令和初投稿になりますが、改めて今年もよろしくお願いします。
飛ばされた先は、既知の場所だった。
ジオフロント最初の探索、つまりA地区に酷似……いや全くの同じ光景がそこに広がっているのだ。
少なくとも第八制御端末のあったベースとは異なる。
「え、え、へあ?」
「これは、転移?」
ユウナはただ困惑し、ワジは転移されたのかと考えるも、リィンは今までの経験から再現された景色の特異点だと瞬時に看破する。
「いや、ここは特異点だ」
灰の試しから帝都の特異点まで、異空間に身を預けた経験の多いリィンにはそれを知ることができた。
その証拠に、入口のドアを開けようとしてもビクともしない。
まるでドアの絵が壁に描かれているかのように、その扉は施錠されたままだ。
「あの部屋に入ろうとした時に聞こえてきた声からして、誰かの介入は必須だろうな。《帝国解放戦線》かそれとも……教会はクロスベルに敵対組織がいるから、ここに潜り込んでるのか?」
「さて。詳しくは言わないけど、一つ言えば心当たりが多すぎてわからないってことかな」
リィンはそうか、とだけつぶやく。
元よりダメ元で聞いただけなので、成果が得られないことに落胆はなかった。
「それじゃあ、とりあえず先に進もう。特異点なら、ここを作る主がいるはずだから、そいつを倒せば元の場所に戻れるはずだ」
「そ、そうなんですか?」
「こういった空間に巻き込まれるのは初めてじゃないんだ」
「そう、なんですか……」
ユウナは呆れとも感心とも取れる声を漏らす。
不思議とその言葉に嘘は感じなかったのは、人柄というより行動のせいか。
ワジも腕を組んだまま、無言でリィンを見据えている。
「ただ、特異点っていうのは外見が同じでも何らかの差異があるはずだ。二人とも、俺よりはここを知っているだろうから、何か従来のジオフロントと違うところがあったらすぐ言ってくれ」
自然とリィンの言葉に倣うユウナ。ワジも色々言いたいことはあったが、少なくとも同僚の二人からリィンの特異点経験が豊富なことに嘘はないと知っているので、ひとまず従うことにする。
そうして警戒して進んでいくが、出てくる魔獣に違いはなくリィンが問題なく太刀の一振りで駆逐していく。
やがて、少し大きな広場に出た。
「ちょっと広い場所だけど、上に別の道があるな」
「あの、リィンさん。ひょっとして……」
「大丈夫だ、ユウナは抱えていってやる」
「どこに安心しろと!?」
「お前はあれくらい飛べるよな?」
「まあ出来なくはないけど」
「私がおかしいの? おかしくないよね?」
警察学校に通っているといえ、一般人の域を出ないユウナは二人の会話が異次元に感じられた。
別にリィン達がおかしいわけでなく、このゼムリアにおける達人と呼ばれる強者ならデフォルトで持っているものだ。
ようは、ユウナはまだまだ経験不足、と言えるのかもしれない。
「とりあえず先に進――」
そう言おうとしたリィンは抜刀しながら、左腕で壁を作るように横に広げる。
この先に進んではいけない、と語る背中にユウナが止まり、ワジは即座に彼女を促した。
「ほら、下がるよ」
「え?」
「どうやら、歓迎の準備は整っているようだ」
困惑しながらも、ワジに従ったユウナが通路まで下がるのを気配で感じたリィンは、心の中でワジに指を立てながら顔を前に向けた。
静かな足音が聞こえる。
リィンは覚えのない気配、そして己より
「…………え?」
背後で、呆然としたユウナの声が聞こえてくる。
それは長い黒髪を揺らし、頬に傷を持った男だった。
赤いロングコートに身を包んだ体躯は一見しても鍛えられており、歩く姿勢にもブレがない。
だが何よりリィンが驚いたのは、その左手に細長い鉄の棒――太刀を収めた鞘を携えていたことだった。
「風の剣聖……」
