Fate/Grand Order -RE:BUILD-   作:(TWT)

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2018年度最後の投稿です。ギリギリ年内にもう一回更新できた……

今回は解説回です。FGOの設定をこの小説ではこういう風に解釈しています、みたいなことを解説しています。

基本的に原作通りの設定をしているはずですが、もしかしたら筆者の勘違いや勉強不足で間違った設定をしているかもしれません。

もしそうであれば是非感想なりで教えて頂けると助かります。

他にも私の知らない(知らなそうな)小説に活かせそうな設定の話などのご教授もお待ちしております。小説に採用できるかは保証できませんが、何せ筆者はFateにわかなので…… 


特異点F 01B

「マスター! 後ろです!」

 

戦兎達ははっと後ろを振り返る。そこには群れからはぐれたスケルトンが瓦礫の陰から姿を現し、今まさに剣を振り下ろそうとしていた。

 

「キャアアア!」

「くっ!」

 

避けることも迎え撃つことも間に合わないと判断した戦兎は悲鳴を上げるオルガマリーを腕の中に抱きしめる様にして庇う。

 

「うおりゃあああ!」

 

スケルトンが剣を振り下ろす瞬間、雄叫びと共に何者かがスケルトンを横から殴り飛ばした。スケルトンは吹っ飛び、頭蓋骨がもげてその場に転がった。

 

スケルトンを倒したその者は戦兎に向き直り不敵に笑う。

 

「よう、調子良さそうじゃねぇか……戦兎」

 

それは戦兎にとって最も聞きなれた声。一番の戦友にして相棒と言っていいその男の名は。

 

「万丈!?」

 

青い上着を腰に巻き、仲間にエビフライと言われた髪形をした元脱走犯、万丈龍我がそこにいた。

 

「何で、ここに……?」

 

全くの予想外の人物との再会に戦兎が呆然としていると万丈はここまでの経緯を説明し始めた。

 

「なんかよ、目が覚めたらこのボロボロの街に居てよ。わけわかんないまま彷徨ってたら 聞き覚えのある声で“展開早すぎっしょぉぉぉ!”って情けない叫びが聞こえて来たんだよ」

 

何やら妙に再現度の高い声真似を披露した万丈。心なしかニヤニヤしているようにも見える。

 

「おまけに女の悲鳴も聞こえてきた。急いで声のする方へ来てみたら、見覚えある奴が襲われてるじゃねぇか。仕方なく助けてやったわけよ」

 

万丈の言葉を聞いた戦兎はそうか、と短く答え―

 

「まぁ万丈が聞いたっていう叫び声は幻聴だとして」

「幻聴じゃねぇし。叫んだんだろ、“展開早すぎっしょぉぉぉ!”」

「はぁ? 叫んでねーし」

「“誰か説明してくれよぉぉぉ!!!”」

「お前どこから聞いてたんだよ!?」

「あなたたちいい加減しなさいよ!」

 

戦兎と万丈のいつも通りのやりとり横から見ていたオルガマリーが一喝する。

 

「あなたたちが喋っている間にもマシュは独りで戦っているのよ! 支援の一つも出来ないの!?」

 

再開に舞い上がった戦兎と万丈がコンビで漫才を繰り広げている間もマシュは独りでスケルトンの群れを相手とり続けていたのだ。

 

「そうだ戦兎。あの骸骨、何なんだ? なんで勝手に動いてんだ?」

「お前……何か分からないものを殴ったのかよ」

 

万丈の疑問はもっとも。しかし、これは戦兎にも分からない、むしろ教えてほしい質問であり、この場で唯一理解していそうなオルガマリーに説明してもらう時間はない。

 

「あの骸骨は……あれだ、お化けだ」

「え!? でも普通に殴れたぞ?」

「体のあるお化けなんだよ。そういうお化けもいるんだ。それくらい知っておきなさいよ」

「お、おう?」

 

戦兎はとりあえず適当なことを言ってこの場は胡麻化すことにした。納得がいかない様子の万丈を押し切った戦兎は切り返えされる前に本題に入る。

 

「そんなことよりも。万丈、行けるか?」

「あ?」

「あの子を助ける」

 

