はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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なんだかんだでこの作品も今回で100話。
感想や評価、お気に入りやレビューなども合わせて、これまで読んでくださった皆様ありがとうございました!
はぐはぐオズぼんとの軌跡を今後ともよろしくお願いします。


フフフ、息子よ。クロスベルの地に立つぞ

「――はっ!?」

 

 体中が揺れる感覚と微睡みが支配する中、リィンは目を覚ます。

 視界の先には窓があり、マラソンよりも早く外の景色が流れていく。

 対面には老夫婦が仲睦まじく談笑をしており、隣には太刀などを納めた紐付きの背負い袋に、その他の荷物袋。

 つまり四人席の一つに腰掛けており、リィンはそこで眠っていたようだった。

 

「……ここ、は……」

「あなた、大丈夫?」

「目が覚めたようじゃな。儂らにも気づかない深い眠りだったようじゃし、随分と疲れていたのかな?」

 

 ふと、リィンの様子が気になったのか老夫婦が声をかけてくる。

 愛護精神を持ったリィンは寝起きに声をかけられたことを微塵も気にせず、照れを滲ませながら苦笑を返す。

 

「あはは……この列車に乗る前に、ちょっと体を動かしていたので」

「見たところ学生さんのようだし、部活動の大会の帰りか何かかの。あんな美人のお姉さん達(・・・・・)が応援に来て張り切った、ってところか」

 

 隣にある荷物を部活動の道具と勘違いしたのか、老夫婦はリィンのことをスポーツをしている学生と思っているようだ。

 だがそれよりも、リィンには気になることがある。

 

「お姉さん……?」

「ええ、金髪の綺麗な女性と、愛らしい茶髪の女の子。貴方の知り合いなのでしょう?」

(フフフ、息子よ。お前が起きる前に、彼女とデュバリィ嬢が対面に座っていたのだよ。このご夫婦とは入れ替わりで去っていったがね。

 そもそも、この列車に乗った経緯は覚えているか?)

 

 なるほど、オズぼんの言葉に頭を回しながら記憶を掘り起こし、老婦人に返答する。

 

「えーっと茶髪の人はともかく、金髪の女の人はお姉さんというよりは母親、でしょうか。正式な家族ではないのですが……」

「なんとまあ。あんな別嬪さんなのに一児の母なのか? 随分と若々しくて羨ましい。父親は一緒じゃないのかね?」

「父はクロスベルに先に現地入りしていると思います。多分合流出来るとは思うんですが……」

「ふーむ。正式な家族ではないとなると、再婚相手との家族旅行か何かかのう」

「おじいさん、あまり詮索しては駄目ですよ。ごめんなさいね」

「いえ、気にしないでください」

 

 リィンはここでようやく、アリアンロードやデュバリィが居た記憶を思い出す。

 だが今は目の前の老夫婦の相手をするのが先決だった。

 

「お詫びと言ってはなんだけど、眠気覚ましに冷たいレモネードでもいかがかしら?

 凍らせたものを水筒で持って来たのよ」

「あ、ではお言葉に甘えて」

 

 注がれた水筒の蓋を受け取り、中身をあおる。

 寝起きの体に染み渡る一品だ。

 

「美味しかったです、本当にありがとうございました」

「ふふ、お粗末様でした」

「お二人もクロスベルに?」

「ええ。ちょっと帝国へ温泉旅行をしに離れていたんですけど、通商会議までに帰って来られてよかったわ」

「今年に入るまでは共和国派だの帝国派だの、利権争いばかりしておった上に、マクダエル市長が退いて嘆いていたものじゃが、ディーター市長という後任が当選してくれて本当に助かったわい」

 

 アリアンロードやデュバリィの姿を思い出してニヤニヤしていた老人は一転、早口になってクロスベルの政治に対する意見を連ねていく。

 そこに老婦人がやんわりと言葉を止めた。

 

