はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。クロスベルの地に立つぞ⑧

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまです」

「はい、お粗末さまでした」

「食べ盛りの若者といえ、ここまで食べるといっそ清々しいのう」

 

 老夫婦――モルス老とパーラ婦人の家で夕飯をご馳走になったリィンとユウナは、今日の疲れを癒やしていた。

 消耗していたリィンはともかく、ユウナもたくさん歩き回り、偽物の《風の剣聖》と必死で渡り合った疲労が蓄積していたようで、夕飯を食べた後はうつらうつらと船をこき始めている。

 

(あ、そう言えばユウナの家って教えてもらってないな……どうしよう、悪いけど起こすしかないか)

(なら、特務支援課を尋ねればいいだろう。彼女が遊びに行っているのなら、自宅の場所を知っているかもしれん)

 

 確かに、と頷きながら、リィンは食後の一服が落ち着いた頃に老夫婦へ口を開く。

 

「ご馳走になりました。これから宿を探すので、ここで失礼させていただきますね」

「なんだ、予約を取ってなかったのか?」

「こっちで探す、と言っていたので断っていたんですよね」

「ならちょうどいい、このまま一泊すればええ」

 

 その提案に、リィンも口を濁す。

 ただでさえ夕飯を振る舞ってもらった上に、一泊までというのはユウナの言葉ではないが図々しいものだろう。

 

「え、でも……」

「うふふ、旅行帰りというのもあるけど、おじいさんがこんなに楽しそうなのも久しぶりなのよ。もちろん私もだけど……」

「……では、もし宿が見つからなかった時にお願いします」

 

 妥協案ながらも破顔する二人に、では、とリィンは言う。

 

「先にこの子を家に送り届けてきます。今日、道案内をしてくれた子なんですけど、ちゃんと家に送ってあげたいですから。と言っても、場所は知らないので特務支援課を尋ねようと思いますが」

「ほう、特務支援課にか」

「縁ってものを感じるわ」

「お二人ともご存知で?」

「特務支援課のリーダーとはお主のように偶然の出会いをしてな。はっはっは、お主もこれからなにかを達成する予兆なのかもしれん」

「それは、嬉しいことですね」

 

 思い描くのは、マクバーンとの戦い。

 リィンにとって何か達成するというのであれば、まずこれが第一に挙げられる。

 無論、皇族の護衛として《帝国解放戦線》の捕縛も大事なのだが。

 ギデオンからもたらされた、通商会議の襲撃。

 それが確定である以上、備えはして足りないということはないだろう。

 

「ちょっと失礼、と」

 

 すでに寝入ってしまったユウナを背負い、しっかりと担ぐ。

 消耗しているといえ、食事も済ませてエネルギーを補給したリィンには軽いものだ。

 ユウナが起きたら羞恥で下ろしてというかもしれないが、それまではリィンが運んでやるのが筋だろう。

 

「道は大丈夫か?」

「はい、案内してもらいながら覚えましたので」

「若い子は記憶力がしっかりしてていいわね。それじゃ、行ってらっしゃい」

「はい、行って来ますね」

 

 二人に礼を言って、リィンはユウナと太刀を入れた背負い袋を持って家を出る。

 あの特異点もどきから脱出した時にはすでに夜だったが、夕飯をご馳走になった今の時間は約二十一時、のんびりしていたら日付が変わってしまうだろう。

 極力ユウナを起こさぬよう、それでも速く送り届けるため、リィンは鬼の力を使って跳躍、屋根伝いに足音を消して移動していった。

 

 だがその途中、リィンは一瞬で屋根から飛び降りて即座に物陰に隠れる。

 殺気をぶつけられた、というではないが誰かに見られている気配を感じたのだ。

 それも、知らない気配である。

 元よりクロスベルには初来訪なので知らない気配のほうが多いのだが、リィンが足を止めたのはその気配が達人クラス……それも、《光の剣匠》といった己よりも格上を示す濃い気配を感じたからだ。

 

(強引に……いや、ユウナがいる以上無茶は出来ない。いっそヴァリマールを……)

 

