でも騒動のきっかけにしやすいんだ、ごめんよマッキー
特別実習のため早朝からトリスタ駅に集まったトールズ士官学院Ⅶ組。
一ヶ月近く経てばそれなりに話の合うメンバーというのも出てくる。
実際、A班のほうは割と気が合うメンバーで固められているため、冗談を交わしながらも和気藹々とした談笑を行っている。
エマもリィンの友人ということで距離を測りかねていたことがあるが、委員長として任命されたこれまでの彼女の人柄を知り、むしろリィンに振り回されているのではという同情のほうが勝り始めていた。
というのも……
「あの、リィンさん。本当にセリーヌを連れて行くんですか?」
「ああ。サラ教官には許可を取ったよ。班分け自体あの人も無茶振りをしている自覚があったのか、アニマルセラピーですって言ったら最終的に納得してくれた」
(付き合わされるアタシはたまったもんじゃないんだけど……)
(フフフ、セリーヌ嬢。見聞を広めるのも魔女の眷属としての格が上がると思うぞ?)
(ウム。記憶ニハナイガ、どらいけるすモ魔女ニ親シイ相手ガ居タラシイ。魔女同士デナクトモ友ニハナレルモノダ)
(アンタらが居るから嫌なのよ!)
セリーヌを抱えるリィンに困ったようなエマを見て、アリサ達は入学式の件もセリーヌはリィンから逃げたのではないか、と思っていた。
その通りだった。
「なあ、みんなもセリーヌを連れていっていいだろう?」
空気の悪さもなんのその。
リィンはエマから俺、僕、不機嫌です、と背中で語るユーシスとマキアスにセリーヌを掲げてみせる。
「…………個人としては断るところだが、教官が許可しているなら構わんだろう。だが面倒はしっかり見るがいい」
ユーシスは一瞥したが、セリーヌがにゃあと鳴くと口を詰まらせながらも渋々許可を出した。
マキアスは……
「君は授業をなんだと思っているんだ! 仮にも実習は学院の授業なんだぞ、動物を連れて行けるはずないだろう!」
「大丈夫、セリーヌは賢い子だ。毛並みだって綺麗だし、マキアスも癒やされるぞ? それにサラ教官からは許可を得てる」
「ぐぅ……サラ教官!」
「あー、まあ。邪魔しないって言ってるし、私が居る間は面倒見るし、実習に参加することはないから安心なさい。何が問題起こしたら遠慮なくリィンに責任転嫁していいから」
他ならぬ教官が許可を出していることに憤るも、採決が出てしまっていることに憤慨することしか出来ないマキアスはますます機嫌を悪くしている。
セリーヌを抱えてマキアスの顔に近づけるリィンの態度が、それにいっそう拍車をかけいてた。
その様子を遠くから見ているA班は、各々リィンへの評価を口にする。
「なんというかリィンって、思っているほど変な人じゃないよね。いや変だけど不良ではないっていうか」
「ああ。弟……はもう少し落ち着いているが、一番下の妹を思い出す無邪気さを感じる。良くも悪くも子供らしい」
「そうね、同年代のはずなのに年下の子供を見ている気分だわ。エマはあんな感じの人が好みなのかしら」
言葉に出たのは悪いものではないが、ただ、と続く。
「先日、同じ吹奏楽部の子をあの騎士人形とは違う大きなもので持ち上げて振り回していたんだよね……」
「礼拝堂で手伝いをしていたⅤ組の生徒が、リィンがシュミット博士の実験で起こした騒動のフォローに走り回っていたこともあったな」
「占いが当たるって評判のⅢ組の子が、最近リィンのことをちゃんと占うために力を高めるからって、相手にしてもらえなくなったみたいね」
『あと、生き霊が憑いた』
だいたいヴァリマールのせいである。
はあ、と三人は同時にため息をついた。
リィン・シュバルツァーという少年へどう接したものか、思春期にありがちな、けれど特殊すぎる人間関係への悩みであった。
