一〇〇式戦記『失楽園《Paradise Lost》 』 作:カール・ロビンソン
次の日の昼前、一〇〇式は新柏駅北口付近で立っていた。そこが
彼女の書いた地図に併記されていた待ち合わせ時間は0900i。現時刻は0855iだ。もうそろそろ現れてもいいころだが、と思った。
基地に戻った一〇〇式は、みんなからの歓迎をもって迎えられた。特にFALなどはいの一番に抱き着いて、涙を流したものだ。その後、彼女を「FALさんの目にも涙だ-」「FALさんの霍乱だねー」と茶化したG41とSOPMODは拳骨で制裁されたが。(注:二人は茶化したつもりはない。珍しい現象に感心しただけ)
一〇〇式は晶に彼女とのやり取りを包み隠さず話した。彼女がデートに誘ってきたことも。
第一に反対したのはFALだった。彼女は得体が知れず、その誘いに乗るのはあまりにも危険だ、と言う。
それに対し、AR-15は敢えて乗るべきだ、と意見した。彼女に害意があればとっくの昔に加えているだろうし、ここはリスクを冒してでも情報を取りに行くべきだ、と。
実際、彼女は世界に復讐する、と不穏当なことを言っており、情報もなしに見過ごした場合、取り返しのつかない事態に陥る危険があると言うのだ。
両者の意見を聞いた晶は、一〇〇式はどうしたいんだ、と尋ねた。彼としては両者の意見が最もだ、と思うのだろう。ならば、指名されている本人がどうするかに委ねよう、というのだ。
そして、一〇〇式はここにいる。彼女に再び会うために。彼女が何者で、何を目指しているのか。それを知りたかったのだ。
周囲にはFALを始めとする戦術人形達が潜んで、一〇〇式の方を監視している。一〇〇式の安全を確保するためだ。なお、彼女らは晶からは一〇〇式に危険が及ぶまで戦闘行為に及んではいけない、と命令されている。避難や隔離もせずに市街地で戦闘を行えば、市民に被害が出るだろうからだ。それに、彼女の戦闘力はグリフィンの戦術人形ではとても太刀打ちできる代物ではない。情報を聞き出したうえで、対策を練らなければ戦っても返り討ちに遭うだけだ、という判断だ。
「こんにちは、
突然、背中から声がした。見ると、そこには
「こ、こんにちは、
一〇〇式は驚き混じりの声で、彼女に挨拶を返す。いつ接近されたのか、全く気が付かなかった。これは他の戦術人形達も同じであった。FALも余りの意外さに席を立ちかけたが、冷静になって座りなおす。監視の目があることを悟られてはいけないのだ。
「んー、みんなも一緒? でも、うち今日は
その言葉を聞いた一〇〇式と聴覚を共有しているFAL達は驚愕する。完全にバレている。比較的近くにいるFAL達だけならともかく、かなり離れた位置にいるスプリングフィールドの方まで見て手を振っているのだから、完全に把握されていると考えてもいい。
「あの… どうやって把握してるんですか?」
隠しても無駄なことを悟った一〇〇式がストレートに尋ねる。一つには純粋に興味があったからでもあるのだが。
「うちね、バイオセンサー搭載してるから。うちに何らかの気を向けた子がいたらすぐわかるんよ」
「それ、どういうものなんですか?」
故に一〇〇式は好奇心に任せて尋ねてみた。機密だから答えられない、と言うかもしれないが、まあ聞くだけ聞いても問題ないだろう、と思ったのだ。
「え!? 聞きたいん!?」
その途端、
「えっとね、これはうちが開発したんやけど、生体素子でネコ科の動物の脳を模したデバイスを形成してね…」
その後、彼女は10分ほど早口でまくし立てるように、だがとても情熱的に原理を説明する。終いには、生化学だか物理学だか心理学だか分からないちゃんぽん理論を述べ始めた。
一〇〇式は何が何だかさっぱりわからない理論を語られて困惑する。彼女も決して頭が悪いわけではないのだが、内容がぶっ飛びすぎて理解できない。
そんな困った一〇〇式の様子に気が付いた
「ご、ごめんね、
「あ、いえ… 凄いな、とは思いましたし…」
しょんぼりする
「あの…もしかして、
そして、それをやはり遠慮なく尋ねてみる。彼女の態度は電脳を搭載している機械人形としては、あまりに人間的すぎる、と思うのだ。
「うん、そうえ」
「まあ、そんなことより。早く行くえ」
そう言って、
「あの…
「みんなについて来ないでって言っといて、
戸惑う一〇〇式に、
「これから行くところは、うちがおらんと物凄く危ない場所え。
「まあ、飛ばすからついて来られひんと思うけど」
そう言った次の瞬間、
だが、この加速する感覚。一〇〇式はこれとよく似た感覚を知っている。それはワンサード力学格子で加速する時の感覚だ。
「まさか、
『うん、そうえ』
「より正確に言うなら、うちは
「さて、着いたえ」
そう言って、
周囲を見渡すとそこは人類の領域の最果て、外壁部分であった。周囲に人家などはなく、コンクリートが剥き出しの簡易的な拠点が多数設けられている。
近くを通りかかった戦術人形を見て、一〇〇式は仰天する。騎士の如き優美な鎧を身に纏うその姿は紛れもなく軍用の戦術人形だ。ここはグリフィン支配地内の軍の駐屯地なのだろう。
「うちから手ぇ放したらいかんよ、
見つかったら面倒くさいから、と
「
それはそうだ、と一〇〇式は思う。軍の敷地に部外者が立ち入れば、即銃殺されても不思議ではない。ましてや、鉄血のBOSSと一緒にいるところなど見られれば、持ち主である指揮官も責任は免れない。
「まあ、うちと手ぇ繋いでたら、絶対見つからんから大丈夫え」
そんなことを言いながら、
しばらく歩いていくと、何やら巨大な物体が見えてきた。全長が10m近くあるそれは、軍用の多脚式戦車だった。サソリのような外見のそれは、腕部に大型のチェーンガン、背部に大口径の大砲を積んでいる。その性能は鉄血のそれとは桁が違い、対戦車グレネードなどではまるでダメージを与えられないだろう。そして、自分達民間の戦術人形などは、チェーンガンの弾丸が脇を掠めただけで消し飛ぶはずだ。
そんな相手に、
フェンスに守られたそこに
「その子、もううちにメロメロやから。命令したら、三回回ってワンとかさせれるえ?」
「さて、これからが今日のデートの舞台え。色気がなくてごめんやけど」
そう言って、
「? もしかして、毒ガスなにかが?」
「毒ガスはこんなマスクじゃ防げんえ」
一〇〇式の質問に、
「単にここから先は臭いんよ。うちは嗅覚遮断できるから別にいいけど」
そう言って、