Fate/Grand Order -RE:BUILD-   作:(TWT)

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新仮面ライダーゼロワンのPVを見て「ビルド終わってもうすぐ二年か~自分の小説まだ2章も終わってないじゃん……」と凹んでいる(TWT)です。やばいよやばいよ……

相変わらずの亀投稿ですが皆さんお待たせ致しました。今回も仮面ライダー出ません。

この前置きも最早様式美となってしまいましたね(別に美しくもなんともない)

ところでこの作者名の(TWT)って泣き顔みたいだな……


特異点F 01F

 

前回の三つのあらすじ

 

・廃墟となった学校でキャンプするよ

・オルガマリーが悪夢にうなされ、戦兎と父親トークで盛り上がったよ

・立った! 兎オルガのフラグが立ったよ!

 

 

―・―

 

 

「お、こいつでいいか……」

 

校舎棟から少し離れた部室棟の一つ、野球部と書かれた部室から万丈が姿を現した。その手には使い古した金属バットが握られている。

 

「こんなもんでも無いよりはマシか」

 

万丈は手にしたバットを振り回しながら歩きだす。不良っぽい風貌の男が金属バットを振り回すという何とも世紀末な絵面だが、そもそもこの世界が世紀末状態なのである意味お似合いなのかもしれない。

 

校庭脇の道を進む万丈の耳に何やら爆発音が聞こえてきた。何事かと音の方へ視線を向けると、校庭に見知った人影を二つ見つけた。

 

大盾を構えた少女と杖を携えた青年の姿。マシュとキャスターが校庭の真ん中で向かい合って何か話していた。何やら周囲に焼け焦げた跡があり、先ほどの爆発音は二人が発生元だと思われた。

 

「よう。何してんだ?」

「万丈さん」

「よう万丈。ちょっとした実習だよ」

 

そう言うとキャスターはマシュの方へと向き直る。

 

「一旦切り上げようぜ、嬢ちゃん」

「……はい」

「そんな顔するなって。こういうのはぶっつけ本番の方が上手くいくものだからよ」

「……はい」

 

マシュは何やら気落ちした様子だった。

 

「どうしたんだよマシュ? キャスターにいじめられたのか?」

「人聞きの悪いこというな!」

「冗談だって」

 

万丈とキャスターがお決まりのやり取りをしている間もマシュは浮かない様子だった。

 

「おいおいどうした? 何か悩み事か?」

 

俺でよければ相談に乗るぜ! と意気込む万丈にマシュは少し迷ったよう様子だが、少しずつ話始めた。

 

「実は……宝具が発動出来ないんです」

 

手にした大盾をなぞりながらマシュは言った。

 

「宝具の使えないサーヴァントなんて欠陥品もいい所です。こんなことではマスターに顔向け出来なくて……」

 

悔しそうに告げるマシュの脇でフムフムと頷いていた万丈だが。

 

「ところで宝具って何だ?」

 

何も知らずに頷いていた魔術の素人万丈の言葉に肩を落とすマシュとキャスター。

 

「宝具というものはですね。その英霊が持つ逸話や伝説が奇跡に昇華されたもので、宝具によっては限りなく魔法に近いものも……」

「悪い。多分分かり易く説明してくれてるだろうけど、全然分かんね」

 

かつて誰かが言ったような言い回しで万丈が早々に白旗を上げる。

 

「す、すみません! 私の説明が分り辛くて……」

「いや、マシュは悪くねぇよ。俺がもうちょっと頭がよけりゃ…」

「いえ! 私がもっと分りやすい説明が出来れば……」

「いやいや俺が」

「いえいえ私が!」

 

「いや、長いわ!」

 

互いに譲らない万丈とマシュにらちが明かないと思ったのか、ちょっと待ってろと言ってキャスターは目を閉じて何やら集中し始めた。万丈とマシュがキャスターに言われた通り大人しく待つこと十数秒。

 

「……これだな」

 

そう呟いてキャスターが目を開く。

 

「サーヴァントの宝具とは何か。現代の言葉でいうとずばり、必殺技だ」

「必殺技?」

「そう。大雑把に言うと英霊が持つ有名な武器や伝説がそのサーヴァントの必殺技になるんだな、これが」

「確かにサーヴァントの宝具と必殺技はほぼイコールと言えるかもしれません。シンプルながら核心を付いた説明、さすがです」

 

キャスターの説明に感心するマシュ。

 

宝具とはその英霊が生前愛用していた武器、残した伝説や伝承が人々の幻想(信仰)を骨子とし奇跡(魔術・魔法)として再現されたものである。

 

その形状は武器であったり、スキルであったりと千差万別だが、宝具がそのサーヴァントの象徴であることは共通している。

 

「でもキャスターって昔の人間だったんだろ? よく必殺技なんて言葉知ってたな?」

「サーヴァントってのは聖杯を介してある程度の知識を一瞬で学習できるんだよ。さっきは何かいい言葉がないか調べてた」

「資料で呼んだことがあります。サーヴァントの皆さんは聖杯を通してその時代の知識を学習できると。召喚された時代や場所によって言語や常識などは異なりますから、こういったバックアップ機能があるのではないかと言われています」

