まずいなぁ。こういう時、才能の無さを痛感します。
「うう……」
目を覚ます。
まだ眠い。寝ていたい。というか何で目が覚めた、俺。ダメだ、眠たい。もう少し、ベッドの中にいることにしよう。
教会から提供された仮宿。拠点である小さな一軒家だが、部屋一つ一つは日本の家としても小さいが、四つの部屋を持ち、キッチンがついているダイニング・リビングがある。当然、風呂もある。トイレとは別々だ。ただ、風呂は設計したのが西洋人ということもあって、浴槽が小さめだ。湯船に浸かることは難しいだろう。
この家だが、前任の担当悪魔。つまり、リアス・グレモリーがこの土地を管轄する前に管轄していた悪魔を討伐するために、エクソシストたちが第二の拠点兼武器庫とするべく建てたものらしい。
提供は、イリナの所属している新教ことプロテスタント側だ。
カトリック教会からは俺とゼノヴィアが出動している。対して、プロテスタント側はイリナ一人だ。そのため、プロテスタント側がバックアップするカタチでこの仮宿を提供している。当然、食料や生活用品もプロテスタント持ちだ。俺たちが着く前に調査する諜報員もプロテスタントの人間だった。もっとも、何ひとつ仕事をこなせずに死んだが。
それなら、何もしていない正教会はどうなんだ、という話だが、あそこはあそこでかなり忙しくしている。正教会に残された『
……戦場で直接コカビエルと剣を交えることになる俺たちと比べれば、楽すぎる内容なのだが。
「く……うぅ……」
カーテンの隙間から覗く朝日が俺の目にあたる。少し眩しい。この位置じゃあ、どうあがいたって目に光が当たる。
仕方ない。ベッドからゆっくりと上半身を起こし、眠気覚ましに伸びをする。
少し話がずれたかな?
はじめはこの小さな一軒家について考えていた。それがいつの間にやら、正教会のことを考えていた。あそこ、かなり高圧的だから好きじゃねえんだけどな。
この家には四つの部屋があり、それぞれイリナ、ゼノヴィア、俺が一部屋ずつ借りている状態だ。
「お早う」
「……おはよ、エリアル」
違った。
イリナ、ゼノヴィア、そして俺とエリアルが一部屋ずつ借りている状態だ。
のそのそとベッドから立ち上がり、服を戦闘服に着替える。勿論、白いローブも茶色いブーツも黒いグローブもつけてない。あんなもの、日常じゃあ邪魔になるだけだ。その点、イリナとゼノヴィアはよくあんなものを着て生活できるな。
「……イリナとゼノヴィアはあの部屋か」
俺とエリアル、イリナ、ゼノヴィア。残る個室は一つだ。その部屋には、巨大な十字架と聖母マリア像が置いてある。簡易的な礼拝堂らしい。エクソシストたちが神への祈りを忘れぬように作られたとのことだ。
イリナとゼノヴィアは、朝早くに起きてあそこで祈っている。よくあんなに早起きができるものだ。
ギィィ……という軋む音を奏でながら、ドアを開けていく。廊下に出て、リビングに向かう。
「……コーヒー」
「了解した」
エリアルがばさばさと六枚の翼を動かして、器用に足で冷蔵庫を開いている。いつも任せているんだ。何時までも見ている必要はないな。
「……なんだ、起きていたのか」
「おはよう、銀七」
「……ん」
ゼノヴィアとイリナがリビングにやって来る。なるべく、三人で揃える時は一緒にいるようにしている。一応、コカビエル――堕天使たちの幹部と戦闘中なのだ。一人でいて、あっさり殺されちゃあ困る。だから、だ。
二人に短く返事を返す。
「……ねぇ、ゼノヴィア? 銀七、テンション低くない?」
「朝はいつもあんな感じだ」
「銀七は朝が弱くてな。いつもふらふらとしている。私がやってやらなければ、いつも飲んでいる目覚まし用のアイスコーヒーもコップに注げないぐらいだ」
イリナとゼノヴィア、そしてエリアルが会話をしている。
「ねぇ、一応教会の所属なら朝のお祈りぐらいしたらどう?」
「メンドイ」
「メンドイって……」
「諦めろ、イリナ。銀七はいつもこんな感じだ。朝の祈りはおろか、礼拝堂に足を踏み入れたことすらないらしい」
「逆皆勤賞を更新中だ」
「…………」
イリナは絶句している。
仮にも教会の人間がこんなやつだとは思わなかったのだろう。しかも、俺はカトリック教会の中でも上位の実力と戦績を上げてきた人間だ。知る人ぞ知る、という認知度だが、知っている人間はいずれも上に通じている人間だ。要するに、各教会が注目する悪魔祓いが俺だ。
それが、こんなヤツだとは思いもしないだろう。仮にもカトリックが誇る聖剣使いの一人なのだから。
