なんというか、スランプというか。なんにせよ、申し訳ありませんでした。
七玉龍の一角、『金剛石』、『光大公』、『光竜』、『
『力を貸して貰え相棒』
左腕からドライグの声が直接、頭の中に聞こえてくる。
『相棒たちに足りないのは、火力だ。それもコカビエル。聖書に乗るようなレベル相手では圧倒的に足りない。アイツは、全開まで倍化させた相棒すら安々と超える火力を保有している』
マジかよ!
足りないのは火力。俺たちのメンツは、技術が取り柄の木場、格闘戦が得意な小猫ちゃん、よく分からないが見た感じ火力の「か」の字も無さそうな匙、そして魔力が悲しくなるぐらいしかない俺だ。
正直、決定打があるかと言われると首を縦にふれない。
『その点、エリアルは一点の火力だけならドラゴン族の中でも一位二位を競う竜だ。相手は伝説の堕天使。ならばこちらも生ける伝説であるエリアルに協力してもらった方がいいだろう』
それはそうかも知れなけどさ。あいつらはどうするんだよ。
『相棒、あちらの心配をしている場合か? 相棒はまだ弱い。脇目も振らず、生き残る術を考えるべきだ。そうだろう?』
……そう……だな。
あいつらは木場や俺に勝ったんだし、心配する必要はないか!
そう思い、明るく『エクスカリバー破壊団』の結成を宣言した。メンバーは勿論、俺、匙、小猫ちゃん、木場だ!
「結局、何がどうなって木場とエクスカリバーが関係あるんだ?」
あーそういえば、匙はまだ知らなかったんだっけ。
「……少し、話そうか」
木場の口から語られた話。
剣に関係する神器、才能を持った少年少女が集められ行われた非道な実験。
名前は『聖剣計画』
聖剣に適合させるための実験。
彼らは、自由を奪われ、人生を奪われ、人権も奪われ、そんな中でもいつか聖剣に適合できる日が来ると信じていた。いつか、特別になれる日が来ると。
結果は――『処分』
彼らは夢を叶えられず、無惨に殺された。
――凄まじい過去だ。
俺なんかじゃ一片たりとも木場の心を理解してやれないだろう。
「うぅぅぅ……」
うめき声が聞こえた。うめき声の方を見てみると、匙が泣いていた。涙だけじゃなく鼻水まで垂らして。
「木場ァァァァァ! 辛かったろう! キツかったろう! 俺はなぁぁぁぁぁぁ!今、お前に非常に同情している! いけ好かないイケメンだと思ったが、それなら話は別だ! 会長のお仕置きを甘んじて受けよう! 俺も頑張ってエクスカリバーを破壊する! だから、お前も頑張って生きろよ! 救ってくれたリアス部長を絶対に裏切るな!」
アイツ、熱いな! 言っていることは少しアレだが、結構いいやつだ! 連れてきて良かったな!
「私も微力ながら力添えをしよう」
厳格な声が俺たちの耳にまで届く。
竜の人形、そこに封じられているドラゴン。エリアルだ。
「それは心強いね。少し話しただけだけど、彼――君の主は他のエクソシストとも違うようだし」
「クククッ! それはそうだろうな。信仰心のないエクソシストなんてものは銀七ぐらいのものだろう。まぁ、私としても『聖剣計画』には思うところがある。……是が非でもコカビエルとバルパーにはこの世から消えてもらう」
ゾクッ!
まるで、氷水を背中にぶっかけられたみたいな悪寒が走る。
見た目は可愛らしい人形なのに、ここにいる誰よりも冷たい殺気を迸らせている。
これが『七玉龍』の実力! 殺気だけでも分かる! 本気を出されたら、ここにいる全員で襲っても、返り討ちになるだけだ!
「どういう意味かな?」
木場が殺意を込めて小さな竜を睨みつける。
復讐を遂げるのは自分だ。関係ないやつは引っ込んでいろと、目で訴えている。
「なに。大した理由はない。木場祐斗、君が『聖剣計画』の被験者だったように銀七もまた被験者だったというだけの話さ」
「なにっ!?」
「マジかよっ!」
アイツも、『聖剣計画』の被験者だったのか!?
「どういうことかな?」
「詳しく話すには、彼の過去から語らなければならない。話す許可自体は貰っているが……生半可な覚悟では聞けない話だぞ」
人の過去に足を踏み入れる覚悟はあるか。
最後の警告を言ったかのように――いや、ようにじゃねえ。間違いなく、最後の警告だ。アイツも、木場と負けず劣らずの過去を背負っているのだろう。それを知る覚悟があるか――。
「聞くよ。あの時のこと、『聖剣計画』のことをもっと知れるなら」
木場が覚悟を決めた目でエリアルを見る。
木場が覚悟決めたんだ。俺たちも決めなくちゃな!
