一〇〇式戦記『失楽園《Paradise Lost》 』 作:カール・ロビンソン
故人の曰く、退屈は神をも殺す。人生は大いなる退屈しのぎである。
故に、人間に近い思考ロジックを持つ戦術人形達にとっても、退屈しのぎとなる娯楽は重要なものである。
だが、絶滅に瀕した人類の領域の中にあっては娯楽は非常に少ない貴重なものだ。人間であるカリーナさえ、大して好きでもない金稼ぎを暇つぶしにしている有様だ。
「じゃーん! 三つ編みできたー!」
「わー、可愛い! 可愛いよ、
長い鴉の濡れ羽色の髪を弄りながら、二人の戦術人形が歓声を上げる。G41とSOPMODであった。ゴールデンレトリバーの子犬のようなこの二人の戦術人形は、遊ぶのが大好きだ。
「あ、ありがとう…」
戸惑いながら、されるがままになっているのは一〇〇式であった。この二人に捕まると、彼女は概ね二人の玩具になってしまう。髪を弄りまわされるのは日常茶飯事だ。とはいえ、彼女達の好意は嬉しいし、それに彼女たちも手荒なことはしない。髪も事が終われば、元に戻して丁寧にブラッシングもしてくれる程だ。
「でも、髪なら私よりG41ちゃんの方が綺麗だと思うけど…」
一〇〇式はG41の長いサラサラの金髪を見て言う。彼女の髪はFALのそれと並んで一〇〇式の憧れでもある。
「そう? 私は
G41がリボンでまとめた自分の髪の先端を摘まんで、しげしげと眺めて言う首を傾げながら言う。確かにこの髪をご主人様(=指揮官)も好きだと言ってくれるが、自身としてはやはり一〇〇式の黒い髪の方が綺麗だと思う。
「それに
SOPMODが後ろから一〇〇式の首に抱き着いて言う。特に理由はないのだが、一〇〇式と一緒にいると心地良いのだ。虫が好く、というところだろうか。
それに一〇〇式は先に確保しておかないと他の人に連れて行かれてしまう。FALをはじめとして、一〇〇式と遊びたい戦術人形は他にも幾らでもいるのだ。
「
そして、また一人一〇〇式と遊びたい戦術人形がやってきた。ステンMK‐Ⅱだ。彼女とスコーピオンは長らく一〇〇式と肩を並べて戦っている、いわば前衛仲間というべき存在だ。危険な前衛として戦う彼女たちの絆は強いものだ。
「ステンちゃーん!」
G41がにこやかに彼女に手を振る。彼女たちが前衛仲間なら、G41達は彼女の背中を固める後衛で、この4人はよく共にチームを組むことがある取り合わせだ。みんな仲はいい。
「あ、G41ちゃんとSOPMODちゃんも! 丁度良かった!」
そう言って、ステンは右手に持っている、平たく、白い箱のようなものを頭上に掲げて言った。
「実は、さっき指揮官からいいものを貰っちゃいましたー!」
「ええ!? それなに!?」
興味の対象が完全にそちらに移ったSOPMODが尋ねる。そう言いながらも、一〇〇式の髪をほどいてブラッシングすることは忘れない。
「ファミコンっていうんだって!!」
「すごーい!」
ステンの言葉を聞いて、G41が感嘆の声を上げる。ファミコンというのはよく分からないが、大好きなご主人様がくれたものだからきっと凄いものだ、と思ったのだ。
「というわけで、早くやろー!」
「「おー!」」
ハイテンションで娯楽室に突撃する3人と、引きずられるように連れて行かれる一〇〇式。とはいえ、一〇〇式も嫌々というわけではない。向学心の高い一〇〇式もまた新しいものには興味があった。ましてや、そのファミコンというものは指揮官のくれた物なのだから尚更だ。単に3人のテンションが高すぎてついていけていないだけだ。
首尾よく娯楽室を占拠した4人は、ステンを中心に準備を進めていく。とはいえ、配線の繋ぎ方は単純で、準備は物の数分で終わった。
そして、スイッチを入れると、今は亡きファミコンの開発元のロゴが現れる。続いて、様々なゲームの中から一つ選ぶ画面が現れる。
「これって旧世代のゲーム機だ!」
「すごーい! 御主人様、お金ないのによく手に入ったね!!」
SOPMODとG41は感心して言う。このご時世、娯楽の道具は凄く値が張る。ましてや、ゲーム機などはそれこそ上級市民の持ち物で、万年金欠の指揮官が買えるようなものだとは思えない。
「指揮官、廃工場のガラクタかっぱらって、それと適当なジャンクパーツで作ったんだって。プログラムもコードをIFNで拾って来たって」
「「すごーい!」」
「やりますねぇ」
G41とSOPMOD、そして一〇〇式が感嘆の声を上げる。指揮官はIFN操作やプログラミングだけでなく、機械を弄るのも得意だ。こんなものが作れるのなら、借金解消の足しに売ればいいのに、戦術人形の娯楽のために提供してしまうのが彼らしいと思う。
「それでね、指揮官が最初にお勧めするゲームがこれなんだって」
ステンがコントローラーを操作して選んだゲームのタイトル、それはスーパーマリオブラザーズとあった。
赤茶けたレンガのような文字盤らしきものの上にも、金色の文字でそう書かれていた。
「んじゃ、最初は
「え!? 私から?」
SOPMODからコントローラーを手渡され、一〇〇式は戸惑う。操作も何もわからないのに最初とはこれいかに。
「がんばれー、
「いけいけ、ごーごー!」
