アタシは二代目グラントリノ   作:ag260

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2:個性把握テスト

「それじゃ、行ってきます」

 

雄英高校から電車で数駅離れた、住宅街の一人暮らしには十分な広さを持ったアパート。

雄英に通うために一人暮らしを始めたアタシは、出掛けの言葉に対して返事がないことに若干の寂しさを感じながら家を出た。

 

「あら、空音ちゃんおはよう」

「大家さん!おはようございます!」

 

アパートを出たところで会ったのはこのアパートの大家さんであるお婆さん。

アタシが雄英に通うために一人暮らしを始めたと知ったら、夕飯のおかずとかを分けてくれるようになった優しい大家さんなんだ。

 

「今日から学校かい?」

「はい、今日が入学式なんです!」

 

そう、今日からとうとうアタシの高校生活が始まる。

そのせいで昨日は興奮でなかなか寝付けなかったほどだ。

 

おじいちゃんに知られたらまた小言を貰いそうだけどね。

 

「じゃあ、大家さん。行ってきます!」

「気を付けてね」

 

大家さんに手を振りつつ、駅に向かって歩き出す。

電車に揺られること二十分弱、最寄り駅についてから少し歩くと大きな雄英の校舎が見えてきた。

 

「入試のときも思ったけど、やっぱり大きいなぁ」

 

校門前から校舎を見上げる。

ここが日本最高峰のヒーロー育成校か…。

 

「よし!気合入れていくよ!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「一年A組…。ここか」

 

自分の教室の前にたどり着いたアタシは少し緊張しながらドアに手をかけた。

 

「お、おはよー」

 

恐る恐るといった風になっちゃったけど挨拶しながらドアを開けると、すでに教室に居にいた数人の生徒の視線が一斉にこっちに向いた。

 

せ、せめて何か反応してよ!

そんなアタシの内心を読み取ってくれたのか、ピンク色の髪と肌が特徴的な女の子が笑顔で話しかけに来てくれた。

 

「おはよー!私、芦戸(あしど) 三奈(みな)!女の子同士よろしくね!」

「三奈ちゃんね。アタシは飛風 空音!こっちこそよろしく!」

 

元気いっぱいな三奈ちゃんについアタシもはしゃぐ様に自己紹介を返してしまった。

むむむ。なんだか三奈ちゃんとはすごい気が合う感じがするかも!

 

「でも良かったー。ヒーロー科って女子少なさそうだったから不安だったんだよねー」

「アタシもー!」

「すげぇな女子は。もう打ち解けたのかよ」

 

アタシが三奈ちゃんと話していると、赤い髪を逆立てた男子生徒が話しかけてきた。

 

「俺は切島(きりしま) 鋭児郎(えいじろう)!よろしくな!」

「切島と私は同中なんだよ!」

「アタシは飛風 空音。よろしくね切島君!」

 

入学早々出来た友人と話していると、その後も続々と人が教室に入ってくる。

女子や数人の男子生徒との自己紹介を終えて、そろそろ時間になろうかという時

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

ドア付近からそんな場の空気を凍らす声が聞こえてきた。

…え?誰あの寝袋の人?

切島君と三奈ちゃんも突然現れたその人に呆然としている。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

 

なんか、集会で先生が言いそうなこと言い始めたんだけど。

 

「担任の相澤(あいざわ) 消太(しょうた)だ。よろしくね」

 

まさかの担任!?

 

「早速だが体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

アタシやほかのみんなが驚きで固まっていると、相澤先生は雄英の体操服を取り出し差し出す。

そして用件だけ言うと、さっさと教室を出て行ってしまった。

 

「…とりあえず女子は更衣室行こっか」

 

呆気にとられたアタシたちは、とりあえず先生の言う通り着替えるために更衣室へ向かう。

 

「それにしても体操服に着替えて何するのかな?」

「うーん、入学式にこの格好で出るってことはないと思うけど…」

 

体操服に着替えながら三奈ちゃんとこれからのことを話すが、さっぱり分かんないや。

 

「体操服でグラウンドってことはレクリエーションか何かじゃないかな?」

「あぁ、ありえそうだね」

「もしくはまた入学試験みたいなことやらされるとか?」

「ええ~。さすがにそれはないでしょ」

 

まぁ、アタシも言っててそれはないって思ったけどね。

さすがに入学初日に抜き打ちでそんなことしないでしょ。

 

「ま、行けば分かるか」

「そうだね。ここで考えてても仕方ないって!」

 

着替えを終えてグラウンドに出るとすでに相澤先生が待っており、アタシたちは少し急いで先生の前に整列する。

 