小猫ちゃんや匙も同じことを思ったのか、小さな竜型の人形を見つめ続ける。
「ハァ。分かった。教えよう。我が主の過去、そして彼の闇を」
灰色の牙の間から水澄銀七という男の過去が流れる。
「銀七はな、昔は虫も殺せないほど臆病で優しかったんだ。……今からは想像できないだろう? だが、事実だ。アイツは、何かを助けることを信条としていた心優しく恥ずかしがり屋で泣き虫な少年だった」
そんな優しい少年には、家族がいた。
フランクで親しみやすい父親、元雑誌モデルだった美人で若い自慢の母親、病気がちで身体の弱かった少年をよく看護していた優しい美人の姉。
父親は、子供が二人とも可愛らしい顔をした母親によく似ていたことを悔やんでいた。拗ねたように冗談で「顔が良い奴ばかりで肩身が狭いぜ」なんて言って、その後に母親が「でも、私はそんなあなたに惚れたんですよ」と言って自分達の目の前でイチャイチャとしていたらしい。
父親に懐いていた少年は、嫉妬で頬を膨らませて、そんな少年を見ながら姉が優しく頭を撫でる。そんなことを毎日している仲のいい家族だった。
「そんな家族に不幸が訪れる」
父親が死んだ。
父親の勤め先で新しく変わった上司が人使いの荒い人間で、そのことに抗議をしに行ったらしい。結果は、殴られ、蹴られ、最終的には他の人間の仕事まで押し付けられ、過労死したらしい。
父親に懐いていた少年は、倒れた。
元々、体が弱く、病気がちだった少年にとって、慕っていた父親が死んだという知らせは猛毒に等しかった。
父の死という名の猛毒は、少年の体を蝕み、胃に大きな穴を開けた。
「仲の良かった家族だ。父が死に、弟が倒れ、残された母と姉は藁にも縋りたい気持ちだったろうよ。そこに一人の下衆が目をつけた。とあるカルト宗教の司祭だ。『私たちのもとに来なさい。そうすれば、彼の身体はきっと良くなる。そのためにお金も援助しましょう。あなた達が我慢すれば、弟さんは元気になる。大丈夫。神は――』」
――『救いの手を差し伸べてくれる』
その道化はそう言った。
「結果として治ったよ。それもそのはず。少年の病状は胃潰瘍。ストレスが原因で、胃酸によって胃が溶けてしまうよくある病だ。必然的に金と時間さえかければ治るものなのさ」
それを母と姉は『神』とやらのおかげだと思い込んでしまった。――思い込まされてしまった。
「それで、母と姉はどうなったんだい?」
「死んだよ」
その告白に、一瞬、息の仕方を忘れる。
「百を超える信者の男たちにクスリ漬けにされ、犯され続けた。母は精神が壊れ、肉体が死んだ。姉は当時十三歳。未発達の身体を無理やり犯され続け、内臓が破裂して死亡だ」
「……非道すぎます。そんなのって……ないです……」
いつも無表情の小猫ちゃんも目に涙を含んでいる。
これは、あまりにも非道すぎる話だ。聞いているだけで、そのカルト宗教の連中へ殺意が湧いてくる。
「欲に溺れた人間は、業が深い。矛先は、少年に向かった」
『――――!』
少年の容姿は、母親譲りで一見すると美少女そのものだったそうだ。
病気がちだったが故に、色は白く、雰囲気は儚く、病人服に身を包んだ姿は深窓の令嬢を思わせる程だったらしい。
どこの国、世界でも物好きな金持ちはいる。十歳にも満たない少女を犯したいと思っている人間もいれば、少女のような少年を犯したいと思う人間もいる。そんな下衆な富豪たちの間では、少年のような存在は高値で売買されるらしい。
「少年は、無理やり拉致され、目の前に男どもによって汚された母と姉を見せられる。……その時だよ。私が目覚めたのは」
神器『
その後、少年が行ったのは虐殺だ。
母を、姉を、家族をコワシタのは誰だと。コワレタかのように、言い続けた。
「その宗教に属していたものは、皆殺し。文字通り、灰も残さずだ。……虫も殺さない少年は、一夜にして大量虐殺の殺人鬼に早変わりしたってわけだ。その後の生活は当然、家に居ることは出来なかった。殺人を犯してしまったのだからね。いつ警察が来るかわからない。少年が滅ぼしたエセ宗教団体は、畜生どもの集まりではあったが、巨大な宗教組織だ。国家機関の奥底にまで浸透していても不思議じゃなかった。少年は家から最低限必要なものをバッグに詰め込み、逃げるように家出した」
そこからの生活も悲惨なものだった。
泥水で喉を癒やし、ゴミ箱を漁り、生ごみで空腹を凌ぎ、地面で永遠と「お金を恵んでください」と土下座し続けた。
十歳にも満たない子供が、たった一人で雨に打たれ続け、空腹に苦しんでしたのだ。
「そんな少年を拾った男がいる。男の名は――バルパー・ガリレイ」
「……なっ!」
「ウソだろ……」
その少年は、飛行機に乗ってとある研究所まで運ばれる。
「もう察しがついたんじゃないか? そこで行われていた実験こそ」
「『聖剣計画』ってわけか」
「ああ。もっとも、他の被験者とは違い、銀七は天然物の聖剣使いだ。実験の内容も異なる。エクスカリバーを持つには、どれだけの数値を出せばよいのか。どの薬品なら聖剣を使える力が増幅するのか。そして、聖剣を使って悪魔と魔獣との戦闘に明け暮れた。他の被験者とは違い、VIP待遇だったと銀七は茶化していたがな」
悲惨だ。
最早、言葉が出ない。
不幸に不幸が重なりすぎている。
ここまで救いのないことってあるのかよ……! 神さま、本当に『救いの手』が必要な人間は、すぐ目の前にいたんじゃねえかよ!
