でも咲かせるとしよう」
「敵は駒王学園にいる。行くぞ!」
俺たちは、コカビエルのいる駒王学園へと走り出した。
☆
コカビエル。
堕天使の幹部。
むちゃくちゃ強ぇ……!
本当にむちゃくちゃな強さじゃねぇか! これが聖書に記された堕天使のレベル! 『赤龍帝の籠手』の譲渡を使った部長の魔力すら片手で防ぎやがった!
木場が『騎士』の特徴である超スピードと言える速度で攻撃しているが、全然、決定打にならない。
俺じゃ、到底反応できない速度の攻撃を難なく防ぎやがる。
チクショウ! 見ていることしか出来ねぇのかよ、俺は!
「それにしても、仕えるべき主を亡くしてまで、お前たち神の使いと悪魔はよく戦う」
突然、コカビエルが意味深なことを言い始めた。
いったいなんなんだ?
「どういうこと?」
部長も同じことを思ったのか、怪訝な口調でコカビエルに問う。
部長のその反応に、コカビエルはいきなり笑い声をあげ始める。
「フフフ。フハハハハハハ! そうか。そうだったな!お前たち下のものにはあれは語られていなかったな! ついでだ。教えてやる。先の大戦で魔王だけでなく神も死んだのさ」
な!?
神様が死んでいる!?
俺たちが驚愕の事実に呆然となっている間、コカビエルは現状に対する不満を言い続ける。
「ウソだ……ウソだ……」
ゼノヴィアが死霊のように否定の言葉を繰り返す。
……見ていて痛々しいぜ。
ゼノヴィアは現役の信者だ。今の状態は仕方ないのかも知れない。
だが、コカビエルはそんな姿を見て侮蔑の色を表情に滲ませる。
「哀れなものだな。あの男ならば、この程度のことで動じんだろうに。くだらん。実にくだらんよ。あの男が命をかけた存在がこの程度でしかないなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。いっそのこと、貴様が死んであの男が生きていたほうがよっぽど面白かっただろうよ」
あの男?
――まさか。
「あの男とは、銀七さんのことですか?」
アーシアが悲痛な表情でコカビエルに問いかける。
水澄銀七。あの変わり者の教会の『番犬』は、アーシアにとって教会時代からの唯一の友人だ。
優しいアーシアのことだ。心配なのだろう、友達が。
しかし、コカビエルは嘲笑うかのように笑いながら告げる。
「そうだ。教会の『番犬』のことだよ。この俺に単身で挑んできた犬のことさ」
「なっ!?」
「そんな!」
コカビエル相手に一人で!?
ブーステッド・ギアの力で魔王の一歩手前まで強化された部長の攻撃を素手で防いだような怪物だぞ! そんなの……死んでいるって言っているようなものじゃないか……!
「クハハハ! なかなか面白かったぞ。お前らとは違う。力の巧い使い方というものを知っていた。そうだな、評価するのならば、戦場で最も栄える兵士だった」
だが、それでも届かない。
一兵卒では、将である自分には届かない、と言外に告げる。
「さぁ来い、ミカエルの信者、ルシファーの妹よ! 俺に傷の一つでもつけてみろ! それすら出来ないのであれば、お前たちは神すら信じぬたった一人の人間にも勝てぬぞ!」
高らかに、挑発するコカビエル。
その言葉に気合いを入れ直す部長だが、ゼノヴィアの方は意気消沈したままだ。
そんなゼノヴィアを見て、コカビエルは落胆ではなく激昂する。
「……ふざけるな。ふざけるなよミカエル!」
いきなりの激しい怒り。
その怒りはゼノヴィア本人ではなく、彼女を通じて天使たちに怒る。
なんだ? どうしたってんだよ!?
「友が死に、その思いを継ぐこともしない。仲間が殺された仇もとろうとしない。こんな木偶の坊で充分とでも言うつもりかミカエル! 貴様は何時もそうだ! 他人を下に見ることしかしない! ナメるなよ、日和見主義の偽善者ども! この俺が必ず滅ぼし尽くす!」
空間を歪める程の怒りだ……!
俺たちと戦っている時には見せなかった激しい怒りを見せる。
そして、その矛先は神の信者であるゼノヴィアへと向く。
「貴様を殺し、切り落とした頭と潰した体を送りつけた後に信者を無差別に虐殺してやる。そうすればあの堅物のことだ。重い腰も上げるだろう」
そう言って、右手に光の槍を作り出し、投擲のモーションをとる。――マズイ!
「さらばだ木偶の坊。その身も戦争の礎となるなら幾分か意味のあるものになるだろう。――死ね!」
放たれた槍は、音の壁を超えて砲弾が放たれたかのような轟音を鳴らしながらゼノヴィアへと突進する。
――間に合わない!
