ゼムリア大陸最高峰の一つ、ラインフォルトグループを支える導力ジェネレーターへ向かったⅦ組A班。
外部こそ異変がないように見えるが、べデストリアンデッキ周辺にはノルディア州領邦軍と鉄道憲兵隊が睨み合っているのが見えた。
昨日、ルーファスが仲介したことで互いに引いた両勢力。
だが彼が介入しなければ、装甲車を持ち出すほどに領邦軍は強気の姿勢を持っている。
街中で砲撃を撃つことはないだろうが、一触即発の事態は昨日の繰り返しと言えた。
「ユーシス、ルーファスさんは来れないのか?」
「兄上は昨日、ザクセン鉄鉱山のほうへ向かったと聞く。兄上がわざわざ足を運ぶほどのものではない、と思っていたが《帝国解放戦線》の動きを掴んで居れば納得だが……」
「それにクレアもザクセン鉄鉱山に行ってるみたいだね。ルーファスのお兄さんへの対策なんだろうけど……」
「だが、それはこの場における抑止力がないという意味でもある」
「そんな、ただでさえ急いでるっていうのに! いくら《貴族派》と《帝国解放戦線》に繋がりがあるといえ、導力ジェネレーターはルーレの心臓なのよ? 少しでも配給がストップすれば、混乱なんて言葉じゃすまさなくなるわ!」
巨大な工房都市とも言えるルーレでは、各工場で導力を生み出すよりも巨大なジェネレーターから配給するほうが効率が良い。
しかし一極化というものはメリットの相応にデメリットもある。
それが今まさに、この状況だった。
もし導力ジェネレーターに傷がつき、機能不全に陥った日には一種の災害としてルーレを襲うことになる。
いや、ルーレだけではない。
ラインフォルトグループほどの巨大な企業が活動を停止してしまえば、その余波は帝国を超えてゼムリア大陸各地へと届く。
その巨大さ故にハイデル・ログナーによる鉄鉱石の横流しによる機甲兵の生産、といった歪みも生んでしまうほどだが、それらが覆い隠されてしまうほどの恩恵もあった。
それらを考えるのであれば、この場所を戦場にするなど言語道断と言えるが……テロリストにはそんな理屈は関係ない。
彼らは鉄血宰相ただ一人を殺すために皇族はおろか、共和国といった大国含んだ周辺国家の国賓達までまとめて葬ろうとしたほどだ。
そんな配慮など、最初から欠けているのは当然と言えた。
「導力ジェネレーターが奪われたことはまだ住民達に広がってないみたいだけど、領邦軍とTMPが激突して被害が出るならあの人達には同じことだよね」
ミリアムのつぶやきに、リィンはひとまず住民の避難を提案しようとする。
そのことを察したのか、ユーシスがリィンに手を向けて口を止めた。
「…………俺が行く。手勢が少なくなってしまうが、リィンが居るならばなんとかなるだろう」
「ユーシス?」
「兄上ほど認められているわけではないが、俺もまた公爵家……学生だから、という段階はとうに超えている。
《
「…………大丈夫か?」
「さてな。ただ、やらばねならん。父上からのお叱りもあるかもしれんが、無辜の命が消えるよりよほどマシだ」
「…………わかった。お願い、ユーシス。ルーレの人達を助けて」
「任せておけ。だから、お前たちも頼んだぞ」
(フフフ、息子よ。少しユーシス君にアドバイスを与える、こう伝えてくれ)
(わかった)
一歩TMPと領邦軍へ足を進めるユーシスの背中に声をかけ、リィンはオズぼんからのアドバイスを送る。
この点を抑えておけば、ルーファスほどでないにしろユーシスでも彼らを止めることが可能かもしれない、と付け足して。
「ユーシス、ハッタリでも通用するかもしれないから、この要点だけは言っておいてくれ――」
リィンの仲介によるオズぼんのアドバイスを受けたユーシスが声を張り己に注目を集めていく。
その様子を見やり、ミリアムがリィンの手を握る。
「ミリアム?」
「ガーちゃんの力でボクの姿を隠す。リィンもアリサとガイウスも、全員手を握って」
言われるがままにリィンはアリサの手を取り、アリサもガイウスの手を繋ぐ。
全員が繋がっていることを認め、ミリアムは手を掲げた。
「ガーちゃん、お願い!」
アガートラムが謎言語を発すると同時に、周囲の景色に溶け込むようにリィン達の姿が消える。
それぞれ眼の前にいたクラスメイトの姿が消えることに動揺するが、事前に伝えられていたことでなんとか口の中に言葉を封じ込めた。
侵入手段を確保したリィン達は、次に侵入経路を探っていく。
(アリサ、導力ジェネレーターの入口って正面だけか?)
