Fate/Grand Order -RE:BUILD- 作:(TWT)
待っていてくれた方(いるかなぁ……)お待たせいたしました。
三行でわかる前回のあらすじ
・オルガマリー所長の素人向け魔術講座
・初めてサーヴァント戦→サーヴァントってチートじゃない?
・万丈のメガトンパンチ!→効果がないみたいだ……
―・―
「出来損ないのサーヴァントに己の分も理解できない馬鹿……聖杯戦争を勝ち抜くにはあまりにお粗末な布陣でしたね。その愚かさを呪って死になさい!」
『そうかい? 馬鹿だ無謀だと言われても敵に向かっていく気概。俺は嫌いじゃないがね』
突如として場に響く新たな声。同時に敵サーヴァントが現れたのと同じ光と共に青い衣装に身を包み、手に魔法使いを連想させる長い杖を持った長身の人物が現れた。
「よう、ランサー」
「貴様……キャスター!」
キャスターと呼ばれたサーヴァントは頭を覆っていたフードを外した。フードの下からは精鍛な顔つきの男がニヒルな笑みを浮かべて現れたのだった。
「なぜあなたが彼らの肩を持つのです?」
「なぜって……そりゃあ、決まってるだろ?」
「お前らよりマシだからだよ!」
その言葉を皮切りにキャスターが指で空中に象形文字らしきマークを描くと、その文字が火の玉となってランサーへと襲い掛かる。火の玉は着弾と同時に爆裂し辺りに爆煙が広がる。その間にキャスターは戦兎達と合流した。
「俺はキャスターのサーヴァント。敵の敵は味方ってわけじゃないが、今は信頼してもらっていい」
「キャスター? それって名前? それとも役職?」
「後で説明してあげるから黙って聞いてなさい!」
戦兎を叱りつけるオルガマリー。
「お前さんがその嬢ちゃんのマスターかい?」
「あ、はい。桐生戦兎と言います」
「なら戦兎よ。お嬢ちゃんとそっちの兄ちゃんのガッツに免じて俺がお前のサーヴァントになってやる。仮契約だがな」
キャスターは戦兎を見据えてそう言った。
「見たところお前も嬢ちゃんも素人だ。なら最初にお前らがやらなきゃならんのは見て知ることだ」
「サーヴァント同士の戦いってやつをよく見てな」
爆煙が晴れ、姿を現したランサーとキャスターが対峙する。
「理解に苦しみますね。肩を持つにしてもなぜあんな素人集団なのか」
「俺の勝手だろ。俺はあいつらが気に入ったんだ」
「まぁいいでしょう。いずれ仕留めるはずだった予定が早まっただけのこと」
「これは聖杯戦争なのですからね!」
その台詞と共にランサーが自らの長髪をすくように広げる。広がった髪はぐんぐんと伸びながらその形を鎖へと変貌させていった。万丈を絡め捕ろうとした不自然な鎖、それはランサーの髪が変化したものだったのだ。
鎖はそれぞれが意志を持つかのようにうねりキャスターへと殺到する。
キャスターは飛び上がり上空へと逃れたが、その動きはランサーに読まれていた。先んじて飛び上がり上を取っていたランサーの槍をキャスターは杖で受ける。地面へと叩き落されたキャスターは受け身を取って着地するが、すぐさまランサー槍が迫る。今度は地面を転がって避けるキャスター。
逃げるキャスターをランサーが追う鬼ごっこが始まった。
「おいおい! あのキャスターとかいうやつ、まずいんじゃないのか? 追いつかれそうだぞ!」
万丈が戦兎の肩を揺さぶる。その隣ではオルガマリーが険しい表情で戦いを見ている。
「当然よ。キャスターとランサーじゃステータスに差があって当然だもの」
「ステータス? 能力なら違いがあるのは当然なのでは?」
全く同じ人間が二人といないように、サーヴァントも個人個人でその能力に違いがあるのは当然なのではという戦兎の疑問にオルガマリーはそういうことではないと言った。
「サーヴァントは与えられたクラスによって本来の能力に補正がかかるの」
「与えられたクラス……さっきから呼んでいるキャスターやランサーとはサーヴァントの名前でなくクラス名?」
「そう。詳しい説明は省くけど、キャスターは魔術師。魔力を扱う能力にプラス補正がかかる代わりに筋力や俊敏性といったフィジカルにマイナス補正がかかる。逆にランサーは槍兵。近接戦闘に必要なフィジカルにプラス補正がかかる」
