はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。クロスベルの地に立つぞ⑦

 世界が元に戻ると、リィン達はクロスベルの街並みを見下ろせるビルの上にいた。

 ネオンサインが輝き、導力車のライトが夜に光をもたらす光景は、時刻が夜を迎えていることを告げる。

 特務支援課のある分署ビルではないが、噴水に備え付けられた巨大な鐘を見るに中央広場のどこかのようだ。

 特異点の中での移動が、そのままクロスベルの移動に繋がっていたらしい。

 こうして戻って来れたのを自覚すると、リィンは安堵から息をつき、崩れ落ちるように膝をついた。

 

「リィンさん!」

 

 そこにユウナが駆け寄り、慌てて肩を貸す。

 息を乱しながら、リィンは彼女を気遣うように言う。

 

「ユウナ、まだ血が乾いてないだろうから、服が汚れるぞ」

「そんなこと言ってる場合ですか、侮らないでください!」

 

 仮にも警察官を目指す者として、血まみれの相手に怯んではいられない、とユウナは態度で語る。

 その姿に苦笑しながらも、気になることを訪ねる。

 

「体の調子はどうだ? どこか傷んだり、気持ち悪くなったりしてないか?」

「それはこちらの台詞です。リィンさんは、あんなに血を流したんですから」

 

 幻葉切りにより、術者への伝播攻撃は成功したと思うが、ユウナに影響がなくて何よりだった。

 ユウナもワジから色々言われていたことを思い出し、ちらりとワジを見るが彼は意味深に笑うだけで答える気はなさそうだ。

 実際はユウナが術のことを知れば、自分がリィンを苦しめていたと悩むだろう、と予測して黙っているつもりらしい。

 リィンも、ワジの視線にその意図を感じて頷いた。

 

「やれやれ、信用してなかったのかい?」

「俺の剣がワジの加護を超えてたって懸念もあるだろう?」

「まったく、なんて負けん気の強さだ」

 

 肩をすくめながらも、ワジはその物言いを気にした様子はない。

 だが気を引き締めるように目に活力を宿すと、二人に向かって告げる。

 

「さて、僕はさっきのことを報告に戻るよ。君達は休んでいるといい」

「待ってくれ、俺も……」

「ユウナ、そいつの面倒を頼んだよ」

「はい、お任せください」

 

 ユウナは一度肩に回したリィンの腕をほどき、その右腕に握られた太刀と腰の鞘を回収、納刀された得物を自らの腰に帯びる。

 当然リィンは抵抗したが、偽物といえ《風の剣聖》相手に精魂を使い果たしたリィンにそれを止める余力は残されていなかった。

 

「ほら、私にすらいいようにされるじゃないですか。まずは体調を元に戻すことが先決です」

(フフフ、息子よ。お前の負けだな。気絶しなくなっただけ以前よりは成長したと言えるが、ろくに動けないようでは無理をする意味はあるまい?)

(ヴァリマール、神気だ、神気を頼む!)

(試シテハミルガ、時間ハ期待スルナ)

(それと、しっかりとした食事もだな)

 

 心臓から血を巡らせるように、ヴァリマールが独自に使う神気がゆっくりと全身に広がっていく。

 元よりアリオスに負わせられた傷はワジの法術によって治療されていたが、昨日のデュバリィから合わせて血を流しすぎている。

 ヴィクターとの戦いの後にアルゼイド邸で食事を振る舞ってもらったように、血を作る食事も体に取り入れる必要がある。

 

「…………わかった、とりあえずどこか美味しい食事が出来る場所でも案内してくれ」

「その前に着替えですね。ワジさんすみません、適当に替えのシャツを買って来ようと思うので、見張っててもらっていいですか?」

 

 今のリィンは服を血で染めた、一見して重傷を抱えた外見だ。

 こんなところを見られたら、即座に救急車を呼ばれること間違いない。

 リィンはオズぼんに替えの服を取り出してもらおうとしていたので、慌ててユウナを止める。

 

「いや、替えの服は持ってるから大丈夫だ。少し後ろを向いていてくれ」

「その間に逃げたりはしませんよね?」

「ちょっと信頼なさすぎやしないか?」

「だったら目を放したらいなくなる癖を直してください」

 