「つまりいつでもどこでもG〇OGLE検索が出来るってことか」

「万丈さん、伏字が伏字になってないです」

 

マシュにツッコまれつつ、万丈ははてと首をひねる。

 

「じゃあキャスターにも宝具があるのか?」

「もちろんあるぜ」

「じゃあやり方を教えてやればいいじゃん」

 

良いアイディアだと手を叩く万丈だが、キャスターはため息をつきつつ言った。

 

「あのな……サーヴァントにとって宝具ってのは最初から持っている機能みたいなもんだ。本能と言ってもいい。お前も息をする時に一々肺を動かすだの、口を開くだの考えないだろ?」

 

そもそもサーヴァントと宝具はセットであり、宝具が何だか分からない、発動方法がわからないなどということは本来ありえない。宝具発動は教えるものでも教えられるものでもないのだ。

 

「私の武器が盾なので宝具も盾にまつわるものなのではと思い、キャスターさんの攻撃を防ぐ練習をしてみたのですが……一向に何かが発動する気配がなく……」

「何かこう、ハンドルを回すとか、スイッチを押すとかして発動できないのか?」

 

万丈は必殺技と聞いて何やら少し考え込んでいたようだが、やがて腰の脇辺りでクルクルとハンドルを手回しする様な仕草を見せる。

 

「ハンドルにスイッチですか?」

 

マシュは自分の盾を裏返したり、逆さまにしたりと様々な角度から観察するが、当然ハンドルもスイッチも見つからない。

 

「いや、あるわけないだろ。機械じゃあるまいし」

 

律儀に自分の盾を調べるマシュにキャスターが呆れた様子で言った。更にキャスターが万丈の手する金属バットを指さす。

 

「武器と言えば万丈。お前さんが持ってるそりゃ何だ?」

「何って、金属バットだよ」

「聖杯から知識は得ている。それは球技の道具なんだろ? そんなものを何に使うんだ?」

「武器に使うに決まってるだろ。他にいいもんがなかったんだ」

 

金属バットを武器の代わりだという万丈にキャスターは再度呆れた表情を浮かべる。

 

「あのな……どこからつっこめばいいのか……」

「万丈さん……サーヴァントには神秘を纏っていない攻撃は効果がないのです。ただそのバットで殴ってもサーヴァントにダメージを与えることは出来ません」

「え!? ど、どういうことだ?」

 

狼狽える万丈にマシュが説明を続ける。

 

「サーヴァントは霊核を核とし魔力で肉体を構成しています。サーヴァントを倒すには霊核を破壊する必要があるのですが、霊核にダメージを与えることが出来るのは神秘を纏ったものだけです。そのバットは神秘を纏っていないため、いくら殴っても効果がありません」

「???」

 

よくわかっていない様子の万丈にキャスターが助け舟を出す。

 

「つまり俺たちサーヴァントは幽霊みたいなもので、ダメージを与えるには魔力を使ったものじゃなきゃならない。そのバットを魔力で強化できればダメージは通るが、お前には出来ないだろ?」

「それにサーヴァントは人間を遥かに超えた身体能力を持っています。到底人間が太刀打ちできるものではありません。直接闘うなんて、危険なだけです」

 

その言葉に万丈は先に戦ったランサーを思い出した。あんなにも華奢な姿をしていたのに自分の拳が全く効かなかった。それは万丈が魔力を扱えなかったから。しかし、仮に扱えたとしてもその後のランサーの人間離れした動きを考えればすぐに返り討ちにあうことは容易に想像できた。

 

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ……」

 

万丈が呟く。

 

「俺は戦兎みたいに頭がよくねぇ……俺が出来るのは前で体を張る事だけなんだ。それさえ出来なくなっちまったら、俺はどうすりゃいいんだ……」

 

悔しそうに歯噛みする万丈。

 

「万丈さんが直接闘うことにはリスクしかありません。戦闘は私たちサーヴァントの役目です。皆さんは私が守ります」

 

マシュの言葉に納得できていない万丈にキャスターが諭した。

 

「万丈よ。自分の無力さが悔しいのは分かる。戦士にとってそれは屈辱以外の何物でもない」

 

「だがな、自分の力量を弁えて、勇猛と蛮勇を区別できてこその戦士だ。恐れるべきは戦えないことじゃない。無意味に死ぬことを恐れろ」

 

「お前が戦っても無駄死にするだけだ。それは誰も望んじゃいない」

 

万丈はそれ以上反論することはなかった。ただ俯いて手にしたバットをぎゅっと握りしめていた。

 

「そろそろ戦兎達と合流するか」

 

一人にしてやろうと思ったのか、キャスターはそう言ってマシュと連れ立って校舎へと歩き出した。

 

「ドライバー……いや、せめてボトルがあれば……」

 

後に残された万丈は手にしたバットに視線を落としながらぼやいた。マシュらの話を聞いた後ではこのバットもまるで小枝のように頼りなく見える。

 

お前は無力だから後ろに下がって守られていろ。

 

マシュたちが言ったことはつまり、そう言うことだ。それは嫌味で言ったわけではない。純然たる事実として、そして万丈の身を案じての言葉だ。

 

頭では分ってはいる。分っているが、心は、魂は納得していない。

 

「俺は……俺には、何が出来る……?」

 