「ア、 アリオスさんがなんでここに!?」
ワジとユウナの声が、目の前の男の身分を証明する。
アリオス・マクレイン。
リィンも聞いた覚えがある。
クロスベルを拠点とするA級遊撃手にして、その実力はS級に届くと呼ばれる、おそらくクロスベルで最も有名な存在の一人。
だが、リィンが彼の名を知っているのはその手に握られた太刀。
つまり、己と同じ八葉一刀流の使い手、何より弐の型を極め奥伝を授かった兄弟子であることだ。
「すごいな、まるで本物みたいだ……」
「本物、みたい?」
「ここに本物がいるはずないだろうさ。何より――」
リィンの言葉は最後まで続かない。
目にも止まらぬ速さで動き、抜刀された一撃が、リィンの太刀と合わさったのだ。
弐の型を極めた奥伝の剣士、その動きはデュバリィすら超えているのではとリィンは思う。
少なくとも、デュバリィとの決闘がなければ怪我を負っていた可能性すらあった。
「こいつがきっと、この特異点の主だろうから、な!」
目の前の剣士は存在そのものが肉体でなく、霊力で編まれたものであることをリィンの目は見抜いていた。
強引に重なった太刀を弾こうとするが、上手くすかされてリィンだけが体勢を崩してしまう。
そこに神速の抜刀が伸びる。
伍の型、残月が照らす刃光をリィンは首に血の筋を一つ刻まれることを対価に避ける。
だが、止まらぬ斬撃の嵐が吹き結ぶ。
一刀、二刀がほぼ同時に飛んでくる凄まじい速さは鬼気をすでに解放したリィンでも避けづらくて仕方ない。
アリオスの体がブレる。
それが分け身であると察したリィンは咄嗟にその場から離れるが、追撃を止めることが出来ず防戦一方となってしまう。
《光の剣匠》や神速との戦いで、リィンは己よりも遅くとも追い詰めてくる相手、己よりも速い相手との戦いの経験を積んでいる。
リィンがやっていることは、ヴィクターの動きの模倣だ。
ヴィクターを上回るスピードで迫ったリィンを、《光の剣匠》は追い詰めた。
デュバリィとの戦いで形を掴み、今こうしてアリオスの剣を前にすることで、その再現力が開花する。
だからこそ、《理》に到達した剣士の攻撃を前に、リィンは防戦にまで上達させているのだ。
昨日と一昨日の経験がなければ、リィンはとうに切り伏せられていてもおかしくない。
故に二人の剣士に心の中で感謝を捧げながら、リィンは反撃の機をひたすら待った。
そして、自然と始まった決闘を前にユウナは取り出したトンファーを握りながら、見守ることしか出来なかった。
「全然、見えない……どうすればいいの……?」
彼女は一般人であるが、警察学校の生徒としてそれなりに鍛えてもいる。
だが、目の前で繰り広げられるのは達人の戦い。
アリオスの技量が《理》に到達しているとしても、鬼気解放が続く限りリィンは防戦ながら戦うことが出来る。
しかし、ユウナにはもはや太刀と太刀が弾かれて響く音を聞くことしか出来ず、戦いの全貌を知ることすら出来ずにいた。
「下手に手を出さずに、機をうかがうことだね。ただ、君はあいつの言葉を信じる?」
「え?」
ワジも同じく、
同時に、ユウナへの問いかけも。
「信じる、って……」
「あいつの言葉を信じるなら、あのアリオス・マクレインを倒せばこの特異点から抜けられるって言うけど、君はそれでいいの?」
「な、何を……」
「クロスベルの英雄が帝国の皇族の護衛に負ける、って事実を受け入れていいのか、ってことさ」
その言葉に、ユウナは息を呑む。
「で、でもあれは偽物、ですし……」
「だから、それを信じられるのか、ってことだよ。アリオス・マクレインを偽物だと判断したのはあいつだ。
仮に本物だった場合、どうするべきかって思ってね」
「そんなこと……」
「加えて言えば、ここは特異点だって言うけど、ひょっとしたら戻れば普通に出られたかもしれないよ?