万丈が戦兎の視線の先を追うと孤軍奮闘するマシュの姿があった。この場にいる誰よりも小柄な体で身の丈以上の大盾を振り回し襲い来るスケルトンと戦っている。

 

「何だ、あの子? すげぇパワーだな……お前の知り合いか?」

「ああ。ここに来る前に知り合った。ここに来てからは俺のことを守ってくれている」

「へぇ」

「いつまでもマシュにばかり戦わせるわけにはいかない」

「確かに。いつまでも女を一人で戦わせてちゃ、男が廃るな」

 

それまでのおちゃらけた雰囲気が一変し、両者ともなすべきことを見つけた戦士の表情を浮かべている。

 

「万丈」

「何だよ」

「お前が来てくれてよかった」

「んだよ、急に?」

「俺とお前なら何でもできる。例え、ここがどんな世界でも」

「……へっ。当然だろ。今までだってそうだったじゃねぇか」

 

並び立つ戦兎と万丈。

 

正面切って何かを伝える必要はない。言葉を交わさずとも通じるものがあるから。

 

何時だって二人はこうして困難に立ち向かってきた。それは何時如何なる時でも変わらない。

 

「フッ……最ッ高だな!」

「ああ! 負ける気がしねぇ!」

 

そうだ、自分たちならばあんな骸骨共など物の数ではない!

 

だから―

 

「行け万丈!」

「頼んだぜ戦兎!」

 

 

 

 

 

 

「「……ん?」」

 

 

 

 

 

戦兎と万丈はともにその場から一歩も動こうとしなかった。二人はその場から動かず、首だけ回して隣にいる相棒を叱咤する。

 

「おい万丈、早く行きなさいよ」

「そういう戦兎こそ早く行けよ」

 

 

「「……んん?」」

 

 

やはり両者ともに動こうとしない。それどころか互いに相手が先に動くことを待っているようでもある。

 

おかしい、と両者ともに思った。

 

予想では勇ましく飛び出していく相棒を見送るはずだったのだが……

 

「おい、万丈……お前、ひょっとして……」

 

戦兎は猛烈に嫌な予感がした。

 

「ドライバー……持ってないのか?」

 

出来ればこの予感は外れてほしいと願いながら戦兎は恐る恐る切り出した。

 

「ソンナコトナイゾ」

 

カタコトで言う万丈。

 

だが戦兎は見逃さなかった。質問を聞いた瞬間、万丈がビクリと体を震わせたことを。あからさまに目が泳いでいることを。

 

「この期に及んで隠している意味なんてないでしょうが! 正直に言いなさいよ!」

「持ってないです……」

 

元々嘘の下手な男、万丈はあっさりと白状した。だがそれでこの緊急事態が収まるわけではない。

 

「馬鹿! 万丈馬鹿!」

「馬鹿って言うな! せめて筋肉付けろ!」

「阿呆! 愚鈍! 愚劣!」

「な、何か難しい言葉使ってっけど、結局馬鹿って言ってんだろ!?」

 

先程まで二人の間で高まっていた厳かなれども熱い、戦いへの士気はもう見る影もなかった。

 

「そういう戦兎こそ、ドライバーどうしたんだよ!?」

「は、はぁ!? 持ってますけど? 天才ですから!」

「嘘つけ! もし持ってるなら、“全く万丈はこれだから~”とか何とか言いながらこれ見よがしにドライバー出すだろ!」

「ば、万丈の癖に鋭い分析を……!」

「やっぱりお前も持ってないんじゃねーか!」

 

もはやただの悪友同士の言い争いに成り下がった二人の漫才をオルガマリーは無表情でじっと眺めていた。

 

「所長。敵勢力の掃討、完了しました。お怪我はありませんか?」

「マシュ」

 

マシュがそんなオルガマリーの元へと報告にやって来た。

 

結局スケルトンの群れはマシュ一人で殲滅した。喧しく言い争う戦兎と万丈を横目にオルガマリーはマシュの両肩に手を置いた。そしてこれまでのヒステリックな声から打って変わりはっきりとした口調でこう言った。

 

「あいつらは駄目だわ。あなただけが頼りよ」

 

