はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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シュミット博士を絡ませる以上、彼女を出さないわけには行きません。
誤字報告、いつもありがとうございます。


フフフ、息子よ。期待の新人だぞ

 シュミットの選択授業に強制参加となったリィンは、導力学の勉強に追われていた。

 彼自身、地頭は悪くないが導力と言えば日進月歩するゼムリアを代表する学業だ。

 クロスベルでも導入されて間もない導力端末も日々改良が続き、数ヶ月もすればすっかり古いタイプへと切り替わると言われるほど移り変わりが早い。

 導入端末入門の授業は大変で、導入端末というものの仕組みを理解することに追われている。

 博士からは猿でもわかる課題プログラムに加えて教本、みたいなものを渡されたが前提となる知識が不足している状態なのでいまいち要領がつかめなかった。

 

 エマを頼りにしたいが、巻き込んでしまった後ろめたさでお願いすることをはばかられた。

 それに彼女も彼女で放課後以外にもシュミットと話していることもあり、今年度の主席主席でも大変な時に迷惑をかけるわけにもいかない。

 ロジーヌは気にせず一緒に勉強しましょうと言ってくれたが、申し訳無さが勝って出来るところまでは頑張ると言ってしまっている。

 それに最近はトマスと話し合っていることが多い。

 博士に直接尋ねるより、彼に色々聞いたほうがわかりやすいのだろう。その割にボウガンを持っていたり、まるで戦いの後のように少し制服が汚れていたことが気になったが。

 ベリルは教え方も学び方も独特過ぎて参考にならなかった。

 聞かれたら答えられるし、知識も間違っていない。

 ただ、教科書を持っているだけで読み込んだ様子もなく、まるで答えややり方だけを知っているように見えた。

 水晶玉を使わずに占っているのだろうか?

 そのためベリルに聞いてもダメだろうなと、リィンをじっと見る彼女の薄い笑みを前に思ったものだ。

 

(フフフ、息子よ。学生は勉強が義務だ。しっかり頑張るがいい)

(普通の授業でも大変なのに、選択科目にもついていくのは大変だよ。これならヴァリマールを呼ぶ実験をしているほうが楽だ)

(フム。頼ラレルノハ悪クナイガ、コノ学ビ舎ハカツテノ起動者、どらいけるすガ建テタモノダ。彼ノ気ヲ汲ンデモラウタメニモ、りぃんニハ励ンデ欲シイモノダ)

 

 チリ……と心臓が疼く。

 吸収されたヴァリマールの声が変な位置から聞こえてくることに、数日経っても未だに慣れない。

 

 ヴァリマールと言葉を交わすようになって、彼が記憶喪失ということを知ったリィンはちょっとした親近感を湧いていた。

 自身もオズぼんと出会うまでは捨て子であることに苦悩し、鬼の力の発現によってそれが一時期吹き出していたことがある。

 今でこそ落ち着いたが、自分という人格を構成する記憶がないのは不安だろう、とエマ達と交えて会話を行っている。

 そのおかげか、ヴァリマールのかつての起動者が帝国における中興の祖、そしてトールズ士官学院の創設者であるドライケルスであることまでは思い出していた。

 

 それ以上はわからない、ということでヴァンダイク学院長や理事長であるオリヴァルト皇子、歴史の教官であるトマスに獅子戦役やドライケルスについての詳しい話をヴァリマールを交えて聞きにいったが、オリヴァルト皇子を除いてリィンを形容しがたい表情で見てくるのが気になった。

 皇子は皇子で、いっそ帝室に入るかい、なんて冗談も言って来たが謹んでお断りしておいた。

 加えてシュミットの実験で騎神を遠隔操作するところを目撃した授業に参加した生徒も教官達と似たような目をしていた。

 

(一体、何を気にしているんだろうか?)

