ハイスクールS×D 聖剣番犬のダイヤモンド   作:ヤギ3

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最終話になります。

やっぱり戦闘って難しいうえ、物語の終わりも結構難しいものです。
本職の人はスゴいなぁ。

余談ですが、桜セイバーって丹下桜セイバーのことじゃ無かったんですね……


最終話

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 空間がビリビリと障子紙のように破れるかと思うほど、震える。

「それは……」

 コカビエルが驚くように背後を眺める。

 俺の背後には、神話から抜け出してきたかのような巨龍が佇んでいる。神話で倒されるような粗暴な邪龍と違うところといえば、理知的な雰囲気と天使を思わせるほど眩い極光を纏うことだ。

 巨龍の顎が開く。

「それ……とは随分な言い分だなコカビエル」

「やはり金剛龍……ッ!」

 その通り。

 背後に佇む巨龍の正体は、俺の神器であるエリアルだ。

 これが俺達の禁手。

再臨する金剛石(リバース・オブ・ダイヤモンド)』。

 能力は至極簡単。

 ドラゴン系神器は、その名の通りドラゴンを封じている。封じられたドラゴンたちは本来の力を十全に使えなくなり、大きく弱体化する。

 ――ならば、その封印を解いてしまえばいい。そうすれば本来の強大な力を振るえる。

 当然、全ての封印は解けない。それでも、エリアルは――魔王に準ずる力を持つ。

「エリアル。ファイバーカノン」

『GUAAAAAAAAA!』

 エリアルの口から極大の光が発せられる。

「な、なんて熱だ!」

 その熱波は、エリアルの背後にいるグレモリー眷属たちにも伝わるほどだ。

 莫大な熱量を持った光線は、射線上の地面を赤く溶かしながら進む。

「クッ!」

 コカビエルが避ける。

 避けたことによって、光線が追突した学校の裏山は――溶岩を伴い噴火したかのように爆ぜた。

「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」

「ふ、噴火した!?」

「……いえ。熱せられて膨張した地面が吹き出したようです」

 イッセー君たちが驚いている。

 これをすると誰か絶対に驚くんだよな。特に珍しい光景じゃない。

 ――現に、俺の目の前で冷や汗を垂らしている堕天使の幹部様もいるし、な。

「何驚いてんだよ。お前が相手しているのは龍。力の象徴だ。この程度で驚いてもらっちゃ拍子抜けってもんだ」

「ク、ハハハハハッ! なるほど、然りだ。これから魔王と熾天使を全員狩るつもりだというのに……。奴らに比べればこの程度、驚くに値せん!」

 コカビエルは、未だ余裕の笑みを崩さず。

 その両手に光の槍を二本作り出す。

「さあ来い、教会の番犬! この俺に臆する程度では、この先、生きて行けぬと思え!」

 高らかに宣戦布告するコカビエル。

 その顔にはこれからの戦闘に対する絶対的な勝利を信じて疑わない癇に障る笑みばかりを浮かべている。だが、その覇気は相手を見誤った愚者ではなく、チャレンジャーを待ち受ける王者のものだ。

 俺が勝つには、隙を突くということよりも、どれだけアイツの予想を超えられるかが重要になってくるだろう。なにせ、油断はあっても隙がない。……これが、大戦を生き残った堕天使か。

 タフな戦いになりそうだ。

「エリアル! ファイバーアサルト!」

「応!」

 柱のような太さの光が数十と殺到する。

 コカビエルはさながら曲芸のように二本の槍を振り回し、素早く光の柱を受け流す。その体に傷一つ負わずに。

 余波の熱気だけで悪魔を滅することが出来るはずのエリアルの光を防いでいるというのに。体の強度もあるが、それ以上に巧い。

 流石は大戦を生き残った堕天使だ。

「……ッ!」

「ちっ」

 背後に回った俺は光の柱を掴み、巨大な大刀に変形させて斬りかかるが、容易く防がれる。

 だが、まともに受け止めたせいか顔には小さな火傷がついた。

 その後も斬撃の嵐をぶつけ続ける。

「幼児のようだな犬! パワーが足りんよ! 貴様では俺を崩すことはできん!」

 コカビエルが嘲笑と共に槍を振り、防御し続ける。

 遂に攻めあぐねた俺が吹き飛ばされる。

 

 ……とはいっても、計算通りな訳だが。

 

