ラブライブ! 〜それからの物語〜   作:逸見空

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第一話

 Ah! ほのかな予感から始まり

 

 Ah! 光を追いかけてきたんだよ……

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 ピピピピ! ピピピピ!

 

「んー……」

 

 ピピピピ! ピピピピ! ピピピ——ガチャッ!

 

「……6時か」

 

 青年は目覚まし時計のアラームを止めると、静かに時刻を確認した。

 彼は上半身を起こすと、どこかニヒルな雰囲気を醸し出しながら窓の外を眺める。

 

(そういえば、今日で7年だっけ……)

 

 おもむろに思い出すのは、7年前の4月1日のことだった。

 その日、当時小学生だった自分が何をしていたのかは覚えていない。ただ、μ'sのファイナルライブがあったということだけは覚えている。直接ライブに行ったわけではないし、熱狂的なファンであったわけでもない。ただ、なぜかその出来事だけは覚えている。ニュースで見たのか、それとも友達に聞いて知ったのか、それも分からないが。

 この青年のμ'sに対する知識といえば、彼女たちは廃校を救うためにスクールアイドルを始めた9人の少女たちで、第2回ラブライブで優勝したあと、突然解散してしまったということくらいだった。もっとも当時はμ'sが社会現象になるくらい人気だったので、そのくらいのことは多分誰でも知っている。

 それでも、なぜ彼はそんなことを急に思い出したのだろうか。のちになって考えると、それは運命だったのかもしれない。μ'sのメンバーのひとりである東條希に言わせると、そう、スピリチュアル的な何かだ。

 彼はベッドから降りて着替えると、リビングに行って母親の作った朝食を食べる。そして「いってきまーす」とあいさつをすると、玄関を開けて学校へと足を向かわせる。

 これがこの青年——古川新太(ふるかわあらた)の日常だ。

 なぜ4月1日であるにもかかわらず学校へ行くのかというと、それは単純で、補習があるからだ。

 そして学校に着いて教室に入ると、そそくさと自分の席につき授業の準備をする。まもなくして教科の先生が教室に入ってきて、チャイムが鳴ると同時に授業が始まる。授業が終わると休み時間となり、ひとり窓の外を眺める。そしてまた授業が始まり……それを繰り返していくうちに、下校の時刻となり、そしてそのまま部活にも顔を出さず家に帰り、宿題をして風呂に入って、歯を磨いて、そして寝る。

 そんな単調は毎日の繰り返しだった。新太は本当に平凡な、どこにでもいる普通の高校生であった。そう、その日が来るまでは——。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 というような紹介をされたが、概ね間違っておらず、僕はごくごく普通の高校生だ。友達は少なめで、とくに色気づいた話もなく、毎日同じことを繰り返しているだけの、つまらない高校生だ。ただ言っておくと、『そう、その日が来るまでは——』なんて言われていたが、その日なんて来ないし、そんな大げさは出来事はない。ただ、あるとすればそれは、あの始業式の日のことだろう。

 

 僕は始業式の朝、特にいつもと変わらず、いつも通りに学校に行った。始業式と言ってもただ式があるだけで、結局午後は授業があるし、特に変わったことはないのだ。

 

 僕は学校につくと、下駄箱の前に貼られてあるクラス分けの表を確認した。

 僕は……三年一組のようだ。数少ない友達の名前は……そのクラスにはないみたいだ。まあ、ひとりも悪くないけどね。

 そして教室に行き、荷物を置くと、始業式のため体育館へと移動する。体育館の中はざわざわしていたが、マイクのスイッチが入るとだんだん話し声も小さくなっていった。

 

 始業式が始まり、校長の話などが繰り広げられていく中、僕はただぼーっと過ごしていた。ありふれた教育理念をのべつ幕なしに話されるのを聞くよりかは、こうやって何も考えずに過ごしたほうが、脳の休憩にもなってよっぽどマシだろう。

 

 式は進行していき、今年新しく来た先生の紹介に入る。ここはまあ、聞いてもいいかなと思った。

 壇上に何人かの先生たちが登り、ひとりずつ順番に紹介されてゆく。そして最後のひとりが紹介されたとき、僕は「ん?」となにかを感じた。

 

「それでは最後、高坂雪穂先生です。高坂先生は大学を卒業して今年からの新任教師です。数学を担当されます」

 

「よろしくお願いします!」

 

 高坂……雪穂? どこかで聞いたことあるような、無いような……だめだ、思い出せない。

 僕は何とも言えないもやもやした気持ちになり、考えるのをやめようとした。しかしどうしても引っかかってしまう。なぜか知っている気がしてならない。

 高坂雪穂……高坂、雪穂……高坂……高坂? 高坂といえば、μ'sのリーダーも高坂穂乃果って名前だっけ……あ! そうだ、分かったぞ!高坂雪穂って、高坂穂乃果の妹じゃないか! μ'sが解散したあと、音ノ木坂学院に新たにできたグループのメンバーの一人だったあの高坂雪穂だ!