(フフフ、特に気にすることはなかろう)

(ウム。我ノ存在ガ物珍シイノデアロウ)

 

 ――オズぼんという謎物体との生活に慣れてしまったリィンは、機械だが生霊とも表現出来るヴァリマールを体内に飼っているという事実を甘く見ていた。

 事情を理解しているエマやロジーヌ達は懸命にフォローしていたが、ARCUSや導力端末を使った様子もなく、何もない場所から第三者の声が聞こえてくるというオカルトは通常、理解しがたいものだ。

 たとえ騎神という存在とその実物を見たとしても、人間そう簡単に受け入れられないものである。

 魔女のエマ、その使い魔セリーヌ、手弱女のロジーヌ、オカルト部の部長であるベリルといった超常現象を受け入れてくれる相手とばかり接していたせいで、リィンの客観的な自己認識はいささか不足気味であった。

 それを冷静に指摘する相手がいればいいのだが、学生組は追加された授業への対応に追われ、大人組は大人故に距離を取る接し方を選び、セリーヌは人間の機微がわからないので上手いアドバイスが出来ず、オズぼんは元凶のヴァリマールとよく話し合いをしているため、リィンを取り巻く現状は入学式から特に変化なく続いていた。

 リィンもリィンで己とオズぼんの理解者を得た、得られてしまったため人の噂も七十五日、と無理に状況を改善する努力をする気はなかった。

 

(何か息抜きでも……釣りはいつも通り過ぎるし、稽古で汗を流すのも何か違う……あ、そう言えばジョルジュ先輩から最新型の導力ラジオをもらっていたな)

 

 もらった日に聞こうと思っていたラジオ番組は、旧校舎探索のことがあって聞き逃してしまっている。

 せっかく譲ってもらったのに使わないのは相手に悪いだろう。

 話題の番組は今日やってないかもしれないが、聞くだけ聞いてみよう。

 そんなことを考えていたからだろうか。

 正面に持っていた教科書の位置がズレたことに遅れて気づく。

 同時に可愛らしい声と教科書越しに見える緑の制服。

 リィンは教科書をズラしてみると、尻もちをついた緑髪の生徒が居ることに気づいた。

 気配察知を自負していた己としては、らしくない失態である。

 リィンは内心でそう思いながら謝罪の言葉と共に倒れた生徒へ手を伸ばした。

 

「すまない、考えごとをしていて気づかなかった。立てるか?」

「う、うん。ありがと。君ってば壁みたいだね、すごく跳ね返されちゃっ……」

 

 手を取って立ち上がった緑服の生徒の言葉が止まる。

 同年代の女生徒達よりも低い、それこそトワに迫る小柄な少女はまじまじとリィンの顔を眺めている。

 

「えっと……? どうかしたのか?」

 

 さすがに凝視されたリィンは困惑し、頬を掻きながら少女の言葉を待った。

 すると少女はあー! と大きな声をあげてリィンの手を掴んだ。

 

「貴方、リィン・シュバルツァー君? シュミット博士のお手伝いさんの」

「お手伝い……まあ間違ってないけど。まあ、俺がリィン・シュバルツァーだよ」

「ああ、だから入学式からあんな噂が立ってたんだね。おじさんがよく博士のこと言ってたけど、そのお手伝いさんなら少し変わってても納得だよ」

「え、と。君は?」

「おっとごめんね。私はミント。よろしく」

「…………………」

「リィン君?」

(フフフ、息子よ。挨拶はちゃんと返すべきだぞ)

(挨拶ハ大事ダナ、どらいけるすモソウシテイタ)

 

 ミントと名乗った少女は子供のような笑みを浮かべて挨拶をしてくる。

 友人達はどちらかと言えば穏やかであったり、怪しいものだったりしたので、トワといった例外を除いて学院でここまで爽やかな挨拶を向けられることに慣れていないリィンは、オズぼんとヴァリマールに言われて慌てて言葉を返す。

 

「わ、悪い。よろしくな、ミント」

「うん。それ、博士の授業で使う教科書?」

 

 ミントはリィンの手を掴んでいたことで、もう片方の手に持たれていた教科書に目をつける。

 その目が物欲しそうだったので、リィンは素直にミントにそれを渡した。

 

「気になるなら見てみるといいさ」

「ほんと? ありがとね!」

 

 そう言って教科書を読み込んでいくミント。

 読み込みが早く、わかりやすーいと口にしているが、その速読ぶりに流し見じゃないのか、と疑うリィン。

 だがミントはきちんと理解しているようで、なるほどねー、と独り言を漏らしながらも読み進めていく。

 

「そんなに興味あったのに、選択授業に出てないのか? 俺はあの授業でミントを見たことがないけど」

「あー、放課後は部活があるからね。私は吹奏楽部に入ってるから、サボってそっちに行くのはちょっと」

「シュミット博士の来訪自体、突然だったからな」

 

 原因と言える本人は他人事だった。

 