「ちなみに、一番尊敬している人間はガリレオ・ガリレイ、地球一の発見は『進化論』と思っている。宗教上で一番好きな人物は……強いてあげるならカルヴァンかな?」
「ウソッ! カルヴァン好きなの!? カトリックなのに!?」
「……カルヴァンってプロテスタントじゃないか」
「あれ、わかりやすくて良いだろ? しかも、教会に寄進する必要がないってのが最高。金は大切だからな」
ガリレオ・ガリレイ。
地動説を唱えた人物の一人だ。天文学の父とまで言われる彼だが、地動説を唱えたがために、異端認定された科学者だ。
進化論は、生物は進化するという日本では至極当たり前だと思われている説のことだ。ただ、これはクリスチャンから言わせると、「神が想像したものであり、進化などしない」とのことらしい。イスラム教徒もそこら辺は変わらないらしい。
カルヴァンってやつは、予定論という神学思想を立ち上げた人間だ。神の救済に与る人間は決まっているという思想だ。神の救済に与る人間は決まっているから、教会に寄進――つまり、金を払う必要は全くないという教えだ。金を払う必要がないってのが最高。この一言で宗教家の中で一番すきな奴になったね。
ちなみに、プロテスタントの派閥の中にカルヴァン派という物がある。同じ宗教にも派閥があるのか、と不思議がる人間がいるかもしれないが、プロテスタントというのはカトリックから分離した教派を指す言葉だ。派閥ぐらいある。
「でもさ、ガリレオ・ガリレイも敬虔なローマ・カトリックの教徒だったんだぜ? そう考えると、俺ってカトリックらしいだろ?」
「本当に『らしい』だけね。もっと言うと、クリスチャンらしくもないわ」
「だってクリスチャンじゃねえし」
「はぁ。……それでも、十字架に祈りを捧げるぐらいはしておいた方がいい。仮にも教会所属ならな」
だってなぁ。
「十字架って、アレ元は処刑用器具だろ? ギロチンに祈るような感じがして気分が良くないんだよね」
「……日本にキリスト教が広まらなかった理由がちょっと分かった気がするわ。日本人だけど」
「そうだろう? 私は、フランシスコ・ザビエルはすごいと前々から思っていた」
「宣教師の墓場を舐めるなよ?」
イリナとゼノヴィアが呆れたような顔をして、ため息をついている。
他の神父、牧師と違って、キレてくることが無くて幸いだ。イリナやゼノヴィアは、そこらへん理性的だからな。別に他の宗教を見下しているわけでもないし。
「クククッ。そうでもないぞ、イリナ嬢、ゼノヴィア嬢」
エリアルがいきなり口を挟む。
一体何なんだ?
「別に銀七にキリスト教の教えを説く必要がないだけだ。意外と本能的に良いこと悪いことの区別がついているからな、コイツは」
「そうか? 私が教会内でいくら言っても聞かないコイツが?」
「ああそうだ。君たちの教えの中に『汝の隣人を愛せよ』というものがあるだろう? コイツは隣人どころか見ず知らずの孤児院に多額の金額を寄付したり、地域のボランティアに参加していたりするんだぞ?」
「ぶっ! エリアル! 何でそのことを……!」
飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
コイツ! いつの間に知りやがった!
「さて? 何時だったかな?」
「まさかあの銀七が……」
「ちょっと意外かも……」
クッソ! こいつらの目が気に入らねえ! なんだ、この辱めは!
「エリアル!」
「隠すことじゃないだろう? 立派なことじゃないか。ほら、この前も道に迷った旅行客を助け――」
「やめっ……!」
「ぶつかってきた少女に怪我させたお詫びとして、服を買って――」
「こ、この……!」
「貧困のせいで飢えていた姉妹に食べ物を提供してあげ――」
「……うう」
「……泣く事無いだろう」
「泣いてねえよぉ……」
くそぉ……何なんだよ、これ。
暴露大会じゃねえんだよ、今の時間は……。
目尻が熱を持ち始めた。おそらく真っ赤になっているであろう顔面を手で覆う。
穴があったら入りたい。
「いや、なんというか……少し見なおしたぞ、銀七」
「え、ええ。そうね。かなり意外だったけど、さすがは上級の悪魔祓いというべきかしら」
「……ハズカシイ。死ぬほどハズカシイ」
俺のキャラじゃねえから、黙っていたのに……。
エリアルめ……今日のアイツへの餌はアイツの嫌いなグリンピースを大量に入れたチキンライスにしてやる。勿論、チキンなんて入れてやるものか!