「リィン、その猫触ってもいい?」
「いいよな、セリーヌ?」
(なんで了承済みな言い回しなのよ……まあいいけど)
「良いってさ」
ん、とフィーは眠たげな瞳のままリィンからセリーヌを受け取り、その黒く艷やかな毛並みを撫でていく。
アニマルセラピーと言っていたが、悪くないとフィーはその柔らかな感触を堪能する。このまま立ったまま二度寝しそうだった。
ラウラも触りたそうだったが、面と向かって言えないのか周囲を観察するフリをしてセリーヌから目を逸らさない。
フィーはその視線に気づいていたが、寝起きでけだるげかつもう少し堪能してから、と繰り返し結局出発の時間までセリーヌを離すことはなかった。
やがて列車が発車する時間となり、Ⅶ組はA班・B班に別れて互いの実習地へと向かっていく。
リィン達B班が向かうのは、紡績の町パルムである。
(セリーヌ。念話のチャンネルは開いておくから、リィンさんが何か問題起こしたら言って頂戴)
(問題起こすのは確定なのね)
(だってリィンさん単独でも怖いのに、オズぼんさんと、ほんとなんで憑いてるのかわからないヴァリマールもいるのよ? ただでさえマキアスさんとユーシスさんと一緒なのに、これで何も起こらないほうがおかしいわ)
(エマ…………)
入学して一ヶ月も経っていないが、リィンとのにがトマトな日々がエマの意識に強い変化をもたらしていた。
セリーヌはケルディックで魔女と明かすんじゃないでしょうね、と眷属として主の変化になんとも言えない気持ちになる。
そんな不安をよそに五人分の切符を買ったリィン達は列車に乗り込む。
ケルディックは近いのでサラはまずそちらに行ってから合流するそうだ。
そうしてリィン達B班は、特別実習の地へと向かう。
だがそんな彼らの旅は、出発から空気が軋んでいた。
「…………………………」
「…………………………」
「……………………ぐぅ」
互いに最も離れた席に座るユーシスとマキアス。
ユーシスの隣にはラウラ、その隣ではフィーがセリーヌを抱きまくらに船を漕いでいる。
そんなフィーの前にはマキアスが座り、その横にリィンという席順である。
誰も喋らないため、自然とリィンはラウラと会話をすることとなった。
「ラウラ、さっきからセリーヌ見てるけど猫好きなのか?」
「あ、いや。あそこまで毛並みがいいと触ってみたくなるのが人情というものだろう」
「今は抱きまくらにされてるし、夜か帰りの列車に期待だな。そういえばパルムにはヴァンダールの道場があるんだっけ。ラウラはやっぱりライバル流派として道場破りとかしたのか?」
「何故そんな発想になる」
「いや、切磋琢磨するなら直接ぶつかり合うのが手っ取り早いだろ?」
「それはそうかもしれんが……そうだな、私が足を運んだのは帝都にある総本山だったからな。地方といえ、ヴァンダールを掲げている以上、挨拶をしておきたいところだが……実習先で訪ねられるかどうか」
「実習先で何をするかわからないけど、挨拶くらいなら構わないだろうさ。ユーシスはどうする?」
突然話題を振られたユーシスは軽く眉をひそめながらも、返事をしてくれる。
「……何故俺に話題を振る」
「ん、貴族ってのは挨拶周りが仕事なんだろ? シュバルツァーはあいにくと遠ざかっているからしてないけど、ヴァンダールは一応子爵家だしアルバレアと繋がりあるなら挨拶したほうがいいんじゃないかって」
「貴様、自分がしてないことを俺にやらせるのか」
「あれ、違ったのか?」
(フフフ、息子よ。貴族と言っても公爵と子爵では差が大きい。むしろユーシス君が挨拶に伺えば、いらぬ問題を起こすハメになるやもしれんぞ?)
