はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。九月の特別実習だ②

「囮役?」

「はい、クルトが修行のために離れている間に、僕も何か《帝国解放戦線》に対して出来ないか考えていたんです。そこでギデオンに相談して、ルーファス卿へちょっとした案を持ちかけたんです」

「その結果が女装と」

「そ、それはやむない結果なんです」

 

 詳しく聞いてみると、《帝国解放戦線》は七月での名乗りを上げる時にあわよくばアルフィンを拉致して人質にしようとしていたそうだ。

 当然セドリックはそれに憤りギデオンも反省しているそうだが、とにかく《帝国解放戦線》にとって貴き血である皇族への畏敬は浸透しているらしい。

 

 あくまで狙いは鉄血宰相の首だけであり、皇族ひいては帝国に仇なすつもりは微塵もない、というのがギデオンの意見だった。

 黒の史書を探しているといえ、相談だけなら通信機を持っていれば可能であった。

 

「当然ギデオンは反対しましたが、僕の身分に価値があるならとローゼリアさんにも相談してルーファス卿へこの話を持ちかけたんです。

 そうしたら、一網打尽にする案があるので協力して欲しいと提案されました」

「え、じゃあ女装してるのってルーファスさんの案なのか?」

 

 ちなみにリィンはセドリック――今はセルリと名乗る彼女の正体を隠すべく敬語を止めていた。

 リィンは気配からセルリをセドリックと突き止めたが、ルーファスの指示で専門の技術を持った職人によって変装したセドリックはクルトでも見分けがつかないと判断しているほどだ。

 

「い、いえ。最初はルーファス卿も配慮してくれたのですが、ギデオンから僕でなくアルフィンを拉致しようとしたのは、知名度の差もあるので……

 情けない話ですが、食いつく餌としてはセドリック・ライゼ・アルノールはアルフィン・ライゼ・アルノールに劣るんです。

 だから双子を活かしてアルフィンに見えるように、と頼みました」

 

 言われてみれば、波打つような毛先やパッドなどで胸を作り、化粧を施すことで外見を彼女に寄せている。

 細かな仕草が判断出来るほどアルフィンを知らないが、そこは双子の弟ならではの模倣が出来る。

 

 変装したアルフィンに変装したセドリックという少しややこしいモチーフだが、相手が悪いだけでその効果は現在も発揮されている。

 少し喉を酷使することになるが、まだ声変わりの緩いセドリックならば声すら誤魔化せた。 

 Ⅶ組だけでなく、領邦軍からも見慣れぬ少女の姿に首を傾げながらも帝国の至宝と称されるアルフィンに似たセルリの容姿に目を奪われている。

 まさか皇族がこの場にいるはずがない、という意識が例え似た少女であったとしても同一であるという判断を鈍らせていた。

 

 当然、そんな彼女と親しく話すリィンに様々な感情を宿した目を向けられていたが、セドリックが下した決断に感銘が浮かんでそんなことはどうでも良かった。

 拍手の一つでもしてあげたかったが、流石にそれはセルリに止められた。

 

「それで変装が上手く行くか、リィンさん達の様子を見に来たんですが……ログナー侯爵には《帝国解放戦線》でなく、アルフィンがお忍びで遊びに来たって建前を話していますし、リィンさんは例外とすれば問題ありませんね」

(フフフ、息子よ。ともすれば今回の要請、アンゼリカ嬢の護衛選抜ではなく、アンゼリカ嬢からセドリック殿下を守る力を見極めようとしているのではないか?)

 

 オズぼんの言葉に納得しか浮かばない。

 アンゼリカが言っていた会わせたい子というのは、おそらくセルリのことだ。

 現に獲物を品定めをするようなアンゼリカの眼光が、セルリに向けて飛んでいる。

 

 建前の事情を明かしているのはログナー侯爵だけならば、娘の性癖を皇族に向けるなど不敬以外の何者でもない。

 しかしお忍びということで隠さねばならぬ、ということで板挟みの末の結論が今回の要請の裏事情と察する。

 

「でも、よくオリヴァルト殿下やクルトが許したな」

「兄上やクルト、アルフィンにも話していません。当然、父上達にもですが」

「え?」

「全てを含めて知っているのはローゼリアさんにギデオン、ルーファス卿と化粧をしてくれた方を除けばリィンさんの五人だけです」

 

 かつてオリヴァルトは放蕩皇子として諸外国を漫遊していたそうだが、彼の弟だけあって行動力は一級品のようだ。

 思わず感心するが、真にセドリックが影響を受けたのは他ならぬリィンの活躍に他ならない。

 出会いからして、クルトとの間にあったわだかまりを解き姉を救い、オリヴァルトからの信頼厚く極めつけにはクロスベルへ放たれた列車砲すら防いでみせた。

 