―・―

 

 

「作戦会議だ」

 

廃校同然となった学校の会議室、その中心に据えられたホワイトボードの前で戦兎が宣言する。

 

「敵の本拠地も近くなってきた。敵の奇襲の可能性もあることだし、落ち着いて話が出来る今のうちにこれからの戦いの作戦を立てよう」

 

そう言って戦兎は机に並んだ面々を見る。

 

出席者は戦兎を入れて6人。

 

万丈、オルガマリー、マシュ、キャスター、そして映像越しにロマニ。それぞれの前には戦兎が発見した飲料水が備えられており、場所と相まって、さながら職員会議のようだった。

 

「まず、キャスター」

「おう」

「お前の作戦を聞こう」

「おいおい。いきなり俺に聞くのか? 言い出しっぺなんだからまずは自分の作戦を言ってみろよ」

 

挑発気味なキャスターの物言いにも戦兎は一切動じず、すぐさま切り返す。

 

「この場で敵サーヴァントの情報を一番持っているのはお前だ。ならお前が立てた作戦が一番成功率が高い」

「ま、そりゃそうだ」

 

キャスターも勿体付けるつもりはないのか、すぐに自分の作戦を明かした。

 

「俺の立てた作戦はシンプルだ。俺がアーチャーの奴を引き付けて戦っている間に、嬢ちゃんがセイバーと戦う。そして俺がアーチャーを倒して嬢ちゃんたちと合流。二対一でセイバーを倒す」

 

数の優位を作って戦う。確かにそれだけ聞けば非常にシンプルだ。だが、今の説明では圧倒的に説得力が足りない。戦兎はすぐに疑問を投げた。

 

「なぜわざわざ二面作戦にする? 最初に全員でアーチャーを倒してからセイバーに向かえばいいんじゃないのか?」

 

当然の質問だな、とキャスターが言う。

 

「その前に俺からも一つ聞く。この戦い、俺たちが勝てるパターンはいくつあると思う?」

 

キャスターのその質問にその場居る全員が答えに詰まる。そもそもその勝ちパターンを見つけるための作戦会議なのだから当然だ。

 

「答えは“俺とお嬢ちゃんが同時に孤立したセイバーに挑む場合のみ”。つまり勝てる可能性は一つだけだ。それ以外の状況じゃ勝ちはない」

 

キャスターはそう断言した。

 

「セイバーを倒すには防御を担当するお嬢ちゃんと攻撃を担当する俺が揃ってなきゃ無理だ。俺一人じゃセイバーの攻撃を凌げないし、嬢ちゃんだけじゃセイバーを倒せるだけの攻撃が出来ない」

「なら、なおさら戦力を集中して一騎ずつ倒していくべきではないの?」

 

オルガマリーの言葉にキャスターは、そりゃそうだと再度頷いた。

 

「だが、さっきも言っただろう? 俺たちの勝ちパターンは俺とお嬢ちゃんが揃っていてなおかつセイバーが孤立していること。逆に言えば向こうの負ける可能性はそれだけだ。そしてそれは向こうも気づいているだろうさ」

 

その場にいる全員が話を飲み込めずにいたが、戦兎だけはキャスターの言わんとしていることが理解できたらしい。

 

「つまり向こうはセイバーを孤立させることは絶対にないということか?」

「そうだ。アーチャーの奴はセイバーの護衛を気取ってやがるからな。俺たちが傍にきた時点でセイバーの傍で待機しているだろう」

「それじゃああなたの作戦も上手くいかないじゃない!」

 

オルガマリーの言葉にキャスターではなく、戦兎が答えた。

 

「でも、それ以上のメリットがあればアーチャーはセイバーの元を離れる」

「え?」

「向こうからすればマシュかキャスターのどちらかを排除できれば勝ちが確定する。こちらが二手に分かれれば誘いに乗ってくる可能性がある、ということか」

 

戦兎の説明にキャスターは頷いた。

 

「そうだ。俺の作戦は向こうにとってもチャンスだ。アーチャーが俺を倒せればよし。そうでなくてもセイバーがお嬢ちゃんを倒せばよし。そしてセイバーがお嬢ちゃんに負ける要素はない。この作戦は向こうのリスクの方が少ないのがミソだ」

「それ以外だと乗ってこないか?」

「こないな。それ以外なら向こうは洞窟の奥で二人仲良くこっちを出迎えてくれるだろうさ」

 

戦兎は悩んでいた。

 

この中で一番戦術に精通しているのはキャスターだ。キャスター以外のメンツは物理学者(天才)、馬鹿(筋肉)、所長(魔術師)、新米サーヴァント(デミ)、医者(ヘタレ)であり、戦術の専門家ではない。だからこそ、自分はキャスターの作戦を支持するのが良いと言ったのだ。

 

しかし、キャスターの作戦はあえて敵に有利な点を作ることで相手を引掛けるというもの。敵にメリットがあるということは、それはそのままこちらのデメリットでもある。

 

「無視できないリスクが二つある」

 

戦兎は表情を曇らせながら言った。

 

「一つは、キャスターがアーチャーに確実に勝てるのかってことだ」

「おや? 俺が負けると思ってるのか?」

 