「おじいさん、おじいさん。ごめんなさいね、この人ったら政治のことになるとちょっと興奮しがちで……」

「いえ、気にしないでください。それより帝国の温泉……もしかして、ユミルですか?」

「おお、知っていたのか。雪に囲まれて寒い地域と聞いていたが、この時期に入るというのもまた違ってな。帝国軍人は好かんが、一般人や土地まで否定するつもりはない。あそこは最高じゃった」

「わかりますわかります! 足湯はもちろん、ユミルには――」

 

 まさかの実家への客に、つい盛り上がるリィン。

 老夫婦も、年若い少年が温泉趣味だと知り意外に思いながらも会話が弾んでいく。

 一瞬で困惑の空気を消し飛ばしながら、リィンと老夫婦はクロスベルへ到着するまで温泉について語り合っていった。

 

 

 ローエングリン城での決闘後、気絶から覚めたリィンはクロスベル行きの大陸横断列車の中に居た。

 血まみれだった制服はオズぼんの手によって、真新しいパリッとした夏服へと変わっている。久しぶりに収納した道具の活躍だった。

 決闘後にも拘らず乗っているのは、いわゆる転移乗車だ。

 切符は元々購入済みだったので、少し遅めの駆け込み乗車のようなものである。

 すでにデュバリィも意識を取り戻しており、目覚めた直後がアリアンロードへの謝罪だったのは筋金入りの忠義であった。

 

「俺が勝てたのは武器の差もありました。前に使っていた太刀なら、盾も剣もあんなに容易く斬れなかったでしょう」

「そ、その通りですわ! 卑劣とは言いませんが、武器はともかく技術の差は一切ない、と思うように!」

「デュバリィ、武器の調達も戦士の力の一つです。やっかみはみっともないですよ」

「ややややっかみなどと! 私は別に! ああマスター、不出来な部下で申し訳ありません……!」

 

 勢いよく立ち上がったと思えば、慌ててアリアンロードに謝罪するデュバリィ。

 本当に感情豊かな人だな、とリィンは思った。

 

「でも、俺がこの太刀を手に入れたのは友達や色んな人の手助けがあったからこそですからね。少なくとも、武器に恥じない腕を身につけたいものです」

 

 達人が振るうものは、自ずと優れた武器になる。

 その強さに、自然と使える武器が限られてしまうからだ。

 その中でもゼムリアストーン製の武装は最上級のもの。

 未だ《理》に到達していない段階といえ、やはりそれで作られた武装は憧憬を抱かずにはいられない。

 

「デュバリィさんの場合、剣に盾……鎧と兜もですか? それだけの量となるとなかなか難しそうですが……結社なら、割と簡単に入手出来そうな気はしますね」

 

 リィンとエマ、ロジーヌは魔女とシュミット教室の仲間の協力を得ることでゼムリアストーン製の武器を振るっているが、中でもロジーヌは己の未熟さから普段は封印しているほどである。

 彼女の場合は、法剣とボウガンの二種類という限られた生産に二つも遣わせてしまったということに恐縮の限りを尽くしている。

 それが原因でいっそう鍛錬に力が入っているので、良い方向には作用しているのだろう。

 ひとしきり謝り、黙ってしまったデュバリィが作り出した沈黙の中、リィンは静かに口を開く。

 

「――アリアンさん。マクバーンさんとの戦いのことなんですけど」

「ええ、承知しております。彼との戦いには私も参加して欲しい、という旨でしたね?」

「はい。大変申し訳ないのですが、アリアンさんでなく、デュバリィさんを代わりにご協力願えないでしょうか?」

「わ、私?」

 

 リィンの発言に目を丸くするデュバリィ。

 彼女もリィンとの決闘における報酬、劫炎との戦いにアリアンロードの助力があると聞いていた。

 そのため、己の力不足により気落ちしていたが、アリアンロードがマクバーンとの戦いに参加すると思っていただけに予想外の言葉だった。

 

