はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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いつも誤字報告ありがとうございます。

6/3 零の御子による登場人物の改変が完了しました。


フフフ、息子よ。お酒は二十歳になってからだぞ

 大陸横断鉄道の列車に揺られながら、リィンはクロスベルの壁となるガレリア要塞を眺めていた。

 彼がクロスベルへ行った時は途中で寝てしまい、起きた時にはガレリア要塞を超えていたため、こうして間近で見るのは始めてだったのだ。

 

「ここがガレリア要塞か。先日に激闘があったそうだけど、目に見えた被害はないみたいだな」

「でも、中はそうでもないみたい。合同演習してた第四・第五機甲師団はテロリストの襲撃を防げなかったとして、色々立場が微妙っぽいよ。

 さすがに一週間くらいしか経ってないから、後釜が決まるまでは第五機甲師団がまだ請け負ってはいると思うけど」

「結果良ければ全てよし、といかないのが軍人の辛いところだなあ。むしろ、エリオットのお父さんとかじゃなかったらそのまま制圧されてたかもしれないのに」

 

 前に座りながらボヤくリィンを嗜めるように、フィーは軽く足を動かしてリィンの靴に触れる。

 一応自分達も居たのだ、というアピール。

 だが、フィー自身は人形兵器とテロリストの相手に手一杯で、機甲兵や支配された《アハツェン》相手に何が出来たわけではない。

 

 リィンは騎神を駆って列車砲の一撃を防ぎ、エマは魔煌兵と魔術を駆使し、第四機甲師団と連携して列車砲を制圧した。

 二人には人を超える大きな力があるから、と言うのは簡単かもしれない。

 けれど目標とする相手はおろか武芸者でもないクラスメイトに遅れを取っている、という事実は家族を見つけることが出来ないフィーに力不足を感じさせるには十分だった。

 

 フィーはそう思いながらリィンを改めて見やる。

 白いシャツの上にアーガイル柄のカジュアルなニットベスト。頑丈そうな繊維でありながら、足を曲げることを阻害しないパンツ。

 パンツをブーツインさせるところに山育ちを意識させる装いだ。

 

 クロスベルへ赴くに辺り、学院の制服ではなく私服に着替えており、何より彼の頭部は灰髪であり、瞳は燃えるような灼眼に染まっていた。

 つまり、鬼の力を使用中である。

 

「リィン、鬼の力をずっと使ってるのに疲れないの? クロスベルに着いてからでもいいのに」

「一日くらいならずっと切り替えても平気さ。俺としては、もっと変装したほうがいいんじゃないかって思うけど。

 トワ会長からある程度教えてもらったしな」

「先入観を廃するのは難しいから、髪と目が違うだけでも簡単に気づかれないよ」

「そうなのか?」

「それに、リィンってなんだかんだいつも制服のイメージだから」

 

 通商会議の時も士官学院の制服だったのだ。

 クロスベルへ行くのなら、なおさらそのイメージが強い。

 

「へえ……ああ、フィーの私服も結構似合ってるぞ」

「ん。なんかついで、って感じだけどありがと」

 

 フィーの衣装は、カーキ色にまとめたシャツにスカート、ワンポイントにニット帽を被っている。

 彼女は別段変装する必要はないので、服を変えただけだ。

 

「むしろ、ノーザンブリアに行った時の格好を今してれば良かったんじゃないか? 九月になったといえ、八月が終わって間もないんだし」

「別に平気。それにあれは猟兵仕様というか……まあ気にしないで」

「私服で来るなら、それこそみんなと予定が合えば良かったんだけどな」

「リィンは毎度動きが早すぎる」

 

 リィンがクロスベルへ再訪する、と聞いてまだ三日と経っていない。

 自由行動日と名を打っているが、リィン以外は部活動に入っているため比較的自由が効くフィーを除いて予定を合わせることが出来なかったのだ。

 ミリアムは部活動こそなかったが、帝国軍情報局(本来の身分)の仕事があるとのことで、朝早くから出かけている。

 

