アタシは二代目グラントリノ   作:ag260

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お待たせいたしました。
戦闘シーンが絡むと途端に筆が遅くなってしまう…。


5:USJ強襲(2)

「ん~、13号君にも相澤君にも繋がらない(・・・・・)

 

授業の進捗などを確認しようと、現在一年A組の救助訓練を見ているはずの教員に電話を掛けるが繋がらないとは…。

 

「…いかなる理由であれ、勤務時間外の都合で教鞭を放り出してしまうとは。終わりがけに行って何を語れよう。多少の無理をすれば後十五分ほどは体も持つだろう」

 

人々を助けたことに悔いなどないが、そのせいで教職の方が疎かになっては生徒たちに申し訳ない。

うむ。やはり、行くべきか!

そうと決まれば―――

 

「私が、行く!」

 

おっと、力みすぎて血が…。

 

「待ちなよ」

「校長先生!」

「YES!ネズミなのか犬なのか熊なのか、隠してその正体は……校長さ!」

 

休んでいたソファから立ち上がりUSJに向けて移動しようとしたとき、仮眠室のドアを開けて校長が現れた。

 

「本日も大変整った毛並みで」

「フフフ。秘訣はケラチンさ。人間にこの色艶は出せやしないのさ」

「なるほど。それで、私に何の御用で?」

 

先生と目線を合わせるように屈みながら私を訪ねてきた理由を問うと、先生は一つのタブレットを取り出してこちらに画面を向けてきた。

 

「コレさコレ!」

 

先生の差し出したタブレットには『オールマイトわずか一時間で事件を三件解決!』と題されたニュース記事が表示されている。

 

「君が来たというのに未だこの街で罪を犯す輩も大概だが、事件と聞けば反射的に動く君も君さ。そういうところは昔から本当に変わらないね」

 

そう言ってため息を吐く先生。

 

「ケガと後遺症によるヒーロー活動の限界。それに伴う緑谷 出久(後継者)の育成。平和の象徴に固執する君がこの両者を社会に悟らせず動けるのはここしかないだろうと勧めた教職だぜ?もう少し、この街のヒーローを信頼して腰を落ち着けても良いんじゃないのかな?」

 

先生の言葉に話が長くなることを感じた私はマッスルフォームからトゥルーフォームへ戻る。

 

「もちろん犯罪を見逃せと言っているわけではないよ。しかし、勧めたこちらとしては引き受けてもらった以上は教職を優先してほしいのさ。この街にもヒーロー事務所はたくさんあるわけだしね」

「お、仰る通りです。ですから、こうしてUSJに向かおうとですね…」

「今行ってもすぐに戻るハメになるんだろ?それならばここで私の教師論を聞いて今後の糧にしたまえよ」

 

むむむっ。

先生がお茶を入れ始めたということは本格的に長話になってしまうな。

相澤君たちが電話に出ないのではなく、電話が繋がらないというのが気にはなるが…。

 

「先ずはヒーローと教師という関係の脆弱性と負担についてだが」

「…先生もお変わりありませんね」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

USJに突如として現れた(ヴィラン)

その内の一人の個性により、大半の生徒がUSJ内にバラバラに移動させられてしまった。

 

「物理攻撃無効でワープって最悪だぜっ」

 

男の靄から逃れていた瀬呂君が堪らずといった風に悪態をつく。

 

「……委員長!」

「は、はい!」

「君に託します。校舎まで駆けてこの事を他の教員に知らせてください」

 

13号先生の言葉に飯田君が目を見開いて驚く。

 

「警報は鳴らずに電話も圏外になっていました。先輩、イレイザーヘッドが下で個性を消し回っているにも拘わらずに改善されないということは、センサー類を無効化できる個性を持った者を即座に隠したのでしょう。ならば、それを見つけ出すよりも君が駆けた方が早い!」

「し、しかし!他の皆を置いていくなど!」

「行けよ委員長!」

 