おどけて見せるキャスターだが、戦兎の顔は強張ったままだ。

 

「キャスターは正面切って戦うことが苦手なんだろ? しかもキャスターはただ勝つだけじゃ駄目だ。キャスターはアーチャーに勝った後、セイバーとも戦わなければならない。つまり、余力を残してアーチャーに勝たなければならない」

 

セイバーを倒すにはキャスターの攻撃力が必要。そのための余力を残してアーチャーに勝利できなければこの作戦は失敗したと同然だ。ただ勝利するよりも遥かに難易度が高いだろう。

 

「……ま、それについては考えてあるさ」

 

その点に関してはキャスターも理解しているのか、対策を考えているようだった。キャスターがそう言う以上、戦兎達は信じるしかない。

 

「二つ目は、マシュだ」

 

そう、キャスターよりもこちらの方が問題だった。最大の懸念事項と言っていい。

 

「作戦通りならマシュは一人でセイバーを長時間相手にしなければならないことになる。キャスターが駆け付けるまで本当に持ちこたえられるのか……キャスターは出来ると思っているのか? その根拠は?」

「そうね……相手は最良と呼ばれるセイバークラスのサーヴァント。いくらマシュが防御に秀でていても、どれだけ持ちこたえられるか……」

 

オルガマリーも戦兎に同調した。

 

セイバークラスは全てのステータスが高水準であることから聖杯戦争において最良と称されるクラスである。高い膂力から繰り出される剣戟、耐魔力による防御、そして必殺の宝具。それらの猛攻にマシュが長時間耐えられるだろうか。

 

「……確証は無い。だが、俺は出来ると思っている」

「なぜ?」

「あの盾だ」

 

キャスターは教室の後ろに立てかけてある盾を指さして言った。

 

「俺の勘が正しければその盾はセイバーに対して有効な武器だ」

「なぜそう思うんだ?」

「アーチャーがお嬢ちゃんを警戒しているからだ。アーチャーはお嬢ちゃんとその盾を警戒して、マスターである戦兎を真っ先に襲った。セイバーとお嬢ちゃんを合わせないために」

「……理由はそれだけか?」

「そうだ。だが、あのセイバーの護衛を気取ってめったに動かない遊びのねぇアーチャーが動くほどだ。それ自体が根拠になると俺は思う」

 

キャスターの話を聞いても戦兎は不安を拭えなかった。物理学者である戦兎からしてみればキャスターの推理は根拠が曖昧で物的証拠がなく、はっきり言えばキャスターの勘でしかない。そんなものを根拠に作戦を決めていいものか。

 

作戦の骨子となるマシュが倒されれば作戦は失敗。サーヴァントと戦う力を持たない戦兎達はその場で殺され、特異点の修復は不可能になる。

 

それゆえに作戦には可能な限り不安要素を取り除きたい。特に根拠のない予測は危険だ。

 

しかし、そんな戦兎の考えを見抜いていたのか、キャスターは続けざまにこう続けた。

 

「そもそもリスクなしで倒せる程、相手は甘くねぇ。むしろこっちは積極的にリスクを背負わなければ勝機を引き寄せられない」

 

「俺はここがリスクの背負い所だと考える。俺たちが勝つためには避けられないリスクだ」

 

重苦しい静寂が会議室に満ちている。

 

キャスターの言うことは分かる。そもそもの戦力差が大きいこの戦いにおいて、戦兎達が勝利するにはリスクを背負う必要がある。

 

しかし、この作戦で最も危険で負担が大きいのはマシュだ。デミ・サーヴァントだからと言っても、ついこの間まで戦闘を経験したことのない少女に一番の重責を負わせることが戦兎には躊躇われた。

 

キャスターも戦兎らの葛藤が分かるのか、何も言わずに事態を見守っている。

 

マシュのマスターは曲がりなりにも戦兎だ。彼が決めなければマシュも動けない。

 

それでも戦兎は決断が下せない。もし、今手元に失った力が、ドライバーとボトルがあれば。そう思わずにはいられなかった。前に出るのが自分であれば、戸惑うことなく決断できるのに。

 

『所長。僕はやはりこの作戦には反対です』

 

この重苦しい沈黙を破ったのは戦兎ではなかった。通信の向こうから珍しくロマニがはっきりと言った。

 

『この作戦はあまりにリスクが大きすぎる。そしてここまでリスクを負ってなお、ようやくセイバーに勝てる可能性が出てくるだけで確実に勝てるわけじゃない』

 

リスクを負う必要があることはキャスターの説明で分かった。しかし、リスクに対するリターンがなさすぎるというのがロマニの意見だった。

 

『それよりもこの学校を拠点に防御を固めて援軍を待つべきです。危険が過ぎるのであれば偵察に留めると所長もおっしゃったではないですか』

 

ロマニの言葉にオルガマリーが眉間にしわを寄せた。確かに彼女は戦兎とマシュの未熟さから特異点探索を始める時に“危険なようであれば原因調査に留め、解決は援軍を待ってから”と言った。

 

言ったが、本音を言えば特異点解決まで持っていきたいと思っている。それは後々追及されるだろうカルデア爆破工作に対して反論できるだけの功績を立てておきたいからだ。

 

