一〇〇式戦記『失楽園《Paradise Lost》 』   作:カール・ロビンソン

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第三戦役『邂逅』 ”そして、その門より入る者のなんと多きことでしょう”
3-1 疑心暗鬼


『こんにちは、天野指揮官。検査の結果を教えるわね?』

 

 指揮官室のIFデッキに入った通信を表示すると、ディスプレイにはラフな白衣をまとった、色素の薄いブラウンの髪とその上の猫耳に似たアクセサリーが特徴の女性、ペルシカが映った。

 現在、自立人形メーカーの最大手であるI.O.P社の技術開発部門「16Lab」の主席研究員である彼女には、ステンとSOPMODとAR-15の精密検査を依頼していたのだ。それにしても、検査に丸一日かけるとは、彼女にしては手間取ったものだ、と思う。

 

「ああ、ペルシカさん。どうだった?」

 

 晶はさっそく答えを尋ねる。ソフト面でもハード面でも、異常があったというならそれを知りたい。何せ、晶はどう頑張っても何も異常を見つけられなかったのだから。

 

『簡単に言うと、今は異常はないわ。正常よ』

 

「今は?」

 

 ペルシカの言葉に、晶は首を傾げる。彼女の言葉を鑑みると、前には異常があった、ということなのだろうか。

 

『電脳を分解して、パーツの検査をしていると奇妙なことをみつけたのよ』

 

 電脳まで分解したのか、と晶は内心で驚く。電脳はブラックボックス中のブラックボックスで、I.O.P社の技術員でも極一部の者しか開けられない。もちろん、ペルシカにはその資格があるが、なんとも大胆なことをしたものだ、と思う。

 

『レセプター部分の金属が電磁パルスを受けた形跡があったわ。極微弱なものだけど、それで知能回路に干渉して、認識障害を起こさせていたのかも』

 

 電磁パルスって、そんなもの検出できるものなのだろうか、と晶は思う。そこらの原理は謎だが、流石ペルシカさんというところか、と納得して話を進める。

 

「その極微弱な電磁パルスってのはどこから発生したものかわかりますか?」

 

『外部からピンポイントに知能回路にパルスを送るっているのは無理だと思うから、内部からだとは思うけど… それだと、電脳ジャックをして回路の動きをおかしくするか、電脳内に何かを物理的に侵入させるしかないと思う』

 

 なるほど、ペルシカの意見は妥当なものだ、と晶も思う。しかし、そうなるとその手段について考えなければならないが…

 

『まず、電脳ジャックだけど、それは無理だと思う。鉄血の機械人形達に天野指揮官の組んだ防壁の突破は不可能だと思う』

 

 ペルシカは晶の防壁を鑑みて言う。あれはかなり嫌らしい防壁で、直感的な判断を用いなければそうそう突破できない。機械的なロジックでは、それこそ処理能力に任せた総攻撃で打ち破るしかないが、それは直接回線を繋げなければ無理な話だ。

 

『電脳の中に何かを仕込むにしても、アリの一匹も入る隙間もない電脳に何かを入れるのは無理だと思う』

 

 だろうな、と晶はペルシカの言葉に頷く。電脳は自立人形にとって最重要部位であり、厳重に保護されている。分解も専門の機械を用いねばできず、外壁は液体どころか空気さえ入る隙間もないほどだ。しかも、万一何かを入れたとしてもセルフメンテナンス用のナノマシンに排除されてしまうだろう。

 

「ナノマシンタンク経由で何かされた可能性は?」

 

 そのナノマシンの貯蔵タンクは唯一電脳に繋がる外部装置といえる。そこから何かが侵入した可能性はないだろうか。

 

『一応それも考えたけど、フィルターからも彼女達のナノマシンからも異常は感知されなかったわ』

 

 ナノマシンから電脳に繋がるパイプには3重のフィルターが施されており、ナノマシンしか通さないようになっている。また、外界からナノマシン等を入れようにも、異常なものが紛れ込めばナノマシンが排除してしまうだろう。