こんなにも真直ぐ所長と目を合わせたことはこれまで一度もありませんでした。でも目は死んでいましたと、マシュは後にそう語った。

 

 

―・―

 

 

「マシュ、ごめんな。こいつが役立たずなせいで最後まで一人で戦わせちゃって」

「はぁ!? お前も同じ役立たずだっただろうが!?」

 

マシュが独りでスケルトンを倒してしまったことにようやく気がついた戦兎と万丈は二人揃ってマシュの元へねぎらいと謝罪にやって来たのだった。

 

「いえ、お気になさらず。これが私の役目ですので」

「いや、そういう訳にもいかねぇだろ。女の子独りで戦わせるなんて情けねぇことは出来ねぇ。次は俺も戦うからよ」

 

当のマシュは全く気にしていないようだったが、自分より小さな女の子が戦うのを黙ってみていることなど万丈には到底出来ない。

 

「いえ、それは不可能です。あなたは……」

「万丈龍我。戦兎の腐れ縁だ」

「なるほど。マスターのお知り合いでしたか。初めまして万丈さん、マシュ・キリエライトと申します。マスターである戦兎さんのサーヴァントです」

「戦兎の……サ、サーヴァント? 何だそれ?」

 

聞いたことのない単語に首をかしげる万丈。そしてそれまで隣で見守っていた戦兎も話に加わって来た。

 

「それは俺も聞きたい。いい機会だから説明の続きをお願いできないか?」

「構いません。それでは……」

「待ちなさい」

 

不意に話に加わって来たのはそれまで静観していたオルガマリーだった。

 

「色々と積もる話があるのは分かります。私もあなた達には聞きたいことが山ほどあるから。でも今私たちに必要なのはカルデアとの連絡。そのための霊脈の確保こそが最優先事項よ。それ以外のことは後回しにして」

 

有無を言わさないオルガマリーだが、その意見には筋が通っている。状況が飲み込めていない戦兎も自分より今の状況を理解しているオルガマリーの意見に反対するつもりはない。

 

「なぁ戦兎……あの女、誰?」

 

最も他人の思惑など意にも介さず、思ったことをそのまま口にする男もいた。戦兎は万丈に耳打ちで教えてやる。

 

「カルデアの所長だよ。俺もここに来て初めて会ったけど」

「カルデア?」

「ここに来る前にいた施設だよ。万丈もそこから来たんだろ?」

「……いや、知らねぇ。俺は目を覚ましたらいきなりこの街だったぞ?」

「……何?」

 

この冬木と呼ばれる都市はレイシフトにより移動しなければ来られないのではないのか? 

 

てっきり万丈も自分と同じカルデアから来たものだとばかり思っていた戦兎は疑問に思った。

 

まさか万丈は偶然、戦兎達がレイシフトにより移動したこの場所に居合わせたというのか。そんな偶然は考え辛いが……

 

 

「そこ! さっきからブツブツうるさいわよ! 私の話をちゃんと聞きなさい!」

 

「それから! 私の名前はオルガマリー・アニムスフィア! 自分の雇用先のトップの名前くらい覚えておきなさい!」

 

まったくもう、と怒りを露わにしたオルガマリーの叱責が飛んだ。

 

まるで問題児を諫める学級委員長のようだと万丈は思い、所長は怒りっぽいというロマニの言葉を戦兎は思い出した。

 

「不幸中の幸いというべきか、霊脈の強いポイント、ターミナルポイントはここよ」

 

オルガマリーは靴を鳴らして地面を軽く蹴った。偶然にもこの交差点の真ん中がそのターミナルポイントだというのだ。

 

「マシュ、ここにあなたの盾を置いて。それでカルデアとのラインが繋がります」

「構いませんか、マスター?」

「いや、構わないけど……何で俺に聞くの?」

 

オルガマリーの言葉を聞いたマシュは何故か戦兎に許可を求めてきた。自分よりも立場が上で、知識のあるオルガマリーがいるのになぜ自分に許可を求めるのか。

 

「マスターは私のマスターですので」

 

マシュはそう言って盾を地面に横たえた。意味が分からないといった様子の戦兎の傍でオルガマリーは渋い顔をしたままぼそりと呟いた。

 