 ちなみにレクターへの相談による赤い星座の武器の所在は、残念ながら知ることは叶わなかった。

 ただアドバイスはもらったそうで、今度赤い星座を尋ねた時にこう言えばいい、とあることを教えてもらった。

 叶うかどうかはリィン次第とのことだが、手助けしてもらった以上はミリアムの面目のためにも達成しなければならない。

 

「誰が一緒でも、向こうでやることは変わらないが……」

「怪我はしない程度にね」

お互い(・・・)な」

 

 そう言って、フィーは隣に置いたバッグを見やる。

 リィンの太刀を入れた背負い袋とは別の、修理されたテスタ=ロッサを入れたものである。

 これから向かう先で返す道具であり、フィーが交える得物。

 

「でもなあ、俺はともかくフィーはいいのか?」

「元だけど猟兵だったからね。お互い、遊びの範疇はわかってる」

 

 リィンはフィーから、シャーリィへテスタ=ロッサを渡したら確実にリベンジが待っていると聞いている。

 別にそれを引き受けるのは問題ないし、今度は武器を壊さずに相手をしようとは思っているのだが、そこにフィーが割り込む予定なのだ。

 

「ただ……リィンに関してはどうなるかわからない」

 

 クロスベル再訪の本命――テスタ=ロッサを返すのが主題と言えば主題だが、リィンは別のことも目論んでいた。

 それは、シグムント・オルランドを戦いに引きずり出すこと。

 フィーがシャーリィを相手にすると決まったら、そこへリィンも混ざり強引にシグムントとのニ対ニを提案しようとしているのだ。

 

 フィーは正直に言えば可能性は低いと思っている。

 父親としてシャーリィのことを愛娘として気にかけているといえ、基本的にプロ中のプロである猟兵。

 遊び気分で受けるラインというものがちゃんと定められている。

 そしてリィンと対峙となれば、下手に盛り上がった高揚を発散させるのが難しくなる。

 

(……なんて理屈捏ねてるけど、本当は実際にそう提案された時に足手まといになっちゃいそうだから嫌なんだよね)

 

 フィーは自分の実力をちゃんと評価している。

 戦術リンクがあるといえ、あれはどちらかと言えばもっと多人数を連携させるためのシステムだ。

 リィンもフィーも、二人ならARCUSがなくても連携を取るのは難しくない。

 フィーは元々西風の旅団でサポートをしていた経験もあるし、リィンも四月の段階でラウラの動きに合わせ、ヴァンダール流の師範代相手に戦闘の流れを支配していた。

 

(でも、そこにシグムント・オルランドが加わるなら私にとってもリィンにとっても格上、どうあってもその中じゃ一番弱い私がお荷物になる)

 

 シグムント、リィン、シャーリィ、そしてフィー。

 四人の実力に順番を付けるのであれば、この並びになる。

 どうあってもフォロー役のリィンの負担が大きい。

 フィーがフォロー出来るパターン、というのが浮かばない。

 だから、自然と口を引き結び表情が険しくなってしまう。

 

「フィー、ほら」

「……?」

「凍らせたレモネードを事前に持って来たんだ。そろそろ良い感じに溶けてるから、冷えてて美味いぞ」

 

 そんなフィーに、リィンが水筒の蓋を差し出してくる。

 流れのままに受け取ると、そこへ注がれるレモネードの冷たさが蓋を通じてフィーに心地良い涼しさを与えた。

 おずおずと、蓋を両手で抱えて口へ運ぶ。

 冷たいレモンの果汁に、ハチミツやシロップなどの甘味が混ざり、フィーの全身に広がっていく。

 ほっと一息つけば、頭のモヤモヤが少し薄れた気がした。

 

「そう難しく考えなくていいさ。遊びは遊び、本気じゃない――本当に勝つべき時に勝てれば、それで万々歳ってな」

「ん……」

 

 蓋を返すと、俺も少しと言ってリィンもレモネードを注いであおる。

 フィーが口を付けた場所とは違うところから飲んでいるが、なんとなく気恥ずかしさを覚えて視線を外す。

 窓から見える景色はガレリア要塞を超え、クロスベル州へと進んでいた。

 