入口を確かめたのもあいつだ。僕達を騙していない保証もない」
ワジが言葉を連ねると、ユウナは唇を震わせ胸を抑えたまま黙ってしまう。
「ま、ここから戻ってる間にあいつが血だまりに沈んでも目覚めが悪いし、しばらく見守るとしよう」
ユウナは答えない。ただ、息が乱れ呼吸の間隔が乱れていた。
(……悪いね、少し確かめたいことがあるんだ)
そしてワジは、彼だけが気づいたある事柄を検証するべくリィン達の戦いの続きを観戦していく。
だが、その双眸は真剣そのもので、悪意でユウナを問い詰めたわけではなかった。
そして、戦いはリィン達へ戻る。
「はあああああああああ!!!」
鍔競り合いで戦況が膠着すると、リィンは鬼気を全身に満たし、強引に切り返す。
制限時間を大幅に減らした甲斐もあり、アリオスの剣技にわずかな揺らぎを起こす。
そこに差し込まれるのは、《風の剣聖》の株を奪うかのような弐の型、疾風。
鬼の力が加わったそれは裏を超えて鬼の如き猛き力を秘めた風となり、八葉最速の剣がアリオスに迫り――その極限を超えて放たれた《風の剣聖》の裏疾風が鬼を撃墜した。
「ごふっ!」
力でなく、技術の押し負け。
音を置き去りにした剣舞はリィンの体勢を崩し、放たれた闘気の刃がリィンを吹き飛ばす。
闘気の刃に合わせて咄嗟に太刀を差し込んだものの、まともに受け身を取ることが出来なかったリィンは背中を壁に強かに打ち付けられた。
裏疾風を超える速度と力を出せることで、鬼疾風と名付けたそれは確かに従来の疾風を超えている。
だが、それはあくまでリィンが使う疾風を基準にした場合だ。
弐の型を極め、《風の剣聖》と呼ばれるほどの技量を持つ《理》の剣士が振るう疾風を、同一のものと考えることがおかしいのだ、と兄弟子の影は弟弟子に身を以て証明する。
せき込むリィンだが、休息の時は訪れない。
アリオスはユウナ達に目を向けることなく、リィンへ追撃を仕掛けてきたのだ。
顔に向けて突き込まれた太刀を必死に避けるが、切り返されて追いかけてくる刃に頬を浅く切られてしまう。
赤い血しぶきが舞い、ユウナが押し殺した悲鳴を上げるがアリオスの剣は止まらない。
重傷になるほどの大きな傷は作られないが、完全に避けきれない風刃の一閃はリィンの全身を少しずつ切り刻んでいく。
最初に比べて、明らかにアリオスへ形勢が傾いている。
白刃に赤い滴を垂らしながら防ぐリィンは、それを不思議に思った。
尻上がり、スロースターターといった戦闘の中で本調子になり、激昂して徐々に地力を上げていく武芸者は存在する。
だがアリオスのそれはそんな言葉では説明できない、急激な跳ね上がりを見せていた。
それこそ、鬼の力のような上昇を想起させる。
その証拠に、鬼気を込めた斬撃が技でなく力で押し戻されるのだ。
これは明らかに地力から逸脱している。
そのことを疑惑から思案へ切り替えることが出来ず、白い制服が緋色に染まる光景に比例して、ユウナの顔が青くなっていく。
だがワジはそれを気遣うことなく、戦いと
「ユウナ、一度僕達は引いてみるかい? あいつはここに放っておいて」
「で、でも……それは……」
「ああでも、もう遅いかな」
「―――――――――え?」
ワジの宣告が引き金となるように、その技は閃いた。
鞘に納められた太刀が抜き放たれた途端、視認すら許されない速度で振るわれる超高速の連続斬り。
八葉一刀流は弐の型、疾風の発展形である
リィンは鬼気を全開にして太刀を合わせていくが、彼に出来たのは風神烈破の壱段目まで。彼はその時点で太刀を弾かれ、無防備に体をアリオスにさらしていた。
そこを見逃す《風の剣聖》ではない。
弐段目、上段からの闘気の刃を防ぐことなど到底できず、振り下ろされた風刃は容赦なくリィンを切り裂き、彼の胸から溢れる血溜まりにその体を沈ませた。
「少し危険だね」
「リィンさん!」
ワジに背中を押され、ユウナがたまらず飛び出す。