「悪い、考えなしだったな。逆に挨拶行かれるほうが迷惑になるか」
「フン、そもそも貴族として行くわけではないのだからいらん気を回すな。今の俺はただの学生だ」
「へえ、その辺は――」
「フン、何が貴族として行くわけじゃない、だ。アルバレアみたいな大貴族に、そんな理屈通じるものか。四大貴族と称される大貴族なら、それこそ誘蛾灯のように周りが集ってくるに決まってる。そうしていい気になるのが貴族って奴なんだ」
権力を振りかざすわけでもないユーシスに感心しようとしたところで、マキアスが悪態をつく。
会話が止まってしまい、周囲に沈黙が満ちる。
マキアスの言葉は的を射たものであり、ユーシスもアルバレアの名を背負っている以上煩わしい相手に目をつけられることも多いのだ。
「いや、我がアルゼイド家は貴族として特に恥じたことはしてないぞ?」
ここで空気を豪快に切り裂いたのはラウラだった。
泰然自若とした物言いにマキアスは二の句を告げなくなり、そのまま黙り込んでしまう。
「帝国でアルゼイドと言えば武の公爵みたいなものだしな。子爵といえ相応に自分を律してるのか」
「アルゼイド子爵を称える言葉はあれど、悪い噂はそうそうないな。ただ、副委員長殿は良識ある相手にまで難癖をつけるようだが」
「ぐぐ……」
(どうやらマキアス君は貴族に恨みを抱いているようだな。かつて貴族を憎むべきなにかがあったと見る)
(それっぽいよな。……恨みじゃなくても、強烈なトラウマなのかもしれない。そういうのって、助けがないと払拭出来ないものだからな)
リィンも養子や鬼の力にトラウマを抱えていた身だ。
何より同じクラスメイト、ロジーヌのようにオズぼんが見えなくても仲を深めていけば認めてくれる相手になるかもしれない。
ユーシスはまだ余裕があると判断したリィンは、貴族というだけで視野狭窄になっているマキアスのほうに話しかけようとする。
「なあ、マキアスは――」
リィンが直接切り込もうとしたところで、列車が目的地への到着を告げる。
機会はまだあるか、とリィンはフィーの手からセリーヌを剥がして彼女を起こした。
帝国最南端にあるパルムの町は、噂に違わぬ綺麗な町だった。
最新の導力機器や導力車、列車などに見慣れていると面食らいそうなのどかな風景、水車が回る景色は心落ち着くものがある。
リィン達は士官学校から連絡を受けていた宿酒場へ赴き、そこで本日の特務活動の一覧を受け取った。
「染色のための材料に手配魔獣の退治、それに……ん、ヴァンダールの道場からの依頼もある」
「ふむ?……ほう、門下生の相手か。お互いにとっての良い刺激になりそうだ」
「しかし、これが特別実習か。特別、と言うだけのものが伺えん」
「いや、そうでもないさ。生徒会の活動を手伝っていてわかったんだが、こういう依頼を通じて町のことを理解したり、どこに何があるかわかったりするものなんだよ」
「それは手伝い以前に君が受けた罰だろう。まったく、そう言えば入学式からその猫を追いかけていたんだってな?」
「ああ。可愛いだろう?」
「なんでそんな言葉が出る! 入学式をサボってまですることか!」
「いや、そこは申し訳ないし、本当に申し訳ないと思っているけど、俺にとってはそれより大事なことだったんだよ」
「猫を追いかけることのどこが入学式より大事なんだ!」
これだから貴族は、とストレスを上げていくマキアス。
リィンからすればオズぼんが見える存在を始めて見たのがセリーヌだったのだ。入学式など刹那で忘れたものである。
「リィンは猫好きなの?」
「セリーヌが好きなんだ」
(何言ってんのよ!)