「それはつまり……」
その説明を聞いた戦兎はオルガマリーと同じような険しい表情になっていく。
「そう。キャスターがランサーと近接戦をするなんて自殺行為よ。元の能力に余程の差がなければ勝ち目なんてないわ」
「では一刻も早く加勢に行かなければ!」
「待つんだマシュ!」
マシュが盾を構えて駆け出そうとするもそれを戦兎が呼び止める。
「キャスターは言った。サーヴァント同士の戦いをよく見て学べと。つまりキャスターには何か作戦があるんじゃないか?」
あえて口に出して伝えなかったのはランサーの前で作戦がばれるのを避けるためだ。そしてキャスターを援護するならその作戦の邪魔をしてはならない。
戦兎はその天才的な頭脳をフル回転させてキャスターとランサーの戦いを観察する。先程から変わらずキャスターは迫りくるランサーの槍を交わして逃げ回っている、ように見えた。
「所長」
「何よ」
「キャスターの基本戦術を教えて下さい。聖杯戦争におけるキャスターの勝ちパターンも」
オルガマリーは戦兎の質問の意図を測りかねているようだが、簡潔に説明してくれた。
キャスタークラスは魔力操作と陣地作成による大規模魔術の行使が強み。陣地作成により自らを強化したり、敵を罠にはめることができる。そのためキャスターはあらかじめ自分に有利になる陣地を作成し、そこで戦うのがセオリーなのだ。
逆に近接型クラスに武器が届く範囲まで近寄られた場合、魔術を行使することが難しくなり負けは濃厚となる。
「(キャスターの言葉を信じるなら、あいつは俺たちを助けに来てくれたことになる。俺たちがこのランサーの狩り場を通ったのは偶然。つまり、この場所での戦闘はキャスターにとって想定外のはず)」
突発的な戦闘ならば事前準備はしていないだろう。ましてやここはランサーの縄張りのようなものだ。リスクを冒して敵のお膝元でわざわざ自分の陣地を作成していたとは思えない。
「(しかし、キャスターが勝つには自陣が必要。となれば考えられるのは)」
キャスターの火の玉を放った魔術。
反撃せず逃げ回る行為。
陣地作成。
これまで集めた情報から読み取れるキャスターの目的とは。
「なるほど。そういうことか」
戦兎の頭の中で全ての情報が一つに繋がった。キャスターの目的、そして作戦のおおよそも予測がついた。
そして戦兎はそこから逆算して自分たちに出来る役割を割りだす。
「マシュ。今から言うことをよく聞いてくれ。作戦を伝える」
勝利への方程式。
それを組み立てるためのパラメータが出揃い、戦兎は高らかに宣言する。
「勝利の法則は決まった!!」
―・―
「逃げるだけで精一杯! 魔術を唱える暇もないようですね!」
逃げ回るキャスターに追い縋りながら槍を振るうランサーが笑った。
このキャスター、キャスタークラスの割に近接での動きが良い。しかしランサーである自分に及ぶものではないとランサーは分析していた。仕留めるのに何の問題もない。
「(やっぱキャスターだと体が重いわ。俺もランサーで呼ばれていりゃあな)」
自分の逸話を考えればランサーとして現界する可能性の方が遥かに高いと思うのだが、何がどうして今の自分はキャスターだった。
「(さて、ここまで仕込みは上々。後の問題は仕上げだけ。だが、そろそろ奴さんも本腰を入れてくる頃合いか)」
ランサーを仕留める目星は付いた。残るは最後の一手のみ。
しかし、その一手が問題だった。キャスターの策を完璧に成功させるにはランサーの動きを一瞬だけでも止める必要がある。
キャスターの策は奇襲に近い。失敗すれば二度目はない。確実に仕留めるためにもランサーの動きを止めるのは必須だ。
「(だが、どうやって止める?)」
キャスタークラスの体ではランサーの攻撃をいなして反撃することは難しい。おまけに敵もそろそろ本気を出してきた。攻撃はさらに激しくなりますます止めることは難しくなってきている。
「もう手がないようですね! これで終わりです!」
キャスターに止めを刺さんとランサーがこれまでで最も早く、魔力の籠った槍を振り上げる。
「(クソッ! こうなりゃやるっきゃねぇか!)」