(専用口もあるけど、あの様子を見ると封鎖されてるかもしれないわ)
(ならば、風と共に侵入するのみだな)
(風と共に?)
(ミリアム、普段アガートラムはお前を乗せて移動している。つまり、俺達を抱えることも出来るんじゃないか?)
(へへ、四人くらいヘーキヘーキ。ちょっと幅が足りないから宙吊りになるのはご愛嬌、ってね)
(へ? 宙吊り――ひぐっ)
(アリサ、すまない)
急に体が飛び上がり、飛び上がったアガートラムに座るミリアムを基点に縄に吊るされたようにぶら下がるリィン達。
アリサは思わず悲鳴を上げてしまいそうになったが、片腕が空いたガイウスが見えないにも拘わらずアリサの口を正確に塞いで音漏れを防いだ。
ガイウスの手の中でこくこくと静かに頷くアリサ。
大人しくなったのを見計らい、改めてアガートラムに乗ったリィン達は導力ジェネレーターに空から侵入していった。
導力ジェネレーターの中は大部分が精密機械で出来ているが、メンテナンスのためにもある程度の広さは確保されていた。
通路には武装した赤いプロテクターの男達が並び、働いている従業員の姿は見受けられない。
アリサによれば、どこかの一室にまとめて閉じ込められているのだろう、とのことだ。
(どうする、まず従業員の人達を助けたほうがいいよな?)
(ええ。今も不安と戦っているでしょうし、早く解放してあげたいわ)
(先に制圧してからでも良くない? だって助けたとしても、逃げ出す手段がないよ?)
(うっ……)
ミリアムの冷静な指摘にアリサが口をつぐむ。
確かに従業員を助け出して逃がそうとしても、《帝国解放戦線》がたむろっている以上再び捕縛される危険性は高い。
加えて何者かが救出しに来た、と相手を警戒させてしまう。
(ならば、せめてアリサの顔を見せて救助が来た、というだけでも伝えたほうがいいだろう。そうすれば彼らも無理に脱出しようとしたり、危険な真似をすることがなくなるはずだ)
妥協案としてのガイウスの意見が通り、ミリアムはそれを採用した。
(……んー、まあ要救助者の暴走も防ぐのも大事かな。わかった、それじゃあアリサ、ここの地図ってどこにある?)