 

『それに、その線で考えると、途中まで彼女達の固有のナノマシンに擬態して、電脳に到着した瞬間に本来の機能を取り戻さなければならないけど、そんな器用なナノマシン、うちでも作れないわ』

 

「…だよなぁ」

 

 ペルシカの言葉に、晶は額に眉根を寄せて思考を巡らせる。彼女の率いる「16Lab」は人類の英知の最先端を結集した場所の一つである。そこで作れないものを、蝶事件以降技術にろくに進歩がないと考えられる鉄血の連中に作れるものだろうか。

 もう一つ可能性があるとすれば、政府直属の研究機関ぐらいだが、そこが鉄血と絡むとは考えづらい。晶が政府軍の情報部にいた時にも、そんな話は聞いたことがない。

 

「とりあえず、こちらにもデータを回してくれないか。独自に調べてみる」

 

『分かった。まとめ終えたら送るわ』

 

「サンクス、ペルシカさん」

 

『ううん。天野指揮官の防壁評判いいし、こっちも随分儲けさせてもらってるから、お互い様』

 

「…は?」

 

 ペルシカの言葉に、晶は目が点になる。あの防壁は、晶がこの基地の戦術人形達のために組んだもので、外に流通させるためのものではなかったはずだ。だのに、なぜペルシカが儲けている話になるのだろう。

 

『天野指揮官、データくれたでしょ? あれを使って、うちの自律人形用に最適化して搭載しているの。アップデートはこちらで独自にやっているから』

 

「ちょっまっ…! あれ、そういうために送ったんじゃねえし!!」

 

 ペルシカの言葉に、晶は狼狽して言う。あのデータはペルシカが防壁を解いてみたい、と言ったから、解けるものならどうぞ、と送ったものだ。

 

「それ盗用じゃないですか!?」

 

『え? あれって特許とか取得してたの?』

 

 晶の言葉に、ペルシカがきょとんとした表情で言う。その言葉を聞いて、晶は言葉を詰まらせる。確かにあれは、晶が勝手に組んだもので、特許申請とかはしていない。故に、彼女がそれを勝手に採用しても訴えていくところはない。

 

「そ、それにしたって、俺の防壁で儲けたんなら、何かしらフィードバックがあってもいいでしょう!?」

 

『うん。今度コーヒー御馳走するから』

 

「…やっすいな、俺の防壁…」

 

 ペルシカの言葉にがっくりと肩を落とす晶。なお、この時晶は聞かなかったが、あの防壁でI.O.P社が儲けた金額は晶の借金を優に一桁上回る額だった。それは、ある意味で聞かなかったほうがよかっただろう。

 

「まあいいや。その分、これからも協力してくださいよ」

 

『うん。こちらこそよろしく…データはちゃんと送るから』

 

 それだけ聞いて、晶は通信を切る。まあ、彼女と繋がりを持っておくと、色々と得だ。それに、いざあの防壁が問題になったときは、16Labをスケープゴートにできるかもしれない。前向きにそう考えて、晶は無理やり自分を納得させる。長い人生、こんなことはつきものなのだからくよくよしてはいけない。

 

『指揮官様、よろしいですか?』

 

 続いて、カリーナから連絡が入った。恐らく、晶がペルシカと通信していたので、それが終わるまで待っていたのだろう。そして、彼女がこのタイミングで言うことは、恐らく…

 

『救助した人権団体の彼が目を覚ました、と医療班から連絡がありました』

 

 やはり、と晶は思う。彼女にはその件を最優先で報告するように伝えていた。奴には尋ねたいことがいくらでもあった。

 

「了解。引き摺ってでも連れてくるんだ。尋問する」

 

『了解しました』

 

 カリーナの返事を聞いて、晶は通信を切り、額の端子にケーブルを繋ぎ、それをデッキに挿す。そして、直接回線でFALを呼び出した。この尋問には彼女の力が必要だ。頭を尋問官のそれに切り替えながら、晶はFALの応答を待った。

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