キャスターは覚悟を決め、槍を受けようと杖を構えた。
だが、ランサーの槍は突如割り込んできた壁に弾かれることになる。
「何っ!?」
「うわあああッ!!」
キャスターとランサーの間に割り込んだマシュの盾がランサーの槍を弾いた。そのまま雄叫びと共にマシュは渾身の力で盾を振るい、ランサーを押し返した。
「小癪な真似を!」
後方へと飛ばされたランサーは難なく着地するとマシュを苦々しく睨む。
「キャスター! 今だ!」
そこへ戦兎の号令が飛んだ。
―・―
マシュがキャスターを庇う少し前。戦兎はマシュら全員を集めて言った。
「おそらくキャスターは闇雲に逃げ回っているわけじゃない」
「キャスターは大きく円を描くように逃げ回っている。そして逃げるときには必要以上に地面を転がっている」
「それはなぜか? おそらく敵にバレないよう自然に手を地面につけるためだ。そしてそれは反撃のための仕掛けのはず」
それが戦兎の観察結果だった。そしてここからが観察結果を元に戦兎が導き出した作戦だ。
「このまま行けばキャスターはあの広場のあの辺りを通るはずだ」
戦兎は逃げ回るキャスターが現在いる場所と自分たちのいる場所の中間辺りを指さす。そこは最初にキャスターが手を付きながら逃げ回り始めた場所だった。
「マシュはそこへ先回りして待機。合図を待ってランサーの攻撃に割り込んでキャスターを守るんだ。キャスターが魔術を使う時間を稼ぐと同時にランサーを遠くへ弾いてくれ」
「狙いはあそこだ」
―・―
「キャスター! 今だ!」
戦兎の号令にキャスターは獰猛な笑みを浮かべる。
「やるじゃねぇか戦兎よ! 魔術素人とは思えんぜ!」
キャスターは手を地面に叩きつけ、魔力を流す。
流し込まれた魔力がスイッチとなり、一瞬で魔法陣が浮かび上がった。
「なっ!?」
「ルーンに詠唱なんていらねぇっての! 勉強し直してきやがれ!」
驚くランサーを笑いながらキャスターはさらに魔力を籠める。魔法陣が赤く輝き、その中心、ランサーの足元から巨大な火柱が立ち上った。
「ぎゃぁぁああ!」
火柱に焼かれ、灰となったランサーの肉体が崩れていく。崩れた肉体は黒い粒子と共に虚空へと消え去った。
―・―
「ふぅ。一丁上がりってな」
杖を掌でくるくると回しながらキャスターが言った。
「嬢ちゃんもよくやったな。ナイスタイミングだった」
「いえ。私はマスターの指示通りに動いただけですから」
「それなんだがよ」
「戦兎よ。お前、俺の魔法陣を見抜いてたのか?」
キャスターは振り返えるとこちらへ向かってきた戦兎へと問いかける。
「いいや。如何に俺が天ッ才物理学者と言っても魔術については素人。そもそも魔法時そのものを知らない俺に見抜けるわけがない」
その言葉にキャスターは目を見開いて驚いた。戦兎の作戦は魔法陣の特性を理解していなければ立てられないものだったからだ。
「だけど所長から聞いたキャスタークラスの特性とキャスターの魔術を見ればおおよその見当は付けられる」
そう言って戦兎は指を立てながら自らの推理を披露し始めた。
「最初に見たキャスターの魔術は空中に記号を描くことで発動していた。つまりキャスターの魔術は詠唱ではなく刻印によって発動するということ」
「そしてキャスターは逃げ回る際に円形に等間隔で手を付いていた。刻印方式の魔術とこの情報を組み合わせれば、それが何らかの魔術の記号を描いているものと推測できる。では何の魔術か?」
「キャスタークラスは陣地作成により戦闘を優位に進めると聞いた。ならば作成しようとするのは陣地の魔術のはず。この状況で発動する魔術は十中八九ランサーを仕留めるための罠。さらに円形であればその中心が最も力が集約すると考えるのが道理」
「よって俺はマシュを円の終点で待機させ、やってくるキャスターを守り、ランサーを円の中心付近まで押し込むよう頼んだ。結果は見ての通り」
以上説明終わり! と戦兎は締めくくった。
「ほう……」
黙って説明を聞いていたキャスターはじろじろと戦兎を頭から足先まで観察している。
「魔術も魔法陣も知らないのによくそこまで考えが至ったもんだと感心するぜ。魔術に関しちゃてんで素人みたいだが……なるほど」
