Fate/Grand Order -RE:BUILD-   作:(TWT)

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前回の投稿からとてつもなく期間が開いてしまい大変申し訳ありませんでした。

まだ投稿数が少ないにも関わらず感想も沢山頂いており、期待してくれている方もいらっしゃるのは分かっていたのですが、プライベートの問題の都合上どうしても時間が取れず筆が進みませんでした。

こんな作品でも待ってくださっていた方々に重ね重ねお詫び申し上げます。

大変遅くなりましたが、次話を投稿しました。これからも投稿は定期的とはいかないかもしれませんが、よろしくお願い致します。


特異点F 01A

「フォウ……」

 

何かが聞こえた。

 

それを切欠に男の意識が泥のように重たい倦怠感から少しだけ持ち上がる。

 

しかし、疲れ切った体は鉛のように重く、瞼も開く気配がない。男の意識は覚醒することなく、再び倦怠という泥の中へと―

 

「キュウ?」

 

また聞こえた。

 

 

 

―というよりもこのくだり、前にもあったような気がする。

 

 

 

「……何でこう、立て続けに意識を失うのか。そして―」

 

目を覚ました戦兎はゆっくりと立ち上がり、そして辺りを見回す。

 

「その度に見たこともない全く別の場所で目を覚ますのか……」

 

つい先程まで戦兎はカルデアの管制室、巨大な地下ホールにいた。しかし、今立っている場所は地下ですらない。

 

灰色の空。

 

周囲には窓ガラスが割れ、崩れかけたビル群。

 

コンクリート舗装の道路はあちこちがひび割れてめくれ上がっている。

 

人の気配は全くなく、有り体に言って廃墟であった。

 

「最悪だ……」

 

この口癖ももう何度目だろうか。

 

驚くことに疲れてかえって冷静になっているのか、それとも半ば投げやりになっているのか。いずれにせよ、今自分が置かれた状況が理解できていないことに変わりはない。

 

「状況を整理しよう」

 

コンピュータにインプットするデータが虫食い状態では正確なアウトプットなど望むべくもない。ならば、インプットするデータを揃えるしかない。

 

「まず、俺は生きているのか」

 

戦兎は自分の脈を測り、頬をつねってみる。

 

脈拍は正常。痛覚もきちんとある。

 

つまり、少なくとも戦兎は夢の中や三途の川を渡っている最中ではないということだ。

 

「次に、ここはどこか」

 

足元のフォウを抱き上げながら戦兎は再度辺りを見回す。

 

何度見ても廃墟であることに変わりはなかったが、崩れかけたビルの下に日本語の看板を見つけた。つまりここは日本の都市のどこかである可能性が高い。

 

「三つ目に、最後の記憶」

 

戦兎は思い出せる最後の記憶を探ってみる。

 

思い出せる最後の出来事は瓦礫の下敷きとなったマシュの手を握ったこと。

 

「いや、違う……確か、その後に……」

 

そう、最後に聞いたものは事務的なアナウンス。カウントダウン。そして―

 

「レイシフト……」

 

あの惨状を目の当たりにし、レイシフトなるミッションは中止になったものだとばかり思っていたが、もしプログラムによる自動進行が続行されていたとしたら?

 

管制室で聞いたシークエンスやカウントダウンはレイシフトのものであり、最終的に実行に移されたことになる。

 

「つまり、俺が今ここにいるのはレイシフトとやらの結果なのか?」

 

だが肝心のレイシフトが何なのか戦兎は知らないため、確証は取れない。こんなことになるのならばロマニにもっと詳しく聞いておけばよかったと後悔した。

 

つまり、まとめると―

 

「天っっ才物理学者、桐生戦兎は生きたまま謎の地下施設から日本の都市へレイシフトによって移動した。ただしレイシフトの詳細については一切不明。なぜこの街が廃墟なのかも不明。ここがどこで今が何時頃なのかも不明」

「フォーウ」

 

戦兎による状況説明会の唯一の参加者、フォウが戦兎の肩の上でまるで、“なるほどー”とでも言う様に小さく鳴いた。自分の説明に相槌を打ってもらった戦兎は満足げに頷き―

 

「結局何にも分かってないじゃないの……」

「フォ!?」

 

ガックリと項垂れた。

 

 

―・―

 

 

「てんさいはめげない」

 

程なくして戦兎は面を上げた。

 