「その理由を尋ねても?」

「俺、デュバリィさんと相性良いと思うんですよね」

「ななななな何を言ってやがりますか!?」

 

 顔を真っ赤にして喚くデュバリィ。

 衣装が鎧姿でなく、白いブラウスにスカートといった令嬢の格好なので少し新鮮だ。

 新鮮と言えばアリアンロードも、である。

 かつてノーザンブリアでデュバリィに渡した、あのオズぼんからの私服を着こなしているのだ。

 デュバリィよりもメリハリのあるスタイル、言ってしまえば発育の暴力とも言える美の造形を前にしても淫靡な雰囲気はなく、清廉さを滲ませるのは彼女の魅力か。

 平時であれば目を奪われていたかもしれないが、今は真面目な場面であるためリィンはそちらに目を向けず理由を明かす。

 

「決闘して確信したんですが、連携って意味ではアリアンさんよりもデュバリィさんと組んだほうがきっと強さを出せる。そう思いました。何より……」

「何より?」

「友達になりたいっていうのに、大部分をアリアンさんに頼ってしまうのは違うと思うんです。

 もちろん、オーレリアさんやヴィクターさんは俺より格上ですし、理想は一対一であの人に認めてもらうことでした。

 ですが、記憶を取り戻すという目的に加えて、お二人は互いに倒しきれないとのこと。つまりほぼ互角と言っていいですよね」

「その認識で構いません」

「その上で俺がマクバーンさんに挑む四人の中に入ったとして、目的を果たしたとしても――それは『俺』が認められる、と言えるのかって思いまして」

 

 つまり、アリアンロードだけで互角ならヴィクターやオーレリアがそこに加われば目的の達成はおそらく可能だろう、とリィンは考える。

 少なくとも彼女の足手まといには決してならない。

 だが、そこに己の存在が必要なのかと問われればリィンは違うと思った。

 友達になりたいのは自分で、記憶を取り戻してあげたいのも自分。

 ならば、人任せで全て解決するのは良いのだろうか?

 その自問に、アリアンロードは言う。

 

「少なくとも《光の剣匠》と《黄金の羅刹》。加えて魔女に守護騎士、帝国最高の頭脳。そんなバラバラなメンバーを一つの目的のために集めることが出来たのは、貴方の働きあってのことでしょう。それでは不足なのですか?」

「それは……そうかもしれませんが……」

「少なくとも達成感はないでしょうね」

 

 デュバリィの言葉に頷くリィン。

 仮に昨日の決闘に代理人を立てて勝利したとしても、デュバリィは微塵も嬉しくはない。

 己の手で勝ち取ってこその勝利、味わってこその敗北の悔しさなのだ。

 

「本当に記憶を取り戻すことを優先すれば、俺の考えは邪魔なのかもしれない。でも、俺はリィン・シュバルツァーという存在をあの人に認めさせたいんです。

 わがままかもしれませんが、それが偽りない気持ちです」

 

 たとえそれで記憶を取り戻したとしても、彼の心にリィンは残らない。

 そう思っている。

 直接ぶつかり合い、踏破してこそ初めて『友』と呼ぶ権利があるのだ。

 

「確かに、彼は権力や財力よりも武力のほうが心に届くでしょうからね。貴方の考えは間違っていないと思いますが……私の代行をデュバリィに譲ったとして、果たしてそれで勝利出来るのですか?」

「少なくとも、デュバリィさんと組めば俺達の力は何倍にもなると思います。だから俺には彼女が必要です」

 

 そう断言すると、デュバリィは顔から熱が引かないまま、むずかゆいようにそわそわと体を揺らす。

 面と向かって男に必要と言われたのだ。

 たとえ気に食わない相手であっても、己を下した相手……他の男よりは認めざるを得ない少年の言葉が恥ずかしくてしかたなかった。

 だが同時に、互いにしのぎを削りぶつかりあったライバルからの信頼が嬉しくもある。

 おそらくアリアンロードへの忠義がなければ、口では何か言いながらも協力するほどに。

 そんなデュバリィの気持ちを、当然のようにアリアンロードは察していた。

 故に、これは必然の言葉。

 