ふしゃー、とリィンに吠えるセリーヌはその手から抜け出してフィーの手の中に収まる。
ラウラが余裕のない声を出したが、フィーは構わず朝の続きを行った。
そんなやり取りを見たユーシスが、小さなつぶやきを残す。
「なるほど、これは社交界に出せないな」
「何か言ったか?」
「シュバルツァー家の話題は貴族の間にも広まっている、というだけだ」
「ああ、なるほど。浮浪児を拾わせてしまったことは現在進行系で迷惑かけてるから、いずれ恩返ししたいところだ」
「………………え?」
マキアスの呆然とした声。フィーもセリーヌを撫でる手を止め、ラウラもまたリィンを凝視した。
話題に出したはずのユーシスも、目を見開いてリィンを見る。
「さて、とりあえず見て回ろうか。マラソン経験は豊富だから、俺に任せておけ」
しかしリィンは気楽な声でなんでもなさげに言う。
実際オズぼんのおかげで本当に気にしていなかった。
今ではオズぼんと関係なく、両親と妹に愛していると直接言える。
しいて言えば本当の父親に会ってみたい気持ちはあるが、優先度はそこまで高くない。
なぜなら、彼にとってはオズぼんが見える人を探すほうが大事だからだ。
リィンはパルムマラソンの開始を告げるべく、近くにいる町人に走り寄っていく。
その奇妙でよどみない姿を、四人はなんとも言えない表情で見送るのだった。
*
活動とは走ること、と断言するリィンの無茶振りからⅦ組B班の特別実習は始まった。
文句を言いながらも他に意見のなかった四人は言われるがままに、軍人のような走り込みを続けながらパルムを回る。
自分に走り寄って来る士官学校の生徒、という姿が町人に引かれながらも、やはり話題になるのは、春の染め上げと呼ばれる、パルムでの大きなイベントだった。
依頼の中にも含まれていたが、染色の素材となるものを集めながら手配魔獣を探すべく一行はセリーヌを宿酒場の主人に預けて町の外へ向かう。
「とりあえず戦術リンクを試してみようか。二人ずつしか出来ないし、ローテーションで行こう」
道すがらの魔獣を倒す間に行われたリンクは現状、一人を除いて上手くいっていた。
その一人――リィンは他の四人が自分とのリンクが上手くいっていない理由を考える。
(うーん、何故リンクが途切れるんだ?)
(フフフ、息子よ。リンクは感情に左右される面もある。突然自分は捨てられた子です、と言われて動揺しているわけだ。そういう意味では彼らは善人と言えよう)
(そうなのか? フィーなんかその辺割り切れそうだが)
(思うところがあるのだろう。だが最大の理由は他にある)
(それは?)
(りぃんヨ。まいすたーしゅみっとトノ戦闘でーた収集トコノ辺リノ魔獣ヲ同一ニシテハイケナイ)
「あ」
思わず声に出た。
そう、リィンは基本的に魔獣を一撃で倒していた。
複数いる場合も一撃で倒し、体勢を崩そうにも鍛えられたリィンの一刀は魔獣相手に手加減など出来ず、崩しがそのままトドメに至ることが多い。
ありていに言えば、リンクを結ぶ必要がなくソロでやっている。
リィンはリンクの練習にならないと得物をしまい、太刀を抜かず無手で魔獣を相手にすることへ切り替えたが、浮浪児という告白への戸惑いと、加減されてなお届かぬ強さへの差が、そのままリンクを不要と思わせていた。
特にラウラは武芸者として、リィンとの差に歯がゆい思いをしていた。
「フィー。そなた、もう少しスピードが出せるだろう? あの時、先んじていれば魔獣に攻撃を受けることなく、むしろ追撃が出来たはずだ」
「でもリィンが控えてるし、私が無理に前に出る必要ないでしょう? ラウラはリィンを意識しすぎて、必要以上に力んでるよ」
「そんなことは……気の所為だろう」
「…………面倒だなあ」
「何?」
「なんでも」
ラウラの悪感情はフィーへ伝播し、空気に変化が現れていた。
リィンはラウラのことを武芸者かと思っていたが、予想以上に求道者としての面が強いことに気づく。
(フフフ、おそらく同年代でライバルというものに恵まれなかったのであろう。故に突然現れたお前に負けたくない、という気持ちがアルゼイドの剣を鈍らせている)
(太刀使ったほうがいいかな?)