「そうだ、アリサから聞いたけどフィーって先月の31日が誕生日だったんだっけ?」

「ん。でも当日はガレリア要塞での列車砲の騒動があったし、ある意味で忘れられない十六の誕生日だった」

「災難というかなんというか、ともかくおめでとうだ。十六か、エリゼと同い年なんだよな……俺の誕生日も祝ってもらったし、良ければクロスベルで何か買おうか?」

「ううん、構わない。プレゼントって意味なら、とっておきのものをもう受け取ってるし」

「何かあげたか?」

「すごく、かけがえのないものをもらった」

 

 面と向かって言い直すのは気恥ずかしいが、フィーの中でルトガーに再会させてくれたことはこの上ないプレゼントと言えた。

 そのことに思い至らないリィンは、首を傾げながらも口元に手を当てて思案している。

 彼の中で、そのことを特別と思っていない証左。

 家族は一緒に居て当たり前、という意識が根本で根付いているのだろう。

 だからこれ以上はもらいすぎ、と思ったフィーは話題を逸らすように話しかける。

 

「そう言えば、クロスベルでは誰が付いて来るの?」

「ああ、確か――」

 

 

「ど、どうも始めまして。ユウナ・クロフォードと申します」

「フィー・クラウゼル。よろしくね」

 

 クロスベル駅のホームで、リィンはユウナとの再会を果たしていた。

 まさかこんなにも早い再会を果たすとは思わず、お互いに照れ混じりの苦笑を浮かべている。

 

 ユウナは袖の赤いジャケットに赤いシャツ、カーゴ風のスカートという格好だ。

どことなくロイドの衣装に似ていると思ったが、ユウナが自身でアレンジさせて作り直した衣装とのことだ。

 正式に配備されているわけではないので改造制服というわけではなく、あくまで似た格好を模して自作したらしい。

 言われてみればロイドの衣装の色を変えてみた、という印象をリィンは覚える。

 思わぬ女子力の高さを実感しながら、本当に特務支援課が大好きなんだなと苦笑するリィン。

 

「また会おうって言ってから一週間も経ってないのになあ」

「私も休み明けで警察学校頑張るぞーって思ってたら呼び出しを受けてびっくりしましたよ。まさか授業免除でリィンさんを案内してくれ、だなんて」

「すごい扱いじゃん、リィン」

 

 今回、クロスベル再訪に辺りサラ経由でオリヴァルトへ連絡を繋げたリィンは、許可を得たものの特務支援課への報告をするよう告げられた。

 そうして特務支援課へ要件を告げると、ヴァリマールの召喚という、治安上無視するわけにはいかない力を持つリィンにお目付け役を派遣することが決定された。

 その案内に選ばれたのがユウナである。

 

「でも、噂の特務支援課じゃなくて警察学校の子が案内なんだね」

「私もロイド先輩達じゃなくていいんですか、って思ったんですけど、先輩達は通商会議での対応がまだまだ続いていてそんな余裕はなく……

 本当は別の偉い人が対応するって話になったんですが」

「そこで、俺と知り合いってことでユウナに要請したんだよ。知らない人より、知ってるユウナのほうが俺としても嬉しいからな」

 

 フィーの言葉にユウナが理由を答える。

 聞けば、通商会議での手柄の全投げに関しては警察としても苦々しく思っていたそうだ。

 そのため、クロスベルでのリィンの行動に出来る限り融通を効かせる、ということで決着が付いている。

 リィンからすればそこまで過分に対応されると逆に恐縮してしまうのだが、彼が列車砲を防いだという功績はそれだけの価値があるということだ。

 

「確かに、鬼の力を使ったリィンにすぐ気づいた時点で知り合いみたいだね」

「あはは、でも普通に変装として使っているなんて思っていませんでしたが」

 

 ユウナにとっての鬼の力というのは、旧市街で実感したように途方もない力の解放というイメージだった。

 今はあの時ほどの威圧感を覚えない、と言うともう一段階手前の変化だと教えてもらう。

 そもそも段階以前に人間はそう簡単に変身しない、というツッコミはぐっと抑える。

 今回も最初から振り回されそうな予感がするユウナだった。

 

(ううん、これもクロスベルを救ってくれたリィンさんへの恩返しの一環。頑張れ、私!)