 騎神のこともあり、今まさに伝説の一端を担っているのではないかと思春期のセドリックはそう感じていた。

 そこから得た結論はとにかく行動あるのみ、という下地をセドリックに植え付けていた。

 

「でも、真面目なクルトのことだ、後から知ったら怒るんじゃないか?」

「……それでも、友達が成長する邪魔をしたくないんです」

 

 少し沈んだような口調のセルリ。

 だがそれも一瞬のことで、すぐに表情を切り替えた。

 

「万一のため、発信機と転移術式が刻まれたっていうペンダントも身に着けています。ルーファス卿が用意したものと、魔女の里ご謹製なので、絶対安心ですよ」

 

 胸元を緩めてペンダントを取り出し、右指に嵌めた指輪と一緒に掲げるセルリ。

 鬼気の制御を司るエリンのペンダントとはまた違うが、これもまた魔女の霊具というものなのかもしれない。

 そして周囲では、見目麗しい少女が胸元を緩めてリィンに見せている、と見えなくもなく――そんな光景に彼女は黙っていなかった。

 

「そっか、それなら――」

「リィン君、良ければ私にも紹介してもらえないかな?」

 

 そこへ、目下懸念されているアンゼリカが寄ってくる。

 速さはリィンに劣るといえ、無音の接近に体を震わせるセルリ。

 だがもっとも欺かなければならない相手に、知らず拳を握る。

 リィンもセルリを援護するよう、努めて冷静に彼女を紹介した。

 

「彼女はセルリ。オフレコでお願いしたいのですが、ちょっとお忍びのプライベートだそうで――」

「女の子の匂いがしないな」

「何言ってんだ」

 

 真顔でつぶやかれた言葉に、さしものリィンも敬語を止めて突っ込む。

 セルリは困惑と恐れ、率直に言えば怯えを見せる表情で一歩下がった。

 

「先程はフィー君達が近くに居たから匂いが紛れてしまったようだが、こうして近づくと高級な化粧品の香りが強い。上手く隠しているし、本人も男っ気が少ないね。だがいかに愛らしい容姿を持っていたとしても、本質を隠すことは出来ない。

 つまり、君は女の子ではないというわけだね。だが、遠く離れていたといえひと目で判断出来なかったのは不覚だな。もう少し感覚を鍛えなければ」

「お静かに」

 

 耳を塞いであげたかったが、もう遅い。

 セルリは助けを求めるようにリィンへ顔を向けるが、ため息をつきながら彼女が紛れもなくログナー侯爵の娘であるアンゼリカだと教える。

 

殿下(・・)におかれましたは麗しゅう。いえ、セドリック殿下と呼んだほうがいいかな?」

「ど、どうして……」

「アルフィン殿下に似ているから、最初は彼女が変装したのかと思っておりました。父上がこうして私に着替えさせるくらいですからね。

 ただ、殿下に似ていながら男であるという事実。さらに以前の特別実習で挨拶を交わしたということも把握の大きな助けとなりました」

「観察力をちゃんと使ってるはずのに、先輩は素直に褒められませんね」

「フフ、褒め言葉として受け取っておくよ。しかし、父上が丁重に扱っていたから、私が知らなくてもユーシス君達なら知ってると思ったが……まさかの正体だったね」

 

 リィンからも補足され、次代を担う四大名門の知りたくなかった事実(せいへき)に愕然とするセルリ。

 リィンはそんな彼女の肩を優しく叩いた。

 

「気にするな、こうして人は強くなるんだ」

「こんな成長は嫌でした……」

「それで、どうして殿下がここに?」

 

 ちらりとセルリに目を向けるリィン。

 彼女は力なく頷いた。

 皇族であるとわかっているのなら、権力を使えば強引にアンゼリカを遠ざけることも出来るが、無闇にそれを行使しないことに口元を緩める。

 許可を得たことで、リィンは事情を明かす。

 

「…………なるほど、殿下もまた帝国男子に恥じない益荒男というわけですね」

「ま、益荒男ですか?」

「いかに安全が保証されているといえ、簡単に言って行動出来るほど囮というのは甘くはありません。事実、七月に殿下は実際に襲撃されている……

 その上で火中に飛び込もうと言うのですから、益荒男と呼ばずになんとお呼びしましょうか」

「そ、そうですか……僕が……」

 

 アンゼリカからの混じり気のない称賛の言葉に照れるセルリ。

 頬を赤くしてもじもじと手を合わせる仕草など、容姿も相まって本当に女の子にしか見えないが彼は男である。

 気配で察知するリィンと、匂いで男女を嗅ぎ分けるアンゼリカがおかしいだけで、周囲の面々は愛らしい少女の照れを目の保養としているのか瞳を細めていた。

 