「でもそっか、部活に入っている生徒がいるから来られない場合もあるのか……少し博士に相談してみるか」

「ほえ?」

「ミントみたいに導力学に詳しい生徒が来てくれるのは俺としても助かるからな。今は時間あるか?」

「長時間は無理だけど、ちょっとくらいならいいかな?」

「それじゃあ博士のところへ行ってみるか。有望な生徒なら博士だって少しくらい妥協するかもしれないし」

 

 

「フン、マカロフの姪か。私の授業を受けるなら、他のことよりこちらを優先すべきであろう」

 

 ダメだった。

 急遽清掃されて導力端末などが運び込まれた博士の部屋にやってきたリィン達を待っていたのは、シュミットの容赦ない言葉だった。

 

「マカロフって、マカロフ教官? それに姪?」

「うん。私のお母さんの弟がおじさんなの」

「だから叔父さん、と」

 

 いつも気だるげなイメージのあったマカロフに、こういう明朗快活な姪がいるのはちょっと意外なリィンだった。

 それとも姉……ミントの母親が元気な人なのかもしれない。

 

「帝国人は文武両道なのだろう? 参加したとしても授業は一時間程度のものだ、それくらいの遅れ取り戻してみせよ」

「それを言われると……でもそれなら、今日から参加してもいい?」

「参加の受付は締め切った、と言いたいところだがマカロフの姪ならば多少はマシか。いいだろう、お前にも手伝ってもらうぞ」

「やったー!」

 

 ぴょーんと跳ねるミントの姿は、トワと違った意味で子供らしい。

 だが気難しいシュミットと上手くやっていけるのか、紹介したリィンのほうが不安だった。

 

(フフフ、息子よ。娘力、孫力が高そうで案外相性が良いかもしれんぞ)

(イツノ世モ、コノヨウナ子供ガ笑ウ姿ヲ見ルノハ良イコトダ)

 

 そういう本人達が父や祖父のような発言である。

 

「しかし、エマはどうしたんだ? 今日は授業ないはずだけど」

「あはは。ちょっとドロテ部長に言って時間を取ったんです。私としても授業外で学ぶことが多いもので」

 

 ミントをシュミットに紹介することで気づくのが遅れたが、教室の机の一つにエマが座っていた。

 導力端末をいじっているわけではなく、ノートにメモを取っている。

 エマとミントが互いに自己紹介を交わすと、エマは自分が博士の教室にいる理由を語る。

 

「最近はヴァリマール以外にも応用で色々実験していますからね。そのお手伝いです」

「私としても得られるものがある。魔女、だったか。切り口は異なるが、七属性のルールに隷属しているのなら、ある意味で似たようなものだろう」

 

 授業を開始して数日だが、ヴァリマールの人格が最初から目覚めていたため、博士が設計しているデウスアーツとも呼ぶべき騎神の遠隔操作は最初の目論見から少しズレた実験を行っていた。

 それというのも、エマの力が大きい。

 灰のチカラを通じてヴァリマールの人格が自分に宿ったと告げると、セリーヌは絶叫してわめき、エマは自分が魔女であることを隠すのがバカバカしくなりました、とシュミットに己の素性を打ち明けた。

 シュミットは相手の素性より能力を重視する。

 そして彼女は入学式の夜、リィンを遥か遠くへ飛ばした長距離転移の使い手。

 機械でも空間属性を操る機構を搭載すればテレポートが可能ではないか、とシュミットは空間干渉のアーツを保存出来るものを設計すべく色々と試行錯誤を行っている。

 

「霊脈に繋がる感覚を通して、色々出来るようになるのが楽しくて。博士の助言って、おばあちゃんよりわかりやすいこともあるので……」

「確か俺がルーターで、エマがタブレットだったっけ?」

 

 リィンのつぶやきを、エマでなくシュミットが補足する。

 

「その通りだ。霊脈とやらが帝国中にあるのなら、導力ネットワークに例えて役割を与えてやればいい。シュバルツァーが騎神を用いて霊脈の流れを中継し、繋がったミルスティンが場から力を引き出す。貴様の灰のチカラによる空間の書き換えも、これが安定して行えるようになるなら叶うだろう」

「そうですか……」

 

 言葉は控えめだが、リィンのモチベーションは上がっていた。

 ここに来るまで導力学について悩んでいたというのに、現金なものだと我ながら思うリィンだった。

 意を決するリィンの横で、ミントが質問をしてくる。

 