 

 テロリストを捕縛したのは特務支援課だが、列車砲の一撃を防いだのは紛れもなくリィンである。

 事実、通商会議の行方を外から見守っている時に襲ってきた飛行船を鮮やかに処理する灰色の騎士人形の姿は、今もなお眼に焼き付いている。

 最初はティオがそれに乗っていると聞いた時は誇らしい気持ちになったものの、その後に改めて本来の所有者がリィンであり、列車砲を斬ったのも彼だと教えられた。

 

 そのことを聞いているユウナはむんっ、と気合いを入れ直す。

 その姿に、リィンのクロスベルにおける行動を聞いていたフィーはさもありなんと思うのだった。

 

「でもいいの? これから向かう先は、言っちゃうと特務支援課でも手を焼く場所だよ?」

「寝てる間に赤い星座の導力車の中に入れられてた、って聞いたらものすごく恐怖しかなかったですけど、今回は武器を返しに行くだけなんですよね? それなら、まあ」

 

 リィンの用事が赤い星座の拠点である《ノイエ=ブラン》であることから、ただの警察学校の生徒であるユウナには荷が重いとして、当初はロイド達の誰かが付いて行くはずだった。

 だがユウナは自身の負担より、特務支援課の手助けを優先した。

 当然彼らの性格上難色を示したものの、要件はあくまで武器を返しに行くだけ、ということでなんとか納得してくれた。

 

 ただ、緊急としてエニグマが渡され通信は常に繋げるように、と念を押されているため今もユウナの懐には、戦術オーブメントが稼働している。

 

「それじゃあ、《ノイエ=ブラン》にお邪魔しに行こうか」

「足はあるの?」

「はい、警察のほうで用意してもらってます。一応訓練は受けましたので、私が運転出来ますよ。まあ、役所に申請すれば簡単に免許が交付されますけど……

 いずれ、試験制度が導入されると思うので、その時は再試験って形で受けるかもしれませんね」

「真面目だなあ」

「警察ですから」

 

 それでも真面目、とフィーが締めて三人はクロスベル駅を出ようとする。

 だが、リィンはふと覚えのある気配に足を止めた。

 

「リィンさん?」

 

 ユウナの疑問に、リィンは人混みの一部へ視線を向ける。

 後を追うようにフィーもそこへ目を向けてみれば、かすかな気配の名残を感じ取った。

 

「覚えのある気配が付いてきてる」

「――まさか、気づかれるとは」

 

 リィンが声を出すと人混みの先で視線が固定され、そこに髪を上げたスーツの男が浮かび上がった。

 右目に傷跡のある、厳つい表情の男だ。

 鍛えられた体躯は身長も合わせて駅の構内に居れば目立つことこの上ないはずなのに、周囲の人々は気にした様子を見せない。

 気配を絶っている……というより、最低限を残して視線から外れているというべきか。

 どちらにせよ不意の遭遇に違いはなく、ユウナは驚きに目を剥き、フィーも静かに警戒体勢を取っている。

 だが、リィンは気にせず声をかけた。

 

「確かガレスさん、でよろしかったですか?」

「ええ。駅にて皆様をお運びするため、お待ちしておりました」

「い、一体いつから……」

「猟兵、それも《閃撃》なら待機時間なんて慣れたもの。この人、名うての狙撃手だから」

 

 やっぱり異名持ちだったのか、とリィンは思いながらお願いしますと頼む。

 指を伸ばす妙な格好でガレスに対して構えるユウナをよそに、フィーも軽く息をついていた。

 

「でも、よく俺だってわかりましたね。変装していたつもりだったんですけど」

「最初は気づきませんでしたが、彼女と《妖精》がそばに居るとなれば自然と」

 

 ね? と、フィーは変装がちゃんと出来ている、とウインクを送ってくる。

 リィンはさすが、と言いながらも送迎があるなら変装はなくても良かったかな、と思った。

 

「あと、別に敬語は使わなくてもいいですよ?」

「いえ、今回貴方達は主賓ですからね。今回はそのようにさせていただきます」

(フフフ、息子よ。これは断るほうが失礼というものだ)