「分からないなら調べればいいじゃない―ということで調査にいくぞ、フォウ」

「フォウ!」

 

戦兎はフォウを連れ立って廃墟となった街の調査へと赴く。

 

「しかし、改めて観察するとこの街の惨状は……」

 

大通りを歩きながら戦兎は周囲の状況を観察して改めて気がついた。

 

ビルの窓ガラスはその多くの破片が窓の内側、屋内へ向かって散らばっている。これはつまり、ビルの外からの衝撃によって割れた可能性が高い。

 

大通りの車道に点在する穴。コンクリートに空いた巨大な穴は水道管爆発のような地下からの突き上げではなく、上空からの落下物によるものだと思われた。

 

そして新たに発見した火災。最初に戦兎が目を覚ました場所では分からなかったが、大規模な火災がこの街に起こっていることが分かった。

 

これからのことから戦兎は一つの仮説を導き出す。

 

「この街は、爆撃でも受けたのか?」

 

この街の惨状は上空からの砲撃や爆撃といったものの被害に似ていると戦兎は思った。

 

「しかし、街の作りは明らかにモダン……現代日本で戦争なんてそれこそ東都、北都、西都間での戦争くらいしか―」

 

その時、戦兎は視界の端で何か光るものを捉えた。

 

赤く点滅する光が放こちらへ向かって飛んでくる。

 

相対距離、発光体のサイズ、飛行速度、放物線の角度、肉眼による誤差と補正係数。

 

それらの数字が一瞬で戦兎の頭の中で数式に組みあがる。

 

あれは、まずい―

 

あの発光体の落下予測地点は自分を中心に半径100m以内。

火災が沈下していないことから街が破壊されてからまだそう時間がたっていない。

破壊したものはまだ近辺にいる可能性がある。

あの発光体は何らかの砲撃の類である可能性が高い。

 

あれは自分を狙っている―

 

戦兎は最も近いビルの入り口を目指して走り出した。悪いことに戦兎は街中で最も幅の広い大通りの、しかも交差点の中央にいた。

 

最も近いビルの入り口までは約10数m。

 

懸命に走る戦兎の頭上で赤い砲弾が複数の光点に分裂した。それはまるでクラスター爆弾のように戦兎へと降り注いでくる。

 

間に合わない。

 

戦兎が身構えたその瞬間、砲弾よりも先に何者かが戦兎の前へと降り立った。

 

「伏せて!」

 

戦兎を守るように前へと躍り出た小柄な影はその身の丈よりも巨大な盾を眼前に構える。その瞬間、激しい金属同士のぶつかり合う音が鳴り響いた。まるで降り注ぐ雨を弾く雨傘のように、大量の砲弾を盾が火花を散らしながら弾き返す。

 

砲撃の雨が止み、戦兎が頭を上げるとそこには巨大な十字型の盾を構え、紫を基調とした

ボディスーツを身に纏った少女、マシュがいた。マシュは油断なく盾を構え続けている。

 

「マ、マシュ!?」

「お話は後ほど。攻撃はまだ続くようですので」

 

再び轟音と共に盾が振動する。どうやら砲撃はあの一発だけではなかったらしい。第二射、三射と砲弾の雨が二人を襲う。しかし、その全てをマシュの盾は弾き返した。激しい振動と爆音の中でも盾を構える小柄な影は決して揺らぐことなく戦兎を守り続けた。

 

やがて砲弾の雨が降らなくなると、漸くマシュは構えていた盾を下した。

 

「どうやら引いたようですね」

 

安心した様子のマシュ。だが、戦兎の方はそれどころではなかった。

 

戦兎が覚えている限りマシュは巨大な瓦礫に下半身を圧し潰されていたはず。仮に戦兎と同じようにレイシフトによってこの場所に来た時に瓦礫が消えていたとしても、圧し潰された下半身が動くようになるとは思えない。

 

ましてや砲弾の雨を盾で防ぎきるなど、体調が万全の成人男性でも不可能だ。

 

「あー……その、マシュ……だよね?」

「はい、マスター。あなたのサーヴァント、マシュ・キリエライトに間違いありません」

「だよね、マシュだよね……って。 マスターって俺のこと? 俺のサーヴァントって何のこと?」

 

この短いマシュとのやり取りの中だけで分からない単語が二つも出てきてしまった。

 