「頭の方はキレるみたいだな」
キャスターは面白そうに笑った。
―・―
「さて、それじゃあ改めて自己紹介とでもいこうかね」
ランサーの狩り場から少し離れた所に街を両断する大きな川を繋ぐ大橋があった。その高架下に移動した戦兎達一行は改めて互いの情報を交換をしていた。
「最初に言った通り、俺はこの聖杯戦争におけるキャスターのサーヴァントだ。仮契約しといて悪いが真名は明かせねぇ」
「真名?」
「そのサーヴァントの本名のことよ。サーヴァントがクラス名で名乗るのは自分の真名を隠すためでもあるわ」
「何で名前を隠すんだよ?」
万丈の疑問にオルガマリーが答えた。
「サーヴァントにとって自分の素性を明かすことはそのまま弱点を晒すことになるからよ」
よくわかっていない戦兎と万丈にオルガマリーがやれやれと言った様子で説明を続ける。
「何回も言ったようにサーヴァントは人々の想念、信仰によって成り立つ存在。そのため人々の持つイメージによってその在り方が決まってしまうことがあるの。だから大抵の場合はそのサーヴァントにまつわる神話や逸話通りの人物として現れるわけだけど、事実はどうあれ伝承通りの人物として現れるということは」
「そうか! 弱点も伝承通りのままってことか!」
戦兎は合点がいったと指を鳴らし、オルガマリーは戦兎の言葉に頷いた。
「どういうことだよ?」
「つまり、仮にお前がサーヴァントになったとするだろ?」
「俺が!?」
「仮にって言ったでしょうが! んで、俺がお前の伝記を書いていたとする。その伝記を元にお前はサーヴァントとして召喚された」
フムフムと聞き入る万丈。
「その伝記で俺はお前が大のプロテイン嫌いだと書いた」
「はぁ!?」
「しかもお前の死因はプロテインアレルギーによるショック死だ」
「おい! 嘘ばっかり書くんじゃねぇ! プロテインの貴公子たる俺がプロテインアレルギーなわけないだろ!」
自他ともに認めるプロテイン好きの万丈は怒り心頭と言った様子だ。
「そうだな。嘘だ」
戦兎はあっさり認めた。
「だけど、もしお前がサーヴァントになったら弱点はプロテインになるぞ」
「はぁ!? 何でだよ!?」
「俺の書いた伝記を読んで大勢の人がお前はプロテインに弱いと思っているからだ」
「マジかよ!? 嘘っぱちなのに!?」
「事実とは違っても、嘘の方を信じる人が多ければそういう弱点がつくんだよ、サーヴァントは」
納得いかねぇとぼやく万丈。戦兎もその気持ちは理解できた。事実とは関係なしに他者の想像や認識によって理屈も原理も蹴飛ばしてありえない現象を引き起こすサーヴァント、そしてそれを成り立たせてしまう魔術。
一科学者として未だに信じられないところがあるが、自分たちよりも遥かに魔術に精通する人間がそうだというのなら認めるしかない。
「もし相手サーヴァントが万丈龍我だと気がついたら間違いなく敵はプロテインを用意する。だってプロテインが弱点だって誰でも読める本に書いてあるからな。だから相手に自分の正体をばれないようにするんだよ」
「まぁそう言うことだ。知名度の高いサーヴァントほどその能力は高くなる。しかし同時に弱点が割れ易くもなる。サーヴァントってのは強力だが、不安定な所も多い。お前さんもマスターなら覚えておきな」
キャスターはそう締めくくった。
戦兎は改めて自らの手の甲に刻まれた令呪とマシュを見やった。
「話を戻すが……まずはそちらの話を聞こうか? 安心しな。そっちの事情に口を出す気はない。召喚された時代に深く干渉しないのがサーヴァントの鉄則だからな」
戦兎達は自分たちの事情を説明した。この街に特異点となった原因を調査しに来たこと、その原因が聖杯戦争にあると推測し山を目指していたことを説明した。
「なるほどね……んじゃあ、今度はこっちの事情を説明しようか。と言っても、どこから話そうかね? いや、俺もこの事態を全て把握しているわけじゃないんでな」
しばらく思案顔を続けていたキャスターだったが、結局よい切り出し口が思い浮かばなかったらしい。
「まぁ、最初からありのままを話すか。どう受け取るかはそっちに任せる」