「……あなたたちのことも後でゆっくり聞かせてもらうからね」

 

 

―・―

 

 

『やっと繋がった! もしもしこちら管制室! 誰か聞こえるかい?』

 

マシュが盾を地面に置くと何やら幾何学的な文様が周囲に浮き上がり、同時に戦兎のポケットから何やらコール音のような高い音が聞こえてきた。

 

戦兎がポケットを漁ると中から出てきたのはレフに押し付けられたまま戦兎が持っていたカルデアのウェアラブル端末だった。何やら端末の一部が発光しており戦兎がスイッチを入れると立体映像と共に見覚えのある顔と声が飛び出してきた。

 

「ドクターロマン!?」

『ああ、戦兎! 君なのかい!?』 

 

映像から顔を覗かせたのはレイシフト前に知り合ったばかりの医療部門のトップ、ロマニ・アーキマンだった。

 

『カルデアのどこにもいないからもしやとは思ったけど、やっぱりレイシフトに巻き込まれていたのか……右も左も分からない状況だったろうに、よく無事でいてくれた。』

 

心底ほっとした様子のロマニ。

 

「なぁ戦兎。こいつも知り合いか? 少し見ない間に随分知り合いが増えたんだな」

『ん? 君は……?』

「万丈龍我だ」

『バンジョウ、リュウガ? どこかで聞いた気が……』

 

戦兎の隣でロマニを指さす万丈を見たロマニは端末を弄り出した。ものの数秒で目当てのものが見つかったらしく、驚いた様子で通信に出た。

 

『万丈龍我……思い出したよ。47番目のマスター。戦兎と同じ一般枠のマスターだ』

「本当か、ロマニ!?」

 

ロマニの情報の意味が分からずポカンとした様子の万丈よりも隣の戦兎の方が余程驚いていた。

 

『ああ。しかし彼もレイシフトに成功していたとはねぇ。いや、無事で何よりだけれど』

 

ただほっとしている様子のロマニと違い、戦兎は何やら考え込んでいる様子だった。

 

『ところで君たちの他には誰かいないのかい? 通信が安定したということは霊脈のターミナルポイントを確保したはずだけど、戦兎じゃ無理だろうし』

「私よ、ロマニ」

 

オルガマリーが戦兎と映像のロマニの間に割り込んでくる。

 

『うひゃぁぁああああ!? 所長!? 生きてらしたんですか!? あの爆発の中で!? どんだけ!?』

「どういう意味よ! 大体なんで医療セクショントップのあなたが司令官席にいるの!? レフはどうしたの!? レフを出して!」

 

驚いていたロマニだがレフの名を聞いたその表情を曇らせた。

 

『レフ教授は指令室で指揮をとっていました。あの爆発の中心です……生存は絶望的かと……』

「そんな……」

 

唯一といっていい味方が死んだことを聞かされオルガマリーの表情が絶望と悲しみに彩られる。だが、追い打ちをかけるように悪い知らせはまだ続く。

 

『僕が作戦指揮を任されているのは僕より上の階級の人間がいないためです。カルデアはその人員の八割を先の爆発で失いました』

「ちょっと待って? じゃあ他のマスター適正者たちは? コフィンの46人はどうなったの!?」

『全員が危篤状態です……医療器具も人手も全然足りません。何人かは助けられても全員なんてとても……』

「ふざけないで!」

 

「直ぐに凍結保存に移行しなさい! 死なせないことが最優先よ!」

『ああ! そうか、コフィンにはその機能がありました! 直ぐに手配します』

 

そう言うが否や、ロマニは席を離れた。映像の外から大声で人を集めているロマニの声が聞こえてくる。

 

「凍結保存というのは所謂コールドスリープのこと?」

「その通りです。魔術により肉体への負荷を軽減し、科学的に冷凍状態を維持することで後遺症発症を抑えた長期間のコールドスリープを瞬時に可能としています」

 

戦兎の質問にマシュが答えてくれた。魔術と科学のハイブリッドともいるコールドスリープ技術の解説を戦兎は興味深そうに聞き入っていた。

 

「しかし、それでも本人の承諾なく凍結保存を施すのは違法のはず……なので所長の判断には驚きましたが、確かに人命を第一に考えれば……」

「そんな訳ないでしょう」

 