「集まったな。今から個性把握テストを行う」

「「「「「個性把握テストォ!?」」」」」

 

フラグ回収早いよぉ。

入学式をすっ飛ばして行うテストにほぼ全員が驚きの声を上げた。

騒ぐ女子もいたが、先生はその意見をそんな悠長な暇はないと封殺する。

 

そして説明されたのは個性解禁での体力テスト。

デモンストレーションで爆豪と呼ばれたつんつん頭の男子生徒が、個性を使ってソフトボール投げをするように指示される。

 

「死ねぇ!!」

 

え?なに今の掛け声…。

ヒーローを目指すものとは思えない掛け声とおそらく爆豪君の個性である爆発とともに投げられたボールはぐんぐんと距離を伸ばしていく。

 

「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を作る合理的手段だ」

 

そう言って先生が持っていた端末の画面を見せると、そこには『705.2m』と先ほどのソフトボール投げの記録が表示されていた。

 

「す、すげぇえ!」

「700越えってマジかよ!」

「個性思いっきり使っていいなんて面白そー!」

「さすがヒーロー科!」

 

表示された記録にアタシを含めみんなが歓声をあげると、相澤先生の眼差しに剣呑な光が帯びた。

…なんかマズい感じになっちゃったかな?

 

「…面白そうか。ヒーローになるための三年間をそんな腹積もりで過ごすつもりか?」

「…え?」

「よし、トータル成績が最下位の者は見込みなしとして除籍処分としよう」

「「「「「ええええええええ!?」」」」」

 

う、嘘ぉ!?

こんな所で除籍処分なんて食らったらおじいちゃんになんて言われるか。

そ、想像しただけでも恐ろしい!

 

「最下位が除籍って、理不尽すぎる!」

「まだ初日ですよ!?」

(ヴィラン)、災害、大事故。そういう理不尽(ピンチ)を乗り越えてのヒーローだ」

 

生徒たちから非難の声が上がるが、相澤先生は顔色一つ変えずに淡々と告げる。

 

「『Plus(さらに) Ultra(向こうへ)』さ。さぁ、乗り越えて見せろ」

 

相澤先生の意志が曲がらないと分かるとみんなの表情がグッと真剣なものになる。

でも何やら一人、顔色を真っ青にしたもさもさ髪の男子がいるけどどうしたんだろ?

 

「では、50メートル走から二人づつ測定する。呼ばれた奴から用意しろ」

 

おっと、ほかの人に気を取られてる場合じゃないな。

まずは自分のことに集中しないとね。

 

「次、常闇と飛風。用意しろ」

 

次がアタシの番。

今までの人たちで最高タイムは眼鏡をかけた飯田って男子で3.04秒か。

すごい記録だけど、この競技じゃ負けれないんだよね!

 

『ヨーイ』

 

測定機械から声が聞こえるとアタシは大きく息を吸った。

 

『START!』

 

そしてスタートの合図と同時に吸った空気を勢いよく足の裏(・・・)から噴射する。

反動によって前に飛び出したアタシの体はすさまじい勢いで50メートルを飛び抜けた。

 

『2.14秒!』

 

やった、良いタイム!

 

「すごーい!今のが空音の個性!?」

 

アタシの測定が終わると三奈ちゃんが興奮した様子で詰め寄ってきた。

 

「そうだよ。アタシの個性は『ジェット』!足の裏から吸った空気を出して高速移動できるの!」

「おお~。カッコいいね!」

「へへ、ありがと!」

 

第二種目は握力測定。

ここではアタシの個性を活かせないから普通に測って43キロ。

まぁ、おじいちゃんに鍛えさせられたからこのくらいはね。

 

第三種目は立ち幅跳び。

これはアタシの個性がぴったりだね!

 

最初のジャンプと同時に個性を発動。

文字通り一飛びする。

記録は54メートル。

 

第四種目は反復横跳び。

これは個性を弱めて使い、少しだけ体を加速させる。

記録は55回。弱めで使ってるとは言え、連続使用はちょっと辛いかな。

 

そして第五種目のソフトボール投げ。

ここはちょっと一工夫してみた。

 

助走距離をとれるならまだしも、円の中から単純に投げるんじゃアタシの個性はあんまり使えない。

だから、空気の噴射で勢いをつけた足で思いっきり蹴り上げる!