 

 そんなものか、と思いながらリィンは一人納得する。

 

「じゃあガレスさん、お願いします」

「はい。では私に付いて来て下さい」

「いやいやいやいやいや!?」

 

 当然のように付いていこうとするリィンをユウナが叫んで止める。

 まだ駅のホーム内のため、視線が彼女に集中する。

 特務支援課のリーダーの格好ということもあいまってその注目度は高く、ユウナは顔を真っ赤に染める。

 それでもリィンの肩を掴んで顔を振って止めようとするのは、責任感と使命感か。

 

「赤いせ――」

「《クリムゾン商会》だぞ、ユウナ」

 

 リィンは人差し指を唇に当てながら、ユウナへ周囲に目を巡らせるよう言う。

 赤い星座の名は大陸最高峰の知名度を誇る。人混みの多い駅のホームで迂闊に出していい言葉ではない。

 リィンに常識的な対応をされて口ごもるユウナに、フィーは同情的な目を送りながら無言で肩を叩いた。

 

「――《クリムゾン商会》の人が何の連絡もなしに居たんですよ? 少しは疑ってくださいよ!」

「いや、連絡自体はしていたよ。ただ、何時頃に到着するか、までは言ってないだけで」

「んなっ」

「若様……ランドルフ・オルランド殿を通じて伺っておりますよ、お嬢さん」

 

 そういうわけで、とガレスを追いかけるリィンを見ながら、フィーも言うだけ無駄だよと言って付いていく。

 本人としては始めて来るクロスベルの昼と夜の時間を歩き回りたいところだったが、リィンを一人にするくらいなら省略する他ない。

 二人の後ろ姿を、ユウナは顔をしかめながら見やる。

 

(こ、この展開……あ、ああ……なんか嫌な予感しかしないんだけど!? ううん、しっかりしろ私! 今の私は特務支援課の皆さんの期待を一身に背負ってる!

 私にはその義務がある、私が特務支援課! そう、まったくそんなことはないけど、気持ちだけはそのつもりで挑むのよユウナ・クロフォード!)

(フフフ、息子よ。ユウナ嬢は感情が豊かで見ていて愉快な娘だな)

(一緒に居て飽きない子だよな)

 

 百面相して拳を握って構えるユウナへ、子供を見るような目を送るリィン。

 それが以前のクロスベルでユウナから向けられていたものであると、リィンは知らない。

 

(さてと。鬼しかいないけどこっちも鬼が居るし、どうなるかな)

 

 今回の目的を無事に果たすことが出来るのか、と不安に思いながらも、ハートを燃やして気合いを入れるユウナを背にフィーは移動していった。

 

 

「修復は完璧だと思うけど、違和感あったら教えてくれ。時間かかるだろうけど、また手直しを依頼してくるから」

 

 《ノイエ=ブラン》に到着した一同は、来店と同時に顔を見せたシャーリィに警戒を抱いていた。

 だが、顔を見た途端にリィンがテスタ=ロッサを渡すことで一触即発の空気は一瞬にして消え去り、シャーリィはリィンへ目を向けていた視線を一転させて手元に戻ってきた相棒の感触を噛み締めている。

 

「はー、武器が壊れたことがないわけじゃないけど、こうして離れるといっそう私この子大好きだったんだなって実感する……」

「それは何より」

「それじゃあちょっと試運転を――って、《妖精》じゃん。なんでここにいるの? ひっさしぶりー」

「リィンの付き添い。あと、武器を壊されたのに直してもらった猟兵の顔を見にね」

「へえ、言うようになったじゃん。家族が居ないのに、随分と大胆になったね。一人遊び(・・・・)したいお年頃ってやつ?」

「絶賛暇してるから、一緒に遊ぶ人を探してる」

 

 だが空気を元に戻したのはフィーだった。

 元々依頼の不達成によるフラストレーションが溜まっており、その発散を促進させるテスタ=ロッサが手元にあり、加えてぶつけていい相手が目の前にいる。

 人食い虎は、止める理由がないことを諸手を挙げて歓迎した。

 が、そこにリィンのインターセプトが入る。

 