マシュのフォローを切って捨てるオルガマリー。目を点にして驚くマシュを放ってオルガマリーは事も無げにこう続けた。

 

「死んでさえいなければ後でいくらでも弁明できるからよ」

 

科学、魔術の両サイドに対してコネクションを持つカルデアの蘇生技術は非常に高い。しかし、死者を蘇生することだけは如何なる技術、知識をもってしても不可能。逆を言えば、オルガマリーの言う通り、死んでさえいなければいくらでも挽回することが出来るのだ。

 

さらに危篤状態にあるというマスターたちはその多くが優秀な魔術師、引いては魔術界における高名な家の出身だった。もしそんなマスターたちを死なせでもしたら魔術社会の多くが敵に回ってしまう。それだけはカルデア所長として絶対に避けなければならない。

 

「そもそも46人の命なんて私に背負えるわけないじゃない……頼むから死なないでよ……」

 

神経質そうに爪を噛み、ひっそりと祈るように零したその言葉。

 

決して大きな声ではなかったが、それこそが彼女の切実な思いなのだろう、と戦兎はオルガマリーを見てそう感じた。

 

その後、しばらくしてロマニが再び映像に現れた。

 

『危篤状態にあった全員の凍結保存が完了しました。今後の予定としては外部に救援を要請し、その間にレイシフトの修理を進め、救援が到着し次第カルデアを再編、所長の帰還と共にミッションを再開する……といったところでしょうか』

「結構。私がその場にいても同じ方針を取ったでしょう。ロマニ・アーキマン、あなたに私が戻るまでカルデアを預けます。その間、私はここにいる者たちと特異点の調査を進めます」

『ええっ!? 救援が来るまで大人しくしているんじゃないんですか!? しかも調査に行く!? 所長自ら!? ビビりなのに!?』

「五回もいっぺんに驚くな! 給料減らすわよ!?」

『ヒィィィ!? 地味に怖いこと言ってる!』

 

恐れおののくロマニを放ったままオルガマリーは言葉を続ける。

 

「この特異点F……冬木には下級の魔物、スケルトンクラスの脅威しか確認できなかった。だからマシュがいれば十分対処可能だと判断したまでよ」

『マシュがいればってそんな……確かにマシュはAチームのメンバーでしたが、肝心のサーヴァントと契約していません。戦力として当てにするのは……』

「問題ありませんドクター。私の状態をチェックして見てください」

『ん? マシュかい……これは!?』

 

『ハレンチすぎる! 僕はそんな子に育てた覚えはないぞ!?』

 

ロマニの言葉にマシュとオルガマリーは凍り付いたように動かなくなった。

 

ここまでピンチの連続であったため言及する余裕がなかったが、今のマシュの格好は戦兎がカルデアで初めて会った時のパーカー姿ではない。

 

盾と同じ深紫の肌に密着するノースリーブのボディスーツ、四肢と腰に装着している装甲には繊細な装飾加工が施されており、防具としてよりも装飾品としての趣が強そうだった。

 

そして何より特徴的なのは、それら全てを足し合わせても競泳水着より少し多い程度の布面積しかないことだろう。

 

「確かに、マシュのあの格好については俺も疑問だったんだよね。戦闘服にしては布地が少なすぎるし、インナーだとしても上から付ける装甲が少なすぎる」

「いや、そんなこと言ってるんじゃないだろ。マシュのあの格好がエ」

「おっと万丈そこまでだ! いいかこの小説は健全なんだ全年齢なんだ! あんまりマシュの格好が性的だとか煽情的だとか露出度が高いとかメタなことを言うんじゃあない!」

「お、おう」

 

戦兎の言葉の意味が分からなくとも気迫に押され頷く万丈。その向こうでは戦兎の言葉に顔を赤らめて俯いているマシュがいた。

 

「コホン……ロマニ、マシュはおそらくデミ・サーヴァントになったんじゃない?」

 

オルガマリーが咳払いを一つ。場の空気をシリアスに引き戻しつつ話を進める。

 

『デミ・サーヴァント……英霊と人間の融合……カルデア六つ目の実験がこの土壇場で成功したと?』

「私が説明します」

 