「だから、彼は『救いの手』という言葉が嫌いなのかい?」
「もっと言うなら、『神の救いの手』だ。『救いの手』というものがあるなら、その手の先には人がいる。それが、銀七の考えだ」
神は救ってくれない。
人を救うのはいつだって人の勇気と努力の結晶だ。
俺を救うのは、俺だ。だから、手を抜けない。生き残るためならなんだってする。誇りは持つさ。だけど、安いプライドは持たない。そんなものを持つぐらいなら刀を持ち続ける。
「だから、アイツは強い」
竜は、純然たる事実を告げる。
「私はな。アイツに幸せになって欲しいんだよ。本来なら、家族に囲まれて育ち、女性と恋に落ち、夫婦となり、子供が生まれ、孫を抱いて、そして幸せの中で死んでいくはずだった人間だ。だからこそ、銀七に
「ったりめぇだチクショー!」
「当然だろうがコノヤロー!」
あんな話を聞いた後に、断ることなんてできるかよクソッタレ!
「僕にとっても彼は同士の一人だったようです。彼を友だと思うのはやぶさかではありません」
「……勿論です」
「ありがとう」
めっちゃいいやつだな、この竜のおっさん!
久々に泣いたぜ!
「よっし! いい機会だ! 俺の話も聞いてくれ! 共同戦線を張るなら俺のことも知っていてくれよ!」
匙が立ち上がり、高らかに言い放つ。
「俺の目標は――ソーナ会長とできちゃった結婚することだ!」
――――ッ!
その一言に、俺の中で雷鳴が走る。体全体が雷に打たれたかのような衝撃を感じる!
コイツも……コイツも俺と一緒だ。俺と一緒だったんだ!
同士だったんだよ!
「聞け、匙! 俺の夢はな――部長のおっぱいを揉み、そして吸うことだ!」
ぶわっ!
匙の瞳から涙が溢れ出る。
コイツも、俺と同じ衝撃を感じたようだ。
「兵藤ッッ! お前、わかっているのか? 上級悪魔――それもご主人様のお乳に触れることがどれだけ大きな目標かを」
「匙、触れるんだよ。上級悪魔のおっぱいに、ご主人様のおっぱいに俺らは触れるんだよッッ! 実際に、俺はこの手で触れたことがある」
わなわなと、手を持ち上げる。
その手で感じた感触が今また、よみがえる。スベスベとしていて、それでありながらしっとりとしており、押し返してくるような弾力も今この手に蘇っている。
まさに禁断の果実だ!
今なら、アダムが禁断の果実を食べた理由が俺には分かる。イタイほど分かるぞッ!
「ま、まさか……そんなことが……。本当なのか? それは本当なのか?」
「本当に決まっているだろう! ご主人様のおっぱいは遠い。けど追いつけない距離じゃない!」
「吸う……。か、会長のおっぱいをす、吸える……。ち、乳首だよな? 吸う場所は乳首だよな?」
「バカ野郎! おっぱいで吸える場所が乳首以外にあるかよ! そうだよ、乳首に吸い付くんだ!」
「ッッ!」
感激したかのように、匙は涙を更に流す。
「俺たちは一人じゃダメな『兵士』かも知れない。だけど、二人ならできる! 二人なら戦える! いつかできちゃった結婚もできるさ! 二人で頑張っていこうぜ!」
「うん。うん!」
そうだ。人はおっぱいのためなら本気になれる。全力を出せる!
「あはは……」
「……最低です」
「なんというか……君たちの仲間はユニークな悪魔が多いな」
裏設定として、主人公がイッセーや小猫に君やちゃんをつけて話す理由は、昔の性格の名残というものがあったりします。
割りとどうでも良いことですけど。