「ああ、クソが! さっさと巡回に出る準備をしやがれ! ド畜生め! さっさとコカビエルとはぐれ野郎を見つけてエクスカリバーをぶっ壊すぞ!」
「まずは、目尻に溜まった涙を拭くといい」
「泣いてねえ!」
「ねえ、お金はどうするの?」
「昨日渡した分があるだろうが! アレ持っていけ!」
「はーい」
アァァァァァァァァ! どいつでもいいから出て来やがれ! 憂さ晴らしにぶった斬ってやる!
「そういえば、銀七は料理もうまかったな」
「え、そうなの?」
「ああ。いつも食べている食材と同じものからできているとは思えなかった。作り慣れているのだろうな」
「へぇ~、守銭奴な割には質素倹約なんだ。家庭的だし、意外と優しい面もあるみたいだし……」
「黙れぇぇぇぇぇぇ!」
☆
あの地獄の朝から開放され、ゼノヴィア・イリナ組と俺・エリアル組という組み合わせで二手に別れてエクスカリバーを捜索する事になった。
俺も本当は嫌だが、ゼノヴィアたちと同じ白いローブを着ている。
自分を餌にして、堕天使と堕天使側の連中を一本釣りしようという狙いがある。
本来なら、コカビエルレベルの敵相手ならじっくりと時間をかけて作戦を練り、決して正面に立たないようにして勝利を収めるしかない。
しかし、この程度のリスクを負わなくてはいけないほど、情報が足りないのだ。先に入っていた神父が殺されずに情報を少しぐらいは手に入れていれば、俺もゼノヴィアたちもこんなことをしなくてもいいっていうのによ。――と、死人に対しての悪口はここまでにしておくか。死人に鞭打つほど外道じゃないからな、俺は。
「……釣れねえな。狙いがバレてるか?」
「どうだろうな。敵勢力がどの程度の規模か把握できていないからな。……一人以上の協力者はいるはずなのだが」
そうじゃなければ、エクスカリバーが保管されていた位置など分かるはずがない。
おそらく、その最低一人の名前は――バルパー・ガリレイ。俺が好きな学者と同じ名字っていうのが腹立つ。
アイツは異端認定される前は、聖剣研究の第一人者とまで言われていた。本人も聖剣への憧憬に憑かれているかのような性格をしていた。エクスカリバーを奪うなどというウワサが立てば、地球の裏側にいても駆け付けるだろう。むしろ、奴がコカビエルを先導したのではないか、とすら思える。
「……はぁ。『神の子を見張る者グリゴリ』の幹部に『皆殺しの大司教』が相手か。笑えねえ布陣だよ、チクショウが」
ある意味、呪われているんじゃねえのか? 俺。
自分の不運さ具合に頭が痛くなってきたところで、ポケットの中に仕舞っている携帯電話が鳴り始めた。取り出して、誰からかを確認してみると、イリナからだ。
「もしもし」
『あ、銀七。今すぐこっちに来て欲しいんだけど……』
「まず、場所を言え」
『それもそうね』
イリナが場所を教えてくる。
場所は、ここからそう遠くないファミレスだ。ランチでもとっているのだろうか。
取り敢えず、向かうとするか。
☆
「意外にも程がある面子だな」
そこには、赤龍帝と小猫ちゃん、シトリーの『兵士』がいた。
話を聞くと、またイリナがやらかして、イッセー君に助けられたとのことらしい。
……はぁ~ん。そういうことか。
「いきなりで悪いが、あんたらにお願いがある」
「いいぜ」
「実は……って、ええ!?」
驚く赤龍帝。小猫ちゃんも同様の反応だ。ただ、シトリーの『兵士』は地獄に叩き落とされたかのような顔をしていた。……悪魔だから地獄、つーか冥界が故郷みたいなものなんだけどな。
「チョット待ってくれ! 今なんて?」
「だから、いいぜって言ったんだよ。アレだろ? お前らが頼みたいことってエクスカリバーの破壊だろ? 別に構わねえさ」
「いいの? イッセーくんとはいえ、悪魔なのよ?」
横から、イリナの声が聞こえてくる。
……口元にご飯粒ついているぞ。
仕方ないので、イリナに手を伸ばして口元のご飯粒を取ってやる。
「――――!?」
「ご飯粒、ついていたぞ。ったく、てめえも女ならもう少しそういうことに気を使え」
イリナの隣に座り、イリナの口元についていたご飯粒を口のなかに放り込む。ナプキンに包んで処理してもよかったんだがな。もったいない。
「うぅ……」
イリナがまるでトマトのような色になるまで顔を真っ赤にしている。そんなに恥ずかしかったのか?