マシュは己に起きた出来事について覚えている限り説明し始めた。

 

レイシフト前、カルデアの地下ホールにて彼女は爆発に巻き込まれ命の危機にあった。

 

しかし、カルデアがファーストミッションのために事前に用意していたサーヴァントもまた爆発でマスターを失い、消滅する危機にあった。

 

その直前、そのサーヴァントは自身の英霊としての能力と宝具を譲り渡す代わりに特異点の原因を排除するという契約をマシュに持ちかけたという。

 

マシュはその契約を結び、戦兎達を救った戦闘能力を得たのだった。

 

『なるほど、そういうわけが』

「マシュ、あなたに力を譲り渡した英霊は誰なの?」

「……わかりません。彼は私に力を託してすぐ消滅しました。最後まで真名を告げずに……ですので、私は自分がどの英霊なのか、自分の宝具が何なのかさえ分からないのです」

『いや、召喚に応じたサーヴァントが友好的とは限らない以上、マシュがサーヴァントになってくれたことはこれ以上ない幸いだよ。何しろ、全面的に信用できるからね。ですよね、所長?』

「え!? え、ええ。そうね……そうよね……」

 

申し訳なさそうにするマシュに対してロマニはいつもの調子で明るく答える。が、オルガマリーは歯切れの悪い返事を返していた。

 

「なぁ戦兎……」

「何だよ」

「話に全くついていけねぇんだけど……」

「マジでか。駄目だなー万丈は」

「うっせ。そういう戦兎は分かるのかよ?」

「そりゃあ、お前……当然でしょ」

「じゃあサーヴァントって何だよ?」

「……あれだよ、召使い[servant]のことだろ?」

「何で召使いが武器持って戦うんだよ?」

「……」

「……」

「……天才にだって……」

「あ?」

「……天才にだって、分からないことくらい……ある……」

 

一方、魔術の知識ゼロ組である戦兎と万丈は当事者なのに蚊帳の外。話についていけず、完全に取り残されていた。

 

そんな二人のことをマシュが思い出すまで今しばらく時間がかかったのだった。

 

そしてようやく魔術の素人である戦兎達に説明がなされた。

 

まず、何度も話に挙がっている「サーヴァント」とは何か。

 

人類史におけるあらゆる歴史、神話、伝承に登場する人物が大勢の人々に浸透し、信仰を集めることで死後その人物はある種の精霊にまで昇華されるのだという。これを英霊と呼び、人の世の理を守る守護者である。そしてその英霊を召喚し契約を結んで使い魔とする、これをサーヴァントと呼び、契約した魔術師はマスターと呼ばれる。

 

サーヴァントは人間を遥かに超えた力を持ち、一流の魔術師であっても勝てないとされる、まさに最強の意思を持つ兵器であるという。

 

サーヴァントの弱点はエネルギー源である魔力をマスターから供給されているため、サーヴァントはマスター無くして存在し続けることが出来ないことである。

 

サーヴァントは魔術における最上位の存在であり、通常であれば聖杯なくして如何なる魔術師も召喚することは出来ない。しかし、カルデアは大規模なエネルギーリソースの確保と独自の研究成果によりサーヴァントとマスターの双方の合意を持って召喚を可能とするシステムを開発した。それがシステムFateである。

 

『そしてマシュは事前に召喚されていた正体不明のサーヴァントの力を受け継ぎ、人の身でサーヴァントとなった。これをデミ・サーヴァントと呼び、そのマスターは戦兎、君というわけだ』

 

ロマニは画面の向こうから戦兎を指さす。

 

「でも俺はマシュとその契約とやらを結んだ覚えがないんだけど……」

「それは私が強引にマスターと契約を結んだからです。サーヴァントである以上、マスターはどうしても必要だったので……ごめんなさい。勝手なことをして」

 

俯くマシュに戦兎は笑いながら言った。

 

「謝ることなんてない。マシュは俺をマスターとしてサーヴァントになった。そしてサーヴァントになったおかげで命が助かった。そのマシュは俺の命を助けてくれた。つまり、俺はマスターになったおかげで自分の命が助かったってこと。簡単な三段論法でしょ?」