(えっと、ここからなら――)
姿こそ見えないが、落ち着いた様子のミリアムの声は場慣れているように思える。
伊達に帝国軍情報局の士官として働いているわけではないとわかるが、普段の陽気な彼女の様子を知るⅦ組としては仕事人としてのミリアムに驚きが先に浮かんだ。
スニーキングミッションによって徘徊する《帝国解放戦線》の動きを振り切りながら、リィン達は地図を確認して従業員の場所を捜索していく。
だが導力ジェネレーター内は人形兵器も徘徊していた。
相手が人間ならば姿を隠したリィン達を見つけることは出来ないが、人形兵器のセンサーは誤魔化せない。
どうしても排除しなければならないため、リィンはガイウスと場所を交代して一瞬だけ鬼の力を発揮して速やかに人形兵器を駆逐していく。
駆逐といっても普通に倒してしまえば爆発音などで目立ってしまい、騒ぎを聞きつけた敵を呼び寄せてしまう。
故にリィンは一撃で小さく、静かに暗殺するように人形兵器の機能を停止させていくが、ここでリィンに異変が起きる。
人形兵器のエネルギー源を一撃で断つために灼眼を酷使したことに加え、場所が場所だけに視界に映る導力情報量に少し頭痛を感じて、感覚が一時的に鈍っていた。
制圧されていると言ってもルーレ全域への導力配給は問題なく稼働しており、それが逆にリィンの視界一面を埋め尽くす情報量が波のように叩きつけられているのだ。
(……おかしいな、情報量って意味ならクロスベルでも似たようなものだったのに……ラインフォルトグループの心臓だけあって、密度が濃いのかな?)
どちらにせよ、普段より体が重く感じるのは避けられない。
そんなリィンをフォローするのはガイウスだった。
彼曰く風を感じることで相手の位置を把握出来るとのこと。
ノルドで育んだ感覚に加えて、悪しき風……人形兵器の気配もそれとなく判断出来るそうだ。
よって導力ジェネレーター内のギミックの解除なども含めてアリサが案内し、ミリアムはアガートラムで全員の姿を隠し、ガイウスが察知し、リィンが仕留めるという連携を見せていた。
戦術リンクによって互いの動きも把握出来るため、四人で一人という集団という名の個の力を発揮することで、リィン達は導力ジェネレーター内を進んでいく。
何箇所もの部屋を捜索した甲斐もあり、リィン達は捕らえられた従業員を見つけることに成功した。
人質を見張る監視役が居たが、密室ということもあり、アガートラムの隠蔽を解いて全員で監視役を打ち倒す。
突然現れた赤い制服の少年少女に驚く従業員だったが、その中の一人がアリサであることに気づいて皆が安堵の息をつき歓喜に涙を流していた。
「皆さん、お願いがあります。必ず後で迎えに来ますので、もう少しだけ待っていてください。必ず、この導力ジェネレーターを奪還してから迎えに来ますから……」
社長令嬢であるアリサの懇願に、従業員達も顔を合わせながら不安を押し殺して頷いてくれた。
監視役の武装解除、口に塞いで簀巻きにしてから部屋の鍵をかければ、ようやく本丸……首謀者達の打倒へ意識を切り替える。
流石にその頃には侵入者が現れたという報告が届いているようで、《帝国解放戦線》のメンバーと人形兵器の数が増えてくる。
それでもその中に領邦軍やTMPがいないのを見れば、ユーシスが外で彼らを抑え込んでいるのだと頼もしい気持ちが湧き上がっていた。
やがてリィン達は、導力端末が多く並んだ部屋へたどり着く。
ここはいわゆる仮想シミュレータールームというものらしく、隣接した先にある広い大部屋の中で様々な導力現象を検証し、より効率の良い配分を日々研究しているそうだ。
そんな部屋に佇んでいるのは、帝都の特別実習以降何かとⅦ組と縁がある青髪の男が髪をかき上げながらポーズを決めていた。
「やあ、無謀にもこんな少数人数で攻め入ってきた井の中の蛙達。学生の身でここまでやってきたのはよくやったと褒めて――」
「疾風!」
「わっひゃあ!」
先手必勝とばかりに叩き込んだニの型だったが、距離があることに加えて途中で何者かに阻まれることで不発になってしまう。