 俺の影に隠れた背後から巨大な光線が迫る。

「なに!? ぐ、おぉぉぉぉぉ!」

 コカビエルは初めて苦悶の声を上げてエリアルの光線を楯に変えた光で防ぐ。

 眩い光の奔流は次第に収まっていき、視線の先には酷い火傷を負ったコカビエルがいた。

「浅いな……」

 それでも未だ存命。

 肩で息をしてはいるものの、致命傷には程遠い。

 表面の肌が、一部焦げただけ。

「なるほど。これが貴様らの戦い方か」

 コカビエルは合点がいったという風に呟く。

「力のエリアル。そして技のお前。高火力のエリアルの攻撃の隙を貴様が手数で埋める。ようやく理解した。悪魔祓いにしては腕力が無さ過ぎると思ったが、敢えてそこを切り捨て、高速機動による攻撃のみに特化した戦い方。――悪魔で言うところの『騎士』(ナイト)のようなものか」

「そういうこと」

 攻撃力の塊が俺の側にいるのだ。頼らない手はない。

 ただ、エリアルの攻撃は隙が多い。光線にしてもタメのモーションが必要になる。その隙を俺が埋めるように戦うようになったのは、偶然であり、ある意味当然の事だった。

もともと、パワーの付きにくい体質だしな。

「だが、種が割れてしまえばどうということはない。……銀七をいなしつつ、エリアルに攻撃を加えていけば次第に攻撃力は落ちてくる。やはり恐るるに足らん!」

 

 言葉では余裕ぶっているが、その瞳には先程まであった油断と慢心の色は消え失せている。

 これから先は、互いに本気になる。

 

「カノンだ!」

 

 先に行動したのは俺達。

 エリアルの口から吐き出される極光の前に魔法陣を出現させる。極大の光の柱は魔法陣を境にコカビエルへと無数の枝を伸ばす光の樹木のような姿に変化する。

 それを苦もなく避けるコカビエル。枝を疾走し、コカビエルへと接近する。

 光の樹木に囲まれたコカビエルは鳥籠の中の鳥のように動きを制限される。

 

「ぬるい!」

 

 怒号にも似た叫び声と共に黒翼が剣のように轟音をあげながらこちらに向かってくる。

 だが、翼は光の槍に防がれる。エリアルの援護だ。

 弾かれた翼と槍。

 俺は槍の方を掴み、そのまま突進する。

 

「ぐぅ!」

「がぁ!」

 

 コカビエルの肩に槍が。俺の脇腹に手刀が。それぞれ突き刺さり、抉る。

 ヤバイな。元々、血を流しすぎている状態で戦ってるってのに、怪我を負った。しかも内臓も少し掠めただろうな。

 奥の手使ってこれかよ。だらしねぇなぁ、俺は。

 ――これじゃ禁じ手を使うしかないじゃないか。

 

「アサルト!」

 

 槍の掃射を掻い潜っている間に距離をとる。

 

「ぐっ……」

 

 脇腹の傷に手を当て、仙術と魔術の併用で傷を塞ぐ。と言っても時間が無いせいで、釣糸で傷を縫合するような蛮行になったが。

 ぶっちゃけ、かなり痛い。

 

「無事か?」

「ああ。エンチャントを頼む」

「……わかった」

 

 エリアルが苦々しい声色で了承する。

 ま、今やっていることに否定的だからな、こいつは。それでも従ってくれるとは俺もつくづくパートナーに恵まれている。

 光の束が腕にまとわりつき、籠手の形になる。

 

「これも持っていけ」

「サンキュー」

 

 口にくわえている小さな槍を受け取り、小太刀の形へと変形させる。

 そして背から光の粒子を吹き出す。――まるで翼のように。

 

「かふっ」

 

 口から血を吐き出す。

 身体中が熱い。

 今の俺は比喩でもなんでもなく、体を内側から焼かれているからな。

 

「き、貴様まさか……ッ!」

「アァァァァァァ!」

 

 コカビエルの驚愕の声を消すように叫びながら背中の翼を使って空中を疾走する。

 小太刀は防がれ、蹴りで地面へと叩き落とされそうになるが、寸前で踏み止まってコカビエルの腕に斬撃を入れる。

 