(今はやめておいたほうがいいだろう。苛立ちを強めるだけだ)
オズぼんに頷きながらマラソンで鍛えた足が魔獣を蹴り上げると、現在リンクを結んでいるマキアスへ目配りをして追撃を行うよう頼む。
だがあまりにも鮮やかで素早いリィンの動きは、リンクでわかっていてもなおマキアスの銃の照準に乱れを生じさせた。
結果、マキアスの追撃はトドメにいたらず、リィンと位置を入れ替えたユーシスの剣が魔獣を切り裂き、彼が戦闘を終わらせる。
決め手を奪われたマキアスは悔しさに歯噛みする。
「大丈夫か、マキアス」
「……君に心配されるいわれはない。問題ないさ」
「そっか。ユーシスもトドメありがとな」
「構わん。平民のフォローをするのも貴族の役割だ」
「何……」
「どうどう。ユーシス、マキアスと関係なくピリピリしてないか?」
「…………気の所為だろう」
「いや、してるだろう。俺に」
リィンの観の眼は、ユーシスが自分に興味を抱いていることを見抜いていた。
何故かわからないが、ユーシスはマキアスとの口喧嘩の合間にもリィンへの意識を持っていた。
浮浪児と言った後、それはいっそう強まっている。
何か言おうとすると、ラウラとの口論から逃げて先行していたフィーが手配魔獣の発見を報告する。
奇襲しようか、と提案するフィーをリィンは手で制した。
「すまない、みんな。ちょっと試したいことがあるから、あの魔獣は俺に任せてもらえないか?」
「そなた、一人でやるのか?」
「いや、倒すのはみんなに任せる。言ったろ、試したいことだって」
ラウラがリィンをライバル視していることはわかった。
だがリィンはそれで自分が遠慮するのは失礼だろうと、むしろさらなる力を見せようとする。
巡り巡ってそれはオズぼんの縁で得た力であることを示したい、ということだが生憎とラウラ達にはそれがわからない。
リィンは心臓に手を置き、灰のチカラを目覚めさせる。
体から灰色のオーラがリィンから噴出すると、四人はその姿に一歩後ずさった。
やがてオーラはリィンを守るように体内に包み込み、巨大な竜を模した灰色の影へと転じる。
「これは……シュミット教室の?」
「大きい……」
「なんという巨躯だ……」
「………(パクパク)」
驚くクラスメイトをよそに、灰のチカラは主の命に従いその力を行使する。
「アーク・ゾック・オンケイム」
灰のチカラの手から放たれた光が手配魔獣へ降りかかると、こちらへ引き寄せられるように動いた。
その勢いのまま、手配魔獣は灰のチカラの手の中へと取り込まれ、その動きを拘束される。
リィンは上手くいった、と思いながら魔獣の体の部分だけを束縛したまま、むき出しにさせる。
「今だ、全員で叩いてくれ!」
「え……………? あ、うん。行くよ、みんな」
「…………はっ」
一番早く復帰したフィーが走り、その後をラウラが続く。
ユーシス、マキアスも遅れて拘束された魔獣へと攻撃を仕掛け、無抵抗のまま手配魔獣を退治する。
リィンはその様子に上手くいったと一息ついた。
今の力は、騎神が起動者を搭乗させるための転移術式を拘束術式へ切り替えたものだ。
騎神への搭乗はある意味体内に拘束される状態であり、それを意図的に作ったとも言える。
だが試しをクリアせずに搭乗することは不可能。
その場合、拘束者は全身を縛られ動けなくなる、といったものである。
「い、今のは……」
「学院長から許可もらったから言うけど、これが旧校舎で見つけた力さ」
「……これが……兄上……理由……?」
呆然とするマキアスと、ユーシスが小声でぶつぶつと何か言っている。
リィンは少し気になったが、すぐに意識を切り替えた。
ぱん、と両手を打ち合わせて大きな音を立てる。
びくりとしながら、四人の意識がリィンに向いたところで改めて染料の材料を探しに行こうと提案する。
だが……
