はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。九月の特別実習だ

 アルセイユ二番艦、高速巡洋艦カレイジャス。

 それがトールズ士官学院に降り立った飛行船の正体であり、オリヴァルトが掲げる紅い翼であった。

 艦長に《光の剣匠》ヴィクター・S・アルゼイドを据え、情報収集役としてトヴァル・ランドナーといった顔ぶれとの再会を果たし、処女飛行に同行させてもらえることになったⅦ組。

 

 その後、ルーレ到着までの自由時間を使ってカレイジャスマラソンを行う中、甲板から帝都までの景色を眺めて見れば、自然と知り合いがいそうな場所も通っていく。

 聖アストライア女学院を眼下に見れば、屋上からエリゼとアルフィン、それにミュゼが見えたような気がして手を振ってみる。

 

(フフフ、息子よ。流石に彼女達からは見えぬだろう)

(気分だよ、気分。こういう時って手を振りたくなる)

(山岳地帯デ、山彦ヲ期待シテ叫ブヨウナモノダナ?)

(ヴァリマールも情緒ってのを理解してきたようだな)

 

 安らぎを覚えながらもマラソンを続けて、時間の許す限りに館内を回っていく。

 通信士からそろそろルーレへの到着のアナウンスが響くと、リィンは名残惜しく思いながらブリッジへ戻っていく。

 全員が揃えば、サラからは今回はⅦ組全員でのルーレ実習ということで、改めて今回の実習に関する注意事項を告げた。

 

「今回は理事長でもあるイリーナ会長からの要請と、ログナー侯爵への面会後に受ける要請のニパターンがあるわ。ただし、最初の要請は全員参加よ」

「……ログナー侯爵閣下も、ですか?」

「それに最初の要請が全員?」

 

 実習地がルーレということで、てっきりイリーナの要請だけ引き受けると思っていたのはリィンだけではないようで、アリサは元よりⅦ組全員がその意図を考えている。

 

「全員参加のほうは言ってしまえば領邦軍との手合わせ。個人的に言わせてもらえば、必須じゃなくていいと思うんだけど」

「と、言うと?」

「いわゆる個人からアンタ達への緊急依頼ってやつね。お嬢様(・・・)の護衛に名乗りを上げる領邦軍が煩わしいから、一緒に回るなら男よりも愛らしい少女達がいいって名指しを受けてるのよ」

「その言い回しって……」

 

 脳内に浮かぶショートカットの麗人な先輩が浮かぶ。

 おそらく全員が全員そう思っているのではないか、という考えは当たっていたようで、無言で差し出される書類を受け取ったリィンはその内容を目に落とす。

 依頼人の名は、アンゼリカ・ログナーと書かれていた。

 

「やっぱり……」

 

 リィンはそれを隣に居たアリサに回すと、彼女もなんとも言えない表情を作りながらさらに隣のエリオットに渡し、全員が目を通したところでサラから詳しい内容が語られた。

 

「アンゼリカにはログナー侯爵への仲介を頼んでて、前日から現地入りしてもらってるわ。これはルーファス卿からも正式に認められてる。けど、ログナー侯爵としては監視役を傍に置きたいそうなのよね」

「アン先輩は放っておいたらトラブル起こしそうですからね」

 

 お前が言うな、とその場に居た全員がリィンを見ながら思った。

 

「そこで妥協案として、アンタ達の班の片方に連れて行くって流れになってね。代わりに娘の護衛として相応しいか試せばいいって挑発に乗ったある意味親娘対決の弊害とも言えるわ」

「だから全員、と」

「多分、領邦軍の中でも結構精鋭で来ると思うけど……アンタ達も戦術リンクの使い方もしっかりしてきたし、なんとかなるでしょ」

 

 サラの視線はリィンにエマ、ラウラとフィー、そしてミリアムに注がれている。

 リィンは言うに及ばず、エマは魔術を大々的に使わなくてもアーツ使いとしての技量はめきめきと上げている。

 ラウラとフィーは入学時点でトールズ士官学院の女子のトップツーであり、ミリアムはアガートラムという戦術殻を使役し、帝国軍情報局に所属する身分だ。

 

 こと戦闘に限れば現状、士官候補生というフィルターがかけられた領邦軍相手なら問題なく勝利を収められる面子。

 連携を使って破れたとしても、彼らが居るならば納得も可能だろうとサラは思う。

 

「サラ教官、少しいいですか?」

 

 そこへアリサが手を上げて質問する。

 多忙なイリーナとの面会の前に変に時間を使ってしまえば、彼女は出張なり何なりで会うことが難しくなるのでは、という疑問だ。

 父親のこともあり、なんとか面会時間を確保したいアリサの言葉に、サラは当然イリーナの許可も取っていると言った。

 

「アンタ達、そもそもARCUSのテストケースとして集められたってことを忘れてない?