「そう言えばあの大きな騎士人形はいないの?」

「馬鹿者。この小さな部屋に呼び出せるわけなかろう」

「そもそも勝手に動かしたら騒ぎになりますよ? あとミントさん、あの騎士人形の名前はヴァリマールです」

「ヴァリくんだね。ありがとうエマちゃん! んー、遠目からでしか見てないから実物見たかったなあ」

 

 残念、と肩を落とすミント。

 リィンは慰めのつもりでヴァリマールが置かれている場所を教えた。

 

「旧校舎に置いてあるぞ?」

「今は鍵がかかってて勝手に入れないよ」

「もう突撃済みなのか」

「あはは、元気な見た目に違わず行動派ですね」

「うーん、本体は無理でも人格と話すことが出来るぞ?」

「人格?」

「ああ。あの騎神はどうも人間みたいに喋ることが出来るんだ。今は俺の……傍にいる。ヴァリマール。ミントに挨拶してやってくれ」

 

 流石に初対面の相手へ心臓から声が出る、という勇気はリィンにはなかった。

 

「ウム。ハジメマシテ、みんと。我ガゔぁりまーるダ」

「わっ、リィン君から別の人の声が!? 貴方がヴァリくんなんだね!?」

 

 そう言ってミントは驚きながらも笑いかけてくる。

 この声を怖がらない相手ということを知り、リィンは無意識に肩の力を抜いていた。

 

(フフフ、よろしく頼むぞミント嬢)

 

 流石にオズぼんは無理だったが、リィンとしては少し残念になるくらいだった。

 

「本体は無理だけど、そのアバターって言えばいいのかな? それくらいなら見せてあげられると思うから、広いところへ行こうか」

「ほんと? じゃあお願い!」

 

 リィンは快諾し、場所を移動してエマ達に見守られる中、灰のチカラを発現させた。

 

 

 ――話は少し変わるが、シュミット教室は彼の知名度に反して選択授業に参加する生徒はそう多くない。

 ヴァリマールの発見者であるリィン達四人に加えて、マカロフ、ジョルジュといった巻き込まれた面々ばかりで、その規模は十人に満たない。

 その理由は――

 

「わー、すごいすごい! すごい飛んでる!」

「支エテハイルガ、シッカリ掴マッテイルガイイ」

(フフフ、ミント嬢を使ったブンドドとはやるな息子よ。男心を刺激してくれる)

(何言ってるんだか……)

 

 灰のチカラによって生まれた巨いなる影の手がミントを掴み、ゆっくりと腕を上げて士官学校を見下ろすような位置まで持っていく。

 さらにエマが灰のチカラを媒介に周囲に魔法で出来た建造物や何やらを生み出す。

 そのさまはまるでアトラクションのような遊び心を感じさせる。

 シュミットは無表情だが、授業外の時間ということもありそう口を酸っぱくはしていない。固い人間と思われても、合間の息抜きは大事だと知っているからだ。

 加えて、最近はエマが生み出す建造物を見て小さな要塞の設計プランを組み立てている。

 ミントは素直に喜んでいるが、学院に残っている生徒や巨体故に街からでも見えるその姿は多くの波紋を広げていた。

 

 ――ああ、またなんかしてるぞあの教室。

 

 ドライケルス帝が駆った伝説の騎神、シュミットの知名度、灰のチカラ、エマの魔法といったある種豪華過ぎる実験の数々。

 遠隔操作した騎神との戦闘データの収集(大半はこれでふるいにかけられた)。

 エマ(とこっそり参加するセリーヌ)の魔法と、博士の助言で仕上がっていく七属性の調整による空間の書き換え調査(導力魔法を使わない未知への恐怖が生まれた)。

 見る人が見れば食いついてくるそれも、一般人からすれば危険極まりない行為の連続。

 君子危うきに近寄らず。

 教員と生徒は心を一つに、今日もそっと目を逸らすのだった。

 

 




Ⅲで出番という相克を勝ち抜いたモブの一人、ミント。
彼女と博士のやり取りがあんな笑いを生むとは予想外でしたね。
優秀なのに放っておけないドジっ娘と、なんだかんだ面倒見がいい博士の相性バッチリでした。

トールズには本校も分校も可愛い子ばかりで大変よろしいと思います。
マルガリータ?痩せたら美人だし…でも最終的に太ったほうを選ぶリィン教官は多かったはず。
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