一〇〇式戦記『失楽園《Paradise Lost》 』 作:カール・ロビンソン
炎をその袖で振り払って現れた少女は、黒地に白い桜の紋様の描かれた振袖と、灰色の袴を身に纏っていた。その姿は、大昔この国で大正と呼ばれていた頃の女学生の衣装と酷似している。
そして、その風貌は一〇〇式とそっくりだ。長い鴉の濡れ羽色の髪も、その可憐な顔立ちも瓜二つだ。違いといえば、髪飾りが桜を象った金色の簪になっていることぐらいだろうか。
「え、
その姿を見た
「ちょっと抜け道教えたら、勝手に出て行って… うちそんなこと頼んだっけ?」
はあ…とワザとらしく溜息を吐いて、
「だ、だって、あんた一人で行って…失敗したら困るし…」
「うん、見事に失敗したねぇ。
計画が台無しえ。そう呟いた
「まあええか。
そう言って、
「うーん…脳に損傷とかないといいけどなぁ」
そう言った次の瞬間、彼女は動かない一〇〇式を肩に担いで立ち上がる。そして、トンプソンの方を見て、無邪気な笑顔で言う。
「あ、お姉さん。一〇〇式ちゃん、ちょっと借りるえ?」
「なんだと!?」
「お嬢を放せ!」
故に、トンプソンは突撃し、その拳を振り上げる。喧嘩殺法で、敵を殴り倒す構えだ。それを
だが、その拳は虚しく宙を切った。命中する直前まで一歩も動かなかった
「ごめんなー、お姉さん」
背後から聞こえた声とともに、トンプソンは首筋にちくり、とした微かな痛みを覚えた。次の瞬間、彼女はその場に崩れ落ちた。まるで、首から下が自身のものではなくなったかのように力を失ったのだ。
「な、なんだ、これ…!?」
「首から下の神経モジュールの信号を遮断したんよ。ちょっとしたら動けるようになるから、堪忍な」
「
「い、言われなくても、帰るわよ! この怪物女!」
「
遮蔽から一歩踏み出せば、そこは既に敵スナイパーの狩場だ。だが、
「のこのこと現れたわね!」
その姿をFive-sevenは見逃さなかった。データリンク開始。観測データをM14に渡す。
「よーく狙って…攻撃ぃ!」
M14は
キイィィィン!!
だが、弾丸は
「う、うぇ!?」
ようやく自身に迫っていた危機に気付いた
「
「た、助けてくれとか、言ってないし! れ、礼は言わないんだから!!」
そう言って、慌ててビルの陰に飛び込む
「だ、弾丸を切った…!?」
あまりにも有り得ない現象を目の当たりにしたFive-sevenが、観測さえ忘れて絶句する。自分の認識外から飛び込んできた速さにも驚いたが、遠距離から放たれた弾丸を切り払うなど、常識的に考えてできようはずがない。あの少女はその姿から考えて、
「舐めないでよ! 民間用の武器の威力を、思い知らせてあげるわ!」
彼女の驚異的な力を目の当たりにしながらも、M14は闘志を折ることなく射撃を続行しようとする。次弾を装填し、再びスコープを覗いて狙いをつけようとする。だが、肝心の標的の姿はそこにはなかった。
「お痛は勘弁え、お姉さん」
その声が聞こえた瞬間、M14とFive-sevenは首筋に微かな痛みを感じた。トンプソンも感じた針が刺さるような感触。そして、同様に彼女らもまた地面に崩れ落ちた。
「ッ!、くぅ・・・こんな目に遭うなんて・・・聞いてませんよぉ・・・」
地面に倒れ伏したM14が恨めし気に言う。彼女から自分達は1kmは離れていた。しかも、こちらはビルの上だ。それの距離や高さ、その間にある障害をものともせずに、彼女は一瞬で接近してきたのだ。瞬間移動の魔法でもつかえるのか、と疑ってしまうほどだ。
「
辛うじて首だけを動かして、Five-sevenは言う。彼女は一〇〇式を肩に抱えたままだ。仲間が拉致されるのをみすみす見送るしかない。その無念が言葉の中に滲んでいた。
「まあ、取って食ったりはせえへんから」
それだけ言って、
そんな彼女は今日その力の片鱗を見せたに過ぎないだろう。全力を出した彼女と戦う時、自分達はまともに戦えるのだろうか。果たして、拉致された一〇〇式を取り返すことができるのだろうか。そんな底知れぬ恐怖と不安を、Five-sevenは寒気とともに感じるのだった。