 いや、待て待て、同姓同名ってこともあるかもしれないよな……って、そうだからといって何かするわけでもないけど。

 そしてそのまま始業式は終わり、僕は教室に戻った。みんなが教室に戻り、このあと入ってくる先生が担任となる。みんなは、誰が担任になるのかなとそわそわしている様子だった。僕は正直、誰でもいいのだけれど。

 すると教室のドアが、ガラガラ! と勢いよく開いた。そして入って来たのは……。

 

「えー、みなさん、こんにちは! 今年1年間みなさんの担任となる、高坂雪穂です! よろしくお願いします!」

 

 まさかの高坂先生だった。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 午後の授業が終わり、家に帰ると、僕はベッドに寝転がって考えた。

 なぜ今さらμ'sのことなんかを思い出したのか。

 僕はμ'sのことをある程度は知ってはいたが、すごくファンだったというわけでもない。メンバーの名前とか、特徴とか、有名な歌とか、それをただ知っていただけだ。μ'sは年齢を問わず人気があったので、当時小学生だった僕が知っていても不思議はないが、小学生の中ではよく知っていた方ではあると思う。

 μ'sが解散して7年、ラブライブは今も続いている。μ'sが残した火種はまだ絶やされていない。決勝はアキバドームで行われていて、大きな盛り上がりを見せている。

 それにしても、高坂雪穂先生……か。

 学校のみんなは気づいているのだろうか。高坂先生が、あの高坂穂乃果の妹である高坂雪穂かもしれないということに。

 そうこう考えつつ、僕は机に向かって参考書を開いた。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 翌日、学校に行き、いつも通りに過ごした。そして1日が終わり、帰ろうとしたとき、僕はあることを思い出した。なんてことはない、ちょっとしたことだった。というのも、昨日やった数学の問題が、1問だけどうしても分からなかったのだ。

 それを思い出し、僕は数学の担当である高坂先生のところへ行くことにした。

 職員室に着くと、僕はドアを開けて「失礼します」と言ったあと、高坂先生を探す。

 すると奥の方に高坂先生の机を見つけた。

 どうやら今は先生はいないようだ。

 とりあえずちょっとだけ待ってみるか……。

 と思ってふとその机に目をやると、一枚の写真が置いてあった。

 

「これは……μ's?」

 

 それは、μ'sと、それ以外のいろんな人たちが笑顔で写っている、記念写真のようなものだった。

 みんな同じような衣装を着ていて、本当に楽しそうな顔をしていて……。

 

「あれ、君は……」

 

「あっ、高坂先生」

 

「私のクラスの古川新太くんだよね。何か用かな?」

 

「あ、えっと、ちょっと数学で分からないところがあって……」

 

「おっ、質問に来たんだね? まあ、とりあえず座ってよ」

 

「はい、失礼します」

 

 僕は近くにあった丸椅子を持って来て、それに腰かけた。

 先生も自分の椅子に座って、こちらを向いた。

 

「それで? どの問題が分からなかったの?」

 

「これです」

 

 僕は持っていた参考書の問題を先生に見せた。

 

「あー、これか……えっとね、これはここをこうして、これを代入すれば……」

 

「なるほど、そういうやり方もあるのか……」

 

「それで最後にこうすれば……ほら、簡単にできるでしょ?」

 

「確かにそうですね。ありがとうございます!」

 

「いえいえ。どんどん聞きに来てよ」

 

「はい。ありがとうございました」

 

「はーい」

 

 そう言って僕は職員室を出ようと思ったが、その前にふと、前に抱いた疑問が再び頭をよぎった。

 高坂先生は、本当にあの高坂穂乃果の妹なのだろうか?

 気付けば僕は、高坂先生に質問していた。

 

「あの……先生って、高坂穂乃果の妹だったりは……」

 

「え?」

 

「あ、いや、えっと……」

 

「…………」

 

 沈黙。

 なにかまずいことを聞いたのか?

 ここはいったん別のことを……と思っていたら、先生は驚いたような顔をして僕の方を見て言った。

 

「あはは、なんていうか……やっぱり知ってる人もいるんだね」

 

「じゃあ、やっぱり……」

 

「うん、そうだよ。私は高坂穂乃果の妹の、高坂雪穂。μ'sって、結構前に解散しちゃったのに、よく知ってるね」

 

「いや、まあ……はい」

 

 やっぱりそうだったんだ。

 僕はそのとき、嬉しいという感情が胸に届いた。なぜかは分からないが、高坂先生があのμ'sと関係があると分かって、無性に嬉しく感じたのだ。

 

「古川くんは、μ'sのことは好きだったの?」

 

「好き……とか、そういうのは正直あまりなかったです。ただ、なぜかμ'sのことは知ってて……」

 

「そっか……でも、知ってくれてるってだけでも嬉しいよ。ありがとね」

 