「分かりました! 一〇〇式、いきます!」
G41とステンの無責任な応援を受け、一〇〇式はスタートボタンを押す。そして、ゲームが始まった。
一〇〇式はコントローラーの→ボタンを押して、おっかなびっくり進んでいく。そのうち、何やら茶色い三角形みたいなものが近づいてくる。
「て、敵です!」
一〇〇式は思わずそう言う。なんとなくそれの目つきが悪いからそう思ったのだ。
「よーし、うっちゃえ!」
ステンが無責任な助言を送る。そう言われても、どう攻撃したらいいのか分からない。一〇〇式は←ボタンと→ボタンを何度も押してまごまごする。そうする間にも敵(?)は近づいてくる。
「
G41の言葉を受け、一〇〇式はまずBボタンを押してみる。だが、何の反応もない。これでは攻撃できないようだ。ならば、Aだ!とボタンを押す。すると、ゲーム上のキャラはてーんと音を出しながら、ジャンプした。
「おお!」
一〇〇式はそういって感心する。彼は自身の身長の3倍以上飛んでいる。正直、戦術人形でさえできない動きだ。彼はVRシアターのヒーローのような超人的な力を持っているのかもしれない。
だが・・・
ボコ!(ブロックにぶつかる)→敵(めんどいので今後クリボーと表記)の目の前に落ちる→接触→てっ!てれっれっれれれってれ!(死亡)
「ううう…負けてしまいました…」
敗退した一〇〇式は悲しそうにステンにコントローラーを渡す。正直、仕様が何も分からないのに負けたのだから、悲しいものだ。
「よし! ステンMK-Ⅱいきます!
あまり嬉しくない事を言って、ステンは意気揚々とスタートする。実はステンは指揮官からある情報を得ていた。Bボタンを押すと、早く走れる、と。
(
ステンは内心で謝りつつも、遠慮なくダッシュで早く先に進めていく。一〇〇式はステンにとっては友達だが、同時に指揮官を巡っての恋の争いではライバルでもあるのだ。ここで彼女より早くクリアーして、指揮官に褒められたいのだ。
しかも、先程一〇〇式のおかげで、Aボタンでジャンプするということが判明している。ダッシュとジャンプ! これで無敵、な気がする!
「ええい!」
そう叫びながら、ステンは勢いよくAボタンを押す。そして…
てーん(ジャンプ)→ぼこ!(ブロックに頭が当たる)→クリボーの目の前に着地→接触→ てっ!てれっれっれれれってれ!(死亡)
「うううう… は、恥ずかしいです…」
小さく縮こまったステンは、なんとも情けない様子でそう言いながら、G41に渡す。
「うん! G41出ます!」
そう言って、G41はゲームを始める。二人の様子を見て、ジャンプのタイミングなどは頭に思い描いている。クリアーしてご主人様に褒めてもらうんだ! と、G41は張り切る。
まず、クリボーの前までダッシュで進んでいく。そして、その前でタイミングよくAボタン。見事にクリボーをかわせた。同時に叩いた?ブロックから何やらオレンジと赤の物体が現れた。
「何これ?」
「多分あれは味方だよ! 触れてみよう!」
「うん!」
SOPMODの無責任な情報に、G41は頷いてそれに触れてみる。すると、なんとキャラの身長が2倍になった。
「大きくなった!?」
「ちょーしんかぁ! クリスマスツリー!」
一〇〇式とSOPMODが感嘆の声を上げる。なんとなく、ゲームの要領がつかめてきた気がする。G41のテンションもあがってきた。
「すごーい!」
G41は調子に乗ってジャンプを繰り返し、次々に先に進んでいく。だが、その目の前に床が抜けている部分が現れ、G41の操作するキャラはその下に消えた。
てっ!てれっれっれれれってれ!(死亡)
「えーん…私の価値、発揮できませんでした…」
画面に浮かぶGAME OVARの文字を見て、G41が落胆する。こんなことでは、ご主人様に褒めてもらうのは夢のまた夢だ。
「おっ、早速やってるな」
いつの間にか指揮官が、近くにやってきていた。そんな彼にステンが唇を尖らせて言う。
「指揮官、このゲーム難しいですよぉ」
涙目でステンは指揮官にコントローラーを渡す。このゲームが入門用にお勧めだというなら、指揮官がまずどうするのか見せて欲しい。
「ああ。どれどれ?」
そう言って、指揮官はゲームを始める。
まるで、流れるような動きで動いていくキャラクターは、クリボーを踏み潰し、よく分からないアイテムを取って巨大化し、谷を飛び越え、白く点滅する花のようなものを取り、火を噴きながらよく分からない緑の物体を薙ぎ倒し、最後に城の旗に飛びついてクリアー。
「「「すごーい!」」」
「流石、指揮官! やりますねぇ!」
G41とSOPMODとステン、そして一〇〇式が感嘆の声を上げる。やはり、指揮官は凄い人だ。4人は改めてそう思った。
その後も、指揮官は淡々とステージをクリアーしていく。それを見ながら、一〇〇式達は時に歓声を発し、時に指揮官を応援しながら、彼がゲームを進めていくのを見つめている。
ゲームをプレイしている姿としては間違っている。だが、これはこれでいい、と一〇〇式達は思った。普段仕事のせいであまり一緒に遊ぶ暇がない指揮官。彼が側でいてくれるだけでいい。この部屋にいる4人の戦術人形達は心からそう思った。