だが、死んでしまっては元も子もない。そしてオルガマリーから見てもキャスターの作戦よりもロマニの案の方が確実だと思われた。それは戦兎も同じようでオルガマリーの様子を伺っている。

 

「お前らがこの作戦に乗らないのであれば、俺はそれでもいい」

 

全員の思惑を見透かしたかのような言葉に再び全員の視線がキャスターに集まる。

 

「確かに援軍が当てにできるならそれを待っていた方が安全で確実だ。だがその場合、俺はまた単独行動に戻らせてもらう。お前たちと違って俺には悠長に援軍を待っている時間がないんでな」

「時間がない?」

 

予想外の理由に戦兎が聞き返した。

 

「聖杯戦争は開催期間が決まっている。開催期間である2週間の間だけ、サーヴァントは聖杯によって召喚され、現界できる。そして2週間の間に誰も聖杯を手にできなければ勝者がいないまま聖杯戦争は終結する」

 

冬木の聖杯戦争はおよそ60年周期で行われてきた。そして過去の聖杯戦争において勝者が出ないまま、誰も聖杯を手にすることがないまま終結したこともあったらしい。

 

「今日までに既に11日経過している。残りあと3日の間に聖杯を手にできなければおそらくセイバーが勝者になる。お前さんらの援軍とやらは3日の間に来れるのかい?」

『それは……無理だ。救援は要請しているけど、救援部隊の編制や移動だけでどれだけ時間がかかるか……』

 

ロマニは既にカルデア外部に救援信号を出しているものの、未だに反応がない。仮にあったとしても希少なレイシフト適正とマスター適正を兼ね備えた人材を集めるだけで相当な時間を取るだろう。そこに移動など諸々の時間を加算していけばどんなに早くとも1,2週間は下らないことは明らかだ。

 

援軍を待っていたら聖杯戦争が終結してしまう。この特異点の原因が聖杯戦争にあるのなら、一番怪しいのは聖杯そのものだ。しかし聖杯戦争が終われば聖杯の調査が不可能になり、特異点解決の方法が失われる可能性もある。いや、そもそも聖杯戦争が終結した後の特異点がどうなるのかも分からない。特異点もそのまま残るのか、それともそのものが消滅するのか。その場合特異点内部の戦兎達はどうなるのか。

 

特異点解決を優先するなら3日以内に聖杯をセイバーから奪う必要がある。その場合、リスクを承知でキャスターの作戦にのる必要があるだろう。

 

安全を優先するなら援軍を待ってこの学校に籠城することになる。ただし援軍の到着は聖杯戦争期間に間に合わず、聖杯戦争はセイバーの勝利で終わる可能性が高い。その場合、特異点そのものがどうなるのか分からない。

 

任務か、安全か。二つに一つ。

 

最終判断はカルデアトップのオルガマリーに委ねられる。カルデアのトップとしてのオルガマリーは特異点解決を優先しなければならない。しかし、そもそも任務達成が困難だからこのような会議を行っているのだ。結局話は堂々巡りして最初に戻ってきてしまった。

 

すなわち、 “キャスターがアーチャーを倒して到着するまでマシュがセイバーを抑えておけるのか”

 

「やれます」

 

誰もが沈黙している中、控え目でいて、強い意志を感じさせる言葉が響く。

 

「キャスターさんが到着するまで、命に代えてもセイバーを抑えてみせます」

 

だからやらせてください。

 

そう、マシュの瞳が戦兎に訴えかける。

 

「だけどマシュ……お前、必殺技が使えないって……」

 

万丈が心配そうに言った。

 

「必殺技?」

 

戦兎が怪訝そうに言った。戦兎はオルガマリーと共に保健室にいたため、万丈らが校庭で話した内容を知らないのだ。

 

そしてマシュたちから最初と同様の説明がなされた。すなわち、サーヴァントの持つ宝具。そしてその宝具をマシュは発動出来ない事についてだ。

 

「なるほど……宝具か」

「マシュ……何でもっと早く言わなかったの?」

「すみません……」

「でも確かに……宿した英霊の正体が分からないんじゃ、その可能性は十分に考えられたわね」

 

マシュが宝具を発動できないことを知った戦兎とオルガマリーは難しそうに顔をしかめて言った。

 

宝具が使えないことは大きなディスアドバンテージだ。サーヴァント同士の戦いにおいては宝具の撃ち合い、宝具合戦は定番と言ってもいい。特にマシュはセイバーを単騎で抑えなければならない。如何様な宝具かは分からないが、使えないことは深刻な問題だった。

 

「キャスターはマシュが宝具を使えないことを知っていてなお、この作戦を考えたのか?」

 

戦兎は鋭い視線をキャスターに向ける。当のキャスターは涼しい顔をして言った。

 

「そうだ。この問題は時間をかければ解決する問題じゃない。極限状態、ぶっつけ本番の方がかえって上手くいく」

「そんなのは論理的じゃない!」

「これは在り方の問題だ。サーヴァントにとって宝具とは本能。本能が呼び起こされるようなことが起きれば、宝具はおのずと目覚める」

 

「お嬢ちゃんの本能が刺激される時ってのはいつなんだろうな? 相手を完膚なきまでに叩き潰したいときか? それとも……」

 