 そう言って腰から抜いた太刀を両手で抱きとめながら、ユウナは後ろへ振り向く。

 彼女には、リィンには武器がなくてもその身一つあれば動くと思っているようだ。

 実際、太刀のストックがあるのでユウナの懸念は当たっている。

 だがリィンからすればシュミット教室の皆に作ってもらったゼムリアストーンの太刀を置いていく、という考えは存在していなかった。

 

 そのため、ワジに呆れるような目で見られながらも制服を脱いだリィンは、一見してバレないように手元をゴソゴソとさせながら、替えの制服を取り出す。

 ワジは少し眉を潜めていたが、言及はして来なかった。

 夏服である半袖の制服に袖を通しながら、三枚目の替えの制服に身を包むリィンはユウナの背中に声をかけた。

 

「よし、もういいぞ。ついでに太刀も返してくれ」

「………………」

「大丈夫だ、いなくなる場合はちゃんと言うから」

「そもそも、私に道案内を頼んだんですから、いなくなるという選択をしないでください」

 

 納得いかない、という面持ちだったユウナだったが、割と切実そうに太刀を見つめるリィンの目に負けて武器を返す。

 この太刀がリィンにとって大事なものである、ということをその気迫から感じ取ったユウナは、強引だったといえ少し悪いことをしたかも、という気分になった。 

 

「さて、それじゃあ僕は行くよ。またね、二人とも。何かあれば特務支援課へ連絡をちょうだい」

「あ、はい! お勤め頑張ってください」

「またな」

 

 ぺこりと頭を下げるユウナに対し、リィンは軽く手を振るだけだったが、最初を思えば雲泥の差である。

 そのことに唇の端を緩めながら、ワジは静かに夜の闇へ消えていった。

 

「それで、どこに行くんだ?」

「とりあえず百貨店の《タイムズ》へ行きましょう。食材をそこで買って……いざとなれば、私がなにか作りますから」

「へえ、そいつは楽しみ……っと」

「ほら、とりあえず腰を落ち着かせる場所までは私が抱えますから、しっかり掴まっててください」

「悪いね」

 

 再び回されたユウナの手に支えられながら、リィンはゆっくりと移動を開始する。

 太刀こそ背負い袋に納めたが、ひょこひょこと移動する二人は道中の間に奇異の目で見られるのは自然な流れだった。

 その不躾な目線もユウナは気にしなかったが、直接声をかけられれば流石に足を止めざるをえなかった。

 

「おや、そこの君。ひょっとして列車に乗っていた子か?」

 

 振り向けば、そこにはクロスベルへ訪れる前に列車の中で出会った老夫婦がいた。

 買い物袋を抱えた老婦人を見るに、百貨店の帰りなのだろう。

 リィンは頭を下げながら、再会の挨拶を交わした。

 

「どうもこんばんは。まさか、ここで会うとは思いませんでしたが……」

「それはこちらの台詞。てっきり家族と一緒にいるものと思っていたわ」

「はは、正確には明後日なんですよね。それまではクロスベルを事前に回っておこうかと」

「なんだ、両親が再婚するっていうのに本人はのんきにデートか? しかも歩けなくなるまで動くとは、元気なことだ」

「ちちち違いますよ! 私はただ、リィンさんを案内してるだけです!」

 

 夜でもわかるほどに顔を赤くして反論するユウナだったが、老人はむしろその反応を待っていたかのようにニヤニヤと笑みを浮かべる。

 老婦人はそんな夫を嗜めながら、買い物袋を掲げた。

 

「せっかくだし、お夕飯でもご一緒しない? 腕によりをかけて作るわ」

「え、ですが……」

「ふむ、それはいい案じゃな。もちろん、予定があるというなら構わんが、寂しい老人の相手をしてくれる気はないかね?」

「うーん……ユウナ、どうだ?」

「へ、私ですか?」

「一応、百貨店へ案内してくれる予定だったろ? 俺は受けても構わないと思うけど」

「その言い方はなんだか卑怯です、ここで断ったら私が悪者じゃないですか」

 

 その返答はつまり、老夫婦の誘いを受けることを意味していた。

 

「あ、ただ少し怪我をして血が足りてないので、肉とかチーズとか色々そういうのがあれば……」

「リィンさん、図々しいって言われません?」

「黙って体調悪くしたら、それこそ申し訳ないだろう?」

「だからって……」

「怪我って、魔獣でも退治していたのか?」

「ええ、ジオフロントに潜ってそんな感じです」

 

