はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。九月の特別実習だ③

 クルトへの説明を終えると、彼から絶叫に近い言葉が届いたがこれから特別実習だから一度切る、と言って通信を切る。

 幸い、トリスタからに比べればゼンダー門からルーレの距離は近い。今日中には到着するはずなので、頃合いを見計らってまた通信を入れることにする。

 

(ウム、くるとノ番号……導力波ノ波長ハ覚エテイル。彼ガ来タラコチラカラ言オウ)

(頼んだ、ヴァリマール)

(フフフ、息子よ。私が言うのもアレだがヴァリ君は変な方向に進化しているな)

 

 アンゼリカからの要請も終わり、リィン達A班は改めて渡された書類に記された依頼をこなすことにした。

 スピナ間道の手配魔獣をさっさと済ませた後、RFストアに向かいヨハンと名乗る技術者から話を聞くことになった。

 

「ARCUSの通信強度調査ですか」

「ああ。ルーレを回って、導力波の弱い部分を探してもらうことが今回の依頼になる」

 

 ラインフォルトの第四開発部――つまりイリーナ会長直轄となる、導力通信技術・戦術導力器の開発を行っている部署だ。

 魔導杖もこちらの管轄のようで、エマとエリオットから送られるレポートは大いに参考になると伝えられた。

 特にエマのほうは、アーツの威力の向上が目覚ましく彼女の資質に魔導杖が負けていると少し悔しそうな、それでいて嬉しそうな表情が印象的だった。

 

 イリーナの直轄であるため、今回の要請も簡単に手配することが出来たと推測出来る。

 逆に、貴族側からの依頼を担当するB班に万一の時に歯止めになりそうなユーシスが外れているのは、依頼内容を担当した何者かの思惑が図れそうな気がした。

 

「ARCUSという名は何を意味しているか考えたこともあったが……なるほど、導力通信技術と戦術導力器を合わせたものというわけか」

 

 All-Round Communication & Unison System、略してARCUS。

 オールラウンドコミュニケーションは通信でどこまでも届く会話、ユニゾンシステムは使用者によって一つ一つタイプが異なる戦術オーブメントを指しているということか、とリィンは納得する。

 

「でも、声を届かせたい相手に届かないっていうのももどかしいですね」

「リィン?」

「いや、なんでもない」

 

 戦術リンクを通して繋がっていても、オズぼんの声はA班の誰の耳に届くことはない。

 そもそもオズぼんの声を聞くことが出来るのが、士官学院ではエマとセリーヌしかいないのだが。

 ベリルは聞こえていそうだが、未だに明確な答えは濁しているので難しいところだ。

 

 話を終えて導力波測定器を受け取り、早速調査を行うことにしたリィン達は街へ繰り出す。

 今回は色んな場所で導力波を測定する要請のため、さしものリィンもマラソンなどは移動だけに留めている。

 アリサが盛大に安堵の息をついたのは、ガイウスだけが知っていた。

 

「しかし、声を届かせたい相手か……こうして見ると、Ⅶ組(俺達)はそれぞれそういう相手が居るのかもしれないな」

 

 ルーレを歩きながら調査するA班の中で、ふとガイウスが寂寥感を滲ませながらつぶやく。

 導力波測定器を一度止めながら、ユーシスがどういうことだと聞いている。

 ガイウスはすぐに表情を苦笑に戻しながら教えてくれた。

 

「俺は遠く離れたノルドの地に。リィンにアリサとユーシスは家族に。ミリアムも案外、そういう相手はいるのか?」

「ボク?」

「クレアさんにレクターさんとは結構気軽に話してるみたいだし、ミリアムの場合はそうでもないか?」

「いや、俺が言いたいのは気持ちのほうだ。心の声、と言い換えてもいい」

「心の声……」

 

 アリサがつぶやくと、それに応じるようにユーシスも黙ってしまう。

 アリサは母親との間に問題を抱えていて、ユーシスも家族との間に確執……彼なりに言えば無関心なので、確執も何もないと言うものだが。

 

「ARCUSが開発されたのは案外、そういった口に出せない気持ちを届けたいと思ったのがきっかけじゃないか、と思ってな」

「ガイウスは母様を過大評価しすぎよ……」

「だが、父親が存命の頃は今ほどの関係ではなかったのだろう?」

 

 押し黙るアリサ。

 リィンも以前聞いたことはあるが、フランツが居る頃は家族で旅行に行ったり写真を取ったりしたこともあると聞く。

 家族写真を持っているのがその証拠だ。

 だが、フランツが死亡しイリーナが前会長であるグエン・ラインフォルトを追い落としたことで家族の溝はいっそう深まっている。

 その一方で、家出したはずのアリサが向かった先で理事長の一人を勤め、変に干渉する辺りユーシスと違って無関心というわけではない。

 