「いえ、そんな……」

 

 と、そのときだった。

 職員室のドアが勢いよく、ガラガラ! と開いたのだ。

 

「失礼します!」

 

 そう言って入って来たのはひとりの女子生徒だった。

 見た目からしておそらく一年生。

 彼女はずんずんと一直線に僕の方へ——ではなく、高坂先生めがけて寄ってきた。

 

「高坂雪穂さん!」

 

「は、はい?」

 

「ずばり、高坂穂乃果さんの妹さんですよね!?」

 

「そ、そうですけど、なにか……?」

 

「やっぱり……」

 

 彼女はえらく整った顔立ちをしていて、かなりの美人さんだった。しかしどこかあどけなさもあり、可愛さも兼ね備えた、まるでアイドルのような女の子だった。

 すると彼女は一度深呼吸をして、再び高坂先生のほうを見て、

 

「申し遅れました。私の名前は矢澤こころ。矢澤にこの妹です!」

 

「矢澤にこって……ええ!? あのにこさんの妹!?」

 

「はい、正真正銘のお姉様の妹です」

 

そう言って矢澤さんは自分の学生証を見せつける。

それを見ても矢澤にこの妹かどうかは分からないんだけどな……。

 

「そ、それはまた……にこさんは元気?」

 

「ええ、今も元気いっぱいですよ。テレビで見る通りです」

 

「そっか、それは良かった」

 

 そう、矢澤にこは現在進行形で、アイドルとして活躍している。それも、同じμ'sの絢瀬絵里と西木野真姫と共に。グループ名はBiBi。いつもはバラエティ番組などでおちゃらけているが、ライブとなればそのふざけた雰囲気は跡形もなく消え去り、歌い出せばそれは天下一品のメロディを奏でる。今やあのA-RISEとも張り合うくらいの人気だ。

 

「それで、雪穂さん」

 

「どうしたの?」

 

「穂乃果さんはどうしてるんですか?」

 

「お姉ちゃんなら……今はふつうに働いてるよ」

 

「……そうなんですか」

 

 矢澤さんは拍子抜けした表情になる。

 

「うん、大学出たら一般就職するって、決めてたみたいで」

 

「それは……なんだか意外ですね。穂乃果さんならお姉様と同じくらいの大物になれそうなのに……」

 

「それは……あはは、なんでだろうね」

 

「……?」

 

 高坂先生ははぐらかすように笑って対応した。

 

「というか、こちらの方は?」

 

「ん? ああ、この子は私の生徒の古川くんだよ」

 

 2人ともこちらを向くので、あいさつせざるを得ない状況となる。

 

「どうも。えっと……矢澤さん?」

 

「こんにちは、古川先輩」

 

 軽くあいさつを交わすと、高坂先生が言った。

 

「そうだ、古川くん、μ'sのこと知ってるようだし、矢澤さんと気が合うんじゃない? ほら、入ってる部活だって……」

 

「ぶ、部活は違っ……」

 

「アイドル研究部、でしょ?」

 

「ええ!? そうなんですか?」

 

「……まあ、一応ね」

 

 そう、僕は高校では、アイドル研究部に所属している。

 と言っても、僕は別に好きでアイドル研究部に入っているわけではなかった。

 この学校は部活は絶対に入らなくてはならず、入りたくない者は適当にゆるい文化系の部活に入れられるのだ。そして僕が入ることになったのは、アイドル研究部だったというわけだ。

 というか、先生もよく僕がアイドル研究部だって知ってたな……。

 

「部員はどのくらいいるんですか?」

 

 矢澤さんは興味津々で聞いてくる。

 

「僕ひとりだけだよ」

 

 僕がひとりぼっちでアイドル研究部なんかに入っているなんて、引くだろうなと思っていたら、矢澤さんは全く別の反応を見せた。

 

「……一緒だ」

 

「え?」

 

「お姉様と一緒じゃないですか! アイドル研究部という場所をたったひとりで守ってきたお姉様と一緒です!」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 すると高坂先生が、

 

「じゃあ矢澤さん、部活決まってないんだったら、アイドル研究部に入ってみたら?」

 

 と、軽く言った。

 

「ええ! いいんですか!?」

 

「古川くん、いいよね?」

 

「えっ……まあ、別に構いませんけど」

 

「やったー!」

 

 矢澤さんは両手を挙げて喜んだ。

 

「でも、アイドル研究部といっても、別にアイドルの研究したりもしてないし……楽しくないと思うよ?」

 

「大丈夫です! 私が楽しくするので!」

 

「そ、そう……」

 

「じゃあとりあえず2人とも、早速部室に行ってみたら?」

 

「そうですね! 行きましょう、先輩!」

 

 そう言って彼女は僕の手を引いて、職員室をあとにした。

 

「……ふふ、青春だなあ」

 

 高坂先生は、少し懐かしそうな目をして、僕たちを見送った。

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