そう言ってキャスターは人差し指を戦兎に突き付ける。

 

「誰かを守るときか?」

 

その言葉と同時に戦兎は全身に悪寒が走った。まるで銃口を向けられた時のような感覚。よくわからないが撃たれると戦兎は思った。

 

「……なんてな。冗談だよ。そう睨むなってお嬢ちゃん」

 

戦兎を守るため並んでいた机をなぎ倒して前に出たマシュにキャスターは手のひらをヒラヒラと振り、何もないことをアピールする。

 

それを見てマシュも盾を下した。

 

「マスター。私たちの役目はこの特異点を解決すること。それは私にサーヴァントとしての能力を譲った英霊の願いでもあります。やりましょう」

 

マシュの決意はこの場にいる誰よりも固いような気がした。それは責任感というよりも自らの役目への強いこだわりから来るように思えた。

 

マシュの固い決意を聞いた戦兎はオルガマリーの方へと目を向ける。オルガマリーはその視線を受けて頷いた。

 

「分かった。キャスターの作戦に乗りましょう」

『所長!? 本気ですか!?』

「仕方ないでしょう? 私たちの目的は特異点の解決。その原因が聖杯に関係しているならその解決は聖杯戦争中でしか出来ない可能性がある。そして援軍を待っている時間はない。それならキャスターの協力が望めるうちにやるしかないでしょう」

 

それはそうですけど、と不安そうなロマニの声。

 

「だけど宝具が使えないのは問題ね……ちょっと戦兎。あなたキャスターの魔術の的になりなさい」

『「ええ!?」』

 

突然のオルガマリーの提案に素っ頓狂な悲鳴をあげる戦兎とロマニ。

 

「マスターを守るために宝具が発動するかもしれないじゃない」

「所長……いくら何でもそれはちょっと……」

「冗談よ、さすがに」

 

確かに一理あるがあんまりな提案にマシュが困惑しながら反対すると、オルガマリーはすぐに薄く笑みを浮かべて冗談だと返した。

 

『ねぇ戦兎……所長、どうしちゃったんだろう? 所長ってあんな冗談言える人間じゃないはずなんだけどなぁ……もっとこう、余裕なくてヒステリックでさ』

「ロマニ。減奉2ヶ月」

『ヒィィィ!?』

 

そんなロマニとのやり取りの後、オルガマリーは再びマシュの方へ向き直って言った。

 

「じゃあ、宝具に名前を付けましょう」

 

オルガマリーの提案にキャスターを除く全員がきょとんとした表情を浮かべる。

 

「名前……ですか?」

「矛盾するみたいだけど、仮の真名をつけることで真名解放による宝具発動を模倣するのよ。ルーティーンワークのように集中力を高めたり、魔力形成の助けになる」

「宝具ってやっぱり名前を叫ばないといけないのか?」

 

万丈の質問にキャスターが答える。

 

「宝具による。宝具にも色々と種類があってな。装備型、常時発動型、スキル……形態は様々だが、多くの宝具はその真名を呼ぶことで最大の力を発揮する。一種の宣誓だな」

 

へぇと戦兎と万丈はキャスターの説明を聞いていた。彼らにとって必殺技は自分で叫ぶものではなかったので興味深い話であった。

 

「で、肝心の名前はどうするんだ?」

「もう考えてあるわ」

 

何やら自信あり気にオルガマリーがほほ笑む。

 

「『人理の礎(ロード・カルデアス)』……なんてどう?」

 

宝具の主であるマシュが所属する組織の名を冠し、組織の理念を体現した名前。

 

人類の歴史を守る力となれ。その願いの込められた名だった。

 

「素晴らしい名前だと思います。私にはもったいないくらいです」

「俺は力のあり方を示す、いい名前だと思う。使わせてもらったら?」

「……そうですね。人理の礎(ロード・カルデアス)、拝命致します」

 

そんな願いの込められたその名をマシュだけでなく戦兎もいたく気に入ったようだった。ただ一人万丈だけは。

 

「えー? 必殺技にしては地味じゃねぇ? もっと強そうな名前にしようぜ! 『スーパーダイナミックドラゴンフィニッシュ』とかどーよ?」

 

などと反対したものの。

 

「「「それはない」」」

 

大体攻撃型宝具じゃなかったらどうするんだ?

サポート型宝具かもしれないのにフィニッシュとかないわ。

ていうか、馬鹿っぽくない?

バカっぽいネームは却下で。

ところで宝具って盾を使うの?