「貴様! エリアルの光を直接体内に流し込んだな!」

「流石は堕天使の幹部。お見通しか」

「死ぬつもりか! エリアルの光は下級悪魔であれば熱気だけで消滅しても可笑しくはない。今気を失っていないだけでも奇跡に近い! 仮に生き残ったとしても二度と歩けん体になるぞ!」

 

 そんなこと知っている。

 こいつは知識はあるくせに致命的なまでに理解していないことがある。

 

「お前を倒せるなら安い買い物だよ」

 

 ――自分の価値を理解していない。

 

思えば始めからそうだった。

 堕天使の幹部にしては行動が軽率だった。聖剣を奪うというまどろっこしい真似までしている。おまけに側近をフリードにしている。

 こいつなら、高名な魔術師を従えることもできたはずだ。

 それに、引き連れている堕天使も少なかった。堕天使至上主義者どもなら嬉々として従うし、そうでなくとも権力や暴力で無理やり従えることもできた。

 前々からおかしいと思っていたことだ。

 自分の歩む道が修羅の道であることを正しく理解してそうしているような。

 他の堕天使を極力巻き込まない手をうっているような。

 

 ――仲間を気遣っているような。

 

 いや、今はどうでもいい。

 こいつを打倒することだけを考えればいい!

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 小太刀と拳でダメージを与え続ける。コカビエルも同じように拳で殴りかかってくる。

 拳と斬撃が入り交じる。

 まるで泥仕合。犬同士の喧嘩のようだ。

 体内の光の粒が衝撃を防ぐ鉄板の代わりになってくれている。その代わり、神経を焼かれているんだがな。

 それでもコカビエルと渡り合えるほど身体能力が上がっている。――これならいける!

 殴ってくるコカビエルの腕を掴む。

 

「――ッ! なに!?」

 

 コカビエルの手首に障壁を作り、簡易的な手錠にする。

 これでコカビエルは――短時間とは言え――身動きが取れない。

 

「終わりだ!」

 

 一旦離れ、小太刀に光を集める。

 ゆらゆらと揺れる光はまるで炎のように小太刀を覆う。

 光の炎を纏った小太刀を手に、翼をはためかせてコカビエルへと進む。

 ――砲撃。

 そう言わざるを得ないほどの速度で。

 

「がァァァァァァァァァァァ!」

 

 光の炎に包まれるコカビエル。

 体の内側から、外壁から焼かれる痛みに悶絶する。

 しかし、その目はまだ死んでいない。この程度かと、挑発的な目だ。

 

 だけどよコカビエル。お前が言ったんだぜ。

 

「エリアル!」

 

 力は相棒の専売特許だ、ってさ。

 

 赤龍帝から譲渡された力が混じった赤光がコカビエルを覆う。

 

「―――――――――――――――――――」

 

 悲鳴……ではない。遺言めいたものを残して――コカビエルは灰になった。

 

「や、やった?」

 

 イッセー君の言葉を聞いていたかのごとく言葉のすぐ後に魔法陣が現れ、砕け散る。

 

「大したものだ。死に体でコカビエルに一矢報いるどころか灰にするとは」

 

 天空から降ってくる声。

 目を向けて見れば、白い鎧に包まれた人物がいた。

 

「白龍皇か」

「ご名答。頭の方もそれなりにきれるようだな。……惜しいことをしたな。これならコカビエルをさっさと倒して君と戦った方が楽しかったかもしれない」

 

 赤龍帝と対をなす存在、白龍皇。

 そういえば堕天使側に居たっけ。

 このセリフに一言と言わず二言三言言ってやりたいが、そんな気力も、もう無い。

 言うことは一つだ。

 

「墓ぐらい作れよ」

 

 その言葉に驚いたのか、目を丸くする白龍皇。

 そのまま、意識は暗転した。

 

 ★

 

「貴様を異端とする」

 

 わかってるっつの。

 今いるのは、バチカンの教会だ。

 コカビエル討伐後、俺とゼノヴィアは神の死を知ったことで異端認定された。

 今のは、体裁を取り繕う為のパフォーマンスに近い。

 いつから俺はコメディアンになったんだろうな。……そっちの方が現状、無職の俺よりはマシだが。

 

 そんなこんなで、正式に職場をクビになったのだが、何か良い職場はないかね?