 全て一撃だったが、確かに魔獣退治はしたのだから嘘ではない。

 偽物といえ《風の剣聖》と戦ってきました、勝ちました、というよりはよほどマシだろう。

 

「まあまあ、そういうことなら少し買い物を足していかないと」

「あ、お金は払うので――」

「若い者が遠慮するな。ジオフロントは街の地下空間、つまりクロスベルの平和を守ってくれたようなものだからな」

 

 ガハハ、と笑う老人に苦笑しながらも、リィンは恐縮そうにその好意を受け取る。

 

「あ、すみません。それならちょっと家に電話しても良いでしょうか? 今日は夕飯までには多分帰る、って言ってたので……」

「なら、俺のARCUSを使うといい」

「わあ、これ携帯の通信端末でもあるんですね! では、早速……」

 

 自宅に一報を入れ、許可を取ったことでユウナからARCUSを返される。

 そうして二人は、突然の誘いでありながら老夫婦の家に案内されていった。

 

 

「第八制御端末……ヨナのベースか」

「うん。確実に誰か居て、なにかしていたのは間違いないよ」

 

 リィン達と別れたワジは、特務支援課の分署ビルへ戻り事の次第を報告していた。

 戻った時にはロイド達は帰宅しており、ティオを除く特務支援課も同様にワジからの話を聞いて、思い思いに思案を募らせる。

 

「それで、リィン君は今どうしてるの?」

「ユウナに面倒を任せたけど、怪我をしているから今晩は大人しく……多分、してると思う」

「多分ってなんなんだ」

「あいつは物凄く行動的でね。食事を取ったら、もう動けるとか言って夜のクロスベルを探索しててもおかしくないバイタリティの持ち主だよ」

「あの子は普通じゃないから割と想像がつくわね」

「感情のままに動く子供にしか見えなかったがな」

「それはまた、なんと言うか……」

 

 エリィとセルゲイ、ワジ以外はリィンのことを知らないため、想像するしかないが三人ともそう評するリィンという少年に興味を覚えるロイド。

 だが今は、第八制御端末へ仕掛けられた術とやらを確認するのが先だった。

 

「課長、もう一度第八制御端末へ行こうと思うのですが……」

「犯人自体はもういないと思うから無駄足になる可能性も高いが、お前らが納得するまで動けばいいさ」

「ありがとうございます、それでは早速――」

「――待て、ロイド!」

 

 動こうとしたロイドへ、ランディの激が飛ぶ。

 急な叫び声に体をすくませるロイド達をよそに、ランディはビルの入り口を睨みつけるように目を向けていた。

 

「ラ、ランディ先輩?」

「下がってろ……いいか、手を出すんじゃねえぞ」

 

 ノエルがおっかなびっくり声をかけるも、ランディの緊張は途切れない。

 一体何事だ、と目を向けるロイド達の目に、隻眼の偉丈夫が悠然と歩いて来た。

 

「なっ、貴方は……!」

「何の用だよ、叔父貴」

「フッ、出頭しに来たとでも思ったか? 生憎と俺は何もしておらんよ。むしろ、された側だ」

 

 ランディと同じ赤髪の男、シグムント・オルランド。

 彼が告げた通り、ランディとは叔父と甥の関係であり、赤い星座の猟兵団団長でもある男だった。

 

「……じゃあ被害届ってやつか?」

「特務支援課には冗談のセンスがないようだな」

「生憎と、リィン・シュバルツァーならここにはいないよ」

 

 ほう、とシグムントが片眉を上げる。

 その隻眼は、腕を組んでシグムントを眺めるワジへ固定された。

 

「ワジ、なにか知ってるのか?」

「直接見たわけじゃないけどね。どうやら件のあいつがシャーリィ・オルランドを一蹴(・・)したってことを聞いただけさ」

「なっ」

「あのシャーリィを、一蹴?」

 

 ロイドは元より、ランディの驚きは度を抜いていた。

 《血染め》、人食い虎と称されるシャーリィは若干十六歳ながら赤い星座の部隊長を務める少女だ。

 当然、生半可な実力の持ち主ではないし、それこそ今の(・・)ランディやワジも含めて一人で特務支援課を相手取ることも可能だ。

 そんな従兄妹の強さを知るランディの驚愕は、果たしてどれほどか。

 だが、胸中の動揺を抑えながらランディは吠える。

 