そう言ってキャスターは事の推移を語り始めた。
「この街で始まった聖杯戦争は最初こそ通常通りだった。7人のマスターに7騎のサーヴァント。聖杯をかけて魔術師がサーヴァントを従えてしのぎを削るってヤツさ」
「7組のマスターとサーヴァント? それはランサーやキャスターのようなサーヴァントが7騎もいるってこと? それは全部違うクラスなのか?」
ようやくキャスターの話が始まったかと思ったが、さっそく戦兎が疑問を投げかける。
「あなたね……少しは黙って話を聞いていられないの? 何回人の話の腰を折るのよ?」
オルガマリーが呆れ顔で戦兎を窘める。
「あー、そっからか。お前さん、本当に何も知らないんだな。そこの姉ちゃん、説明してやんなよ」
「私が? 仕方ないわね」
キャスターに指名されたオルガマリーは仕方ないと言いつつ、戦兎の質問癖にはもう慣れたもので丁寧に説明を始めた。
サーヴァントは召喚の際、クラスというカテゴリーを与えられて召喚される。これは英霊をオリジナルのまま召喚することが不可能であるため、クラスというカテゴリーに当てはまるよう英霊の一部を限定して召喚するためである。クラスは主に七つ。セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、ライダー、アサシン、バーサーカー。他にも例外的なクラスが存在するがそれらはエクストラと括られる。ちなみにマシュのクラスはシールダー。エクストラクラスの一種だ。
聖杯戦争では主である7つのクラスから1騎ずつ召喚され、マスターとサーヴァントのペア7組のバトルロワイヤルが行われる。最終的に勝ち残った1組が聖杯を手にし、願いを叶えられるという。
「つまり、マスターは小型端末で容量が少ないからサーヴァント本体というクラウドサーバーに保存されたビッグデータ全てをダウンロードできない。そのためクラスという特定のカテゴリーに当てはまるデータのみを抽出することで容量を削減してからコピーしてダウンロードする、みたいな?」
説明を聞いた戦兎が内容を噛み砕こうとサーヴァントの召喚を現代のネットワークに例えてみる。
『概ねそれであっているかな。サーヴァント召喚をそんな現代的な例えで説明した人間は戦兎が初めてだろうけどね』
通信先からロマニが苦笑交じりで肯定する。
「でもなんで7騎全てを違うクラスにしなければならないんだ?」
先程の説明の中にはサーヴァントの召喚クラスはほぼランダムであり、早い者勝ちだというものがあった。セイバークラスを召喚したくとも先にセイバーのサーヴァントが召喚されていればもうセイバークラスを召喚することは出来ない。
それではフェアでないし、召喚の際にクラスに当てはめることが英霊の容量削減のためなら別にクラスが重複してもいいのではないか、と戦兎は言っているのだ。
「そこまでは知らないわよ。この聖杯戦争のシステムを最初に構築した魔術師がそう定めたから、としか言えないわ」
とはオルガマリーの談。どうやら聖杯戦争というシステムには制作者しか分からないブラックボックスが多いようだった。
「とにかく、7組のマスターとサーヴァントが揃っていざ戦争開幕となった直後のことだ。一夜にして街が炎に包まれ、人間も大半が消えた。残ったのはサーヴァントだけだった」
「経緯は俺にも分からねぇ。しかし、これは明らかに聖杯戦争とは違うものだとサーヴァント全員が思ったはずだ。一部のサーヴァントは聖杯戦争の中断を提案した。それ位に異質で異常な事態だったんだ」
ところがだ、とキャスターは続ける。
「そんな中で聖杯戦争を続ける奴が一騎だけいた。セイバーの奴だ。奴さん、水を得た魚のように暴れ始めてよ。俺以外の全てのサーヴァントを倒しちまった」
「倒されたサーヴァントは完全に消滅させられたバーサーカーを除いて退去することなく黒い泥のようなものに汚染され、勝手気ままに動き出した。そして汚染されたサーヴァントは精神が狂って狂暴化するみたいでな。お前らも見たランサーも本来ならもう少し穏やかな奴であの程度の罠に易々と引っ掛かるような奴じゃなかったんだが、狂暴化して知能は下がったみたいだな」
