ハイスクールS×D 聖剣番犬のダイヤモンド   作:ヤギ3

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第9話

「ねえ、訊いてもいいかい?」

 

 バルパーとフリードを追っている道中に、木場君が声をかけてくる。

 

「いま、手が塞がっているんだけど」

 

 具体的には、右手に雷切。左手にコルト・ガバメントを聖剣化した聖竜剣を持っている。

 当然、フリードを撃ち落とすためだ。

 

「時間はとらせないよ」

「はぁ。仕方ねえ。聞いてやるよ」

 

 このまま、本格的な戦闘になった時に動きが鈍くなったら困るしな。

 

「君はなぜ教会に属しているんだい? 君も計画の犠牲者の一人。教会に好印象は無いはずだ」

「……」

 

 よりにもよってこんな質問か。

 あんまり答えたくない類いの質問だ。

 

「一種の惰性と諦めってやつかね」

「惰性と諦め……」

 

 俺の言った言葉を木場君はボソリとつぶやいた。

 

「才能ってのはどうしても人生を捻じ曲げちまう。俺は聖剣を使う才能に人生を捻じ曲げられた。聖剣を扱う才能に引きずり込まれたのさ。ハン。まるで蟻地獄だ。そのことを理解しちまうとある種の踏ん切りがついちまったのさ。『何回やり直したってこうなる。なら仕方ないじゃねえか』ってさ。それに――」

 

 ――それに、何より

 

「お前には、救ってくれたやつがいた」

「君には?」

「いなかった。――いなくなってしまった」

 

 木場君は、その言葉を聞いて顔を俯かせた。

 彼自身、リアス・グレモリーに救われていたと考えていたのだろう。

 もし自分にリアス・グレモリーという救いの手がなかったら、どうなっていたのか。

 彼が考えていることは、こんなところだろう。

 

「木場祐斗。救われたことを決して忘れるな」

「了解。ふふふ、まるで本物の神父みたいだ」

 

 言うことに欠いてなんちゅうことを言いやがるのか。

 

「勘弁してくれ……」

「銀七! 奴らが建物に入っていったぞ!」

 

 ゼノヴィアからの怒号。

 その叫びで、思考を戦闘用へと引き戻す。

 

 ☆

 

 フリードとバルパーが入っていった建物は、病院のような建物だった。

 少なくとも、俺たちの拠点よりかは、広い。

 

「木場君。ここどこか分かる?」

「確か、老人ホームだった場所だよ。交通の便も悪かったし、ここら辺はあまり年配の方もいなかったから潰れちゃったけどね」

 

 なるほど。

 確かにここなら大量の人員を収容できるし、生活のための設備もあるだろう。

 

「つまり、想像以上に敵は大所帯ってことか」

 

 奥の方から大量の人間と堕天使が現れる。

 十中八九、堕天使はコカビエルの部下、人間は教会を追い出されたはぐれだろう。

 よくもまあ、ここまで人員を増やしたものだ。

 中には中級堕天使や聖剣使いもいるというのに。

 

「よく来たな、愚かな人間ども」

「ここが貴様らの墓場だ!」

 

 三対の翼を持つ上級堕天使と、エクスカリバーを持った人間が、喋る。

 おそらく、コイツらがそれぞれのリーダー格だろう。

 

「ここで眠るのは、貴様らの方だ異端共」

「安心して裁かれなさい。だいじょーぶよ、我らが主は慈悲深いのだもの!」

「同志の恨みを晴らすための前座となってもらう」

 

 相変わらず、よくわからん二人だ。木場君も随分、血走っている。

 

「俺がリーダー格をやる。エリアルは雑魚の殲滅だ。三人は撃ち漏らしを頼む。あとにフリードとかいるし」

「我らを一人で討つと言うのか!」

「ナメるなよ人間風情が!」

「大丈夫? 結構、いるわよ?」

 

 愚問だな。

 

「出来なきゃ言わねえよ。それに――」

『Unlock』

 

 肩に乗るサイズに戻っていたエリアルが再びその体躯を肥大化させる。

 その瞳は、肉食獣のような獰猛な光を放っている。

 口の端からチラチラと火の粉のように舞う光のカケラが暗闇の中に現れては消える。

 

「俺もエリアルも、一対一より一対多数の殲滅戦のほうが得意なんだよ。――久々の大掃除だエリアル」

「応」

 