 

などと、ボロボロに言い負かされてスゴスゴと引き下がった。

 

こうしてマシュの宝具名は『人理の礎(ロード・カルデアス)』に全員一致で決まったのだった。

 

「ではこれよりカルデアはキャスターの作戦に協力し、セイバーを打倒。聖杯の確保を最終目標とします。出発は6時間後。それまでは自由とします。以上、解散」

 

 

―・―

 

 

「よう。ちょっといいかい?」

 

作戦会議の後、各々が最後の自由時間を過ごす中、オルガマリーは一人で学校の屋上へと上がった。そこで彼女は集めておいた手のひら大の小石に何やら記号を刻み始める。

 

一つ、二つと作業を進めている中で、キャスターが彼女の元へ訪れたのだ。

 

「何よ? 今忙しいんだけど」

 

手を止めずにオルガマリーが素っ気なく返した。

 

「……ほう? 小石にルーンを刻んで簡易的な護符に……一種のエンチャントだな。お前さん、ルーン魔術も使えたんだな」

 

キャスターが小石の一つを拾い上げて面白そうに言った。

 

「んでこれは……ちょっとした衝撃で発動するように組んである……なるほどねぇ。これなら魔術の使えない戦兎達でも使えるな?」

「別に。何だっていいでしょ?」

「照れんでもいいだろ? いい上司じゃねぇか」

 

カラカラとキャスターが笑う。オルガマリーはフンと鼻息を荒くしながら小石を積み上げていった。

 

「お? こっちのは違う術式だな……ほう? 衝撃を与えると光と音が出るのか」

「ちょっと! あんまりいじらないでくれる? あなたの魔力にあてられて暴発するかもしれないでしょう?」

「そんなヘマはしねぇよ。それにこの術式もよく出来てるし、暴発もしないだろ」

「それはどうも。ルーンの元祖に褒めてもらえるなんて光栄ね」

 

作業をする手を止めることなくオルガマリーは小石に魔術式を刻んでいく。その手際はルーン魔術の使い手であるキャスターから見ても中々の腕前だった。

 

「しかし……お前さんも不思議な奴だな」

 

キャスターはしげしげとオルガマリーを見ていった。

 

「魔術の腕前も魔術回路も一級品なのに、マスター適正だけないなんて。何かの呪いかい?」

「……用が済んだのなら帰ってくれる?」

 

どうやらこの話題はタブーみたいだなと、あからさまに機嫌が悪くなったオルガマリーを見てキャスターは思った。

 

「用はちゃんとある。セイバーの件だ」

「それならさっき散々話し合ったでしょう?」

「あの場では言わなかった情報がある……セイバーの正体とかな」

 

その言葉にオルガマリーの表情が凍り付く。

 

「セイバーの真名を知っているの!?」

「ああ……奴の宝具を見れば、誰でもその正体に行き着く」

 

キャスターの脳裏にはかつて見たセイバーの宝具が焼き付いている。セイバーが聖杯戦争を続行し、再開の狼煙代わりとでも言わんばかりにバーサーカーをその宝具を持って滅したのだ。

 

「王を選定する黄金の剣……その二振り目。星の光を束ねるとされる、おそらく最も名が知れた聖剣」

 

「エクスカリバー。それが奴の宝具だ」

 

その名を聞いた瞬間、オルガマリーの表情は凍り付いた。

 

「っ!? エクスカリバーということは……そのセイバーは……」

「そう。騎士の王と誉れ高いアーサー王だ」

 

なんてこと、とオルガマリーは呟いた。

 

「もしそうだとしたら最高レベルのセイバーじゃないの……こんな大事な情報をなぜ作戦会議で言わなかったの!?」

 

アーサー王はブリテン、今のイングランド地方発祥の騎士の英雄譚、その主人公だ。全世界で今も親しまれる物語の数々によって知名度は神話の神々にも匹敵する。当然、そのアーサー王のサーヴァントとなれば、その能力は最高レベルになるだろう。

 

「告げなかった一番の理由はお嬢ちゃんを気負わせないためだ」

「マシュを?」

「アーサー王に所縁のある盾の逸話を持つ者、それも英霊になれそうなヤツとなればそれなりに絞り込める。現にお前さんもいくつか心当たりがあるんじゃねぇか?」

「……そうね。ならマシュに―」

 

オルガマリーが自分の思いつく限りの候補をマシュに伝えようとすると、キャスターがそれに待ったをかける。

 

「それがよくないから、俺はこの話題に触れなかった」

「……どういうこと?」

「何度も言っているが、宝具とはサーヴァントの本能だ。宝具はサーヴァントの本能によってのみ解放される。極論だが、その者の真名や正体は宝具発動には一切関係ない」

 

「そして下手に自分の源である英霊の正体を意識すると、かえって本能の解放を妨げる恐れがある。あの英霊ならこうあるべき、ああしなきゃなんて考えは邪魔なだけだ。お嬢ちゃんは自分自身の内側に目を向けなきゃならねぇ」

 

マシュに思い込みや先入観を持たせてはならないと、キャスターは言った。

 

「……なら、なぜ私に教えたの? 私がこっそりマシュに教えるかもしれないわよ?」

「お前さんが唯一の魔術師で、あいつらの上司だからな。一応、筋は通しておかねぇと。それに、戦兎達に礼装を作ってやる姿を見て確信した。お前さんはあいつらに必要なものが何なのか考えられる奴だってな」

 

サーヴァントとはいえ、他人にこうも褒められると、嬉しいやら恥ずかしいやらでオルガマリーは背中がむず痒い思いだった。

 

「ところでよ……お前さん、戦兎と寝た?」

「…………はぁ!?」

 

だが次の瞬間、キャスターの言葉にオルガマリーは思わず叫んでしまった。

 

「な、何でそうなるのよ!?」

「いや、だってなぁ……今のお前さんはこの学校に来る前と比べて大分雰囲気が丸くなったっていうか、明るくなったからよ」

「それが何で戦兎にだ、抱かれたことになるの!?」

 