 データが取れるなら、商品の宣伝にもなって一石二鳥、って許可してくれたわよ。

 それに、荷物だってあるんだし、侯爵家へ行くのはラインフォルト本社へ寄ってからにすればいいわ」

「か、母様……」

「これは、中々切り込むのが難しそうだな」

「いつものことといえ、頭が痛いわ」

 

 そう言いながら、アリサは拳を握る。

 その中には、渡して以来一日と欠かさずチェックしている記憶結晶が握られている。

 十日前の理事会の帰りで、父親のことで話があると啖呵を切ったアリサからすればここに来て話すことすら出来ない可能性が浮かんだことで不安にかられているのだろう。

 

「大丈夫だよアリサ、いざとなったら俺がヴァリマールを呼んで強引に会長の出張先に飛ぶから」

「嬉しいけど嬉しくない……」

 

 導力車代わりに騎神に乗せられそうな恐縮さと、本当に実行してしまうリィンの提案に渋面するアリサ。

 大抵の相手は面食らってリィンのペースに巻き込まれるが、イリーナの場合は極度すぎる現実主義者だ。

 正論に正論を重ね合わせた上で至極全うな意見を述べるはずだが、どこまでいっても感情で動くリィンとは水と油のように思えてならない。

 

(私がなんとかしなければ父様との話し合い以前の問題になっちゃうかもしれない……!)

 

 と、決意を胸に燃やすアリサ。

 そうしているうちにカレイジャスはルーレ空港に降り立ち、Ⅶ組はシャロンの案内の下にラインフォルトグループ本社へと向かう。

 ひとまず、宿に荷物を置いてから行動を開始するためだ。

 

「宿へ向かうのにラインフォルト本社へ行くのか?」

「ええ、今回みんなにはうちの客室を使ってもらうみたい。荷物を抱えたまま面会ってわけには行かないしね」

 

 シャロン先導の下、トンネルのような屋内を歩き続ける一同。

 そこでガイウスが漏らした疑問にアリサが答える。

 流石に大企業なだけあって、十人という大所帯は彼女の実家からすれば客室でまかなえる規模のようだ。

 帝国という外国には驚きしかないガイウスだが、ノルドと対極に位置する鉄とコンクリートの街であるルーレにはそわそわとしているように思えて、アリサは思わずくすっとした。

 普段は大人びているのに、たまに見せる好奇心はやはり年相応なのだろう。

 

「えへへ、でもちょっと楽しみだなー。ボクもルーレには来たことあるけど、RF本社の中に入ったことはなかったし」

「そだね、内部を把握しておくのは大事。隠し通路とかないのかな」

「君達、侵入前提の考えはやめないか!」

 

 ミリアムとフィーは仕事柄と性格柄、どうしてもそういった目線で見ることを止められないようで、無視出来ないマキアスの小言が飛んでいる。

 マキアスもスルーしてしまえば変に苦労を背負うことはないのだが、ここで突っ込んでしまうからこそ、マキアスがマキアスたる所以とも言えた。

 しかもⅦ組が誇る年下コンビは素直な部分もあるが、こういった面ではあまり発揮されないためあまり効果はなかった。

 

「ねえユーシス、今度の自由行動日にマキアスも誘ってアルカンシェルとか見に行ってみない? 戦術リンクをヴァリマールと繋げば見えなくても位置を把握できるよね? だったら、話に聞く舞姫みたいに縦横無尽に舞台を駆けるみたいなこともできると思うんだ」

「落ち着けエリオット、俺達の出し物は演奏会であってミュージカルではない。そもそも残り一ヶ月を切っている現状で、無駄な時間の消費は避けるべきだ」

「だが、質が上がるのは悪くないのではないか?」

「ラウラ、まず演奏会に何故芝居まで加えなければならないという疑問を浮かべてくれ」

「パフォーマンスの一貫だよ」

「過剰だと言っているのだ!」

 

 エリオットはユーシスに絡んで学院祭の出し物についての相談していた。

 音楽が絡むと人格が変わるほどの強引さを発揮するエリオットの前に、さしものユーシスも助けを求めるように首を巡らせるが、あいにくと近くに居るのは天然(ラウラ)であり、援護してくれるであろうエマはリィンの傍に居て、マキアスは年下コンビへ目を向けている。

 