 口からファイバーアサルト――無数の光の槍が乱射される。

 一つ一つは小型だが、無数の槍は敵を蜂の巣に変え、その熱で最終的には身体が燃えていく。

 

「くそっ! めちゃくちゃだあの竜!」

「術者だ! 術者をねらえ!」

 

 光の槍を投擲してくる下級堕天使。

 

「遮断しろ!」

 

 目の前に、半透明の長方形の壁が出現する。

 堕天使たちの光の槍は、ことごとく半透明の壁に叩き落とされていく。

 これが俺の十八番の一つ。結界を最も得意とする術式『陰陽術』。

 元々は悪霊を祓うための術式から直接的な攻撃から身を守るための術式へと変化していったものだ。

 魔術を習うのは、教会的に色々面倒なのでギリギリセーフの陰陽術ともう一つ『仙術』というものを修めている。

 

 ガチャリという金属音ともにガバメントを構える。

 雷球が銃口へと集まっていき、そのまま堕天使を撃ちぬく――!

 

「ガァ!」

「グフッ!」

「アァァァァァ!」

 

 雷の弾丸に撃たれた堕天使たちは、体の内側から焼きつくされる痛みに苦悶して地面をのたうち回っている。

 

「ちっ! だがこれなら!」

 

 目の前まで接触してくる聖剣使いの一人が剣を振りかぶって、振り下ろしてくる。

 エクスカリバー……じゃねえな。

 そのまま、右手にあった雷切で防御をする。

 

「ギャアァァァァァァ!」

 

 攻撃してきた聖剣使いは、聖剣を経由してやってきた雷切から発される電気に感電して悲鳴を上げる。

『聖剣・雷切』

 かつて雷神を斬った代償として幾分か溶けてしまって小太刀まで小さくなってしまったらしいが、それでも神から簒奪した雷の力は損なわれなかったとか。

 

「チクショォ!」

「クソがァ!」

 

 自棄になった聖剣使いや堕天使が各々の武器を手にして突進してくる。

 単純な物量作戦。

 確かに、一番有効な手だ。――俺が相手じゃなければ。

 

「惜しかったな」

 

 仙術でコンクリートの床をドロの沼へと変化させる。

 

「くそっ! なんだこれは!」

「一度足を踏み入れたが最後。決して抜け出せない底無し沼だ。沼の泥を全部吹き飛ばせたら抜け出せると思うぜ?」

「ならば!」

「もっとも、てめえらの火力じゃ万に一つも可能性は無いがな」

 

 エクスカリバー使いや中級堕天使が自分の足元に対して攻撃を加えている。

 が、粘性のある泥は、波を立てながら、しかし飛沫一つ生み出さずに光の槍を吸い込んでいく。

 

「ガフッ!」

「ん?」

 

 エクスカリバーの方は……自滅した?

 もしかして、あいつら、無理やり聖剣に適合させられていたのか?

 その反動が来たとか……そんな感じか?

 

「なんにせよ。エクスカリバーは回収しねえとな」

 

 銃で強いであろう奴の頭を吹き飛ばしながらつぶやく。

 敵に接触しないよう、エクスカリバーのある地点まで地面を固めて進む。

 沈みかけのところを固めたからか、エクスカリバーは、地面に垂直に突き刺さっている状態だ。

 それを抜き取る。

 地面に刺さったエクスカリバーを抜き取るとか、プチアーサー王気分だな。

 

「『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』か」

 

 いきなり大本命である。

 もっとも、俺にとっては、だけど。

 ただ、これがあれば他のエクスカリバー回収が楽になる。

 

「終わったか、銀七」

「勿論。下級堕天使や雑兵剣士に手間取るほど弱いつもりはないよ」

「ああ。分かっているとも。お前とは長い付き合いだからな」

 

 それもそうだ。

 こいつほど長い付き合いの奴はいない。

 なにせ、産まれてからずっと一緒にいることになるんだからな。

 

「お疲れ。銀七」

 

 ゼノヴィアがこちらにやって来る。イリナや木場君も一緒に。

 なんか苦笑いをしながら。

 

「お疲れって程でもねえよ。前座で全力を出すわけねえだろ?」

 

 その言葉に、更に苦笑いする三人。

 なぜだ。

 

「それにしても、よく魔術なんて覚えていたね。てっきり剣だけで戦うのかと思っていたよ」

「別に剣士を名乗った覚えは無いんだけどな」

 

 むしろ、俺は剣術が苦手である。

 聖剣を扱う適正があるだけで、聖剣で上手く戦う才能は乏しいのだ。人並み以上に使える自信はあるけどな。

 俺の本領は剣よりも魔術。

 実際、エクスカリバーに関しても魔術的な剣のほうが上手く使える。

 そんな俺が実戦で魔術を使わない筈がないとだろ?