「いきなりのことで混乱しているとは思いますが、我々はファーストミッションの調査目的地である冬木にレイシフトしてきたのです。私のこの格好についてですが、私はレイシフトの際にあるサーヴァントから契約を持ちかけられ、それに応じたためそのサーヴァントの霊基を継承し―」

「待って。多分すごく丁寧に説明してくれてると思うんだけど、ちょっと待って」

 

戦兎は片手をあげてマシュを制し、説明を中断させると、そのまま明後日の方向へと向きなおる。そして―

 

「展開早すぎっしょぉぉぉ!!!」

 

思い切りのけ反りながら叫んだ。

 

「誰か説明してくれよぉぉぉ!!!」

 

今までの常識が通じない世界に放り出され。

訳も分からないまま厄介ごとに巻き込まれ。

またまた知らない土地に放り出されたと思ったら攻撃を受けて。

知り合って間もない女の子は変身して。

 

戦兎の体感時間からしてまだ最初に目覚めてから半日もたっていないのにこのトラブルの数。おまけにここまで耳にした単語の半数が未だに分からないため、理解が全く追いつかない。

 

ここまで溜め込んできたストレス、鬱憤、苛立ち、etc。 その全てを込めた魂の叫びだった。

 

「あ、あの……マスター?」

 

肩で息をする戦兎に恐る恐るといった様子で声をかけるマシュ。

 

「ハァハァ……オーケー……大丈夫だマシュ。ちょっとこの天才の頭脳がハザードオンしてマックスオーバーフローしただけだから。もうフルフルマッチで落ち着いたから」

「は、はい……」

 

戦兎は大きく深呼吸をし、心を落ち着かせると改めてマシュの方へと向きなおった。

 

「それで。悪いんだけどこの状況について、出来るだけ最初から説明して欲しい」

「そうですね。マスターは一般公募枠で魔術と関わりのない人間。説明もなしにこんな状況に陥ったら混乱しても仕方ないと思います。不肖マシュ・キリエライト、可能な限り詳しく説明させて頂きます!」

 

張りきった様子のマシュ。その様子を見て、マシュってこんなに勇ましい子だったのかと戦兎は内心驚いていた。

 

「ですがその前に場所を移動した方がいいと思います」

「そうだな。長くなるかもしれないし、あの砲撃がまた飛んでこないとも限らない。安全な場所を探してそこで続きを―」

「キャアアアア!!!」

 

その時、耳をつんざくような悲鳴が廃墟に響き渡る。

 

「マスター! 今のは!」

「……悲鳴だな、女の人の」

「他にも生存者がいるのかもしれません! 様子を見に行きましょう!」

 

そう言うが否や、マシュは悲鳴の方向へと走り出した。それを目で追いながら戦兎は独り言ちる。

 

「……だから、展開早すぎっしょ……」

 

そして戦兎も少し遅れてマシュの後を追ったのだった。

 

 

「っていうか、マシュ早ッ!? あんな重そうな盾を持っているのに!?」

 

 

―・―

 

 

「何なの、何なのよコイツら!? 何だって私ばかりこんな目に遭わなくちゃならないの!?」

 

廃墟の中を一人の女性が必死に走っている。

 

身に着けているものにはモダンなデザインに前時代的な装飾が加えられており、欧州の貴族を連想させる。それらは独特な装いなれど、仕立てのよさから高価な代物であることが伺える。

 

女性自身も少々痩せて顔色が悪いものの、品性と教養を感じさせる美人である、本来ならば。しかし現在、その表情は今恐怖に彩られており、その原因は彼女の背後に蠢くものにあった。

 

必死に走る彼女を追って大量の骸骨が一人で動いているのだ。日本の理科室にある全身骨格模型のような骸骨が大量に、しかも武器を持って追いかけてくる様はさながらパニックホラーのようだった。

 

「もうイヤ、来て、助けてよレフ! いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!」

 

女性は逃げながらこの場に居ない人間に必死に助けを求めていた。だが、当然その声に応えることはない。

 

必死に逃げ続けている女性だが、疲労から足元がおぼつかなく成った時、足元の瓦礫に足を取られその場に倒れこんでしまう。

 

倒れた女性に群がるように一斉に襲い掛かろうとした時、駆け付けたマシュが女性とスケルトンの群れの間に割って入った。そのまま骸骨、土地によってはスケルトンとも呼ばれるものとの戦闘に入る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

マシュに遅れて戦兎も現場に到着した。倒れていた女性に駆け寄り助け起こす。

 