 逡巡は一瞬、周囲に首を巡らせ誰の迷惑にもかからない場所であることを確認したリィンは愛機を呼び出そうとする。

 だが、その直前に気配の主はやってきた。

 

「ほう、こちらに気づいたか。斥候としての技能もあるようだな」

 

 ネオンサインの光がその人物を照らす。

 リィンの目に映ったのは、隻眼の偉丈夫だった。

 鍛え抜かれた体躯はアリオスよりもさらに肉厚であり、ルトガーやナイトハルトといった体格の良い男達よりもさらに一回り大きく感じる。

 ひと目見て只者ではない、と判断するリィンにオズぼんの声が木霊する。

 

(シグムント・オルランド……赤い星座の副団長直々のお出ましか。まさかここで出会うとは思わなかったな、息子よ)

(赤い星座……)

 

 フィーやルトガーが所属する西風の猟兵団のライバルにして、ゼムリア大陸最高峰の猟兵団の一つ。

 ルトガーと同格の相手というならば、この存在感は納得だとリィンは一人頷いた。

 

「お前がリィン・シュバルツァーか」

「そうですけど、《クリムゾン商会》……いえ、赤い星座の副団長が、なにか御用ですか? あ、娘さんの武器はちゃんと直して送り返そうと思うので、少し待ってもらえたら……」

「クク……ふざけているのか、天然なのか。シャーリィのことは気にしなくていい。少し、お前と個人的に話がしたかっただけだ」

「俺とですか?」

 

 首を傾げるリィン。

 てっきり娘のことでお父さんがお怒りなのか、と思っていただけに意外な提案だった。

 値踏みするような視線は止まらず、リィンはそれを気にすることなく言う。

 

「ああでも、それならちょうど良かったです。俺も、貴方に聞きたいことがあったので」

「ほう?」

「でも、まずこの子を送ってからでいいですか?」

 

 そう言って、リィンは背中のユウナを見せつけるようにくるりと回る。

 すやすやと寝入るユウナを見て、構わんと告げるシグムント。

 

「ついでだ、送ってやろう」

「本当ですか? それはありがたいですけど、場所がわからないので……そのために特務支援課に向かおうとしたんですが」

「場所は知っている。お前が気にすることはない」

「なら安心ですね」

 

 ユウナが起きていれば盛大に断ったであろう送迎を了承し、リィンはシグムントの案内で導力車に乗り込んでいく。

 彼女はそれでも起きることはなかったが、きっとそのほうが幸せであることに違いはない。

 車内に入ると、導力車と思えない広々とした空間が広がっていた。

 立つことも出来そうで、少なくともシグムントが立ち上がっても頭をぶつけない程度のスペースが確保されている。

 備え付けのテーブルにはいくつかの酒が並べられており、シグムントは呑むか、と言いたげに軽く動かしたが、生憎と未成年なのでと断っておく。

 適当な座席に腰を下ろし、その隣にユウナを寝かせて改めてリィンはシグムントと対峙した。

 

「それで、俺に話というのは?」

「お前は一体何者だ?」

「何者、とは?」

 

 質問の意図が読めないリィン。

 シグムントが高級そうな酒のボトルを掴んだのを見て、横にあったアイストングで適当にコップの中に氷を入れる。

 ともすれば飲酒の邪魔と一蹴されそうな手合いだが、シグムントは特に何も言わずにその給仕を受ける。

 媚びるわけでもない、自然な気配りの動きに妙な感覚を覚えるシグムント。

 注ぐのは自身であったが、酒に妙な味が加わった気がした。

 

「うちの娘はあれでもそれなり(・・・・)に鍛えている。それを一蹴した相手と聞いて一体何者かと思って見れば、今まで聞いたことがない若造と聞いてな。少し興味を覚えただけだ」

「うーん、特に目立つことはしてませんが。ただの学生ですし」

 

 もしユウナが起きていれば、または彼を導く魔女が傍に居れば嘘だ! と盛大に喉を鳴らした台詞をこともなげに言うリィン。

 