 

「剣術だけじゃすぐに底が見えるからな俺は。上級悪魔一体との戦闘が限界だよ」

「それでも十分だと思うけどね」

 

 ま、それもそうだな。

 普通の連中は上級悪魔との戦いなんて経験しないだろうしな。

 

「さっさと先に進むぞ」

 

 ゼノヴィアたちは、顔を引き締め、奥へと進んでいく俺のあとを歩いていく。

 

「銀七、おそらく上だ」

「分かっている」

 

 エリアルが上に奴――コカビエルがいると言ってくる。

 この場にコカビエルがいるのなら、エクスカリバーもおそらくはそこだ。

 全く……どうやってコカビエルの隙をついてエクスカリバーを強奪するかって作戦だった筈なんだがな。これじゃ真っ正面からしか無理じゃないか。

 

「ホント、イヤになる」

 

 ため息を吐きながら、階段を上っていく。

 屋上にたどり着くとそこには、バルパーとフリード。そして十の黒い羽を背中から生やした男がいた。

 あの男が間違いなく、コカビエル。聖書に記され、戦争を生き残った掛け値なしの化け物。

 

「ほう。たったこれだけの軍勢であの数の堕天使とエクソシストを退けるか。それはそれで面白い」

「お褒めに預かり恐悦至極……とでも言えばいいか? コカビエル」

 

 コカビエルを皮肉とともに睨めつける。

 が、コカビエルの方はクツクツと喉を鳴らしているような笑い声を上げるだけだ。

 

「ヤッホー銀七。こんなところまで追いかけてきてくれるなんて、あたしゃ感激でござんすよ! お礼は胸にブッスリエクスカリバーでオーケー?」

無料(ロハ)でいいぜ? サービスに雷切の電撃をプレゼントしてやるよ。クソ野郎」

 

 癇に障る笑い声を上げるフリードに軽口で返す。

 

「それに、こいつも帰ってきたことだしな」

 

 右手に握ったエクスカリバーの切っ先をフリードに向ける。

 

「そうかいそうかい。それじゃおっ死ね!」

 

 フリードが想像以上のスピードでこちらに突進してくる。

 しかし、甲高い金属音がするとともに、フリードは止まることになる。

 

「なっ!」

「さすがに全部を銀七に任せるわけにはいかないしね」

 

 イリナが『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』でフリードの剣を受け止めていた。

 

「邪魔すんじゃねえよ、このビッチ!」

「汚い言葉ね。我らが神の名の下にあなたを断罪してあげるわ!」

 

 フリードの相手は、イリナにお願いするとしよう。

 なんやかんやで二人共スイッチが入っているし。

 

「この……!」

「僕のこの魔剣でエクスカリバーを破壊する!」

 

 木場君は、『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』の持ち主と戦っている。

 まあ予想通りっちゃ予想通りだな。木場君の目的はコカビエルの打倒でも俺たちの補助でもない。エクスカリバーの破壊だ。

 

「罪人共……神に許しを請え」

「舐めるなよ! 神の走狗ごときが!」

 

 ゼノヴィアは残った堕天使共の掃討をするようだ。

 一撃与えれば殺せる『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』なら相性はいい方か。

 なら俺は――

 

「余り物には福があるとは言うがとんだ大物が釣れたな」

「茶化すなエリアル」

 

 茶化さないとやってられないって気持ちはよく理解できるけどさ。

 

「おいコカビエル。一つ聞きたい」

「なんだ? 言いたいことがあるなら何でも言え。お前と俺が戦えば一瞬で終わるからな。それではつまらん」

「チッ。言ってくれるぜ。……お前の目的についてだ」

 

 コカビエルは少し顔色を変える。

 興味がわいた、という顔だ。

 

「お前の目的。それはルシファー、ミカエル、アザゼルを巻き込んだ大規模な戦闘行為。つまり『戦争を起こす』ことだ。違うか?」

「えっ!?」

「なにっ?」

「まさか!」

 