「あなたは……」

「天才物理学者、桐生戦兎です! あなたは……って、なんだあれ!? 骸骨が勝手に動いている!?」

 

女性を助け起こしながら、戦兎は目に入ったマシュを取り囲んでいる骸骨の群れに驚きを隠せない。

 

「筋肉もない、内臓もない、おまけに脳もない! 完全に骨だけの状態でどうして動いているんだ!?」

「何故って、スケルトンだからでしょう。死霊魔術の一種で生み出された」

「死霊魔術? あれが魔術か……初めて見た……」

 

戦兎は助け起こした女性そっちのけでスケルトンを観察していた。

 

スケルトンは数こそ多いものの一体一体の動きは緩慢であり、マシュの動きについていけていない。マシュの振り回す盾がスケルトンを次々と打ち据え、塵に返していく。

 

「なぜ倒されたスケルトンは塵になるんだ?」

 

「どうしてマシュの体格であんなに重厚な盾を振り回せるんだ?」

 

「死霊魔術はどのような物理現象を引き起こしているんだ?」

 

「そもそも魔術というものは何をエネルギー源としているんだ?」

 

「あなたさっきからうるさいわよ!」

 

とめどなく溢れ出る疑問が戦兎の口をついて出てくる。しかしそれは女性からすれば命のかかった戦場で一々口にするなと言いたくなることばかりだった。

 

「あなた……顔は覚えていないけどカルデアのマスターなのでしょう!? 緊張感が足りないんじゃないの!? マスターIDは!?」

 

見たところ自分よりも一回りも若い女性に怒鳴られ、戦兎は疑問の渦から引き戻された。

 

「えーっと、確かレフって人にはNo.48のマスターとか呼ばれていたような……」

「48番!? あなたね、47番共々私のブリーフィングをいきなり欠席した非常識なマスターは!」

「私のブリーフィング……欠席……ということはあなたがカルデア所長!?」

「お、おまけに所長である私の顔も知らない!?」

 

憤慨した様子の女性、カルデア所長であるオルガマリー・アニムスフィアを見て、やはりロマニの懸念通り無断で欠席したことになっているのかと戦兎は悟った。

 

「あー実はですね。レフって人に君はブリーフィング出なくていいよって言われたので」

「レフがそんなこと言うわけないでしょ!? 適当なことを言って誤魔化さないで!」

「いや、本当なんですって! その場に一緒にいたマシュも聞いてますから!」

 

オルガマリーの剣幕に押された戦兎は思わず助けを求める様にマシュの方へと視線をやる。視線の先ではマシュが襲い掛かるスケルトンを払いのけながら戦兎とオルガマリーの背後を指さしていた。

 

「マスター! 後ろです!」

 

戦兎達ははっと後ろを振り返る。そこには群れからはぐれたスケルトンが瓦礫の陰から姿を現し、今まさに剣を振り下ろそうとしていた。

 

「キャアアア!」

「くっ!」

 

避けることも迎え撃つことも間に合わないと判断した戦兎は悲鳴を上げるオルガマリーを腕の中に抱きしめる様にして庇う。

 

「うおりゃあああ!」

 

スケルトンが剣を振り下ろす瞬間、雄叫びと共に何者かがスケルトンを横から殴り飛ばした。スケルトンは吹っ飛び、頭蓋骨がもげてその場に転がった。

 

スケルトンを倒したその者は戦兎に向き直り不敵に笑う。

 

「よう、調子良さそうじゃねぇか……戦兎」

 

それは戦兎にとって最も聞きなれた声。一番の戦友にして相棒と言っていいその男の名は。

 

「万丈!?」

 

青い上着を腰に巻き、仲間にエビフライと言われた髪形をした元脱走犯、万丈龍我がそこにいた。

 

 




前回の後書きで仮面ライダーが活躍すると言ったな? すまんありゃあ嘘だった。

……嘘ついてごめんなさい。ライダーはまだ出ません。これでいいのかライダーSS……

いや、逆に考えるんだ。ライダーが登場しないライダーSSがあってもいいさって考えるんだ……

そんなわけあるかおバカ! ちゃんとライダーは出ます! もうちょっと待ってね!

追申)
第三異聞帯シンが楽しいけど難しい……しかも皆いいキャラしてるからゲーム進めながら心苦しささえ感じています。これライダー主人公だったら相当苦悩するだろうなぁ……




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