「リィン。先程の力についてもっと詳細を語るべきであろう。旧校舎で手に入れた力、だけではわからぬ」
「そうだな……紹介したほうが早いか。……ヴァリマール」
「応」
『!?』
突如、リィンではない声がリィンから響いたことでラウラが口をつぐむ。
フィーは双銃剣を構え、ユーシスとマキアスも遅れて武器を取り出した。
「待った待った、みんな見たことあるだろ? あの騎神だよ。思考システムってのが積んでるらしくて、機械だけど人格があるんだ」
「ゔぁりまーるダ。ヨロシク頼ム、有角ノ若獅子達ヨ」
「本当は列車の中で紹介したかったけど、それだと騒ぎになるからな。今なら周囲に人もいないし、絶好の機会かと――」
「ふ、ふざけているのかあああああああああ!!」
マキアスの怒号が飛ぶ。
胸ぐらを掴んでくるマキアスに、リィンはきょとんとした顔を返す。
それがますますマキアスをヒートアップさせる。
「一体なんなんだ君は! 貴族のくせに貴族じゃないとか、わけわからない力持っていたり、リンクは結べないし、僕たちを愚弄しているのか!」
だがリィンは動じない。
幼少期にオズぼんという最大の衝撃と共に過ごしてきた彼は、並大抵のことでは驚かない耐性を得てしまったからだ。
「いや、そんなことはないぞ。マキアスに順を追って説明するとだな――」
そうして親切丁寧にリィンは灰のチカラをどう手に入れたのかを説明し、その縁で士官学校にやってきたシュミットと協力して解析の手伝いをしていると語る。
だがその中で、マキアスは目の前の男のフォローに走る平民の生徒の姿を思い出した。
「っ、なら礼拝堂で手伝いをしている子への被害はなんなんだ! 随分と迷惑をかけているようじゃないか、身分をかさに脅してるんじゃないのか!」
「ロジーヌをかさにはしてないが、傘は差したな」
「何のことだ! ともかく、相手に迷惑をかけているのに友達と言えるのか!?」
「言うよ。そうさ、友達だ。一生の付き合いをしたいくらいにね」
リィンは文字通り友人としての付き合いの意味でいったが、マキアスを含む女性陣はそのままに受け取らなかった。
異性から一生付き合いたい、という言葉は思春期にとって多大な意味を含んだものなのだ。ラウラとフィーは灰のチカラのことを一時忘れ、その言葉に思わず赤面する。
だがマキアスにとって、貴族と平民の恋愛という考えは彼に一生のトラウマを刻みつけるものだった。
故に真実を見抜く目は曇り、発せられた言葉だけを受け取ってしまう。
「一生だと? は、そういえば君がよく絡む相手は女性ばかりだったな、つまりエマ君達もそういう目で見ているのか? 一生と言っておいて、どうせ平民は妾として愛するとか言うんだろう? そんなものに愛なんて存在するか、貴族の道楽に決まってる! 君が浮浪児だったことだってどうせ――」
「マキアス・レーグニッツ」
ヴァリマールへの驚愕を一瞬で消し去ったユーシスが、二人の間に割り込む。
マキアスのセリフはユーシスにとって、聞き逃がせない地雷。
気づけば彼はマキアスの頬に拳を打ち込み、彼を地面へ殴り飛ばす。
突然に乱入者に目を剥くリィン。ラウラとフィーもまた、ユーシスの行動に驚いていた。
殴られたマキアスも一瞬だけ呆然とし――何をされたのか理解した瞬間、すぐさまユーシスに掴みかかる。
サラという抑え役がいないまま、特別実習は混沌の様相を呈すのであった――
男友達がいないから女好きと見られていたリィン君。
まあⅣを見れば攻略王(11股)どころか不埒王(アストラル体)で混浴王(伝統)なのは間違いないですよね。
ロア・エレボニウスの拘束技は見返してみるとヴァリマールへの搭乗の前振りですよね。
軌跡は人に薦めるのが難点なところもありますが、その分いろいろと積み重ねているので見返してみると気づくことも多いので、やはり面白いです。