自分が割り込む領域ではないことなど関係なく、ただ目の前で命の火を消そうとしている少年を助けるために。
振るわれた太刀を、ユウナがトンファーで
そのことを疑問に思う間もなく、息継ぐ間もない剣撃にユウナは両手のトンファーを必死に握り、リィンを背に守る。
ワジはその間にユウナの背後に回り、リィンを回収した。
アリオスはすぐにワジを追おうとするが、ユウナが割り込むことでそれを防ぐ。
教会に伝わる法術でリィンの怪我を止血しながら、ワジは己の予測を確信に近づけていた。
「君、意識はある?」
「……っはあ、ロジーヌと似てるようで違う違和感ですぐ起きたよ」
「それだけ口が叩けるなら安心だね」
リィンはゆっくりを立ち上がる。
怪我をした時、エマの魔術の治療以外にもロジーヌの法術の修行も合わせて彼女の治療を受けたことがある。
彼女のそれは本人の頑張りに応じるように徐々に熟練度を上げていたが、ワジのそれはロジーヌよりも遙かに傷の治りが速かった。
従騎士以前に見習いのロジーヌと守護騎士のワジを比べるほうがおかしいが、リィンとしてはものすごく悔しい気持ちだった。
「っつ、ユウナは――?……!? なんで、
血を失ったことで青白くなった顔を気遣う余裕もなく、リィンはユウナがアリオスと渡り合っていることに違和感を覚えた。
批判するつもりはないが、リィンとユウナの技量の差は自他ともに認めるほどに一目瞭然だ。
《理》に到達した達人相手に防戦一方だったリィンに対して、色濃い疲労こそあるが怪我を負わずにトンファーで太刀を防いでいるユウナは明らかにおかしかった。
そこでリィンは、アリオスの剣が鈍っていることに気づく。
リィンへ振るっていた剣とユウナへ向ける刃に、明らかに練度の差が生じていた。
それこそ今ユウナへ振るっているのは、初伝レベルの剣。甘く評価しても中伝には届かない程度だ。
あれが《風の剣聖》の実力ならば、血溜まりに沈んだのはアリオスと断言できる。
「フフ、気づかないのかい? 散々高説を垂れておいて、その目はただのカラーコンタクトだったのかな?」
ワジに言われて、リィンは灼眼を灯す。
するとどうだ。
ユウナとアリオスの間に、ARCUSのようなリンクが繋がっているのだ。
灼眼から鬼眼へ切り替え、さらに深く探る。
するとそのリンクは導力でなく霊力で作られたレイラインである、ということに気づいた。
「何らかの術式が彼女にかけられているようだね。おそらく特異点に取り込まれると同時……そして、彼女の想念があのアリオス・マクレインを生み出した」
「想念?」
「近年でもちょっとその辺で色々あったんだけどね。簡単に言えば、彼女の想いの強さに応じてあの《風の剣聖》は強さを変える。
君を圧倒していたのは、彼女が思い描くクロスベルの英雄、アリオス・マクレインだった、というわけさ」
「……ユウナはある意味宿主だから、倒すわけにはいかない。だから気づかない程度に弱体化している、と」
「第三者がいなければ気づかない、意地の悪い術式だよ。使い手の性格の悪さがうかがえるよ。今は僕の法術でわかりやすく視覚化してるけど、戦闘中でも気づけなかっただろう?」
ユウナが割り込んださいに、ワジは背中を押した。
その時に法術をユウナにかけていたのだ。
リィンが戦闘中に灼眼や鬼眼を展開していたにも関わらずそれを見抜けなかったのは、上手く隠されていたからということもあるが、そんな余裕がなかったということだろう。
今もユウナが必死で捌ける程度でしかないが、本人からすれば必死の攻防だ。
「と、いうわけで」
ワジがリィンの太刀に手をかざす。
すると、
鬼眼のリィンには、それが聖痕の力であると知った。
「これが、お前の……」
「言葉にはしないでおくよ。あとはこれを《風の剣聖》に叩き込めばいい」
「ユウナに影響はないのか?」