「では、より殿下を女性らしくするために私がエスコートをしましょう」

「でもアンゼリカさん、多分ログナー侯爵は……」

「わかっているさ、父上の思惑は理解出来る。ただ、手合わせの間に少しコーチをするだけさ」

「それなら大丈夫かな……セルリ、構わないか?」

「はい、よろしくお願いしますアンゼリカさん」

「お任せを」

 

 そう言ってアンゼリカがセルリを連れて離れると、ログナー侯爵が焦った表情でこちらへ寄ってくる。

 

「準備は出来たか? 早速始めておけ、私は少し所要で離れる!」

 

 そう言って練武場から去っておくログナー侯爵へエールを送りながら、リィン達は改めて九月の特別実習、最初の要請を開始した。

 

 

 ノルディア州領邦軍とⅦ組の手合わせは、互いに個人戦とチーム戦を一勝ずつ上げた二対ニで終わった。

 個人戦はリィンが、チーム戦はB班が勝利した。

 特別実習で、初伝といえヴァンダールやアルゼイドの武芸者達にも勝利を収めていたことで完全勝利も狙えるかも、と思っていたリィンだったが、それは領邦軍の意地によって覆された。

 

 どうやら特別実習の成果は聞き及んでいるそうで、特に五月のオルディスで行われたラマール州領邦軍相手に完封したという結果が彼らを奮起させたようだ。

 帝国正規軍より質が劣るといっても、それは全体を比べればの話。

 個人個人であるならば正規軍の猛者にも負けない技量の持ち主は当然居た。

 

 逆に、そんな精鋭中の精鋭を集めていた中で勝利したリィンとB班に驚きがあったほどだ。

 B班に関してはエマが居る時点で大丈夫だと思っていたので、リィンとしては驚きはなかったが。

 

 そしてリィンは、シュライデン流の中伝を修めた青年が相手だった。

 一度は素の力で対決して勝利したが、まだ余力があると見抜かれたことで手を抜いていたのかと口論になり、やむなく鬼の力を用いた二度目の手合わせが行われた。

 

 結果は、瞬殺。

 一合と受けることなくシュライデン流の中伝相手に勝利したものの、対峙した相手のプライドをいたく傷つけたようで、試合の後は一言も発することなく放心するように遠くを見据えていた。

 

 皆伝ならばまだ納得出来た。

 だが、流派は違えど同じ中伝……それも一回りは年下の少年に完封された事実は、相手にとっては受け入れがたい事実だったらしい。

 幸い、ユーシスとラウラ……特に公爵家のユーシスがリィンのフォローをした手前、面と向かっての批判などはなかったが、それでも後味の悪い依頼であったことに違いはない。

 

 そんな空気の中で、ログナー侯爵が戻ってくる。

 ログナー侯爵は試合内容を聞いて納得を示し、護衛に関して問題ないと改め彼からも要請をまとめた書類を受け取り、Ⅶ組は練武場を後にした。

 

「……ああいう時って、どうすれば正解なんだろうな」

「いち武芸者としては彼の気持ちもわからなくはないが……それこそ驕りであろう。強者相手に手合わせをしてもらうということに対する感謝が足りんと言える」

「うわっ、テキビシー!」

「だが、パルムやレグラムでは受け入れてもらっていただけに、ああいった反応は新鮮だったな。いや、あれが正しい反応と言うべきか」

 

 二十代で中伝に至ったというのはおかしいことではなく、むしろ優秀とさえ言える。

 だがマクバーンという大きすぎる目標に向けて日々努力するリィンと比べると……比べるほうがおかしいと言えるかもしれない。

 

「それに、立場というものがあったのかもしれないな」

「立場?」

「シュライデン流は歴史こそ我がアルゼイドやヴァンダールに負けていないが、知名度という点では帝国では一歩劣るというのが現状だ」

 

 シュライデン流は、ノルディア州に本拠を構え、領邦軍を中心に受け継がれている槍術が主体の流派。

 ラウラが言う歴史こそ古いが、現在の帝国において強者に位置する者達にその使い手がいないことで、知名度はその二大流派に劣る。

 

「強くなればなるほど、他流派の壁を実感してしまい、焦りがちになるというわけか」

「《光の剣匠》《黄金の羅刹》《黒旋風》《雷神》《紅毛》《隻眼》《剛撃》……上げればキリがないからな、帝国の層は」

「加えて、同じ武器でありながら、シュライデン流より名を馳せるバルディアス流のウォレス卿のこともあって尚更というわけか」

(フフフ、息子よ。己の流派を誇りに思うからこそ意識を囚われ、ムキになってしまうということだな)

(我々ノヨウニ、一ツ一ツガ特別デアルト意識スレバイイモノヲ)