13号先生にそう言われても渋る飯田君の背を砂藤君が力強く押した。

 

「外に出れば警報がある!だからこいつらは此処の中だけで事を起こしてるんだろ!」

「お前の脚なら外まで行ければ追いつけねぇ!あの靄を振り切って行け!」

「行って飯田君!長距離なら飯田君が一番早い!今こそ救うために個性を使う時だよ!」

「っ!」

 

砂藤君、瀬呂君、アタシの後押しで飯田君の表情が覚悟を決めたものに変わる。

 

「手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿呆が居ますか」

「バレても問題ないから語ったんでしょうが!」

 

救援を呼びに行くのを阻止しようと男が靄を広げると同時に、13号先生がブラックホールを発生させてその靄を吸い込むために個性を発動させた。

 

「うおおおおぉぉっ!!」

「…標的はあくまでオールマイトただ一人。他の教師に出てこられてはこちらも大変ですので」

 

外に繋がる扉とアタシ達の間に陣取る男を迂回するように飯田君が走り出すが、男は靄を広げてそれを阻止しようと動く。

 

「させない!」

「…やはり生徒を庇おうとしますか」

 

これはマズいっ!

13号先生の背後に黒い靄が見えた瞬間、アタシは駆けだした。

 

「ッ!?」

「13号、災害救助で活躍するヒーロー。やはり、戦闘経験では他のヒーローに半歩劣る。更には生徒たちを守るこの状況、貴方の行動は殊更予測しやすい」

「先生!」

 

自身の放ったブラックホールを背後に転移され、背中から塵にされかけている13号先生を横から突き飛ばす。

 

「グ…ァッ!」

「先生!大丈夫ですか!?」

「と、飛風さん…ですか。すみません…助かり、ました…」

 

息も絶え絶えな先生を見るとコスチュームの背面は塵にされ、露出した背中からは少なくない出血が見られた。

まずは止血しなきゃ!

 

「とりあえずこれでっ」

 

アタシはコスチュームのマントを外し、13号先生の傷を塞ぐように巻き付ける。

 

「ほぉ、中々に動ける生徒もいるみたいですね。ですが、仕留め損ないましたが13号は行動不能。そして救援を呼ぼうとしている―――」

 

靄の男はアタシの方をチラリと一瞥して先生が動けないのを確認すると、個性で自分自身をワープさせて出口に向かっていた飯田君の前に現れた。

 

「貴方を潰せば此処での仕事は完了です」

「ッ!?」

「飯田君!?」

 

既に勢いよく駆け出している飯田君は靄を躱すことも止まることもできず、万事休すかと思われたその時。

 

「行け、飯田!」

 

飯田君を飲み込もうとした靄を障子君が六本の腕を使い、抱き込むようにして飯田君を靄から守った。

 

「障子君!?何を――」

「早く!」

「―――すまないっ!」

 

絞り出すように吐き出された言葉と、眉間に深く刻まれた皺からは飯田君の葛藤の大きさを感じられる。

そんな決意と共にエンジンもギアが上がってきたのか、速度を上げながら出口まで後十メートル程の距離まで詰めることができた。

 

「行かせるか!このガキが!」

 

格下と侮っていた飯田君が予想外に捕まらないので苛ついたのか、靄の男の言葉遣いが丁寧なものから荒いものに変わる。

 

「消えろ!」

 

語気を荒く言い放つと共に再び飯田君に向けて靄を広げる。

だが飯田君への苛立ちが視界を狭め、背後から駆け寄ってきていたお茶子ちゃんの存在に気が付かなかった。

 

「なっ!?」

「理屈は知らんけど、こんなん着とるなら少なくとも実体があるってことじゃないかな…!」

 

お茶子ちゃんが靄の男の首周りを覆っている装甲のようなコスチュームに触れ、お茶子ちゃんの個性『無重力』が発動する。

 