「案外、フランツさんともう一度会話したいって気持ちから生まれたのがARCUSなのかもな。だったら俺も嬉しいけど」

「リィンも、か?」

「俺も本当の母親とは死別してるからな。もし母さんと会話出来るならしてみたいよ」

(……………)

 

 オズぼんは無言。

 ヴァリマールも空気を呼んでいるのか、何か言うことはない。

 リィンは慌ててオズぼんに何か言おうとしたが、それよりミリアムが口を開いた。

 

「ボクは家族がいないからなあ……その気持ちはわからないや」

「鉄血の子供達が一応家族じゃないか? 血は繋がってないけど」

「んー、確かにクレア達が死んじゃったら寂しいけど、人はいずれ死ぬんだし考えたって仕方ないと思うけどなあ」

「ミリアム、それは……」

「ユーシス、今はそっとしておいたほうがいい」

「それより、今は調査でしょ? ボクこういうの慣れてるから任せてよ」

「……わかった、これからはミリアムが持ってくれ」

 

 ガイウスの言葉に手を止めるユーシス。

 妙な空気になってきたのも気づかず、ミリアムはリィンから導力波測定器を受け取って先にある教会へ走っていった。

 その後ろ姿を見ながら、ガイウスが言う。

 

「彼女には実感(・・)がない。俺も弟妹の面倒を見て気づくことが多かったが、実感を覚える前の子供、という言葉がミリアムには合う」

「確かに純真無垢って感じだけど、あれでも帝国軍情報局の士官でしょ?」

「ルーチンワークにしていれば、子供でも仕事は出来る。遊牧の民である俺も、小さな頃から意味がわからないまま仕事を覚えたこともあったからな」

 

 リィンの小さい頃の記憶というのは、最古の記憶がギリアス・オズボーンの顔とシュバルツァー家に引き取られてからの時間だ。

 男爵家の長子ということで勉強などもしていたが、小さい頃の仕事らしい仕事と言えば雪かきの手伝いくらいだった気がする。

 小さなスコップを片手に、家族や大人達に見守られながら汗を流したのは良い思い出だ。

 八葉一刀流を覚えてからは、鬼の力の制御と合わせて焔ノ太刀などで雪を蒸発させて手伝うほどになったが。

 

「子供は命の意味すら理解せず、虫などを踏み潰すなどことにも躊躇がないこともあるが、似たようなものか」

「当たり前のように朝に起きて、当たり前のように夜に眠るっていう人として当然のことくらい、ミリアムにとっての仕事が染み付いてる、と」

「そこまで極端ではないだろうが……あくまで俺の印象だ。これが正解というわけではない」

「でも、ガイウスの言葉に沿って考えて見ると当てはまることも多いわ」

「考えてみれば、俺達はミリアムは鉄血の子供達の一人にして帝国軍情報局に所属する少女ということ以外は知らんのだったな」

「いや、トールズ士官学院Ⅶ組のミリアム・オライオンってのをつけ忘れてるぞ」

 

 その言葉にハッとするユーシス。

 

「難しく考えることも大事かもしれないけど、俺達にとってのミリアムはそういうことだろ?」

「それは……」

「ってわけで、ミリアムだけに要請を任せるわけにも行かないから、追いかけていこう」

 

 そう言ってミリアムの後に続くリィン。

 アリサ達は顔を見合わせながら、互いに息をつきながらその背中を追いかけていった。

 ちなみにアリサ達が追いついた時、リィンとミリアムはエスカレーターを逆走しようとしていたため、全力を尽くして止めた。

 言い訳は誰もいなかったから……とのことだが、当然依頼が終わるまでアリサとユーシスの説教が二人に飛んだ。

 

 

「ありがとう、助かったよ。あともう一つ追加で依頼を頼みたいんだけど……」

「依頼ですか?」

「追加という形になるのだが、レポートにある灰のチカラ……あれの詳しい調査をしたいんだ。聞けば、リィン君とガイウス君はそれを応用して戦術リンクをさらに進化させた力……仮称、オーダーシステムを使ったそうじゃないか。

 工科大学からの要請に追加で入れておくから、可能ならお願いしたいんだ」

 

 ヨハンからの要請に、リィンは言葉を返す。

 

「どのくらい使いますか? 特別実習中ずっと、となるとちょっと無理なのですが」

「うーん、回数は多ければ多いほど助かるのだけど……」

「……少しお待ちください。みんな、悪いけどARCUSを貸してくれないか?」

「へ? 別に構わないけど……」

 

 そのお願いに、アリサ達は首を傾げながらそれぞれARCUSをリィンに渡す。

 リィンは礼を言いながらARCUSを受け取り、ヴァリマールに尋ねる。

 

(ヴァリマール、どうだ?)