(それが難しいんだ。いやまあ、灰の騎神(ヴァリマール)が言うなって話だけど)

 

 リィンには縁がないが、正規軍でも領邦軍でも、組織に所属するということは流派を比較されることが多かったのかもしれない。

 質実剛健、文武両道であれとうたう帝国であっても人間だ。そういう気持ちが強くなるのは当然と言える。

 特に権力意識が強い貴族が所属する領邦軍ならなおさらだ。

 

「父上の気質もあって、ノルディア州の領邦軍は競い合いが常だ。あちらには悪いが、これも現実。受け入れてもらうしかないだろうね」

「アンゼリカ先輩」

 

 ログナー家の正門までやってくると、セルリとアンゼリカが佇んでいた。

 ここでようやく、Ⅶ組にセルリが紹介された。

 

「紹介するよ、先程友人になったセルリだ。ほら、自己紹介してごらん」

「は、初めまして。セルリと申します」

 

 おどおどと、震えながら挨拶する仕草はまるで小動物のようだった。

 外見と相まってそれが似合っているのが恐ろしい。男なのに。

 

「リィン、さっき親しげな感じだったけど知り合いなの?」

「前に帝都でちょっとな。まさかここに居るとは思わなかったけど」

「本当に、目を離すと勝手に知り合い作っていきますね……」

「でもお人形さんみたーい! それに良い匂いもする」

「ミリアム、いくら同性でもあんまりそういうことしちゃダメだよ」

「しかし可愛らしいものだ。令嬢という言葉が擬人化したように思える」

「きょ、恐縮です……」

 

 そんな風に、Ⅶ組はセルリとそれぞれ自己紹介をしあっていく。

 七月の聖アストライア女学院のことを思うと苦笑してしまうが、セドリックのお忍びスタイルの修行ということで表情に留めた。

 

 幸い、セルリの変装は見抜かれることはなく、アンゼリカは彼女を伴って別れようとしたが、そこでリィンが引き止める。

 エリオットの聴覚のことも考えてガイウスにエリオットの耳を塞いでもらうよう言付け、実行してくれる彼の好意に甘えながらアンゼリカを離れさせて耳に唇を寄せた。

 

(先輩、俺達のどっちかと行動しなくていいんですか?)

(本来なら私を同行させるはずだったが、先程お互いに話し合ってね。サラ教官に連絡して、彼女を同行させることで決着が付いた)

(ルーファスさんから何か指示があるんですか?)

(これから貰いに行くのさ。私も愛しのトワから掴んだ情報があるからね、ルーファス卿なら上手く活用してくれるさ。

 何せ、彼が《帝国解放戦線》を捕縛するという意気込みは私にも届くくらいだからね)

(報酬が良いからですね)

(報酬?)

(秘密なので言えませんが、ルーファスさんが真剣になるくらいにすごいです)

 

 金の騎神はトールズからエリンへ移動し、現在の広場にはヴァリマールにテスタ=ロッサ、エル=プラドーという三体の騎神が並んでいる。

 ちゃんとした格納庫や専用の異空間を作ろうとしていると聞くので、全ての騎神がエリンに集う日も遠くないのかもしれない。

 とはいえ、ルーファスが今回の件で結果を出せば少なくともエル=プラドーは彼に譲渡されることになるので、そうはならないかとすぐに思い直す。

 

(……ってことは、俺達があの要請を受けた理由なくなりました?)

(そこに関しては謝罪するが、逆に言えば父上も君達の実力を認めたことになる。少なくとも学生だから危ない、という理由で離れさせられることにはならないだろう。

 まあ、管轄問題で手を出せないという可能性はありそうだが)

(フフフ、息子よ。あれを受けなければ殿下と会うこともなかったと思えば、要請を受けたのは間違いではない)

(それもそうか)

 

 オズぼんの言葉に納得し、セルリとアンゼリカとの挨拶を済ませて別れていく。

 サラからの連絡もありアンゼリカと彼女の護衛は翌日に回され、A班とB班はそれぞれ特別実習に記された要請を行うため、ここで別れた。

 A班も活動開始、というところでリィンは少し待ってくれ、とアリサ達に言ってARCUSを取り出す。

 連絡先は、セルリに相応しい護衛相手だ。

 

(守護役としては、主が知らない間に危険に陥るっていうのは嫌だしな。何よりクルトなら、成長よりも友達の危険を助けられるほうがよほど嬉しいはずだ)

 

 そう思いながら、リィンは通信が来たことに驚く少年に先程の内容を告げるのだった。




セドリックに化粧を施した人をオーレリアさんにしようか悩みましたが、羅刹様に来られると色々予定が崩れるということでモブさんになりました。
軌跡のモブは有能が多いからきっと黙ってくれるはずです。

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