おかげで助かったけどよ、とキャスターは続ける。
「黒くなったライダーとアサシンはあんたらと会う前に今度こそ俺が倒した。そしてついさっきランサーを撃破。残るはアーチャーとセイバーのみ」
「つまり、その2騎を倒せば」
「聖杯戦争は終わり、そして大聖杯が現れる。お前さん方が探している異変の原因があるとしたらそこだろうな」
大聖杯、それが特異点の原因として一番可能性の高いもの。
「その大聖杯とやらは聖杯戦争が終わらないと現れないのか?」
「現れない……というよりも起動しない、といったところか。もの自体はあるから調べることは出来る。だが、別の理由でそれは無理だ」
「……その理由は?」
「この土地の心臓、冬木大洞穴の奥に大聖杯はある。そしてそこはセイバーの根城でもある。奴を倒さなきゃ調査は無理だろうぜ」
―・―
戦兎達の目的地は以前変わらないものの、そこへ向かう一行に新たな仲間、キャスターが加わった。
キャスターは霊体化と呼ばれる、幽霊のような霊的存在になり、物理的に干渉されない・出来ない状態になる状態になる能力←ナニソレ?(戦兎談)、サーヴァントの標準的能力を生かして斥候役を務めてくれている。そのおかげなのか今のところ敵に遭遇していない。
キャスター曰く、残った敵サーヴァントのアーチャーは皮肉屋で慎重なヤツらしいく、アーチャークラスらしく遠距離から攻撃を仕掛けてこちらの消耗を狙ってくる可能性があるとのこと。その攻撃手段を聞く限り、戦兎が最初に受けた砲撃もそのアーチャーの攻撃によるものらしかった。
「最も、元々奴の攻撃を防げる盾の嬢ちゃんに俺が加わったから遠距離攻撃を仕掛けても魔力の無駄と判断して待ち構えている可能性もあるがな」
キャスターのその言葉が正しかったのか、道中ではアーチャーの攻撃らしきものは一度もなかった。そうなると洞窟までの道中は非常に安全であり、会話の余裕も生まれてくる。
「そういえば所長ってまだ若いのにカルデアの所長を務めているなんて凄いですよね」
戦兎が会話を切り出した。これまでの道中は警戒のため終始無言であったが、やはり終始無言はつらいものがあった。
「俺は魔術に詳しくないですけど、カルデアが相当な規模の組織であることは分かります」
それは戦兎としては社交辞令のようなもので、会話の取っ掛りになればいいな、程度の意味合いしかなかった。だが、そんな戦兎の言葉をお世辞と捉えたのかオルガマリーはそっけなく返す。
「別に。私はお父様からカルデアを引き継いだだけだから」
素っ気なくそれだけを言って会話を切り上げてしまう。その返答は如何様にも受け取れるもので、そこからオルガマリーの心情を読み取ることは困難だった。
もう何度も同じような質問をされ、その度に同じ返答を繰り返してきたのだろう。その返答はプログラムの応答のように機械的で無感情だった。
それは暗にもう話しかけるな、と言っていることは戦兎にも理解できた。だが、戦兎は空気が読めても興味を優先する男。父親から引き継いだ、という言葉に関心を抱いた戦兎は場の空気を無視して話しかけ続ける。
「父親から引き継いだってことは、カルデアは親族経営の研究所か何かなのですか?」
「そういえば国連みたいな公的組織も関与しているみたいですけど、国連は魔術の存在を把握しているんですか?」
戦兎の質問を聞いても戦兎の先を歩くオルガマリーは答えない。答えるのも面倒だと振り返りもしなかった。
「血族と言えば魔術師の家系ってみんな魔術師なんですか?」
「お父さんがカルデアの先代所長だったんですか? 今どこに?」
「お父さんも魔術師? やっぱり優秀な人だったんでしょうね」
『あ! まずい!!』
次々と質問が飛び出す中でそれを聞いたロマニが通信越しに声を上げた。
何が? と戦兎が返す前にそれまで無視を決め込んでいたオルガマリーが突然反応した。
「お父様は死んだわ」
短く突き放すような返答。その声は震えていた。それは荒ぶる感情を必死に押さえつけようとしているように戦兎には思えた。
空気を読まない戦兎でもさすがにそれ以上踏み込むことは躊躇われた。これ以上の追及は彼女の逆鱗に触れる。オルガマリーに見えないよう、通信ウィンドウの向こうでロマンも手を×の字にクロスしている。