(少シ待テ……残量(・・)ニ問題ナシ、人数分ノ戦闘ヲ行ウダケナラバ可能ダ)

(わかった)

 

 リィンはヴァリマールの言葉に頷いて、全員のARCUSから使われていない灰のチカラを回収する。

 ロア・ヴァリマールの顕現こそなかったが、目に見えるオーラにアリサ達が驚きの声を上げた。

 

「リ、リィン? それって……」

「みんなのARCUSに灰ノチカラを込めたことがあるだろう? それを今ヴァリマールの中に戻したんだ」

 

 かつてノーザンブリアへ赴く実習の時、エマにお土産として持たせたそれをガイウスが使ったことで、リィンは全員に灰のチカラを貸したことがある。

 ただ、残量が減っていないということはガイウス以外に使いこなすことが出来なかったと見える。

 それが今、幸運にも灰のチカラを使えることになったことを思えば、どこで何が繋がるか人生わからないものだった。

 

「灰のチカラを回収、だと? そんなことをせずとも、お前なら……」

「んー、でもちょっと待ってユーシス。リィンって、先月辺りからロア・ヴァリマールを使ってなかったよね?

 ガーちゃんの遊び相手も、リィンだけがしてくれたし、それから忙しいって断られることも多かったからガーちゃんも寂しがってるぞー?」

「そう言えばそうね……てっきりエマに説教されて使うのを控えていたと思ったわ」

「何か理由があるのか、リィン」

「ああ。ぶっちゃけるけど、今の俺はロア・ヴァリマール……灰のチカラが使えないんだ」

 

 その言葉に全員が目を見開く。

 ヨハンには調査分は問題ない、と告げながらリィンは理由を説明する。

 

「ちょっと諸事情で手放してるだけで、消えたわけじゃないんだけど」

「諸事情……?」

「マクバーンさんと友達になるために必要になってな」

 

 その言葉にアリサとガイウスの顔が曇る。

 彼らにとってのマクバーンとは、発言はさておきリィンの全身を大火傷にした紛れもない敵対者だと思っているからだ。

 まだ二ヶ月もなかった付き合いといえ、自身が危険だったことに加えて級友が死にかけたさまを見て動揺しなかったはずがない。

 その後も友達になる、という目的が変わらぬリィンの様子に頭がおかしくなったのかと不安になっていたが、エマが率先して協力させられていることから本気なのだろうと察していた。

 

「ま、今は特別実習だ。いずれ説明するよ」

 

 ウインクしながら、人差し指を唇に当てるリィン。

 ミリアムは教えてー、とせがんでくるがこればかりは秘密と言って語らない。

 

「エマに聞けばわかるかもしれないけど……」

「リィンが語らぬ以上、エマも口を割らないだろう」

(……そう言えば、《光の剣匠》との戦いでもロア・ヴァリマールを使わなかった。剣士同士の手合わせ故かと思ったが、最後の分け身も完全ではなかった。

 俺達との訓練でも、最近は普通の分け身ばかりで実体を持つ分け身は使わなかったことから、リィン自身の修行のためと思っていたが……)

 

 重ねて言えば、リィンは八月から一切ロア・ヴァリマールを使っていない。

 クロスベルでも偽物の《風の剣聖》との戦いも己自身の力量だけで挑み、ユウナとワジの協力を経て倒した。

 仮に七月でアルフィン達を守った実体を持つ分け身達を使っていれば、怪我を負うこともなかった可能性もある。

 

 一同がその理由を考えようとするが、当のリィンがさっさと移動してしまったためその考えは強引に散らされてしまう。

 次の依頼にして本日最後の要請は、ルーレ工科大学で行われる。

 内容は、ARCUSのバージョンアップ構想の手伝いだった。

 ルーレ工科大学に入り、依頼相手である研究員ラットに話しかけると、彼はトールズ士官学院の制服を見て笑みを浮かべた。

 

「やあ、待っていたよ。先程RFストアのヨハン主任から連絡を受けていたが、追加要請にも協力してくれるんだってね?」

「はい、ARCUSのバージョンアップの手伝いとのことですが……」

「うん、少し長くなるからちょっと移動しようか」

 