「娘さんに関しては、ちょっと虫の居所が悪い時に仕掛けられたので、武器を壊さずに穏便に過ごせば良かったんですが」

「アレはあいつの不始末だ。相手の強さを図りきれずに手を出した未熟ゆえのこと。貴様が気にすることはない」

「強い相手に興味を覚えて仕掛ける、っていうのはわからなくもないですけどね。懐に余裕があれば、俺と戦ってくださいって貴方に依頼したいくらいですし」

「ほう?」

 

 空気が圧縮されるような緊張が車内を包み込む。

 格上の威圧感。

 だが、ここ数日で浴び慣れたそれをリィンは自然と流しながら理由を説明する。

 

「ちょっと目的のために強くなる必要があるんですよ。そのための修行というやつです。まあ、今の赤い星座を雇うのは無理でしょうが。

 報酬のミラもそうですけど、二重契約(ダブルブッキング)、なんてプロとしてしそうにありませんからね」

 

 それは遠まわしに、すでに赤い星座が契約を結んでいる、またはその相手を承知しているという発言だった。

 リィンの詳しい立場を知らないシグムントは、彼の背景を探ろうと思考を巡らせようとしたが、それが叶うことはなかった。

 何故なら、リィンへの興味を上回る爆弾発言がもたらされたからだ。

 

「では、こちらからも質問なんですが、ルトガー・クラウゼルが生きていることはご存知ですか? ご存知でしたら、復活した理由とか彼の動向を知りたいのですが」

「……何?」

「赤い星座の先代の団長、《闘神》と呼ばれるバルデル・オルランドと相打ちになったという話はフィー……シグムントさんにわかりやすく言えば妖精(シルフィード)から聞いたんですけど、ノーザンブリアで出会って以降音沙汰がなくて。

 だから、猟兵の情報網の繋がりでご存知ないかな、と」

 

 まるで雑談を交わすかのように投げかけられた質問に、シグムントは眉根を寄せた。

 知っていてとぼけているのでなく、本当に知らないのだろう。

 その反応で、シグムントはルトガー復活のことは知らないかと結論付ける。

 

「猟兵王が生きているだと? 酒の席の冗談にしては、いささか度が過ぎるな」

「冗談ではないですし、酒は飲んでないんですが……」

「俺は兄貴と奴が相打ちになったのをこの目で見た。なら、それはほら話にしか聞こえん」

「普通はそうですよね。ただ、フィーも見てますし……」

「そも、お前の話が真実である証拠もない。俺の前でそのことを告げる、という意味をお前は理解しているのか?」

 

 シグムントの威圧感が増す。

 次の返答次第では、明らかに車内が戦場と化す。

 それを知ってなお、リィンはのんきに考える。

 

(ヴァリマール、あの時の音声データってあるか?)

(ウム、検索シヨウ……ヨシ、ARCUSニ送信シタ)

 

 仕事が早い、と笑みを浮かべながら、リィンはARCUSを取り出す。

 それが戦術オーブメントであるを見抜いたシグムントが目を細めるが、リィンは気にせずARCUSを操作し、再生ボタンを押した。

 そして、テーブルにARCUSを置いた瞬間、かの猟兵王の声が再生される。

 

『フィーにハグしてもらっておいて別の女連れ込んでるところを見た、父親の怒りってやつだ!』

「…………………」

「…………………」

「…………………コレガショウコデス」

 

 まさかのシーンであった。

 確かにゼクトールに乗ったルトガーの声であるし、ヴァリマールの中で聞いたから録音してデータに残すことは可能だったのだろう。

 しかし、でも、だからってこのシーンの選択はない。

 シグムントの威圧感は跡形もなく消滅し、代わりに車内に満ちるのは動揺にも似た困惑。

 それがルトガー生存についてなのか、女性関係への疑惑なのかリィンには察することが出来ない。

 

(ヴァリマール!!! お前、お前ー! もっと別の音声拾えただろう!?)

(コウイウ時ハ何ヨリいんぱくとガ強イしーんヲ選ブベキダトおずボンガ……)

(親父てめぇ!)

(フフフ、息子よ。しかし戦闘にはならずに済むだろう?)