「家族ならここにいるぞっ」

「まあ、見た目だけならそう見えますよね」

「リィン、今は真面目な空気だから。ユウナも無理に会話に入らなくていいよ」

「すみません……」

 

 鬼の力によって髪が変色したリィンは、初対面の相手から見ればフィーと兄妹に見えなくもない。

 事実、ユウナも初めてフィーを見た時は話に聞くリィンの妹かと思ったものだ。

 その視線を感じ取っているため、リィンはフィーの肩に両手を添えて宣言したが、容赦なく流された。

 だが、その空気にシャーリィが乗る。

 

「頼もしいお兄ちゃんが一緒だから強気ってこと? 羨ましいなあ、シャーリィにも憧れていたお兄ちゃんは居たけど、最近だらしなくなっちゃってさあ」

「ラ、ランディ先輩は頼もしいですよ!」

 

 落胆のため息をつくシャーリィに、特務支援課のメンバーを侮られたと感じたのかユウナが反発する。

 ロイドの格好を真似るユウナに、シャーリィは彼女が特務支援課のファンであることを見抜く。

 リベンジも兼ねてちょっかいを出そうとするが、リィンの手が再びそれを防いだためちぇー、とだけ言って離れた。

 リィンはユウナをなだめながらも、先日行動を共にした赤毛の男のことを思い返す。

 

 シャーリィが始めて会った時にも言っていたが、過去のランディはそれほどに強かったということを伺わせる。

 その気があるなら手合わせを願いたいところだが、本人にやる気が皆無なのだ。無理に誘うほどリィンは迷惑をかけるつもりはない。

 もっと別の意味で傍迷惑をかけるのだ。

 

「そう言えば、シグムントさんは?」

「パパは奥の部屋にいるよ。今日は他にお客さんもいるから、そっちの接客中」

「《赤の戦鬼(オーガ・ロッゾ)》が接客?」

「この気配はツァオさんですね、ラウさんも居るみたいで」

「――やれやれ、こうもあっさりバレると驚かし甲斐が実にない」

 

 リィンの言葉に驚くのもつかの間、奥の部屋から眼鏡をかけたスーツの男が歩いてくる。

 微笑みを浮かべた表情には仮面めいたものがあり、その足運びは独特のものがあり、何らかの武術の達人であることを伺わせた。

 

 お互いに真っ向から戦えば問題なく勝てるが、実際に対峙すれば勝利を断言出来ない隠し玉がありそうな相手。

 クロスベル滞在二日目に縁を結んだ、共和国の貿易会社、黒月のツァオ・リーが眼鏡のフレームを押し上げながら姿を表した。

 

「今日は飲みに来たんですか? 話に聞くより仲良いんですね」

「フフ、付き合いというのは基本的にこういう場が好まれるものですから」

「飲みニケーションってやつですね。真っ昼間からお疲れ様です」

(…………あの、フィーさん。なんでリィンさんマフィアとあんなに親しげなんですか?)

(親しげっていうか、リィンは相手で態度を変えないからそう見えるだけ。年上や敬うべき相手にはちゃんと敬語を使ったりするけど、距離感って意味では多分基本的にあれがデフォルト)

(大物というかなんというか)

(ただの呑気者)

 

 その呑気者に助けられてるけどね、とは口にしないフィーだった。

 ただ、リィンの呑気さは再びフィーとシャーリィの間に漂っていた空気を緩めたのは事実。

 

「貴方とはまた話し合いたいと思っていたところです。ご一緒しても?」

「酒は飲めませんが、話くらいなら」

「では、我々は少しお土産を持って来ますので、先に行っていてください」

「わかりました。フィー、先に行ってるぞ。ユウナもほら、せっかく歓迎してくれるって言うなら言葉に甘えよう」

「や、やっぱり行くんですか?」

 

 何の躊躇もなく誘いを受けるリィンに、ユウナはおっかなびっくり声をかける。

 未だ警察官でも捜査官でもなく、学生の身である彼女にクロスベルの裏の顔が一同に会する場所へ赴くには恐怖が先行していた。

 