「わかりました。……というより、私は元々そのつもりでした」

「え?」

「ま、ますたあ?」

 

 まさかの発言に、リィンとデュバリィは目を丸くする。

 助力してくれる、と言った相手がリィンと同じ気持ちだったことに驚き、デュバリィは最初から自分を派遣するつもりだったと明かされて目を剥いた。

 

「劫炎と友になる。その言葉を聞いた時から決して私の参戦があってはならない、と判断しました。私と彼では決着が付かない以前に、そこまで『本気』で戦えないからです」

 

 マクバーンはともかく、アリアンロードは自分と彼が雌雄を決することで生まれる被害を思えば二の足を踏んでしまう。

 

「ですが、昨日の貴方とデュバリィのような決闘……それが望みなのでしょう?」

「まあ、あそこまでマクバーンさんと互角かって言われたら首を横に振りますが」

「構いません。ようは、互いの命をかけて認め合うための儀式ですからね。……私が加われば、実力は互角ではなくなりますが、《光の剣匠》に《黄金の羅刹》、そして貴方にデュバリィの四人を主として、魔女や守護騎士達の助力があるのならば、その天秤の差を五分に近づけることも可能でしょう」

 

 言外に、それらが揃っていてもマクバーンと互角と断言出来ない、ということだ。

 しかし、だからこそ――挑戦の甲斐がある。

 

「デュバリィ」

「は、はい」

「私が貴方に言うことは一つ。……己の考えで決めなさい。私を理由にせず、貴方が出した答えで彼に合力するか判断するといいでしょう」

「わ、わたくしは……」

 

 顔を俯かせ、ちらちらとリィンを見るデュバリィ。

 リィンがアリアンロードを見れば、あとひと押しですよ、と言っているように思えた。

 だからリィンは行動した。

 

「デュバリィさん!」

「はひっ!」

「マクバーンさんの記憶を取り戻すため……何より、俺がマクバーンさんと友達になるために、協力してください!」

 

 そう言って膝の上で握られていたデュバリィの両手を取って握った。

 だが、その判断は――

 

「わ、わかりました! わかりましたからお離しやがれですわあああああ!!」

 

 照れ隠しという名の頭突きが無防備なリィンの頭を打ち、ぐらりと頭を回して倒れた。

 口を開けて目を丸くするアリアンロードと、頭を抑えながら呻くデュバリィが印象的である。

 痛む頭を振って立ち上がると、くすくすと上品そうに笑うアリアンロードが目に入る。

 

「おやおや、随分と熱心ですね。そんなにうちのデュバリィが欲しいのですか」

「う、うちの!?」

「はい、デュバリィさんが欲しいです」

「シュバババババルツァー!?」

 

 どう考えてもデュバリィさん(の力)が欲しい、という意図なのだが、慌てる彼女はそこまで頭が回らないようだ。

 そして、意図的にその言葉を引き出したアリアンロードは満足そうに頷いている。

 わかっていながら言ったリィンもリィンだが、デュバリィをからかうと大変面白いというのが二人の共通見解だった。

 その連携により頭に熱が上ってふらつくデュバリィをよそに、リィンは一つの道具を取り出した。

 

「おや、それは……」

「はい、鉄騎隊のお守りです。俺が作ったわけではありませんが、材料の収集といった手伝いはしました。……アリアンさんは、何かと戦っているんですよね?」

 

 その言葉に、優雅な笑みが一転して戦士の顔になって引き締められる。

 オズぼんも語らないが、途方もない覚悟を感じる表情だった。

 リィンが観の目で感じたことは、アリアンロードの仮想敵がマクバーンとはまた違う、因縁の敵を思わせる何かに向けられているように思えたのだ。

 

