「失敗ですわね…」
彼女のいる施設を、遠くからモニターして代理人は言う。その声は淡々とした響きで、失敗した計画を惜しいとも思ってないようだった。
「な、何よ、あいつ。大口叩いといて…」
破壊者はどこか気後れしたように言う。口ではそういうものの、あの化け物のような復讐者が敗れるとは思っていなかった様子だ。
「最大の要因は貴女の抜け駆けだけどね、このおバカちゃん?」
夢想家が破壊者を嘲る様に言う。実際、彼女があの一〇〇式という戦術人形を危機に晒さなければ、復讐者は姿を現すことさえなく、計画を遂行し終えたであろう。そうしていれば、いかにあの指揮官が優秀でも、何が起こったかわからないまま意識を乗っ取られていただろう。
「第一、どうしてあの男を直接襲ったのかしら? まずそこが理解できないわ」
「だ、だって、あの男を狙ってるっていうから…殺せばいいのかって思って…」
「本当にどうしようもないおバカちゃんね」
言い訳する破壊者を夢想家は突き放すように言う。あの時の計画は、あの男に密かにナノマシンを仕込み、あの作り物のVTRの出来事を再現させることだった。それによって、復讐者のナノマシンの意識を侵食する能力を測り、同時にあの指揮官とグリフィンに揺さぶりをかけることができる。それによって、復讐者の計画が成功した後に、グリフィン本社を乗っ取る足掛かりにする予定だったのだ。
それのみならず、かの計画には復讐者の計画の隠れ蓑、という意味もあった。いくらあの指揮官が有能でも、同時に二つの事件を察知して解決に導くことはできないだろう。故に、夢想家の計画にあの指揮官が目を向けている最中に、復讐者が密かに計画を実行する、というのが当初の計画だったのだ。
その後何気ない仕草で、夢想家は代理人を見る。もしかすると、彼女が何か破壊者に仕込んだのかもしれない。そうでなければ、さすがに独断で計画外のことをするとは思えない。
「いずれにせよ、計画は水泡に帰しましたわ。当初の計画通り、復讐者を切り捨てましょう」
夢想家の視線に何も答えることはなく、代理人は淡々とした口調で言う。それを聞いて、破壊者が顔色を変えた。
「え!? 一度失敗しただけで!? あいつ、あんなに強いのに」
「その一度の失敗と強さが致命的なのですわ」
驚愕する破壊者に代理人は、諭すように言う。
「あれの存在が露見したことは、政府の目をこちらに向けることになりますわ。それを避けるために、あれを政府に引き渡す必要があるのです」
代理人は淡々とした口調で言う。政府軍は非常に強力で、正面から相手をすればとても太刀打ちできる相手ではない。そして、彼らは害にならないなら黙認するが、害があれば排除する、というスタンスを貫いている。
いかに鉄血がいくらかの政治家に利益を食らわせているとはいえ、政府に直接的な憎悪を向け、かつ彼らの脅威となる復讐者をこれ以上抱えていては、排除の名目を与えるだけだ。
それに、復讐者のナノマシン技術を政府は喉から手が出るほど欲しがっている。取引材料としては上々だろう。
「…そんな」
「…ええ。そうね」
「…何か不服でも?」
破壊者と夢想家の態度に、代理人は質問を投げる。彼女の言葉に、どこか引っかかりがあったからだ。
「…そんなことないわよ! そんなこと…」
「不服はないわね。ただ、感情移入が全くない、といえば嘘になるわ」
破壊者の言葉に被せるように、夢想家が言う。復讐者に好かれてはいなかったが、夢想家としては彼女にほんの少しだけ思い入れがあった気がする。彼女こそ、真の意味での夢想家だったのだから。
「それにいいの? あの娘のナノマシンは、貴女の大好きな御主人様を黄泉返らせるために必要ではなかったの?」
「データはすでに得ています。あの娘自身にもう用はありません」
夢想家の言葉に、代理人は淡々と言う。惜しむらくは、ナノマシン制御用のOSが未完成であるところだが、そちらは他に何とかする当てがある。
「いずれにせよ、終幕は近づいています。まずは見守ることにしましょう」
そう言って彼らは事態をモニターすることに戻る。彼女の最後の足掻きを見るために。