「くそ! イケメンめ!」
「これがイケメンだけに許された特権だとでもいうのか? チクショウ! 桃色な雰囲気発しやがって!」
「むしろ、天然のみに……といった具合だな」
イッセー君とシトリーの『兵士』が騒いでいる。それに、さらっとエリアルまで会話にまざっている。なにしてんだ、てめえは!
……話を戻そ。
「さてと。許可した理由だが、俺たちじゃあコカビエルには絶対に勝てないからだ」
「どういうことだ? 出発前は成功確率が高くて三割と言っていただろう」
「アレは、コカビエルとエンカウントせずにエクスカリバーのみを即座に破壊して核を回収し、ヴァチカンまで帰還するという流れでの成功確率だ」
「それって……!」
「俺が出した任務の成功確率の要は、いかにしてコカビエルと戦闘を行わないか、もしくはコカビエルの足止めができるかだったからな」
コカビエルの強さは想像を絶する。
少なくとも、俺ごときの想像力では彼の力量は測れない。それこそ、『
「しかし、私たちには秘密兵器が……」
「計算に入れている。ゼノヴィアの秘密兵器にお前らにも見せたことがない俺の奥の手すらもな」
そのことに二人とも驚いている。コカビエルには勝てないという言葉にか、はたまた俺に奥の手があることにか。
「聖書に出てくるレベルってのは、そういうものだ」
堕天使だけに言えることじゃあないがな。
「私も賛成だ」
「ゼノヴィア!?」
ゼノヴィアも賛成したことにイリナはかなり驚いているようだ。
「気が変わったのさ。殉教する覚悟でこの地に来たが、主のために生き残って使命を全うする。それこそが真の信仰ではないか?」
「間違ってはないけど」
「それに、考えるのは銀七の役目だからな。私たちは銀七の考えに従っていればいい。酷いことにはならないと同じ職場で働いてきた私が保証しよう」
イリナがこちらを見てきたので、肩をすくめて言葉を発する。
「上も悪魔の力は借りるなと言ってはいたが、利用するなとは言ってないしな。無問題だ」
「屁理屈じゃない?」
「なら、赤龍帝にドラゴンの力を借りるということにしておくか。構わねえよな?」
ちらりとイッセー君の方を見る。
彼は自身の左腕に視線を落とし、力強く縦に頷いた。
「交渉成立だ」
「ああ。それで、俺のパートナーを呼びたいんだが、いいよな?」
「勿論だ。戦力は多いに越したことはない」
イッセー君はその言葉を聞くと、すぐに携帯電話を取り出して誰かに連絡をした。
来たのは、木場裕斗だった。なるほど。彼らの行動は彼のためだったのか。なかなかいい友人を持っているじゃないか。
「事情はわかった。けどエクスカリバー使いに許可されるのは遺憾だね」
「随分な言い様だね。君が『はぐれ』なら斬っているところだ」
彼は彼で血の気が多いが、こっちも血の気が多い奴がいたな。敬虔な信徒にとっては悪魔は無条件で憎むべき相手のようだし、まだ自制がきいているほうかも知れないが。
「やはり恨んでいるのか? 教会を。『聖剣計画』を」
「当然だよ」
だろうな。
俺が木場君の立場なら、同じことを言っている。モルモットにされ、最後には微かにあった希望にすら裏切られた。
こんなことを許せるわけがない。許せるとしたら、実験で気が狂ったのかと言わざるを得ない。
「けれどね、木場くん。あの実験のおかげで聖剣の研究は飛躍的に進んだの。私みたいな聖剣使いも生まれたのよ」
「だからといって、あんなことが許されていいと思っているのか?」
当然の言い分だ。人間をモルモットにして、失敗作だからといって処分はマズイ。まともな精神をしているなら、忌避される出来事だ。しかも、話に聞くところによると、教会が信者に対して行ったのだ。
「それがまともな反応だよな。教会内でもあの実験は最大級に忌避されているしな」
『聖剣計画』
剣にまつわる神器、特殊な能力を持った子供たちが集められ、聖剣に適合するべく行われた。非人道的な実験。
「指導者の名前はバルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と言われた男だ。……ハン。大司教すら手を血に染める。だから宗教は信用出来ねえ。『神が救ってくれる』ねぇ。なるほどなるほど。てめえじゃあなにも出来ねえ負け犬の台詞だな」