 

豪快に蹴り飛ばしたボールは手で投げるよりも断然強い勢いで吹き飛んでいった。

記録は316メートル。

 

 

五種目を終えて良い記録が残せたおかげで少し周りを見渡す余裕ができた。

一呼吸おいてほかの人たちの測定を眺めると、ちょうどさっき顔色が悪かった男子の番だった。

 

うーん、最初見た時よりも顔色が悪いな。

それによく見てなかったから分かんないけど、今までの記録も特にパッとしないものだったような。

もしかしたら、体調が悪いのだろうか?

だとしたら相澤先生に行ってあげたほうが――いや、あの先生じゃ『健康管理はヒーローの基本だ』とか言いそう。

 

そんなことを考えながら緑谷と呼ばれた男子を見ていると、なにやら覚悟を決めた様子で腕を振りかぶった。

しかし、投げられたボールは力なく飛ぶだけで記録は46メートル。

でも、投げた本人もその様子に驚いてる?

 

「抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!」

 

呆然としていた緑谷君と先生が何か喋っていると、突然そう大声を上げた。

 

イレイザー・ヘッド?

聞き覚えはないけど、それが先生のヒーロー名かな?

周りのざわめきを聞くに、どうやらアングラ系のヒーローで個性を消す個性を持っているらしい。

 

そんな先生と再び何回か会話をして、緑谷君が二投目の準備に入った。

下を向いてぶつぶつと何か呟いていると思ったら、最初のやけくその覚悟が決まった表情とは違い、意志のこもった表情で腕を振りかぶる。

 

そして、空気の壁をぶち抜くような音と共にボールは天高く飛んで行った。

多分、アタシの記録の倍以上は飛んだかな。

 

その様子に目を見開いて驚いていた先生に、緑谷君は拳を握りこんで何かを宣言している。

よく見ると人差し指が内出血で変色してる?

 

思いつく理由としては個性の反動?

あの様子を見るに骨折してる。

おそらくだけど、個性を使うとその反動で体が壊れちゃうのかな。

 

でも、だとしたら指一本であの記録ってことだよね…。

なんてパワー。まるでオールマイト並みだよ。

 

そんな緑谷君に驚きと戦慄を覚えつつも、測定は続いた。

長座体前屈と上体起こしは個性が活かせないから、平均的な記録。

 

持久走は走る種目には自信があったけど、飯田君とポニーテールと一部が凶悪な八百万(やおよろず) (もも)ちゃんに負けてしまい三位だった。

百ちゃん、スクーターは卑怯だよ…。

 

そして、全種目終了後。

 

「んじゃ、パパっと結果発表」

 

相澤先生の言葉と共に場に緊張が走る。

なにせこの発表で一人は確実に除籍されてしまうのだから。

 

アタシはそこそこの成績を残せたから上位に入ってるとは思うけど、透明人間な葉隠(はがくれ) (とおる)ちゃんや背のひと際低い男子、それに緑谷君は成績が良くなかったのか顔色が悪い。(透ちゃんは見えないけど)

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

皆が固唾を飲んで発表を待つなか、相澤先生は今日最大級の爆弾を落とした。

 

「「「「「はーーーーー!?」」」」」

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

「当り前じゃないですか。あんな嘘、ちょっと考えればわかりますわ」

 

おぉ、さすが百ちゃん。アタシはすっかり騙されてたよ。

 

「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから目を通しておくように」

 

そう言うと先生は踵を返して、さっさと校舎に戻って行く。

こうしてアタシの雄英入学初日は幕を閉じた。

 

「ただいまー」

 

家に帰り、慣れない一人暮らしに四苦八苦しながら夕食と入浴を終え、布団に寝っ転がる。

横になって考えるのは今日の個性把握テストの順位だ。

 

全体でアタシは四位だった。

測定種目向きの個性かどうかって言う点もあると思うけど、アタシより上位の三人はそれを抜きにしても凄かった。

一位の百ちゃんと二位の轟君は推薦入学者みたいだし、三位だった爆豪君はアタシと同率の入試トップ。

 

アタシは中学卒業までおじいちゃんに訓練をつけてもらっていた。

同じ中学のヒーロー志望の子たちと比べて、自慢みたいになっちゃうけどアタシはレベルが違った。

 

でも、雄英で初めて出会ったアタシと同等以上の同世代。

不覚にも少しワクワクしてる。

 

「…明日が楽しみだなぁ」

 

眠気に身を任せて目を閉じながら、明日から始まるヒーロー科特有の授業のヒーロー基礎学に思いをはせる。

どんな内容なのかは分からないけど、他の人と競い合えるのが楽しみでしょうがないよ。

 




次回の更新は週末前後になると思います。
…FGOのイベントで手がいっぱいだったらすみません。

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