 そう言って案内されたのは、現在は使われていない空き教室だった。

 使われていないと言ってもこの時間だけであり、他の授業で必要になればちゃんと使われる教室だ。

 まるで大学生になったかのような姿に、リィン達はどこか不思議な気恥ずかしさを覚えた。

 

「さて、早速今回の内容をと言いたいところなんだけど……リィン・シュバルツァー君だったね。君はかのシュミット教室に所属していたそうだが、博士が今どこにいるか知らないか?」

「え?」

「四月になって騎神とかいう騎士人形に興味を持って席を明けたままでね。一応、導力メールで必要なデータや指示とかもらうから、学長を辞めたわけじゃないんだけど……

 ふらりと時折現れては、必要なものだけ回収してすぐにどこかへ行ってしまうんだ。博士らしいと言えばらしいけど、居場所がわからないのは僕たちとしても歯がゆくてね」

 

 以前は士官学院に連絡を入れればシュミットの位置を知れたが、シュミット教室解散の後は居場所が知れないとのことだ。

 博士ならエリンで元気にしてますよ、と言うのは簡単だが、場所が場所なので迂闊に言うことは出来ない。

 

 エマは隠れ里から隠れが取れるのでは、と懸念しているがリィンとて誰彼構わず案内しているわけではない。

 シュミット教室の面々で言えば、未だにエマを除けばロジーヌしか案内していないのだ。

 ベリルは連れて来た様子もなくエリンで見かけたことがあるが、彼女のことは考えるだけ無駄な気がする。

 ただ、占いに興味を持っていたシギュンに紹介したが、あれからどうしていることだろう……と思考が散っていることに気づいて頭を振る。

 

「ジョルジュ君も聞いても知らないって言うし、導力通信を調べてみる限りサザーランド州方面ということまではわかっているんだが……それらしい場所はイストミア大森林だし、博士に限ってキャンプ精神に目覚めたなんてことはありえないからなあ」

 

 エリンは異空間に隔離されており、イストミア大森林にある転移石か直接転移の魔術を行使することでようやく行ける秘境だ。

 むしろそんな場所にも届く導力波がすごいのかもしれない。

 

「シュミット博士はここに居なければならないのか? 彼の自由を奪うのはあまり良いことと言えないと思うが」

 

 そこに自由と風を愛するガイウスの疑問が飛ぶ。

 ラットはアリサを見やり、言いづらそうに頭を掻きながらも理由を教えてくれる。

 

「そんなことはないんだけどね、ラインフォルトからは基本的にここに居て欲しいみたいなんだ」

「ラインフォルトが?」

「導力革命があったといえ、お祖父様が興したラインフォルトグループがここまで大きくなったのは、シュミット博士の恩恵があるからよ」

 

 導力革命の祖、エプスタイン博士の三高弟の一人がシュミットであり、彼が博士の下から持ち帰った技術の様々が今のラインフォルトを形作っているそうだ。

 だからラインフォルトとしては今後も博士とはより良い関係でいたいし、勝手に外国に根付いてしまうのは避けたいと言ったところか。

 

「君達のARCUSなんかも、シュミット博士が関わってるんだ」

(だからロジーヌやローゼリアさんへ気軽にぽんと渡せたのか)

 

 試作品である戦術オーブメントを気軽に作ったのはシュミットだからと納得していたが、本当の意味でシュミットだから、であった。

 適正値の問題でⅤ組に配属されたロジーヌが、問題なく戦術リンクが使えるように調整したのもシュミットのおかげだったのも開発者であるなら当然と言ったところか。

 話題が変わりつつあることを自覚し、リィンは慌ててシュミットのことはわからないと偽る。

 

「すみません、俺もよくは……」

「そっかあ。騎神なんてものをじっくり調べたから、その辺の技術じゃ満足出来なくなったのかなあ」

 

 実際、魔女と協力してテスタ=ロッサの呪いを剥がす魔導技術とも言うべきそれに着手しているのを見ると、一概に否定出来ない意見である。

 

「っとと、話が逸れてごめんね。今回のバージョンアップについてだけど、技術的なバージョンアップの構想は出来てるんだ」

「と、言うと?」

「導力ネットワークと合わせて、一般への普及を考えてるんだ。導力テレビに導力通信、写真撮影、導力メールといった画像のやり取り……クロスベルやレマン自治区が最先端の導力ネットワークを、さらに簡略化させる形だね。