 イリナ、ゼノヴィア、木場君がそれぞれ驚きの声を上げる。

 その中、コカビエルは

 

「ハハハハハハハハハハ! 面白い! 面白いぞ! ああ。その通り。正解だ!」

 

 ――笑っていた。

 ったく。ハズレて欲しかったんだがな。

 

「ククク。どこで気付いたのか是非とも教えてほしいものだな」

「日本に来る飛行機の中ですでに考えていたさ。確信したのはつい最近ってところだな」

 

 そう。

 この男が行ったことは、何から何まで不自然だった。

 エクスカリバーを盗み、ルシファーの妹であるリアス・グレモリーのいる街へと行く。

 もっと言うなら、ミカエルの貴重品を持ち出し、ルシファーを挑発していることになる。それもアザゼルがトップをしている組織の幹部が。

 なにが目的なのか。一応考えてみた。

 

 エクスカリバーの研究。

 だったらエクスカリバーを教会から盗むのではなく、紛失している『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』を探すはずだ。それがミカエルを刺激せずに済む方法なのだから。

 それに、エクスカリバーは七本に折れて不完全な状態。研究する旨味は薄い。

 故にこれはノーだ。

 

神の子を見張る者(グリゴリ)』で起こった革命活動。

 つまるところ、コカビエルがアザゼルの上に立とうという活動ではないか。

 ただ、それにしては一貫性が皆無。その上アザゼルは堕天使からはかなり高評価。一種の偶像(アイドル)となっている節がある。そんな奴を蹴落とそうなんて考えに賛同する者は居ないだろう。

 勝算のない戦い。むしろ、すぐに駆逐されおしまい。コカビエルのもとにあんな多くの堕天使が集まるわけがない。

 これもノー。

 

 イッセー君を見て思いついたのだが、赤龍帝を殺すことが目的ではないか。

 これならなんとなく分かる。

 才能はあるだろうが、リアス・グレモリーはコカビエルから見ればただの小娘。それも赤子も同然の、だ。そんな赤子が赤龍帝なんていう核弾頭に等しい物を持っている。大人としてはゾッとする話だ。

 しかし『神の子を見張る者(グリゴリ)』は『白い龍(バニシング・ドラゴン)』を抱え込んでいるという情報がある。

 ならばそう恐れる心配はない。なにせ、核弾頭に対抗できる駒を持っている。赤龍帝が暴走すれば悪魔と天使は大ダメージを追うかもしれないが、堕天使側だけは白龍皇と戦わせればダメージを負わない。むしろグレモリーが無邪気に赤龍帝を暴走させる瞬間を今か今かと心待ちにするだろう。

 だからこれもノー。

 

 ならばいったい何がしたい?

 全く見えてこない時に、こう思った。

 

 ――『もしかしてこいつは、今現在の状況を望んでいるのかもしれない』と。

 

 ミカエルを刺激し、ルシファーを挑発する。

 

「そうして両陣営から兵を派遣させて競わせる。いつも通りの小競り合いだな。だが、そこにいつもと違うものが存在する。それはコカビエルという名前。そうすれば天使と悪魔は引くに引けなくなる。あまりにもネームバリューが有り過ぎるからな。そうして多数の兵と兵を競わせ続け、規模を拡大し続ける。――戦争という規模まで。イレギュラーがあるとすれば、教会(ミカエル)から派遣された兵の数が少なすぎたこと。そしてもうひとつはグレモリーへの挑発にはなってもルシファーへの挑発にはならなかったことの二つか」

 

 俺はため息混じりの声で推測を言う。

 ゼノヴィアたちは時間が止まったかのように呆然とする。

 コカビエルの兵は押し殺したかのような笑い声を上げる。

 そしてコカビエル。

 

「くははは! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 百点だ! 文句のつけようがない!」

 

 笑いながら肯定した。

 

「ひゃはは! ウチのボスったらイカレ具合がハンパないっしょ!」

「ハァー。全くだな。こいつを相手にか。……勝てる勝てない以前に気が重くなるぜ」

 

 はっきり言ってあんな奴と関わらないといけないと考えると、頭が痛くなってくる。

 

「ま、仕方ねえわな。仕事だし。相手願おうかコカビエル。お前の馬鹿な願いごとたたっ斬る」




コカビエルの作戦うんぬんは、完全な妄想です。
とってつけたかのようなもんですね。
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