 

「だったら、ウチの職場はどうだ?」

「冗談だろ。――アザゼル」

 

 バチカンのすぐ近くにあるイタリアの家にある荷物をまとめていると、何処からともなく着流しを着た悪童じみた中年が入ってくる。

 不法侵入だぞ。

 

「つーか、よくここまで来れたな。普通なら天使が来て脳天に槍をズドンのはずだぞ」

「何百年と敵対すれば、敵地に繋がる抜け道の一つや二つ作るだろう?」

 

 そういうものかね。

 

「しっかし、殺風景な場所だな。ベッドもねぇ上、エロ本の類いも一切無いときた。お前、本当に男か?」

「女にでも見えるのかよ」

「女装すれば間違いなく、そう見えるだろうよ」

「…………」

 

 そこまで女顔じゃないと思うんだが。

 強いて言うなら童顔なだけで。

 

「相変わらずガキみたいな奴だな」

「ほっとけ」

 

 アザゼル曰く、俺はガキのような男らしい。

 

「で、本当のところ何しに来た」

「……アイツ、何て言って死んだ?」

 

 やっぱりか。

 やはりその事を聞きに来たのか。

 確信しているような顔をしている癖に知りたいのかよ。

 

「『すまない友よ。そちらに逝く』だ」

 

 これがコカビエルの残した最後の言葉だった。

 

「クソッ。暴走してんじゃねーよ馬鹿野郎」

 

 ポロポロとアザゼルの瞳から涙が零れる。

 

「……復讐か?」

「ああ」

 

 やはりそうなのか。

 

「戦争で多くの犠牲が出た。その犠牲が無ければ、堕天使そのものが存在しなかったかも知れない。そう考えて、俺は割りきっている。だが、コカビエルを含め一部の連中はそんな風に考えることが出来なかったんだろうな。……亡くなった同胞の仇をとるべきと言あるごとに言っていた」

 

 亡くなった同胞のため。

 彼らは戦争でどれ程の犠牲を出したのだろう。その犠牲の上で生きていた彼らは何を考えていたのだろう。

 ……俺なら、コカビエルと同じ行動をしたかも知れない。

 いや、した。俺は、ゼノヴィアとイリナの借りを返すために戦った。……奴と一緒だ。

 

「恥ずかしい話だが、お前に言われて彼らを墓で眠らせてやることすらしていない自分に気が付いた。――逃げていたんだろうな、俺は」

 

 アザゼルは、自嘲気味に笑う。

 いつもなら鼻で笑ってやるところだが、今のこいつはどこか弱々しくそんな気にもなれなかった。

 

「だから、俺は死んだ仲間に誓いを立てることにした。――もう絶対に同類は生まない、ってな」

 

 それはつまり――ああいうことになるんだが。

 ま、本人がやる気なんだ。水指すような無粋は無しにするか。

 

「それでだ。お前を勧誘しに来た」

「冗談じゃなかったのかよ」

「当然だ。金剛龍の主は総じて仲間思いで献身的。そういうジンクスがある。これからのことを考えれば縁起が良いだろ?」

 

 縁起物かよ、俺は。

 だが残念。

 

「再就職先は決まってるんだよ」

「やっぱりそうか。……どれ、就職祝だ。手伝ってやる」

 

 いらないと言って断るが、アザゼルはこう言って無理やり手伝った。

 

「遠慮すんな。掃除機も持てない体になったくせによ」

 

 なんだ。バレていたのか。

 

 ★

 

 コツンコツン。

 俺の足音が、旧校舎の廊下に響き渡る。

 始めのうちは異様な雰囲気に気圧され気味だったが、最近は結構慣れてきた。まあ、悪魔のいる場所だし、少しぐらい不気味でも仕方ないってもんだ。

 

「…………」

「……、…………」

 

 オカルト研究部の部室に近づくにつれて話し声が微かに聞こえてくる。

 あー。部長いるかなー。今回の事件は大変だったし、何かご褒美を貰えるかも知れない! 俺は何貰おうかな。……ぐふふ。楽しみだなぁ!

 

「あ、あの! 銀七さん!」

「裸になったぐらいで恥ずかしがるなよ。昔はよくあっただろ?」

「あう。そうですけど」

「なら、いつも通り頼むぜ」

「……やっぱり大きいですね。見た目からじゃ想像できないです」

「その反応も懐かしいな。……くくく。始めての時は大慌てだったな」

「わ、忘れてください!」

「へいへい、了解。……あぁ。相変わらず気持ちが良いな」

「ふふ。ありがとうございます」

 

 …………………………フッ。

 

「何やってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 銀七ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ウチのアーシアに何しやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 そんな羨ま……いやいや、けしからんことを! を?