「その剣があの《風の剣聖》に触れた時点で、彼女との繋がりは消えると思ってくれていい。彼女には護りの法術もかけてるしね。それに今なら不意打ちで簡単に――」
「……いや、この力には感謝するけど、待ってくれないか?」
「はあ?」
ワジは目を丸くする。
解決手段を提示し、あとは実行するだけの簡単な話だ。
なのに待つとは、一体どういうことなのか。
「ひょっとして、気づいていたのに彼女を割り込ませなかったことに怒っているのかい? 確かに君への怒りもあったけど、僕だって色々考えた末の結果なんだから、時間がかかったのは仕方ないと思ってくれ」
「いや、不意打ちじゃなく……ちゃんと戦ってあの術式を消す」
ワジは言葉を失う。
彼が言っていることはつまり、偽物といえアリオス・マクレイン相手に一太刀入れるということだ。
「何を言ってるんだ。血を流しすぎて、頭がおかしくなったのか?」
「いいや、逆に血が抜けて冷静そのものだよ。単に、俺の今後のためだ」
「今後?」
「俺は、ある人と友達になりたいと思っている」
「…………………」
ワジは、リィンが何を言っているのかよくわからなかった。
構わず、リィンは続ける。
「でも、その人はそれこそアリオス・マクレインより強くてな。帝国でも最強の剣士やお前の同僚、魔女とか色んな人に手を貸してもらってるけど、それでも達成は難しいと思う。わかってるのはただ一つ。
――俺が強くなればなるだけ、あの人と友達になる可能性は上がるってことだ」
だからこれは試練だ、とリィンは告げる。
「自棄で言っているわけじゃないぞ? いざとなれば、俺が倒れてもお前がなんとかしてくれる。だから任せられるんだ」
「……随分と清々しいまでの掌返しだね」
「それはすまん。けど、治療を受けてわかった。あれはちゃんと相手を治そうとした術だ。俺の友達と同じ気持ちで使われた癒しの術だった」
「……違和感があったんじゃないのかい?」
「治る速さに違和感、ってことだよ。……悪かった。立場だけ見て、
「…………………はあ。これで許さなかったら、僕が器の小ささを見せるだけだね」
深いため息をつきながら、ワジは苦笑する。
なるほど、これは子供だ。
こちらが怒りを抱けば抱くだけ、子供に叱る年上の気分になってしまう。
(とはいえ、こちらも二年間の苦労を一瞬でばらされたんだ。すぐには許してあげないよ)
そんな
いざとなれば尻拭いは自分がする。
だから任せる、それだけの話だ。
「ありがとう」
リィンは鬼の力を全身に浸す。
胸の奥に燻っていた、星杯騎士団への怒りの種火が太刀へ伝う。
それがワジの聖痕と合わさり、太刀を変質、錬成させる。
白銀の刃は黄金へ染まり、峰は天を示すような蒼へと移り変わる。
必要なのは、あと一つ。
「ユウナ」
「えっ」
声をかけながら、リィンはユウナとアリオスへの戦いへ割り込む。
ただし、打ち込んだのは鬼気を練りこんだ飛び蹴りだ。
初伝レベルに弱体化した偽アリオスにその一撃を防ぐことは出来ず、先のリィンと同じように壁に叩きつけられる。
お返しだ、と心の中で思いながらリィンは蒼金の太刀をユウナのトンファーに重ねた。
「バトンタッチだ、ユウナ」
「え。へ?」
「気持ち、込めてくれ。……勝ってくるから」
真剣な目でユウナと武器を見比べるリィン。
やや遅れて、ユウナは言いたいことを飲み込んで太刀を挟みこむように交差させ、んん~~~~と念じた。
「あ、あの、リィンさん。大丈夫なんですか? ケガとか、たくさん」
「ワジに治してもらったから大丈夫だ」
「ワ、ジ? あの、名前……」
「仲直りかは知らないけど、俺から謝罪したし、多分もうあいつに怒りを向けることはないと思う。
あと、ありがとな。ユウナが居たから、こうして立ち上がることが出来た」
「い、いえ、私なんて、そんな……アリオスさんと打ち合えてたことが不思議なくらい――あれ、どうして私リィンさんを追い詰めた相手にあんなに……?」