顔を真っ赤にして慌てるオルガマリー。魔術師の癖に初心な奴だなとキャスターは思った。

 

「だってお前さんら、この学校の寝室で長い間二人きりだったじゃねぇか。若い男女が寝室で長時間二人きりなんてそれしかないだろ?」

 

保健室での一件を言っているらしいキャスターの言い分に声にならない言葉をパクパクと発し続けるオルガマリー。

 

「あ! 安心しろよ? 覗きなんて野暮なことはしてねぇ。逆に人払いの結界を貼ってやったぜ。おかげであの通信先の軟弱男も何があったのか把握してねぇはずだ」

 

とてもいい笑顔でグッと親指を立てるキャスター。

 

「いい加減にして! あなたが考えているようなことは一切ないから! 私たちはちょっとした身の上話をしていただけなんだから!」

 

あの時はちょっと弱気になっていただけで普段はあんなことはないんだから確かに今まで私個人を見て話をしてくれる同年代はいなかったからちょっとは嬉しかったけどでも私とあいつじゃ立場が違いすぎるしああでもお父様の話を聞いてくれて嬉しかったなぁ私たち共通点があったから話し易かったし共感出来て気持ちが楽になったのは本当だけどだからと言って私があいつに惚れるなんてことは絶対にありえないから勘違いしないでよ大体―

 

「お、おい! 分ったから落ち着けって!」

 

凄い勢いでまくしたてるオルガマリーにたじろぐキャスター。

 

「とにかく! 私と戦兎はそういう関係じゃないから!」

「分かったよ! 俺が悪かったって!」

 

口では謝りつつ、“なんでぇつまんねぇの“などとボヤくキャスター。

 

「大体貴方ね……貴方の生きていた時代ならともかく。現代で女性にそんな話をしたらセクハラって言う犯罪になるんだからね!」

「マジかよ!? 窮屈な世の中になったもんだなぁ……」

 

自分が生きた時代と現代の貞操観念の違いにキャスターは目を丸くした。

 

「まぁ事の真偽は置いておくとして」

「ないから! 絶対ないから!!」

「このメンツじゃお前さんが一番危なっかしかったからよ。気になっていたんだが、この調子なら大丈夫そうだな」

「私が? 戦兎や万丈龍我の方がよっぽど危険だと思うけれど。知識と自衛手段を持っている私と違って、マシュに頼る以外に彼らに身を守る術はないのだから」

 

オルガマリーには豊富な魔術知識と不得手ではあるものの攻撃用の魔術も身に着けている。知識もない、魔術も使えない戦兎と万丈と比較して例えるなら、一般人と武装した軍人位に差があると言ってもいい。

 

「危なっかしいってのはそういう意味じゃねぇよ。何つーか……余裕? 戦場で真先に死ぬのは追いつめられて動けなくなった奴だからな」

 

肉体的であれ、精神的であれ人間は追いつめられると固まってしまう。体が強張り、思考が止まり、何もできなくなったものは一瞬の判断が生死を分ける戦場では生き延びられない。

 

「戦兎と万丈は確かに魔術師としては素人以下だが……おそらく少なくない修羅場をくぐってきているはずだ。だからあいつらはこの異常事態でも落ち着いている」

「修羅場……?」

 

オルガマリーの頭に戦兎の語った過去に出てきた“侵略者”という言葉が連想される。

 

「その点、お前さんは余裕なんて欠片もなくて。初めて見た時から“あ、こいつ絶対早死にするわ”って思ったもんだが……」

「ちょっと!?」

「この様子なら、心配なさそうだな」

 

この短い間に何があったのか、オルガマリーの雰囲気は随分と明るくなった。気持ちが前向きになったことで活力と彼女本来の聡明さが戻って来たのだ。

 

もっとも、短期間でがらりと雰囲気が変わったからこそ、キャスターは所謂“男女の関係”があったのではないかと疑っているのだが。そこらの感性はやはり古い時代に生きたもの。今とは違う貞操観念の持ち主だった。

 

「何はともあれ、明日は決戦だ。何が起こっても最後まで諦めるな。諦めなければ、何かが起こるもんだからな」

「何よそれ。精神論で上手くいけば苦労はないわ」

「いやいや。これは三日三晩戦場で粘った実体験からの助言だ。覚えておいて損はないぜ」

 

他ならぬ英霊の言うことならば、きっとそうなのだろう。オルガマリーはキャスターの言葉を頭の隅っこに留めると作業に戻った。

 

全ては明日決まる。

 

何としてもこの異変を解決して、そして歩み出すのだ。新たな自分の目標に向かって。自分の願いを叶えるために。

 

 

 




毎度のことですが……今回も話が進まないな!? ついでにライダーも出ない!? 何だこれ!?

お、落ち着け。今回は解説回。アニメで言う作画班の休み、SLGでいう戦略フェイズ、スパロボで言うインターミッションだ。

ここで力を蓄えて伏線を貼ってこの先への期待を膨らませるんだ……そうに違いない……そうでしょ……?

そういうことにして下さい。お願いします……


ところで私の小説でのオルガマリーさん有能だなぁ……これはもうヒロインですわ。兎オルガが流行りますねきっと。

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