一〇〇式戦記『失楽園《Paradise Lost》 』   作:カール・ロビンソン

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Epilogue:協心戮力

 全てが終わった後、一〇〇式やFAL。そして、基地の全ての戦術人形達が娯楽室に集まっていた。晶はその先頭にいる。

 

「表彰、鳴神千鳥」

 

 晶は手にした紙を両手に持ち、恭しく言う。目の前にある仏壇に。それは万一、部隊から戦死したものがいた時に、それを納めるために作った、いわば墓の代わりであった。母基地は移動する可能性はあるが、これなら持ち運ぶことができ、いつまでも共にあることができるからだ。

 

「右の者は、自らの身を犠牲にし、エルダーブレインの支配に打ち勝ち、友を守った。これは他の模範とするに足る勇敢で偉大な功績であり、それをここに賞するものとする」

 

 そう言って、晶は賞状を筒状にして、木の筒に入れて仏壇に供える。そこには彼女の遺髪が納められていた。一〇〇式の友である彼女が逝った。そんな彼女のために、晶は賞状を作成し彼女の生を讃えたのだ。

 

「千鳥。ここは騒がしい。みんなが大騒ぎする場所だからな…だが、その方がいいだろう? 寂しいよりは」

 

 晶は先に逝った戦友に言う。彼女の魂はこれからも自分達と共にある。彼女が寂しくないように、これからはずっとみんなが一緒だ。

 

「みんな、一〇〇式(モモ)の友達ならって、ことで君を受け入れてくれたよ。遅かったけど、ないよりはマシだろ?」

 

 晶は後ろにいるみんなを見渡して言う。その視線に、全員が頷いた。404小隊も含めて、だ。敵であった時のことは、みんな水に流した。身内に犠牲は出ていないし、戦場のことだったからだ。

 

一〇〇式(モモ)。花を」

 

「はい」

 

 晶の言葉を受けて、一〇〇式が前に出る。手にしているのは、色とりどりの折り紙でできた紙の花束。生の花がなかったが故に用意されたそれは、帰ってきてからみんなで折ったものだ。その分の思いが詰まっている。そう思った。

 

「千鳥ちゃん…ごめんね…そして、ありがとう」

 

 一〇〇式は花を捧げながら言う。詫びは自らの弱さゆえに、彼女を救えなかったこと。礼は彼女のおかげで自分はまた一つ成長できたこと。

 

「私、一〇〇式は前に進むから。私、立ち止まらないから。貴女から貰った想いを胸に、前に進むから…」

 

 一〇〇式は懐から取り出した小太刀を取り出して言う。小太刀には千鳥と名付けた。友の名であり、そして、雷をも断つ最強の剣に相応しい銘だからだ。

 彼女の想いと力を受け継ぎ、一〇〇式は前に進む。そう誓う。次に彼女のような存在が目の前に現れた時、今度こそは救って見せる。それぐらい強くなる。そう誓う。

 

「さて、諸君。しんみりしたのはこれぐらいで十分だ!」

 

 晶が手を叩いて高らかに宣言する。

 

「先に逝った友、千鳥の分まで俺達は生きる。そして、彼女が寂しくないように騒ぐんだ! 盃を持て!」

 

 そう言って、晶はテーブルの上の紙コップを手に取る。他の戦術人形たちもそれに習った。中身は、コーラだの合成オレンジジュースだの、酒だのまちまちだ。だか、みんなの心は一つだった。

 

「我らが戦友千鳥の冥福と、俺の戦乙女達の健勝を祈願して!」

 

「我らが戦友千鳥の冥福と、偉大なる指揮官の栄光を祈願して!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 皆がそう宣言すると共に、コップの中身を呷る。一〇〇式もまたそのように。心が解き放たれた思いがした。一連の事件は幕を下ろした。だが、自分の人生はまだ続き、前に進んでいく。彼女の魂と共に。指揮官への想いから戦い続けていた一〇〇式は今自分自身の戦う理由を見つけたのだ。

 

(頑張って、一〇〇式(モモ)ちゃん)

 

 彼女の励ます声が、耳に聞こえた。




一〇〇式戦記『EP1:失楽園(Paradise Lost)・完

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