「……君は本当に教会の人間かい?」
少し毒気の抜けた木場君が俺に質問をする。さすがに自分以上に教会に対して毒を吐いていれば、そういう反応をするか。教会の人間が言っているのであれば尚更。
「一応、教会所属だ。宗教が嫌いってだけだ。……ま、俺のことなんざどうでもいいよな。話を続けるぜ。てめえの敵はエクスカリバーとバルパーのジジイだ。今回の事件、バルパーが絡んでいる可能性が高い。で、どうするよ、お前。過去を清算するいい機会だぜ」
「それを聞いて、協力しない理由が無くなったよ」
木場君は、笑顔で返事をした。
「オッケイ。商談成立だ。それじゃ、エリアル」
「了解だ」
流石は相棒。何が言いたいのかすぐにわかってくれる。
エリアルは、三対の羽を羽ばたかせて赤龍帝の前まで移動する。
「お前らにエリアルを貸す」
「か、貸す!?」
「そうだ。俺とエリアルは離れていても連絡を取り合える。それに、お前らに足りない火力を補ってくれる。ああ、そうだ。小猫ちゃん、これ渡しとく」
懐から、一枚の札を取り出す。
「……何ですか、これ」
「結界用の札。流石に市街地を破壊するのはマズイ。民間人に被害が出る。最悪、更地になるからな」
「そんなにすげえの!?」
「七玉龍は破壊規模だけを見れば龍王すら凌駕するものもいた。破壊力の一点だけをいうなら世界でも上から十番目以内には入っていると私は自負している。ご期待に答える働きをしよう」
「だから、結界を忘れないようにな。どこかに張り付ければそこを基点に結界が発動する」
「……わかりました。忘れません」
小猫ちゃんはしっかりしているみたいだし、イリナやゼノヴィアみたいなことにはならないと思う。
「僕も情報提供をしたほうがいいようだね。先日、エクスカリバーを持ったものに襲われた。その際、神父が一人殺されていたよ」
殺された神父。
プロテスタント側が現地を調査するために派遣した神父か。
まさか、木場君がその調査員の殺害現場に居合わせたとは、意外だった。
「名前はフリード・セルゼン。この名に覚えは?」
よりにもよって、フリードかよ……!
「ああ、知っている。同期だよ。……くそったれめ。あんのイカレポンチ、まぁた俺の邪魔をしやがんのかよ」
俺が参加した中でも死にかけた四つの任務があった。
超弩級はぐれ悪魔の討伐。
死霊使いが占拠した島での殲滅。
上級はぐれ悪魔五人、中級はぐれ悪魔五十七人、下級はぐれ悪魔三十人、計九十二人のはぐれ悪魔との戦闘。
そして、アイツが足を引っ張りやがった吸血鬼屋敷での戦闘だ。
あの時は、アイツが先行し過ぎて罠が大量に発動。味方エクソシストがその罠によって四十人から最終的に俺とフリードを除いて三人しか残らなかった。当然、俺も何回も死にかけた。
「フリード・セルゼン。元ヴァチカン法王庁直属のエクソシスト。十三歳でエクソシストとなった天才。……まぁ、この場には十二歳、当時最年少でエクソシストになった天才くんがいるけどね」
「やかましい、イリナ。それに俺のは、才能云々じゃなくてお上が厄介払いをしたかっただけだろうよ。
……話を戻すぞ。奴、フリード・セルゼンは協会側としちゃあ最上級の働きをした。滅した悪魔・魔獣の数だけを数えるなら、確実に上位ランカーだっただろうよ」
「だが、奴はやり過ぎた。味方すらも手にかけたのだからね。フリードに信仰心なんてものは無かった。あったのは、異常なまでの戦闘執着。まるで血を求める獣だった。異端にかけられるのも時間の問題だった」
「要するに、世渡りがクソ下手っつー訳だ」
それにしてもフリードか。
ああ、クソっ! 忌々しい! アイツのせいで給料も減ったし、評価も下がって仕事が一時期かなり減っていたんだよ、チクショウが。
ぜってーぶっ飛ばす!
「それじゃ、俺はそろそろ仕事に戻らせて貰うぜ」
椅子から立ち上がり、その場をあとにする。
しかし、『聖剣計画』にバルパーのジジイね……因果なもんだ。俺が関係しているものがこんな時期に関係してくるとは。
運命ってものは、とことん意地が悪いみたいだ。