 そしてエマは、今回も同行しているセリーヌと並びながら、先頭を歩くリィンとシャロンの後ろを歩いていた。

 現状のリィンはまだ何もしていないが、最近のシャロンの様子を見るとまた何かしでかしたことに違いはない。

 そのため、仮に何かおかしなことを言ったらすぐに介入するつもりだったのだが……現状ではその様子は見受けられなかった。

 

(しかし、思ったより大人しいですね)

 

 ルーレの情報を聞くわけでもなく、周囲を観察もせずシャロンに話しかけるわけでもない。

 リィンは無言のまま、シャロンの隣を歩いている。

 しいて言うならば、観察力の全てが彼女に注がれていた。

 理由をオズぼんにこっそり聞いてみようとするが、それより早く彼から念話が届いた。

 

(フフフ、エマ嬢。息子のことは心配するな。私が付いているからな)

(むしろ貴方が居るから心配なんですが……)

 

 幼少期の話を聞いても、リィンが決定的に弾けた理由は鬼の力以上にオズぼんという存在のせいとしか思えない。

 リィンにとってのオズぼんというのは、自分達にとってのリィンなのだろう。

 人生の指針に影響を与えているのであれば、規模が桁違いな振り回されぶりと言える。

 ただ、オズぼんとの出会いがなければ今も鬼の力に悩むただの少年だったことは想像に難くない。

 

 それはそれは導き甲斐のありそうなリィンだとエマは思ったが、それは入学式からの衝撃的な出会いをなかったことにすることと同じ。

 そうなれば自分は今も姉との再会を果たせず、ヴァリマールのことはもちろん魔女であることも明かさない、ローゼリアを叱れない秘密主義な学院生活を送っていたことだろう。

 

(……やめよう、こんな考え。それはあくまでIF。私が出会い、導かなきゃいけないのはこのリィンさんなんだから)

 

 そう意気込みながら、エマは足を動かしていった。

 

 

 イリーナとの簡単な面会を果たした後は、全員で侯爵家に移動した。

 相も変わらず忙しそうにしていた彼女は夕飯は一緒に取れる、とだけ言って要請の内容を記した書類だけ渡して仕事に戻っていった。

 当然アリサは憤り、フランツのことも告げたがイリーナに変化はない。

 

 しかし、導力バイクについてのプレゼンテーションと言い換えた途端にその会議の時間は取ってあるから三日目に、と返してくれたのは進展だろう。

 

「ある意味、イリーナさんの扱い方がわかったんじゃないか? あの人、まず利益を提示した後の雑談を本命に据えるんだろうし」

「家族なんだから、そんな無駄に遠回しなやり方しなくてもいいのに、もう!」

 

 ぷんすか怒るアリサを宥めながら、ノルディア州を収める四大名門の一つ、ログナー侯爵の舘へやってくる。

 そこは貴族の舘というにはやや無骨なイメージのある、どちらかと言えばアルゼイド邸に近い雰囲気を覚えた。

 バリアハートには行ったことがないのでアルバレア家のことは知らないが、セントアークのハイアームズ家の舘がリィンの中での名門の舘のイメージがあったのだが、少し意外にも思える。

 気になってユーシスへ聞いて見ると、

 

「ログナー侯爵は貴族派きっての武闘派だ。有事の際には自らが前線に立って指揮を取ることもある。ただ、同時に非常にプライドが高い強行派でも有名だな」

「うちの作品やルーレ工科大学で開発された最新鋭の兵器も積極的に取り入れてるわね。まあ、株主だから融資とも言えるんだけど」

「ユーシス君、アリサ君。そこは頭の硬い頑固親父と紹介すれば全てに説明がつくよ」

 

 ユーシスの説明とアリサからの補足を受けていると、舘から聞き慣れた声が届く。

 目を向ければ、そこにはいつも通りのライダースーツ姿……ではなく、スカート姿の少女、いやアンゼリカが居た。

 ワンピースタイプの衣装とも言うべきか、上衣とスカートが一つになった、ロジーヌがよく着るシスター服に似た印象を受ける。

 それ以上に、同じ造形であるにも拘らずスカート姿というだけで、リィンは目の前の少女がアンゼリカだと一瞬認識出来なかった。

 

「アンゼリカ先輩?」

「そうだよ?……ああ、この格好かい。少し事情があるんだが、まあたまにはね」

「ア、 アンゼリカ先輩なの!?」

「……女は化けると言うが、本当だな」

 

 リィンが名前を言うことで、近くに居たユーシスやアリサもようやく彼女が士官学院の上級生であることに気づく。

 遅れて他のⅦ組メンバーもアンゼリカを見やり、一同に驚愕を刻んでいた。

 