結局それからオルガマリーが口を開くことはなかった。誰も声を掛けられず、全員が黙り込んで荒れた道路を進んでいくこととなった。
―・―
それからしばらく歩いていくと、坂の上に立つ大きな建築物が見えた。どうやら学校のようだった。まるで長い間放置されていたかのように荒れ放題の学校であったが、キャスターの話が正しければこの学校もついこの間まで大勢の若者が通っていたはずである。
「なぁ、少しこの学校で休憩しないか?」
戦兎が提案する。
「ここまで歩き詰めだったし、いざという時のために体力を回復しておかないと」
『僕も戦兎の意見に賛成です。サーヴァントであるキャスターやマシュはともかく、人間である三人は体力に限りがあります。ここなら身を隠せる場所も多いし、雨風も防げる』
戦兎とロマニの言葉にオルガマリーが反論しようと口を開くが、先んじて戦兎が指を立ててそれを制した。
「それに! キャスターの言葉通りならこの学校、ひいてはこの街の施設はついこの間まで通常通り運営していたことになる。ならまだ水道も使えるかもしれないし、学校なら災害時の備蓄食料もあるはず。それを手に入れるためにも休憩しましょう」
戦兎の言葉にオルガマリーは少しの間迷っていたようだが、最後には頷いた。こうして戦兎達一行は学校へと足を踏み入れた。
学校に入るとキャスターは屋上へ偵察と警戒に行き、さっそく戦兎と万丈は学校の備蓄品を探しに出かけた。
「おーい戦兎! あったぞ!」
「お、でかした万丈」
万丈が抱える段ボール箱には携帯食とペットボトル飲料水が詰まっている。戦兎は他から見つけてきたリュックサックに人数分の食料を詰めていった。
「なぁ戦兎」
「ん、何よ?」
別のリュックに食料を詰めながら万丈が話しかける。
「ここって本当に新世界なのか?」
それはずっと気にかかっていたことだった。崩壊直前の世界を再生させるために仲間全員が命を懸けて戦ったはずなのに、新たな世界もまた破滅の危機に見舞われている。
何でこんなことになっているのかと疑問に思うのも当然だった。
戦兎は先に拾っておいた紙とペンにさらさらと文字を書き連ねる。
『そのはずだ』
『それと俺たちの会話は記録されているかもしれないから紙に書くぞ』
万丈は疑問だらけのまま言われた通り筆談に応じた。
『なんで記録されたらまずいんだよ?』
『馬鹿だな。新世界の創造主です、なんて言ったら信じて貰えないどころか頭がおかしい人扱いされるに決まっているだろう』
まるで実体験のように自信たっぷりに宣言する戦兎。そんな戦兎へ万丈が返信する。
『馬鹿←これなんて読むんだ?』
『バカ』
万丈は言葉なく怒りながら力こぶを作ってパンパンと叩いている。どうやら筋肉をつけろ、と言いたいようだ。
『細かい話は後でゆっくりしてやるから。とにかく今は新世界のことは誰にも言うなよ? 前の世界のこともだ』
万丈は事情がよく呑み込めていないようだったが、戦兎の言う通りにすることにした。黙って頷く万丈を見て戦兎もまた神妙に頷いた。
戦兎もまた万丈と同じ不安を抱えている。だが今はこの特異点の問題を解決することが最優先だ。これを何とかしない事には明日を無事に迎えられないのだから。
確かに、今はこれ以上不安の種を撒くべきではない。
特に万丈龍我は割り切ることが苦手のようだし、下手に情報を与えると混乱して危険だ。
だがそれは問題を先送りにしているだけなのを忘れるなよ。
分かっている、と戦兎は呟き筆談に使った紙をビリビリに破いて捨てた。
相も変わらず亀投稿ですが、期待してくれている人がいるなら頑張らないと自分を鼓舞して続きを書いてます。
果たしてFGO二部完結までにこの小説は第一部が終わるのだろうか……
それから少し前のことになりますが、Vシネマの仮面ライダークローズを見ました!
クローズエボルかっこいいなぁ……ストーリーもヒーローとしての万丈の心情が描かれててすごくしっくりきました。
やっぱり戦兎と万丈は最高のバディなんやなって……
龍騎しかりWしかり。ライダーのバディはいいものだ……