ゼノヴィアも我に帰り、防ごうと彼女が本来所有する聖剣デュランダルを掲げるが、間に合う速度じゃない。
ゼノヴィアの体が血で染まる。
「……!」
ただし、その量は極わずか。顔を濡らす程度だ。
それにゼノヴィアの血でもない。
ゼノヴィアの顔を濡らした血は――
「図に乗りすぎだコカビエル。俺の仲間はやらせねぇよ」
――槍の穂先を素手で掴んでいる銀七のものだった。
「銀七……」
「どうしたよ。らしくない」
「神が……我らが主が……」
「死んでいた。やっぱりか」
俺達が驚愕した話を何でもなさそうに答える銀七。
むしろ、納得したとでも言わんばかりの表情だ。
「神と拮抗していた魔王が四人全員くたばったんだ。神も死んでいたとしてもおかしくはない話だ。……それに、魔王を滅ぼしたなら天使どもは悪魔に対して総力戦ぐらいは仕掛けるだろうしな」
た、確かに。
魔王様が四人とも死んでいるなら、天使側は好機と思って攻撃してくるはずだよな。でも、部長たちから聞いた話にそんなエピソードはなかった。
「……アメリカには進化論を信じず人は神が作ったと考える人間も少なくない。学校は進化論を教えるからという理由で学校に行かせない親もいるほどだ。とはいえ、酷い顔だな。そんなにショックだったか?」
「あ、当たり前だ。信仰は……神は私にとって人生のすべてだ。それなのに……」
どういう気分なのだろうか。人生の目的も、価値も、何もかもなくなってしまう感覚というのは。
「……そうか。生きる目的が欲しいのか?」
「あ、当たり前だ!」
先程までとは売って変わって激しい口調だ。
「なら」
くいっ、と顎を持ち、ゼノヴィアの顔を自分の顔に向ける銀七。――ま、まさか。
「な、なに……ムグッ! ンン!?」
ズキュゥゥゥゥン!
や、やった! さすが銀七! 俺達に出来ないことをあっさりとやってのける! そこに痺れるッ! 憧れるゥ!
…………いやいや。落ち着け俺。
銀七がゼノヴィアにキスをした。口と口。マウストゥーマウスだ。
そりゃさすがに取り乱すよ! なにやってんの!? 敵さん目の前にいるんだよ!?
「ぷはっ! い、いきなり何をっ!」
「ゼノヴィア。これから先、お前は俺のために生きろ」
「――ッ!」
そんなセリフを、ゼノヴィアの瞳をまっすぐ見つめながら言う。
「生きる目的なら俺がなってやる。――俺に惚れろゼノヴィア」
「そ、それは……」
「それでも駄目なら仕方がない。是が非でも惚れさせてやる。お前をな」
か、かっけぇぇぇぇぇ!
なんだよ「惚れさせてやる」って! 今日び、ドラマでしか聞かないセルフだぞ!
そんな映画俳優のセリフみたいなことを言った銀七は、ゼノヴィアを背後に座らせ、コカビエルの方へと歩みを進める。
「生きていたか」
「どうせ分かっていたことだろうが。――リベンジマッチだ。仲間が傷つけられた借りは倍にして返してやる」
足を肩幅に開き、拳を前に突き出すファイティングポーズをとる銀七。それだけじゃない。足元にも複数の魔法陣。
空中にも多数ある。――なんて数だ……!
「おい、赤龍帝」
「な、なんだ」
「俺に力を譲渡しろ」
それって――!
「無茶よ! 悪魔でもない貴方がその傷で戦えるわけがないわ!」
部長が叫び声を上げる。
だが、俺も同意だ。医術にも戦闘にも素人の俺が一目見てヤバイと分かるほど傷を負っている。満身創痍というやつだろう。少なくとも、俺の目には戦える状態に思えなかった。
「いいからやれ。あいつの首は、俺が貰う」
「だけど!」
「やれ!」
こちらを向いてなくても痺れるほどの叫び声。
『俺も奴に賛成だ、相棒』
なんでだよドライグ。
死にかけのアイツに力を譲渡すれば死ぬまで戦いかねないし、傷をそこまで負っていない俺たちの内の誰かに譲渡すれば……。
『無理だな。この中でコカビエルを打倒できるのは、あの小僧だけだ。素材はリアス・グレモリーに軍配が上がるが、年季が違う。経験の浅いガキじゃなく戦場を知っている兵士に力を渡すのが上策ってもんだ。コカビエルに敵う存在がこの場には居ないからな』
…………。
ははっ。こちらを見てくる銀七の顔には、怯えの色はおろか、死ぬ気なんてまるで無いように思える。ビビっている俺がバカみたいだ。
「分かった」
「イッセー!?」
部長が驚きの顔を上げる。
スミマセン部長。だけど、アイツに賭けてみたくなったんです。お叱りなら後でいくらでも受けます。だから、一緒にアイツを見守ってやってください。
「感謝する」
銀七からの短い感謝の言葉。
おう。絶対負けるんじゃねーぞ!
『
ブーステッド・ギアの力が一気に銀七へと渡った。
「エリアル」
「了解した」
『
エリアルと銀七の二人が同時に言葉を発する。
バ、バランス・ブレイク……ッ!
俺が体の一部を差し出して、ようやく発動できる禁手をあっさりと発動しやがった……ッ!
光が大地を破壊する。
クモの巣状にひび割れた大地からは、激しい熱気を伴う光が漏れる。
銀七とエリアルは、球体状の光の中へ。その中から、灰色の翼が光の球を破壊しながら顔を出す。
そのさまは、まるで雛が生まれるかのような。誕生の瞬間を思わせた。
『
二人の声が聞こえてくる。
灰色の翼は、元の大きさとは比べ物にならない。翼だけで十メートルはある。そんな翼が四対八翼。全長は五十メートルぐらいの姿へと変貌していた。
『
砕けない金剛石の龍が、数百年の時を超えて再臨する。
活動報告とかあったんだな……やってみたいな――そう思う今日このごろ。
この小説が終わったら、次回の原作は何がいいか聞いてみたいですね。
……まだ気が早いか。