「行って飯田君!」

「身体を…っ。だがまだ―――」

「させるか!」

 

靄の男が体を浮かされながらも靄を飯田君の方へ伸ばそうとしたが、その背に瀬呂君の射出したテープが貼り付けられ、さらに遠くへ引き離された。

 

「おおおぉぉっ!!」

 

そしてその隙に飯田君は出口の扉を潜り、USJの外に脱出することができた。

 

「…逃げられた。此処まで(ゲームオーバー)ですね」

 

靄の男はそう呟くと自身をワープさせて何処かに消えていく。

しばらく周りを警戒していたけど、再び現れる気配もないことからどうやらどこかに撤退したみたい。

 

「ぐぅ…っ」

「先生!今は無理に動かないで!」

「先輩…イレイザー、ヘッドは…」

 

13号先生の言葉を聞いて階段下の広場に目をやれば、そこでは相澤先生が最初より大分数を減らした(ヴィラン)達と未だに大立ち回りを演じていた。

 

「す、すげぇ。相澤先生ってあんなに強かったのか」

 

砂藤君が思わずと言った様子で呟く。

 

「これなら勝てるぜ!」

「うん!いけるよ!」

 

相澤先生の奮闘に瀬呂君や三奈ちゃんは安堵の表情を見せるが、アタシには一つ懸念があった。

 

あの主犯格の手のオブジェを付けた男が動きを見せていない…。

味方が続々とやられているのにも関わらず、その立ち姿からは苛立ちも怒りも無く余裕すら感じられる。

 

まだ見せていない、相澤先生を倒せる何かがあるって事?

 

「はぁ…、流石はプロヒーローだな。有象無象じゃ、どうにもならないか」

 

そして、そんなアタシの予想は当たり

 

「やれ脳無」

 

怪物が動き出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……え?」

「う、嘘…だろ…」

 

さっきまで安堵の笑みを浮かべていた三奈ちゃんや瀬呂君が水を打ったように静まり返った。

 

「あ、相澤先生!?」

 

アタシ達の視線の先にはさっきまで(ヴィラン)相手に優勢に立ち回っていたはずの相澤先生が額から血を流して倒れている。

 

起きたのは一瞬の出来事だった。

あの脳みそを剥き出しにした黒い異形の(ヴィラン)が動き出したと思ったら、いつの間にか相澤先生にその丸太のような腕を叩きつけていた。

 

その速度たるや、おじいちゃんとの訓練で目が慣れているはずのアタシでも目で捉えるのがやっとだった程だ。

相澤先生は何とか反応して片腕でガードしたが、まるで紙切れのように吹き飛ばされた。

 

「な、なんで!?相澤先生が個性消してたはずやろ!」

「疑問は後だ。今は相澤先生を助けに行くぞ」

「そ、そうだな!行くぞ!」

 

取り乱すお茶子ちゃんを冷静に落ち着かせ、助けに行こうとする障子君と砂藤君。

 

「待って!」

「飛風?」

 

だけど、そんな蛮勇を許すわけにはいかない。

 

「相澤先生がやられるほどの(ヴィラン)なんだよ!?」

「しかし、このままでは相澤先生が!」

「ここで行かなくて何がヒーロー科だよ!」

 

飛び出そうとする二人のコスチュームを掴んで引き留めると、二人からは非難の声が上がった。

でも言い方は悪くなっちゃうけど、このまま二人が行っても犬死するだけだ。

 

「このまま二人が行ってもやられるだけだよ!それが分からないわけじゃないでしょ!」

「だ、だがっ!」

「じゃあどうしろってんだよ!」

 

二人も先生(プロヒーロー)がやられた相手との実力差は理解しているのか、悔しげに顔を歪めながらも叫ぶ。

 

「…アタシが一人で行く」

「なっ!?」

「はぁ!?」

「一人で行くって何言ってんだよ!?」

「そうだよ空音!それに、行くなら一人じゃなくて全員で行けば―――」

「それは駄目。あの(ヴィラン)のスピードとパワーどちらかに対応できなきゃ、人数がいても被害者を増やすだけになっちゃう」

 