 

「イ、イッセーさん!?」

「なに大声上げてるのさ」

 

 そこには、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を使っているアーシアと半裸になっている銀七の姿があった。

 どういう状況?

 

「イッセー、扉をそんな乱暴に開けてはダメよ」

「部長!」

 

 あれ? 部長もいる。

 それだけじゃない。木場も小猫ちゃんもいる。

 

「やあ赤龍帝」

「ゼ、ゼノヴィア!?」

 

 ゼノヴィアがいる!?

 ど、どうしてだ!? 任務は終わったんだから海の向こうに帰ってるはずじゃ……っていうか、銀七もそうじゃないか! なんで教会組がいるんだ!?

 

「落ち着きなさい、イッセー」

「部長! どうしてゼノヴィアたちが」

「それはこういうことだよ」

 

 そう言うと銀七は、背中からコウモリのような悪魔の羽根を出す。って、ええええええええええ!?

 

「結構良い反応するな」

 

 銀七が腹を押さえて忍び笑いをする。

 いや、それどころじゃない!

 

「お、お前ら悪魔になったのか? なんで?」

「神が死んだと聞いて異端認定されてね。自棄になってグレモリーに頼み込んだのさ。ふふ、なんの因果だろうか。いままで葬ってきた存在になるとはね。……本当になんで悪魔になったんだろう。ああ、主よ……あいた!」

「バカじゃねぇの?」

 

 ゼノヴィアが祈って頭痛に耐えている。その様子を見て、銀七は呆れた様子だ。

 残念な子……て、やつかな?

 

「で、お前は?」

「同じようにクビになってな」

 

 クビって……。

 

「そこで、グレモリーに再就職しようと思ったわけだ。駒は兵士としてな。俺を雇えば俺自身と一緒にエリアルもついてくるぞって言ったら飛び付いて来てな。金払いも良いし、それに衣食住に加えて治療費もタダと来た」

「治療費?」

 

 銀七は、ああ、と言ってリンゴを手に取る。

 そして力を込めるが、リンゴにわずかしか指がめり込まなかった。

 おかしい。悪魔になった人間は、人間だった時と比べて身体能力が格段にはね上がる。リンゴぐらいなら握り潰せるほどに。実際、小猫ちゃんなら出来るだろうし。

 俺だって出来るかも知れないし。

 幼少の時から悪魔を相手に戦ってきた人間が出来ないとは思えない。

 

「光を体内に宿すのは、無茶しすぎた。あと一時間、戦闘が長引いていたら首から下が動かなくなっていたところだった。今も悪魔になってようやく日常生活に支障が出ないレベルまで回復してな。アーシアの神器で長期間に渡って治療してもらう予定だ」

 

 そ、そんなに無茶していたのかよ!

 そうか。こいつはそこまでして俺たちや俺たちの町を守ってくれたのか。俺に出来ることなんて限られているけど、恩返ししないとな!

 

「俺が悪魔の先輩になるし、なんでも言ってくれ! 出来る限り答えてやる!」

「本当か!? 助かった! さしあたって、これを教えて欲しいんだが」

 

 そうして見せてきたのは、問題集だ。

 うっ! 勉強はニガテなんだけどなぁ。

 なんでもやるって言ったんだし、出来る限りやるか。

 そう思って覗きこめば三角形と『この三角形の面積を求めなさい』という問題。

 んん?

 タイトルを見れば『わかりやすい! さんすうドリル』というタイトル。漢字が一文字も使われていないところから小学生向けの問題集ということが分かる。

 

「小学校を中退したようなものだからな。四則演算以外まるで分からない」

「あ、ああ! そうだよな! 確かに小学校に通っていなかったから仕方ないか!」

「五年で面積を求めるところまで来たんだがな」

「…………」

 

 五年もあれば幼稚園児だって三角形の面積ぐらい求められるようにナルヨ……。

 戸惑いの視線を向けるが、

 

「?」

 

 と、男にしては妙に可愛らしく首をかしげられた。

 それで理解した。

 ――こいつ、ゼノヴィア以上に残念だ。




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他にも、活動報告で次回作について詳しいことを書きますのでそちらも見ていただけると幸いです。
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