首を傾げるユウナ。
リィンは苦笑しながらも、イメージを変えないよう舌を滑らせる。
「あとユウナ、やっぱりアリオス・マクレインって強いか?」
「そ、それは勿論……」
「そっか。なら、
それだけ言ってリィンはアリオスに歩み寄り、一定の距離を置いて蒼金の太刀を構える。
壁に背中を打ち付けたアリオスがゆっくりと復帰する。
抜刀は、同時だった。
「緋空斬!」
放たれる焔の刃。
アリオスも洸破斬と呼ばれる飛ぶ斬撃を放つが、相殺。
従来であれば格上に食い破られるリィンの戦技は、ワジの助力とユウナの気持ちを乗せた支援によって互角に昇華する。
「疾風!」
またも同じタイミングで突進。
繰り出される同一のクラフトを前に、押し負けるのはやはりリィン。
だが体勢は崩されない。
押し込まれる体をねじり、螺旋の動きからの
上手く流されるが、本命は次の一手。
「
螺旋を止めず、さらなる回転から突き込まれた太刀の切っ先に劫凰の嘴が具現化する。
アリオスは残月で対応しようとするが、その受け流しを前にリィンはさらなる一撃を乗せる。
「劫ぉぉぉぉぉぉぉ――――」
イメージといえ、劫炎の刃に二度の敗北は許されない。
鞘状態だったといえ、《光の剣匠》の剣に叩き折られるものが劫炎であるはずがない。
つまり、やっていることは単純明快。
技を圧倒的な力で押し潰す!
「炎撃!」
イメージ、つまり想念。
ユウナが抱く、クロスベルの英雄という想念が目の前のアリオスを形作っているのなら、気持ちで負けるわけにはいかなかった。
何より、こちらにもユウナの気持ちが乗っている。
同じ気持ちなら、一人より三人分の気持ちが強いのは当然であり――アリオスの残月は、そんな理屈によって強引に崩された。
「残月!」
意趣返し、と言わんばかりにリィンは瞬時に納刀、持ち手を反転して逆手のまま鞘での残月がアリオスの顎を打ち据える。
顎を跳ね上げ、上空に打ち上げられるアリオス。
当然、鞘の強打といえこの一撃で終わるほど《風の剣聖》の名は安くない。
即座に体勢を立て直し、納刀。そこに集められる闘気の質を感じ取り、リィンは唇の端を釣り上げた。
リィンは納刀したままの鞘に手をかけたまま、腰だめに構える。
先程手痛い一撃を受けたアリオスの風神烈破。
少なくとも、偽のアリオスが繰り出すそれを破らない男がマクバーンと友になるなど百年早い。
その想念が、リィンにその戦技を選択させた。
「
それは、アリオスと同じ風神烈破。
ただし、蒼金の太刀とユウナの想念、蒼穹と太陽のような輝きを刀身に宿したリィンの一撃は風を支配する空の威光を伴って奔る。
高速の斬撃戦は互角。
ここまでは前のリィンでも出来たことだ。
だが、リィンの体勢は崩れない。
アリオスの剣を全て防ぎきり、互いに弐撃目のために太刀を構える。
アリオスは上段、リィンは中段。
共に抜刀の速度は互角。
鉄の刃が体に差し込まれたのは、リィンのほうだった。
「リィンさん!」
「…………いや」
アリオスの剣が再びリィンを地に沈める、と思ったその時だ。
リィンの体が両断されると同時に、まるで空蝉のようにその姿が消える。
鬼気によって生み出された、実体を持つ分け身による擬態。
想念が働く世界であるならば、その完成度を一時的に高めることでリィンは独自にその分け身を作り出すことが出来た。
想念で動く偽物のアリオスに、それを見抜く眼力は搭載されていなかった。
それだけで、この男はアリオス・マクレインに限りなく近いだけの複製だ。
そんなまがい物に負けては、今までリィンと戦った剣士達に申し訳がない。
彼ら彼女らは、こんな囮に引っかかるほど生易しい相手ではなかったから。
「
故にこの結果は必然であり。
「
振り下ろされた太刀を超えた先から現れたリィン
ここ数日のリィン君の戦歴。
一昨日 VS《光の剣匠》
昨日 VS《神速》
本日 VS《風の剣聖》・偽←New!