全員で行くことを提案する三奈ちゃんの言葉をアタシは首を振って否定する。

 

「それに正面から戦うわけじゃない。アタシの個性で回避に徹すれば時間稼ぎくらいはできるはず。飯田君が外に出れた今、後少しでほかの先生、オールマイトが来てくれる。それまでだったら…」

「い、いけません飛風さん!先輩がやられるような相手にプロでもないあなたが一人でなんて!」

 

アタシの行こうとする意志が固いのを察してか、13号先生が無理を押して立ち上がろうとしていた。

 

「君たちは避難を、ここは僕が―――っ」

「13号先生!」

 

だがやはり傷が痛むのか、うめき声とともに崩れ落ちかけた体を瀬呂君とお茶子ちゃんが支える。

そして、そうこう話しているうちに、倒れ伏す相澤先生に止めを刺そうと(ヴィラン)たちが距離を詰めるのが見えた。

 

「…すみません先生。アタシ行きます!」

「空音!」

 

相澤先生の元へ飛ぼうとした瞬間、三奈ちゃんから声を掛けられ、思わず足を止める。

 

「無事に戻って来るよね?」

 

不安な表情でそう言ってきた三奈ちゃんに、アタシは言葉ではなく精いっぱいの笑顔で答えた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「個性を消せる個性か…。すごい個性だがなんてことはないね。圧倒的なパワーの前じゃあ、無個性も同然なんだからさ」

「―――グ―――ッ…」

「プロヒーローも脳無にかかればこの程度か」

 

男はにやけた表情で地に伏せる相澤先生のことを嘲る。

 

「もういいか。潰せ、脳無」

 

男の言葉とともに脳無と呼ばれた(ヴィラン)がそのこぶしを振り下ろす。

確実に死に至らしめる威力を有したそれは、しかし誰の命も奪うことはなかった。

 

「先生!無事ですか!」

 

なぜなら、アタシが間に合ったから。

 

「と、飛風!?  なぜ来たんだ!今すぐ戻れ!」

「お説教は後日受けます!それと、手荒くなっちゃいますけど我慢してくださいね!」

「待て!止め―――」

 

先生はまだ何か言いかけていたが、アタシはそれを遮って先生の体に瀬呂君のテープを貼り付ける。

 

「瀬呂君、お願い!」

「任せろ!砂藤!」

「応よ!」

 

アタシの合図で瀬呂君がテープを巻き取りつつ、砂藤君が引っ張り上げる。

とりあえずこれで先生は安全圏まで下がれたかな。

 

「何だ?ガキが出てきやがって。黒霧の奴は何やってんだよ」

「悪いけど、ここからは選手交代だよ」

「あぁ?お前が脳無とやるってのか?」

 

男はアタシの言葉に不愉快そうに眉をひそめる。

そんな男にアタシはクスリと笑いをこぼした。

 

「…なに笑ってんだガキ?恐怖で頭がイカレたのかよ」

「いや、つい可笑しくてね。そのガキ相手でも仲間任せで自分は前に出ない。オールマイトを殺すなんて大口叩く割には、ずいぶんと臆病なんだなって思っちゃってさ」

「…どうやら死にたいらしいなクソガキ」

 

これでいい。

やけに簡単な挑発で乗ってきたけど、これでアイツの目はアタシに向く。

 

「望み通りに殺してやるよ!行け脳無!」

 

男の指示と同時に脳無が弾丸のような速度で迫り、拳を振り下ろす。

 

「フッ!」

 

けど極限まで集中していたアタシはその破壊の鉄槌をなんとか見切ることができた。

個性を使って跳んで攻撃を回避し、その勢いのままに首筋に蹴りを叩き込む。

 

大きく腕を振り切った無防備な体勢のところに叩き込んだ攻撃は大人ですら昏倒させる会心の一撃となるはずだったが、蹴りを入れた瞬間に返ってきた感触はまるで分厚いゴムを叩いたようなものだった。

 

「…なに今の?」

 

普段ならそのまま連撃につなげるところだけど、脳無の不気味さに一度大きく距離をとる。

 

あのスピードとパワーなら増強系の個性じゃないの?