「俺にはそれがわかりませんが、どうか、これをお持ちください。

 『遠く離れた地での勝利の約束』……きっと、アリアンさんにこそこれを持つのが相応しいと思うので」

 

 差し出したお守りに、アリアンロードの戦士の仮面が剥がれる。

 一瞬だけ見えたのは、深い情を感じる女の貌。

 リィンには、それが彼女の素顔なのだと思った。

 

「……ありがたく、受け取ります」

 

 アリアンロードは静かにそれを受け取り、胸に抱き止める。

 閉じられた両目には柔和な雰囲気が宿り、リィンは不思議とアリアンロードが自分と同年代の少女のように感じた。

 

 

 

 ――そして気づけば、アリアンロードとデュバリィが老夫婦に入れ替わっていたのである。

 

(フフフ、連絡手段はすでに私が受け取っている。決行日が決まれば私が連絡を入れよう。それ以外にも、デュバリィ嬢の連絡先をARCUSに入れておいた)

(なら安心だな)

 

 それを聞いて安心していると、列車がクロスベル駅への到着のアナウンスが響く。

 リィンはさらに街で別れるまで老夫婦の荷物を持ってあげたりと、しばしの時間を過ごしていく。

 そして手を振って老夫婦と別れた後、コインロッカーに太刀を除いた手荷物を納めたリィンは改めてメモに記された住所へ移動しようとするのだが……

 

「……しかし、本当に広いなあ。高い建物もたくさん立ってるし、別世界に来た気分だ」

 

 リィンが駅を出ると、人通りと導力車、建物が縦横無尽に並ぶ街並みに圧倒される。

 大陸最先端の技術都市とも呼ばれているそうだが、技術が優れているということは人が多くもあるということか。

 とはいえ、ヘイムダルに比べれば数は少ないかもしれないが、リィンからすれば数十万の差など、視界一面に映る光景に比べれば誤差のような気がした。

 

「すみません、ちょっと聞きたいことが――」

「ちょっといいかな?」

 

 駅員に道案内をお願いしようと思ったが、それより早く別の相手に取られてしまった。

 なら他の人を、と見渡してみるが人混みに囲まれて手が空いている駅員まで距離が遠く、リィンがたどり着いた頃には別の人を相手にしている。

 時間に余裕があるのならば、迷子も上等でマラソンするのだが、今回は待ち合わせの時間もある。

 早めにたどり着いておかなければ、相手に迷惑がかかってしまう。

 これはヤバイ、と都会の洗礼を浴びるリィンだったが、そこに少女の声がかけられた。

 

「どうかされましたか?」

 

 声に振り向いてみれば、そこには一人の少女が佇んでいる。

 桃色の髪を短いポニーテールに結った、カチューシャ付きの白いリボン。フリルのついた新緑のワンピースに上着を羽織り、白いスカートから伸びる足は細身ながら鍛えられた印象を受ける。

 リィンよりも年下、それこそエリゼと近いように見える。

 

「あ……その、行きたいところがあるんだけど、ここからどう行けばいいか悩んでしまって」

「旅行者さんですか? この辺は人混みも多いですからね……良ければ案内しましょうか?」

「え、いいのかい?」

「はい。こう見えても警察学校に通ってますので、困った人を助けるのは当然です!」

 

 むんっ、と力を込めるように両手を握る少女。

 その太陽のような活力に満ちた表情に、リィンは迷うだけ使える時間が少なくなる、と判断しお願いすることにした。

 

「じゃあごめんね、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 少女はぺこりと頭を下げた。

 合わせるように、リィンも頭を下げる。

 その意図せぬ同調に思わず笑ってしまい、少女も口に手を当てて苦笑していた

 

「なんか笑っちゃってごめんな」

「こちらこそすみません。初対面の人相手に」

「じゃあお互い気にしない、ってことで」

「はい。ではメモを受け取ります……え、マクダエル前市長の家……?」

「わからない?」

「い、いえ。大丈夫です。ただ、旅行者……それも、貴方のような学生さん? が訪ねるんだ、ってちょっと思ってしまって」

「はは、確かに珍しいかもしれないな」

 