 

 シグムントはリィンとユウナを交互に眺め、絞り出すように言う。

 

「……猟兵王の娘相手に二股とは、剛毅と言ってやればいいのか?」

 

 リィンへ向けられる目がなんとも言えないことになっていた。

 

「この子とは今日が初対面です」

「つまり現地妻か」

「違いますよ!?」

 

 言えば言うほどどツボにハマる気がしながらも、リィンはARCUSを操作し他の音声データがないか探そうとする。

 だが、シグムントは呆れとも感心とも取れるため息を残しながらリィンの動きを止めた。

 

「確かにこの声は猟兵王のものだ。うちの娘が妖精とやりあったときにも、似たような気迫をぶつけられたことがある」

「じゃあ――」

「だが、これが死ぬ前に録音したものである、という証拠もない。まあ、録音する意味があるものでもないがな。そもそも、何のために残していたのだ」

 

 俺も知りません、とリィンは叫びたかった。

 

「うーん、あと証拠というかルトガーさんを感じられそうなのは……これくらいですからね」

 

 そう言ってリィンは鬼の力……ウォレスに師事し、ヴィクターとの手合わせで完成させた部分操作の初期段階の操作を披露する。

 漆黒のオーラが渦を撒いて腕に絡まるのを見たシグムントが目を見開き、同時に導力車が急停止する。

 リィンは咄嗟に急停止によって体を浮き上がらせたユウナを、衝撃を完璧に殺して受け止め、改めて座席シートに寝かせた。

 同時にリィンへ向けられる視線。

 それを、シグムントが嗜めた。

 

「ガレス。ただの芸だ、気にするな」

「…………はっ」

 

 どうやらリィンのそれは曲芸として認識されているらしい。

 本場の猟兵から見れば、未熟な時のこれはお粗末な技術として見られているようだ。

 再び運転を再開し、動き出す導力車。

 ガレスと呼ばれた男も、それこそ達人に相応する実力者なのだろうとリィンは思った。

 

「お目汚し、失礼しました」

「証拠はなくとも、確かにお前と猟兵王に繋がりはあるようだ」

(フフ、超一流は超一流を知る、というものだな。かの《光の剣匠》がそうであったように、今ので繋がりを見出したらしい)

 

 思えばヴィクターも一度見ただけで、部分操作の流れをほぼ言い当てていた。

 リィンも力の流れを看破する能力に長けているので似たようなことが出来るが、鬼の力による霊視を持たずにそれを当然と行えるのは、やはり達人ということだろう。

 

「お前のほうでは何か掴んでいるのか?」

「はい。現在、帝国の四大名門に数えられるカイエン公爵の護衛に西風の旅団の連隊長がいるそうなので、ルトガーさんも居るんじゃないかって推測はしてるんですけど……」

「強さはともかく、貴様は猟兵には向かんな」

「え?」

「もう少し情報は上手く隠し、取捨選択をしろ。ウチの業界では守秘義務というものは、時に命やミラよりも大事だからな。掴んだ情報を上手く扱うというのは、どこの業界でも通用する武器だ」

 

 何やらアドバイスをくれるシグムント。

 その理由を考えるリィンだったが、オズぼんが真意を教えてくれる。

 

(おそらく、猟兵王のことに関する返礼と言ったところか。現状で関わりがなくとも、いずれその情報は大きなアドバンテージとして使うことになるやもしれん)

(先を見据えるってやつだな。俺もやってるからよくわかる)

(りぃんノソレハ、同一ニシテハ失礼ダト思ウガ)

「――ありがとうございます、今後は気をつけます」

 

 頭を下げて礼を言うと、何がおかしいのか愉快そうに笑うシグムント。

 よくわからないが、機嫌が良いのは何よりだろう。

 

「しかし、猟兵王が生きている、か」

「埋葬はされたんですよね」

「少なくとも兄貴……闘神のほうはな。しかし、死者が蘇るなど……だが、思えばあの戦いはどこか違和感があった」

「違和感?」

「取捨選択と言ったばかりだがサービスだ。――《闘神》と《猟兵王》の戦いは、よくよく考えればおかしいことも多かった」

「おかしいこと……」

「どうして、三日三晩も戦い続けられた?」

 