 普通のやり方じゃ他の二番煎じになるから、一歩先に進んだ構想で対抗したいと思ってるんだよ。

 でも当然、戦術オーブメントであるからそちらへの進化も考える必要はあるんだけど、そこで目をつけたのが灰のチカラっていうものを使ったオーダーシステムを、オーブメント同士で共鳴させるって案なんだ」

「灰のチカラを通さずに、ガイウスみたいに独自のオーダーが使えるようになれば確かに戦闘はさらに戦いやすくなりますね」

「本当はオーバーライズってシステムを考案していたんだけど、リィン君が使ったオーダーシステムも強力だからね。並行して進めていきたいところだよ」

 

 内容について理解し、早速灰のチカラ実演のために技術棟へ移動しようと提案するラットに、リィンはふと思いついたことを聞いてみた。

 

「そう言えばARCUSの適正ってどう判断していたんですか?」

「……確かに、俺達が集められた時に適正があると聞いただけだが、何かした覚えはないな」

「入学生、加えてハーシェル会長達のテストケースを思えば上級生も選考対象になっているはずだが……」

 

 生徒達の疑問に、ラットは笑みを浮かべながら答える。

 場所も含めて、ちょっとした教鞭を取る気になっていた。

 

「入学試験とは他に面接もあっただろう? その時使った個室に、ARCUSの適正の測定器があったんだよ。

 君達は特にその値が高かったからⅦ組……ARCUSのテストケース候補生として選ばれたってわけだね」

「全然気づかなかったな……」

「もう一つ、良いですか?」

「うん、構わないよ」

 

 変わらず笑みを浮かべるラットだったが、次のリィンの一言に言葉を失った。

 

「ARCUSって幽霊とも会話出来るんでしょうか?」

「えっと…………」

 

 ラットは困ったようにアリサ達を見たが、彼女達も先程行った会話……死者との対話が可能であるのならば、という考えがあったからだ。

 沈黙する教室に、リィンは答えはないと判断してもう一つの質問を投げる。

 

「じゃあそちらは結構ですので、戦術リンクを極めれば心の声も聞いたり出来るんでしょうか?」

「あ、うーん……思考の共有、意識の同調って意味では行き着く先はそこかもしれないね。流石に今何を思っているかを把握するのは無理だけど……」

「ちなみにイリーナ会長はARCUS適正は?」

「うん? いや、彼女はそこまで高いものではなかったかな」

「母様が調べてもらったんですか?」

「開発の時に顔を出してくれた時に一緒にね。結果的に不適正で、そう、とだけ言ってたっけな」

「アリサ、やっぱりイリーナさんはガイウスが言うように――」

 

 家族へ声ならぬ声を届けるためのARCUS開発だったんじゃ、とリィンは言う。

 だが、アリサはとても母がそんな気持ちを抱いているとは到底思えなかった。

 

「…………都合が良い考えよ、それは。ラットさん、要請はここで行われるんでしょうか?」

「あ、い、いや。ひとまず技術棟のほうへ……」

「わかりました。みんな、行きましょう」

 

 そう言って席を立つと、率先して出ていってしまう。

 

「……リィン、ガイウス。安易な希望は与えないほうがいい。それを支えにしてしまうと、待っているのはより深い絶望だ」

 

 アリサとて母親との距離を縮めたいはずだが、言葉にされてしまうと信じきれないあまり意固地になってしまっている気がした。

 ユーシスは自身の境遇から、そう感じているようだった。

 

「俺には兄上が居たし、アリサにもシャロンが居た。だからこそ気持ちを保ってきたと言えるが……」

 

 最近のシャロンの様子を思い返しているのか、渋面を作るユーシス。

 その元凶と言えるリィンはどこ吹く風だが、全ての鍵はフランツ・ラインフォルトにあると思えた。

 ユーシスもまた、席を立ちながらつぶやく。

 

「俺と違ってアリサにはまだ希望があるように思える。叶うなら、お前達の言う優しい結末であるといいな」

「へー、ユーシスってば友達想い~」

「からかうな、さっさと行くぞ」

「はーい」

 

 ミリアムのちょっかいを捌きながら、ユーシスも教室を出ていく。

 ガイウスもミリアムの肩を叩いて立ち上がり、彼女も横に並んで追いかける。

 慌てて追いかけるラットの後ろに続きながら、リィンもある決意を抱きながら技術棟へ向かっていく。

 

 向かった先にはB班の面子も勢揃いしていた。

 B班も要請を終わらせて、本日最後の依頼をここにして待っていたようだ。

 ならば、とB班の五人からも灰のチカラを回収したリィンは、全員分のオーダーシステムを検証すべく、久しぶりに灰のチカラを発動させるのだった。

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