けど、蹴りのインパクトの瞬間に感じた手ごたえは明らかに普通の肉体じゃなかった。

 

「無駄だ、脳無は『ショック吸収』の個性を持った対オールマイト用に作られた怪人。お前みたいなガキがどう足掻こうと勝てる相手じゃないんだよ」

「ご忠告どうも!」

 

再び迫る脳無の攻撃をかわしつつ、男に皮肉を返すがアタシの表情は苦々しいものに変化する。

あの男の言葉が本当なら脳無に対しての有効打をアタシは持っていないことになる。

それに個性が『ショック吸収』ならあのパワーとスピードは素の身体能力。

 

…唯一の救いは脳無が素人ってところかな。

 

大振りの攻撃に見え見えの初動。

さらにコスチュームのブーツの機能で本来なら足の裏からしか噴出されない空気を足の側面からも出せるようにしたおかげで、空中で柔軟に軌道変更ができるようになっている。

 

それらの要素のおかげで何とか回避することだけはできている状況だ。

 

「…ちょこまかとハエみたいにうざったいガキだ。大した経験値も落とさない雑魚キャラのくせに」

「ハエねぇ。そんなハエ一匹に手間取ってよくオールマイトを殺すなんて言えたね?」

「いちいち癇に障るガキだ…ッ。脳無!さっさと殺せ!」

 

男の苛立った怒声とともに脳無の攻撃がより激しくなる。

表面上は相手に悟らせまいと涼しい顔で回避に徹しているけど、アタシは内心の焦りを必死に抑えていた。

 

 

―――このままだとあと数分ぐらいが限界かな。

 

 

アタシの個性は吸い込んだ空気を足の裏から噴出させるもの。

全力で運動して息が乱れれば当然、個性の出力も落ちてしまう。

 

もちろん十数分程度で息切れするような体力ではないつもりだけど、初めての実践と一撃の被弾も許さない攻撃がアタシの体力をゴリゴリと削っていく。

 

「死柄木 弔…」

「…黒霧、お前何やってたんだよ。ガキが一人こっちに来たぞ」

 

そんな時、男の隣に黒い靄が現れ黒霧と呼ばれた男がワープしてきた。

お茶子ちゃんの個性の影響が見られないことから、アジトか拠点に戻って触れられた服を変えてきたのだろう。

 

「申し訳ありません。13号は行動不能にしたのですが、散らし損ねた生徒一人に外へ逃げられまして」

「…は?―――――はぁ。黒霧、お前がゲートじゃなかったら粉々にして殺してたよ」

 

そう言うと男、死柄木は苛立ちのままに首を掻き毟る。

 

「何なんだよッ。大勢引き連れてきたのにボスは居ないし、避けるだけのガキ一人殺せない!」

「…死柄木 弔」

「……分かってるよ。さすがに何十人ものプロヒーロー相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。…仕方ない、帰るか」

 

帰る?それに、ゲームオーバーって言ったの?

死柄木の言葉にアタシは思わず眉をひそめた。

 

最初に死柄木と目が合った時には思わず身を竦めそうになるほどの狂気のような物を感じたけど、簡単な挑発にすぐに乗るし癇癪を起したり、飽きたように帰ると言い出したりと今はまるで子供のように見える。

 

そんな思考に気を取られてしまったせいか、アタシは死柄木の次の行動に一瞬だけ対処が遅れてしまった。

 

「けども、その前に平和の象徴の矜持を少しでも―――」

 

恐らく水難エリアから戻ってきた緑谷君たちへの攻撃という最悪の一手に対する対処が。

 

「へし折っていくか」

「しまっ―――!」

 

黒霧のワープで死柄木が梅雨ちゃんの目の前に現れ、その手をゆっくりと伸ばす。

どんな個性か分からないけど、あんな殺害予告めいたことまで言ったからには殺傷能力の高い個性のはず。

 

指先ですら触らせちゃダメだ!

