一〇〇式戦記『失楽園《Paradise Lost》 』 作:カール・ロビンソン
半分崩れたビルは文明の墓標。そんなことを誰かが言っていた気がする。そうした墓標と瓦礫が溢れた壊滅した街。それが今日の戦術人形たちの戦場だ。
コンクリートが銃弾に削り取られる音がする。背中に迫るそれは容赦なくいくどもいくども続き、いくつもの火花を散らす。
それが止んだタイミングを見計らって、5人のFALが壁の影から出て銃の狙いをつける。生体FCS起動。ダミードールへデータリンク。一斉射撃。
先頭のFALに続いて、4人のFALの銃が火を噴く。前方の敵はVespidタイプが15体。敵も反応して射撃をしようとするが間に合わない。無数の銃弾が鉄風雷火の如く襲い掛かり、次々と敵を撃ち倒していく。頭部のヘルメットのようなパーツが砕け、電脳を飛び散らせる者、胴体の動力源をぶち抜かれ倒れ伏す者。壊れ方は異なれど、敵がくたばったことには違いない。
「もっと...もっと早く...」
FALの隣では、瓦礫に身を伏せて隠れていた、銀色の髪のまるでメイド服のような衣装の戦術人形9A-91が立ち上がって射撃を加えていた。その威力はFALを上回るほどで、瞬く間に敵は数を減らしていく。
目の前の15体を倒したところで、二人は再び遮蔽に身を隠す。再び敵の射撃が始まったのだ。敵との急接近にだけ注意して、二人と彼女らの従えるダミー達は弾倉を入れ替える。
「敵の数が多いですわね」
後ろからやって来た赤毛の戦術人形SIG-510がやって来てFALの後ろにつく。要救を守ってここまでやって来た彼女はダミーも弾薬も失っていた。幸い自身の傷は重くない。そして、FALから受け取った弾薬をようやくリロードできたのだろう。
「まあ、大したことはないわ」
断続的に反撃を繰り出しながら、FALは言う。確かに数は多いが、敵の個々の性能は大したものではない。後、10分もあればこっちは片づけられると考えていた。
「それより、あの人間は大丈夫なの?」
FALはSIGが連れていた、今は建物の中にねじ込まれてのびている中年男性について尋ねる。彼がくたばったのなら、ここに来た価値が半減だ。
「衰弱していますが、命に別状はありませんわ」
SIGは彼の体調を正確に言う。逃走の最中の8時間。飲まず食わずで走りっぱなしであった。衰弱するのも道理だろう、とは思うが幸い怪我はほとんどなく、命が危険ということはないだろう。
「なら、さっさと片づけて帰りましょうか」
そう言って、FALは再び遮蔽から飛び出し、撃ちまくる。再び、敵10体を撃ち倒し、退避。敵の抵抗は弱まりつつある。勝利が近づいてくるのを感じるFALの脳裏に、通信モジュールを通して別方面の敵を相手しているFive-sevenから連絡が入る。
『15時の方向から敵! 規模は大きくないけど、このままじゃ囲まれるわ!』
『了解。そっちはまだかかりそう?』
『もうちょっとってところかしらね』
『そう。なら、そのまま続けて頂戴』
通信をきったFALはSIGの肩を叩く。
「ちょっと、こっちは任せるわ。…9A-91もOk?」
「…ダー。FALさんは?」
「ちょっと片付けてくるわ」
それだけ言って、FALとダミー達は敵が来ている方向へと走っていく。瓦礫を飛び越え、まるで疾風のごとく駆けていく。
聴覚を最大に上げ、敵の物音を探知、すぐさま近くの建物の2階へ上がる。そして、眼下に敵の一団を確認する。四脚の小型戦車Prowler型が30体。大した敵ではない。
「私なら、こうするわよ…」
FALはポーチからグレネードを取り出し、銃にセットする。そして、敵めがけて容赦なく放つ。
けたたましい音とともに榴弾が炸裂し、敵を吹き飛ばす。そこに容赦なく更に二発の榴弾をぶち込んで敵を四散させる。
今だ。FALとダミーは宙に身を躍らせ、敵の中に降り立つ。そして、まだ動いている敵目掛けて銃を向け、引き金を引く。
銃弾が敵を引き裂き、ずたずたにしていく。碌な抵抗もできないまま小型戦車達は砕け散り、瞬く間に鉄くずに代わっていく。動くものがいなくなるまでかかった時間は5つを数えるほどでさえなかった。
『こっちは片づけたわ』
『了解! こっちももうすぐよ!』
『…こちらももうすぐです』
通信モジュールを通じて人形達は言葉を交わしあう。戦局は終焉に向かいつつある。だが、油断してはいけない。FALは再び走り始める。再びもともと戦っていた場所に戻るのだ。
それから約5分の銃撃戦の後、鉄血の機械人形達は周辺から一掃され、要救の無事は確保された。
『指揮官、こっちは片付いたわ。要救もSIGも無事よ』
SIGと9A-91とに合流し、要求の男を押し込んだ建物で、FALが指揮官に報告する。返事はすぐに帰ってきた。
『分かった。すぐにヘリを回す。ポイントを送信するからすぐにそっちに向かってくれ』
『了解』
そうして、通信を終えようとしたところで不意に9A-91が割り込んだ。
『指揮官…見ていてくれましたか? これが私が貴方に捧げる勝利です』
『ああ。9A-91、よくやってくれた』
9A-91の言葉に、晶は称賛の言葉で返す。彼女の活躍はFALの視覚を通じて確認している。相変わらず彼女はよくやってくれると思う。
『ご主人様! G41も頑張ったよ! 褒めて褒めて!!』
その途端、別の回線からも割り込んでくる。Five-sevenと共に別方面の敵に対処していたGr G41だ。実際、そちらの方面の敵はほとんど彼女が片付けたのだ。FALと比べても遜色のない戦果と言えるだろう。
『おう、G41! 帰ったら思う存分なでなでしてやるからな』
『わーい!』
『ちょっと指揮官、私だって索敵や支援に頑張ったわ。帰ったらハグして?』
そこにまた割り込んでくるのはFive-sevenだ。彼女もまた副隊長として、G41とトンプソンを指揮して頑張ったと言えるだろう。
『ああ、Five-seven。俺でよければいくらでも』
『うふふ。期待しているわ』
『あの…指揮官、私も…』
『G41もお願い、ご主人様!』
『お前たち、いい加減にしろ。まだ任務は終わってないんだぞ?』
3人の通信に割って入った声は、トンプソン。この面子の中では大人な彼女は収拾がつかなくなりそうなる前に、会話を打ち切りに来たのだ。
『ボスも余り甘やかすなよ』
『悪かったよ、トンプソン』
そう言葉を交わすと、再び回線がFALの方に戻る。彼女は呆れた声音で言う。
『全く、あの娘達ったら。そんなに指揮官のことが好きなのかしら?』
『ヤキモチか、FAL?』
『寝言は寝てからいうものよ、指揮官』
昨日に比べればずっと冷静な文句を聞いた晶は、FALとの通信を終えM4A1の方に通信を切り替える。彼女率いるAR小隊及び、一〇〇式とステンMK‐Ⅱは別の場所で追手を叩いているのだ。
(要救の確保はスムーズに終わったが…さて)
通信モジュールを切り替える数秒の間、晶は思考を巡らせる。要救救助の手際の良さは、流石FALというところだ。だが、なんだか胸騒ぎがする。何か起こるとすれば、一〇〇式の方だろうか。
(
晶は祈るようにそう心の中で念じる。やがて通信が繋がった。彼女らもまた交戦の最中だった。