「なんだいみんなして、そんなに見慣れないかな?」

「まあ、普段のアンを知ってる人ほどびっくりするのは間違いないね」

「ジョルジュ先輩!」

「やあリィン君。Ⅶ組のみんなも」

 

 奥からひょっこりと現れるのは、いつも通りのジョルジュの姿。

 先程のアンゼリカと見比べると、どこか安堵を覚えてしまった。

 

「どうしてここに?」

「昨日のうちにアンが乗る導力バイクのサイドカーに相席してね、工科大学に顔を出す傍らちょっとお世話になってるんだ」

「賃金は侯爵家の客室だ、かなりの高給取りだね」

「その割にはちょっと働かせすぎと思うんだけど」

 

 聞けば、ログナー侯爵から直々に依頼を任され屋敷の導力端末を弄っていたようだ。

 アンゼリカが出ていったことでリィン達の来訪を知り、小休止を兼ねて顔を出してくれたそうだ。

 

「ジョルジュ先輩、わざわざ持って来てくれたんですか!?」

「うん、アリサ君に必要だと思ってね。その顔を見るに、バッチリだったようだ。あとこれ、僕なりの使い心地とか色々まとめておいたよ」

「本当に助かります……!」

 

 アリサは感激しながら礼を言う。

 プレゼンテーションとは言うが、実物があればなお説明もしやすい。

 さらに記憶結晶と書類の二段構えという心配り。

 イリーナとの会話を臨むアリサへの強力な援護射撃と言えた。

 

「さて、ここへやってきたということは私の依頼を受けてくれたのかな?」

「はい。何やら領邦軍との手合わせとのことですが……」

「それについてはまず、練武場へ行こうか。合わせて説明するよ。後で会わせたい子(・・・・・・)もいるからね」

 

 見慣れぬ姿のアンゼリカの後に続くⅦ組。

 見慣れないのは自分達だけではないようで、使用人達も揃ってアンゼリカに注目していた。

 隣を歩くジョルジュ曰く、実家に帰るのが珍しいことも合わせた倍増の注目度とのことだ。

 屋敷の裏手にある練武場へやってくると、領邦軍兵士が並ぶ最前列にもみあげが特徴的な黒髪の男が立っていた。

 貴族衣装に身を包んだ体躯は確かに鍛えられた肉体を誇っており、軍人と言われても納得してしまいそうな威厳がある。

 その男、ログナー侯爵であるゲルハルト・ログナーはアンゼリカと後に続くⅦ組が全員揃ったのを見計らい口を開いた。

 

「初めましての者も居るので挨拶をしておこう。ゲルハルト・ログナー、ノルディア州の統括をしている。……こちらの準備は整っている、準備が整い次第始めてもらう」

「さ、早速ですね」

「話は早いほうがいい。……そもそも今回の話は予定になかったのだからな」

 

 ログナー侯爵はアンゼリカを睨むが、娘はどこ吹く風だ。

 ただ、普段のパンツルックでなく珍しいスカート姿なのは父親としても嬉しいのか僅かに目尻が緩んでいた。

 

「ルールはどうされるので?」

「特別実習は班を二つに分けた五人チームだと聞く。代表者四名同士によるチーム戦と、個人戦でよかろう」

「じゃあA班の個人戦はリィンでいい?」

「ミリアムが良いなら構わないけど……」

「ボクはどっちでも構わないから、リィンが個人戦でいいよ」

「ならこちらの個人戦は私が出よう」

「ラウラ君なら安心して任せられる」

 

 ちなみにルーレの特別実習における編成は、

 A班、リィン、アリサ、ミリアム、ユーシス、ガイウス。

 B班、エマ、ラウラ、フィー、エリオット、マキアス。

 となっている。

 

 それぞれがストレッチやオーブメントの確認などを行う中、リィンはふと練武場の隅から視線を感じた。

 目を向けて見れば、見知らぬ金髪の少女がこちらを眺めている。

 ただ、リィンの目線に気づいて慌てて去ろうとして――その行動を疾風の動きで迫ったリィンによって遮られた。

 リィンには、この相手を放置してはならない理由があったのだ。

 

「何やってるんですか、セ――」

「わー、わー! お願いですから名前言わないでください!」

 

 その理由――ウィッグを付けて長髪となり、スカートなどの女装をしたセドリックが、金髪の少女にしか見えない姿で目に涙を浮かべながらリィンに懇願するのだった。




いつものオリジナル展開。
ルーレ編はノーザンブリア編とまでは行かないですが、改変が多いと思うのでそれでもお付き合いいただけたら幸いです。
ちなみに次回の領邦軍との手合わせは、相手にネームドキャラがいないため多分省略されると思います。
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