 

「梅雨ちゃん!」

 

アタシの速度ならギリギリ間に合う。

伸ばしている腕を弾いて――――

 

「やっぱりそう来るよな。ヒーロー?」

「ッ!?」

「やれ、脳無」

 

しまった!アタシを釣るための罠か!

 

死柄木の狙いに気付いた時にはもう遅く、脳無の拳が目の前まで迫っていた。

アタシは必死に足を前に向けて個性を使ってブレーキをかけるが、間に合うはずもなく。

 

そして、交通事故のような音が辺りに響いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「―――え?」

 

僕はワープの個性を持つ(ヴィラン)に蛙吹さん、峰田君と共に水難エリアに飛ばされ、そこに待ち受けていた(ヴィラン)を退けて最初に居た広場へ戻ってきていた。

 

多数の(ヴィラン)を相手に優勢に立ち回っていた相澤先生が脳無と呼ばれた(ヴィラン)にやられ、それを助けに入った飛風さんと脳無の戦闘。

 

目まぐるしく変わる戦況、飛風さんと脳無の高速戦闘に僕たちは唖然と見守ることしかできなかった。

そして、逃げることもせず戦いを見ていた僕たちを助けようとした飛風さんが脳無に吹き飛ばされた。

 

「ハハハ!やっと死んだか、雑魚キャラのくせに梃子摺らせやがって!」

「そ、空音ちゃん!?」

「あ、ああぁぁぁッ」

 

蛙吹さんと峰田君の悲痛な叫びでハッと意識を取り戻す。

 

「飛風さん!?」

「イライラさせられたけど、結局脳無の前では―――って、まだ生きてんのかよ」

 

まぁ虫の息だけどな、と死柄木と呼ばれていた男が嘲るように言った視線の先には、小さいけれど苦痛に呻く声と僅かに身じろぎをする飛風さんの姿があった。

 

「まだ生きてるなら、確実に殺すか」

「や―――」

 

簡単に、何てことないように殺すと言った死柄木の言葉に、僕の体は考えるよりも早く動いた。

 

「やめろおおおぉぉッ!」

「脳無」

「SMASH!!」

 

右腕に個性を発動させて死柄木に向かって叩きつける。

パンチを繰り出した瞬間、慣れてしまったいつもの激痛が腕に走らないことに気が付いた。

 

―――やった!個性が上手く制御できたんだ!

 

喜びを感じて笑みを浮かべたけど、その笑みは一瞬で凍り付く。

なぜなら、繰り出した拳の先にはいつの間にか脳無がいて、僕のパンチが全く効いていない様子だったからだ。

 

「いい動きするなぁ。スマッシュってオールマイトのフォロワーかい?まぁいいか、どうせ死ぬしな」

 

脳無の巨大な手が僕の右腕をつかみ、逆の腕が振り上げられた。

その時に自分の腰に何かが、恐らく蛙吹さんの舌が巻き付いて後ろに引っ張られる感覚があったけど、もう間に合わない。

 

―――やられるッ。

 

顔が引きつり、恐怖が全身を支配しかけたその時。

ドォンッ!と大きな音を立ててUSJのゲートが吹き飛んだ。

 

「もう大丈夫」

 

ゲートが吹き飛んだ衝撃で舞った土煙が晴れると、そこには敵味方の両方が待ち望んだヒーローが佇んでいた。

 

「私が来た!」

 

「オールマイトォ!!」

「あーーー…。コンテニューだぁ」

 

 

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