「断るほうが失礼だろ?」

「同行する人の気分も考えてください!」

「それにクロスベル警察になるなら、こういう付き合いも増えるだろうから、これも経験だよ」

「癒着ダメ、絶対!」

「大丈夫、怪我なんて絶対に負わせないから。俺がユウナを守る」

「言葉だけなら女の子としてときめかないわけでもないんですけど、精神的な負担も考慮して欲しいかなあ!?」

 

 とはいえ、特務支援課の代理としてリィンを案内するユウナは自分だけ引くことが出来ず、覚悟を決めて深呼吸する。

 フィーとシャーリィは覚悟を決めるために精神統一するユウナを置いて先に部屋へ向かうと、奥のソファーには隻眼の偉丈夫、シグムント・オルランドが座っていた。

 

「客は揃ったようだが、予想外な客が居るな」

 

 シグムントの目はフィーに向けられていた。

 フィーはその視線を受け止めながらも、涼やかに言う。

 

「正直に言うと、戦場以外でこんな出会いをするとは思わなかった」

「縁というものはどこで繋がっているかわからないものだ。先日に猟兵王の復活を聞いた時から、ある程度の予感はしていたものだ」

 

 シグムントはツァオとユウナがいないことを確認して、ルトガーの話題を出す。

 フィーは彼がそのことを知っていることに、軽く眉をひそめた。

 

「……貴方も団長が復活したことを知ってるの?」

「シュバルツァーから聞かされたに過ぎん。そういう意味ではお前と同じ程度の情報しか持ち合わせておらんよ」

「情報って隠すものでは?」

「お互いに既知の情報は、グラスに入れる氷のようなものだ。注ぐものがなければいずれなくなる上に、旨味は出んよ」

 

 注ぐもの、つまりルトガーのことなのだろう。

 愉快そうに空のグラスを取って音を鳴らしているのは、これから入れ物を探すためか。

 そこへ遅れて登場したユウナがやってくるが、シグムントは軽く目を向けるだけで子鹿のように体を震わせる。

 シグムントはそこで興味をなくしたように視線を外したが、すでにユウナのメンタルはブレイク寸前だった。

 

 リィンがメンタルケアをしようとユウナに近づくと、彼女は無言でリィンの服を何度も引っ張る。

 涙目で頬を膨らませる態度は、彼女が感じた恐怖を示しているようだった。

 

「とりあえず、歓迎の意味を込めて料理でも持ってこさせよう。味は保証するぞ」

「あ、じゃあパフェ追加で」

「フィーも同じのを頼んだらどうだ?」

「じゃ、それで」

「ショートサイズもあるけど?」

「同じもので」

 

 ニヤニヤとフィーを煽るシャーリィをよそに、フィーは努めて冷静に注文する。

 ユウナを慰め終えたリィンが先にソファーへ体重を預け、その横にフィーが座り、最後にユウナが腰を下ろした。

 そこへ遅れてツァオ達が合流する。

 

「お待たせして申し訳ありません」

「こちら、共和国名産の米を使った酒となります」

 

 リィン達の対面、つまりシグムントとその横に座ったシャーリィの隣にツァオとラウが配置される。

 手元には老師が好んだ純米酒を抱えており、お土産にもらえないかな、とリィンは思った。

 

(フフフ、息子よ。酒の飲酒と購入は二十歳になってからだ。お父さんとの約束だぞ)

(大人ニ代理シテモラウカ、通販デ買エバヨカロウ)

 

 オズぼんの忠告とヴァリマールの提案を聞き届けている間に、料理や酒などが運ばれる。

 リィンとフィー、ユウナにシャーリィはジュース類が運ばれ、それぞれがグラスを手に取って味を堪能していく。

 こうして、一見穏やかながらも、《ノイエ=ブラン》での歓迎会が始まった。




IFであるべきその頃のTMP。
クレア
「なんだか私のイベントを取られたような気が」
隊員
(最近の大尉は、謎の独り言が増えた気がする)

リィン・フィー・ユウナの私服はDLCのやつです。
ユウナの服装はクロスベル・サヴァイヴと悩みましたがここはロイド風に。
なんだかんだ衣装が豊富なのはヒロインキャラとしての優遇ですね。
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