 

マシュの行為を論理的に正当化しつつ言外にありがとうという戦兎の言葉に、マシュは胸を撫で下ろした。そして、この人をマスターに出来てよかったと改めて思った。

 

「合点がいったわ。どうしてあなたみたいな素人がサーヴァントのマスターになれたのか。その令呪を見た時は目を疑ったけど、サーヴァントの側から強引に契約を結んだからなのね」

 

それまで様子を見ていたオルガマリーは戦兎の右手に視線を落としながらどこか安心したような声色で言った。

 

戦兎はオルガマリーの視線の先にある自らの手をみて驚いた。右手の甲にはそれまでなかった何らかの文様が浮かび上がっていたのだ。

 

「おおっ!? 何だこれ?」

「おい戦兎。お前いつの間に刺繍入れたんだ?」

「馬っ鹿! そんなわけないでしょ! こちとら学者でヒーローよ? イメージ崩れちゃうでしょうが!」

 

脇から覗き込んだ万丈にどこかズレた反論する戦兎。そんな二人をよそにオルガマリーの開設は続いている。

 

「それが令呪よ。サーヴァントのマスターの証であり、命令の強制権を示しているの」

「命令の強制権?」

「令呪は基本的に三画で構成されているの。令呪の画を消費することでマスターはサーヴァントに命令できる。この命令をサーヴァントは拒否することは出来ない」

『一種の安全装置だと思ってくれ。さっきも言ったけど、サーヴァントによってはマスターに対して友好的ではない場合、そもそも意思の疎通が不可能な場合もある。そんなサーヴァントの手綱を握るために令呪は必須なのさ』

 

戦兎はオルガマリーたちの解説を聞きながらしげしげと手の甲の令呪を観察していた。

 

「魔術……か」

 

先程目にしたスケルトンも、この令呪も同じ魔術だという。魔術と一口に言ってもその形態は多種多様のようだ。そう言ったところは科学技術と同じなのだなと戦兎は思った。

 

こんな状況でなければゆっくりと話を聞いて研究してみたいものだが。

 

「なぁ戦兎。結局サーヴァントって何なんだ?」

「何だ万丈。さっきの説明で分からなかったのかよ」

「今一ピンとこないんだよ。そもそもいきなり魔術って言われてもわけわかんねぇし」

 

頭をガシガシとかく万丈。しかしそれも無理からぬことであろう。戦兎自身も全て理解できたわけではないのだ。

 

「仕方ない。じゃあ俺が万丈でも一発で分かるように説明してやるよ」

 

戦兎が自信満々で言った。分からない事象があるとき、その理解を助ける方法がある。

 

その言葉にそれまでよそで今後の活動を話し合っていたマシュ、ロマニ、オルガマリーといった魔術組が興味を示した。一体どのような説明をして魔術の素人を納得させるのか。

 

「サーヴァントってのはな」

 

マシュたちも耳をそばだてて戦兎の次の言葉を待つ。

 

「先輩ライダーにゴーストって人がいただろ? あの人の持ってた眼魂、あれが人の姿をしたのがサーヴァントだ」

 

しかし、今度はマシュたちが戦兎の説明に疑問符を浮かべる番だった。

 

先輩でライダーでゴースト? 眼魂? 何だそれと言いたくなるような言葉ばかりが飛び出してきた。それらがどうしてサーヴァントと結びつくのかさっぱり分からない。

 

「なるほど! よくわかったぜ!」

 

だが万丈はその説明で納得したらしい。疑問が解消され晴れ晴れとした表情をしている。嘘や誤魔化しの類ではないようだ。

 

そう、人にものを教えるときはその相手が理解していることに例えればよい。その方法は科学でも魔術でも同じことだ。

 

逆に今度はマシュたちが説明の説明を求めたい気分だったが。

 

なんだよもーそれならそうと先にそう言えよなー

万丈でもわかるように説明したこの天才を褒め称えなさいよ

よっ自称天才物理学者!

馬鹿にも分かるように説明するのは天才の頭脳を持ってしても大変でした

馬鹿って言うな! せめて筋肉付けろ!