「つまりお礼参りってことか? 赤い星座も地に落ちたもんだな」

「馬鹿なことを言うな。アレは娘の手落ち、俺が言うことはない。ただ、少し話をしたくてな」

「話……」

「娘を回収してからその動向を探っていたのだが、ジオフロントへ入ったと話を聞くと同時に足跡が途切れてな。

 まるで突然消えたようにいなくなった、と報告を受けている。最新の報告では、共に行動していたワジ・ヘミスフィアが特務支援課に戻っているということで、足を向けたというわけだ」

「嘘、ではなさそうだな」

 

 ロイドは緊張を高めながらも、会話から情報を拾っていく。

 とはいえ、わかることは少ない。

 ランディの言うようにお礼参りが違うことはロイドにもわかるので、純粋に話がしたいということが目的なのだろう。

 

「生憎と、彼の居場所はこちらにもわからない。ワジも聞いていないんだろう?」

「さて、本人は適当な宿に泊まるとは言っていたかもしれないが……」

「その様子では本当に知らんようだな。まあいい、アテは他にもある。邪魔をしたな」

「当て? それは一体……」

「おじさん、ユウナのところに行くの?」

「なっ、キーア!」

 

 帰ろうとしたシグムントを引き止めたのは、特務支援課で預かっている少女、キーアであった。

 傍に巨狼のツァイトを控えさせる彼女は、爆発的に高まった緊張の中で静かに声を発し続ける。

 

「だって、そのリィンって人はワジとユウナと一緒に行動してたんだよね? なら、ユウナを探すのが手っ取り早いだろうし……」

「ほう、子供ながらに聡明のようだな」

「キーア!」

 

 慌ててエリィが彼女を後ろから抱えるように抱きしめ、いつでも盾になれるようシグムントへ対応する。

 その行動に唇の端を釣り上げるシグムント。

 

「依頼でもないのに、子供相手に手を出すほど落ちぶれてはおらん」

「でも、ユウナのところに行くというのは本当なんでしょう? あの子は一般人なのよ」

「ものを訪ねる相手に、一般人も警察官も関係あるまい?」

 

 それは、遠回しにリィンをシグムントの前に連れて来い、という意味ではないかという考えがロイドの脳裏に浮かぶ。

 ワジの話が本当ならば、今頃は怪我の療養のために休んでいる頃だ。

 ユウナと別れているなら、彼女が持つ情報次第ではリィンに会う確率が変動する。

 

「まず、ユウナの家にこちらで連絡する。わかり次第、アンタに情報を渡す。……それでどうだ?」

「ロイドさん!?」

「別におかしいことじゃないさ。道案内や人探しも、警察の役目だからな」

「フフ、そう言ってくれるなら俺は待たせてもらうとしよう」

 

 そう言ってソファーに身を沈めるシグムント。

 以前、娘も同じようなことをしていたことを思い出したロイドは頭痛を堪えながらも、通信機の前へ近寄った。

 

「えっと、ユウナの家の電話番号は……」

「ロイドー。確か……」

 

 キーアがそこに割り込み、番号を教える。

 その頭を撫でながら、ロイドは礼を言った。

 

「ありがとう、キーア。よく覚えていたな」

「ケンとナナともたまに遊ぶから!」

「そう言えば、あの子達はユウナの弟妹だっけ……」

 

 記憶力のいいロイドには、わずか数回といえ特務支援課に遊びに来た子供達のことを思い出し、申し訳なさを覚えながらもクロフォード家へ連絡を取る。

 その後、東通りのある老夫婦の家で歓待を受けていると知ったロイドは、覚悟を決めて彼ら――モルス老達の家へ通信を入れた。




ワジ
「仮にも警察の管轄なのに、猟兵が我が物顔で居座るのってどうなの?」
リィン
「仮にも警察の管轄なのに、守護騎士が我が物顔で働くってどうなの?」
ワジ&リィン
「………………」
ヴァルド
「ワジイイイイイイッ!!!」

新作で出るっぽいヴァルドさん。スカーレットともどもどんな風になってるのやら…

次回、特務支援課、ついにリィンと遭遇?
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