 その言葉に、リィンは武芸者として極限の命のやり取りを経た決闘を思い出す。

 デュバリィとの決闘は練度の差こそあれ、それこそ《猟兵王》と《闘神》の戦いに似通っていると言える。

 だが、リィン達は数時間と経たずにお互いがボロボロになった。

 全身全霊を尽くした勝負、短時間ながら凝縮された体の酷使は疲労という言葉が生易しい消耗を二人に強いた。

 外から(・・・)のエネルギーの補給でもない限り、人は何日も戦い続けることなど不可能だ。

 

「思えば、兄貴もどうしてあの場所を決闘地に選んだのか……フフ、何やらきな臭いニオイがするな」

「貴方達を嵌めた(・・・)相手がいる、と?」

 

 リィンは直感でそんなことを言った。

 何か理由があったわけでもない、閃きが赴くままに言い放った言葉。

 それはシグムントを大いに刺激したようで、唇の端を大きく釣り上げた。

 

「クク……確かに、言われてみればそんなことがあっても不思議ではないな。いつの間にか、自分がハメる側という考えが先にあったらしい」

「西風に赤い星座、ゼムリア最高峰の二つの勢力の長がぶつかり合うのだから、生半可な介入は不可能。そんな風に考えても不思議ではありませんしね」

「問題は、俺達すらも欺ける何者かが存在している、というわけか」

「世の中は広いですからね。《理》に至った剣士ですら一蹴される強さを持った相手っていうのも存在しますし」

 

 脳裏に浮かぶのは、劫炎の姿。

 聖痕を完全に使えなかったといえ、守護騎士と魔女の長という二人を相手に優勢に立ち回ったと聞く彼の本気は、一体如何ほどなのか。

 

「それも気になるところだが……フッ、いかんな。促したばかりだというのに、気づけば情報を求めてしまう」

「俺としては別段教えることに忌避感は全然ないんですけど……」

「それは、お前が依頼人(・・・)になった時にでも聞くとしよう」

「その時が来たら、強さを求める理由はなくなってるかもですけどね」

 

 そう言ったところで導力車がゆっくりと停止する。

 窓を見れば、住宅街の一角に止まっているようだ。

 

「到着したみたいですね、改めて送迎ありがとうございます」

「気にするな。こちらも有意義な話を聞けた」

 

 獰猛に笑うシグムント。

 それは良かった、と言いながらリィンはユウナを起こす。

 

「ユウナ、起きろ。家の前だぞ」

「う、うん……」

 

 ユウナの目がゆっくりと開かれる。

 寝ぼけ眼のまま、ユウナはリィンを見て――自然と、シグムントを目の中に収めた。

 

「…………………」

「…………………」

 

 次いで、ぐるりと首を巡らせる。

 豪華な導力車の中、テーブル、リィン、巨漢の偉丈夫。

 様々な情報が集まった寝起きのユウナだが、反応がなく固まってしまった。

 

「まだ寝ぼけてるのか? まあいい、それじゃあシグムントさん。俺はこれで」

 

 シグムントは応えず、ただ笑みをリィンに向けるのみ。

 それが彼なりの挨拶なのだと察しながら、ユウナを抱えて導力車を降りる。

 発車する導力車に手を振りながら見送ると、ようやくユウナが起動した。

 

「起きたかユウ――」

「きゃあああああああああああああ!!」

 

 その絶叫は、夜のクロスベルによく響き――迷惑になってしまうから、とリィンはユウナの口を塞ぐ。

 だが、悲鳴の後に少女の口を抑える少年の姿がどんな目で見られるのか。

 

「クロスベル警察だ」

 

 それは、ある理由で即座に駆けつけることが出来た茶髪の青年――ロイド・バニングスの言葉が証明していた。

 ロイドは警察手帳を見せながら、リィンに告げる。

 

「すまないが、君に聞きたいことがある。同行願おうか、リィン・シュバルツァー君」

 

 それを断る選択肢は、リィンには残されていなかった。




ノ ル マ 達 成(夜は宿にいない
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