 出会った経緯を思い返せば、今こうしているのは確かに珍しい。

 帝国の園遊会で出会い、そのツテを辿って来たというのはクロスベル人からすればあまり馴染みのないことだろう。

 

「でも、私もそこに用事があったのでちょうど良かったです」

 

 それでも少女はその疑問をすぐに散らし、こっちです、と元気よくリィンを先導してくれた。

 中央広場から出れば特務支援課があるビルにも興味があるが、トワの話によれば通商会議の影響で忙しくしているそうだ。

 

(そう言えば会長達はもうクロスベル入りしてるのかな)

 

 オリヴァルトやセドリックと合わせて、トワとも合流を予定している。

 リィンはレグラムからの直行のため少しスケジュールに余裕があり、浮いた時間と合わせて可能な限り回れるところは回る予定だ。

 

「何か気になることでもありましたか?」

「ああ、噂の特務支援課を見てみたかった、って思って」

「ご存知なんですか? 失礼ですが、どこから……」

「俺は帝国からだよ」

「そうなんですか……帝国人にも知られているなんて、さすが特務支援課」

「何か言ったかい?」

「いえ、なんでもありません。でもあの人達なら今日も色んな人を助けていると思うので、運が良ければ途中で会えるかもしれませんよ」

「なら、その偶然を期待しておくよ」

 

 そんな風に会話をしながら、二人はマクダエル前市長邸へやってくる。

 

「ありがとう。おかげで助かったよ、君がいなかったら一時間以上はロスしてたと思う」

「いえ、気になさらないでください。私の尊敬する人達も、こういう活動をしているので私もそれに倣っただけですから」

「それでも、ちゃんと実行出来るのが偉いと思うよ。君は良い警官になりそうだ」

「そ、そうですか? えへへ、ありがとうございます」

 

 頬を朱に染めながらも、はにかむように笑う少女。

 魔都と呼ばれているため、少し構えていたリィンだったがエリィ達や特務支援課にこんな少女が居るのなら悪いだけの街でもないのだろう、と印象を改める。

 

「ところで、今更聞いちゃいますが、どんなご用事だったんでしょう?」

「構わないよ。今日クロスベルを探索しようと思っているんだけど、その案内人をマクダエル前市長……正確には、その孫娘のエリィさんから紹介してくれるって言われて」

「あ、じゃあ貴方がリィン・シュバルツァーさんですか?」

 

 桃髪の少女は手を合わせてリィンを見上げる。

 突然名前を言われたことに軽く目を見開くリィンに、桃髪の少女は同年代よりも豊かな胸の上に手を当てる。

 

「初めまして、私はユウナ・クロフォードと申します。このたび、エリィさんの紹介で臨時の案内人を務めさせていただくことになりました。

 よろしくお願いしますね、リィンさん!」

 

 そう言って、ユウナは満面の笑みを浮かべる。

 こうして、リィンはクロスベルの地へ本格的に足を踏み入れるのであった。




もし特別実習より前にクロスベル入りしていたら

シグムント
「来るぞ、帝国からの列車だ」
ロイド
「え……?」
オズぼん
(ほう、息子よ。赤い星座の団長が見えるぞ。私とも知らぬ仲ではない)
リィン
「よし、ここは息子として挨拶を」←誰にでも見えるオズぼんヘッド用意して口パク
「わ た し は か れ の む す こ  で す」
車掌
「お客様、大荷物は他のお客様に迷惑なので片付けてください」
リィン
「すみません……」←オズぼんヘッド収納
シグムント
「――――――(,●´д⊂)ゴシゴシ」←もうリィンは普通に見える
ロイド
「あの?」
シグムント
「いや……目を鍛えすぎると変なものを見る。お前も気をつけろ」
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