 

などと再三(馬鹿みたいに)盛り上がっている二人を見ていると特に深い意味もないような気がしてきた。

 

そも、ここでまた説明を要求すれば説明合戦となってさらに時間がかかるかもしれない。多少他より安全だと言ってもここが戦場であることに変わりはない。それよりももっと優先して打ち合わせなければならないこともある。

 

 

「この際あの二人は放っておきましょう」

 

オルガマリーは戦兎達を無視して話を進めることに決めたようだった。その判断の速さはさすが組織の長とでも言うべきか。しかし、それがロマニには不思議であった。

 

『所長、失礼ですが頭でも打ちました? 普段ならもっと取り乱してヒステリックになっているはずなのに。今日は妙に落ち着いてるというか……』

「どういう意味!? 普段は落ち着いていないとでもいうわけ!?」

 

しまった藪蛇だったか、とロマニはオルガマリーの怒声に備えたが、当のオルガマリーはそれ以上怒ることはなかった。

 

「……別に落ち着いているわけでも何でもないわ。ただ、諦めただけよ」

『諦めた? 何をです?』

 

予想外の答えにロマニは思わず聞き返す。

 

「全てよ……」

 

オルガマリーは自嘲気味に笑った。

 

「カルデアがテロ攻撃を受けるという最悪のアクシデントから始まって。頼りになるレフも精鋭部隊であるAチームもいない。助けに来たと思った奴らは魔術の知識ゼロの素人以下」

 

マシュは別よ、とオルガマリーは付け加えながら戦兎と万丈の方を見やる。視線の先では戦兎が万丈に魔術について教えていた。

 

「せんせー! 魔術と魔法って何が違うんですか?」

「いい質問だね万丈君。君は何が違うと思う?」

「字」

「お約束のボケをするんじゃないよ!」

 

懲りずに繰り広げられる二人の漫才を見たオルガマリーはこめかみを押さえる。どうやら改めて自分の置かれている状況を鑑みて頭痛がするようだ。

 

「こんな危機的状況だって言うのにあの二人はずっとあの調子……魔術も使えない、サーヴァントもマシュしかいない」

 

「あれだけ時間と費用をかけたのに、結局何にも残ってない」

 

「何にもないわ。ないのよロマニ」

 

オルガマリーの様子が徐々におかしくなっていく。

 

「ないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないない何にもない!!」

 

壊れたように、同じ言葉を叫ぶオルガマリー。その様子に少し離れていた戦兎達も驚いて様子を見に来た。

 

「もうこうなったら私がやるしかないじゃない! だって誰も助けてくれないんだもの! 当てにならないんだもの!」

『所長、落ち着いて!』

「大体誰よ! カルデアにテロなんて仕掛けた奴は!? 人類の存亡がかかっているのよ!? 失敗したら人類衰退なのよ!? 他人事じゃないのよ!?」

『お、落ち着いて……』

「何でこんなことに……私が何をしたっていうのよ! お父様の後を継ぐため、私なりに一生懸命やってるのに!」

『落ち着くんだオルガマリー!』

「もうイヤ! 助けてレフ………………………………レフ、死んだんだった……」

 

話している内に溜め込んでいたものが爆発したオルガマリー。ロマニの声も聞こえないほどにヒートアップして行った彼女だったが、最終的には自らの言葉で落ち込むという形で沈下した。

 

意気消沈といった様子のオルガマリー。どんな形であれ、落ち着いたオルガマリーにロマニとマシュは胸を撫で下ろす。そしてそんな落ち込む彼女を遠目から戦兎はじっと見つめていた。

 

 




2018年度すべりこみセーフ!

ビルド最終回を記念して始めたこの小説ですが、自分の想像以上に更新ペースが上がらず、読者の皆様には大変申し訳なく思っています。しかし、来年になっても劇的に更新メースが上がるとは思えないので、読者の皆様には気長に付き合って頂ければと思っています。許して!


それからついにこの小説でも出ましたね、仮面ライダー……ゴースト(の名前が)!

……もうこれライダー詐欺じゃね? でも逆にこのまま行けるところまで行くのもアリなのでは? と思わなくもない今日この頃……嘘です! 許してヒヤシンス!!

来年もよろしくお願い致します! よいお年を!
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