リィンの太刀は何もない空間……いや、アガートラムと同じように光学迷彩で隠れていた何かを切り裂いたことで、強引に止められてしまった。
「ああ、シグレが! ええい隠れるのなーし! すぐに出て来い!」
同じく、部屋の中に潜んでいた人形兵器達が姿を現す。
その中の一体は特に巨大であり、双角と機械の翼らしい羽根を持った上に太刀に似ている武器を携えていた。
だがその人形兵器が見せた構えに、リィンは息を飲んだ。
「八葉一刀流……だと?」
「フッ、その通り。君も使用者だからすぐわかるか。そう、これこそクロスベルの風の剣聖のデータを入力したレジェネンコフ零式!」
青髪の男に呼応するように、その人形兵器は機械仕掛けの太刀による八葉の型を見せてきた。
アリサ達はリィンという八葉一刀流の使い手の強さを存分に知っている。
そんなリィンが中伝であるのなら、噂に聞く皆伝――八葉一刀流では奥伝――の剣士のデータが相手、ということは踏み込みを躊躇させた。
「さあレジェネンコフ零式、前口上すら理解しない現代の子供に大人のお約束という名のお仕置きをしてあげたまえ!」
入力されたデータからの八葉の技にリィンは構えるが、人間以上のパワーとスピードを前に一度弾かれて後退してしまう。
A班に緊張が走り、青髪の男が愉悦に震えそうになるが――その全てをリィンの絶叫がかき消した。
「ふざけているのかあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
リィンは怒りの刃、激おこ一刀流による一閃、どころでなく微塵斬りを以てレジェネンコフ零式を斬壊させた。
「……………へ?」
呆然とする青髪の男をよそに、リィンは怒りに体を震わせる。
偽物であったといえ、かつて本人と激闘を交わした者としてこんな出来そこないが風の剣聖を名乗るなど、
「笑止……千万!」
鬼気を解放し、
この人形兵器の存在そのものが、彼の剣士への侮辱だった。
「あ、あわ、あわわわわわわわわわ」
ここに来て眼の前の少年の実力を未だに図りきれていなかった青髪の男がすぐさま逃げようとするが、そんなことをリィンは許さなかった。
「ミリアム!」
「おっけー!」
リィンとミリアムが青髪の男を挟み込むように接近する。
分け身に加えてアガートラム自身も分身することで青髪の男は誰が本体か見分けることが出来ずに翻弄されるばかり。
よって、この結果は必然だった。
「破甲拳!」
「ガーちゃん!」
「あわびっ!」
二人のサンドイッチパンチが青髪の男の両頬に叩き込まれる。
顔が破裂しないのが不思議なくらいの衝撃だったが、彼は謎の奇声を発して気絶する。
ふんっ、と怒りを発散させるリィンだったが、咄嗟に殺気を感じてその場から飛び退いた。
そこに叩きつけられたのは、ワイヤーに繋がった刃の欠片だった。
スカーレットは元星杯騎士団の従騎士であり、その獲物に法剣を使う。
目を向ければ、かつてロジーヌに見せてもらった写真で見た波打つ長い橙色が隣の部屋の先から毛先を覗かせていた。
当然、リィンとそれに続いたミリアムが後を追う。
「アリサ、ガイウス! そいつふん縛っておいてくれ! キツめにな! 槍とか導力弓でつついててもいいぞ!」
いやそれは、と手を振る両者をよそにスカーレットを追いかけるリィン。
シミュレーター室に入ると同時に、その部屋の異質さに気づいた。
かつてないほどにこの場に導力が満ちており、特に時属性の力が強く、まるで闇に紛れるような暗黒の空間に近い。
姿を隠すためか、とリィンは気配を探りながら進んでいくが、その行動を阻害するようにリィンに向けて何かが投擲される。
リィンがそれを迎撃するために太刀を合わせた途端、アリサ達との部屋を繋ぐ通路の扉は強制的に閉じられた。
ミリアムが咄嗟に開けようとするが力ではびくともせず、アガートラムがその拳を叩きつけてもびくともしない。
向こう側からもアリサ達が声を上げているが、まるで耳に届かない。
つまり、リィンとミリアム。アリサにガイウスが分断された状況を物語っていた。
「フフ、まさかこうも上手くハマるなんてね」
そこに女の声が響く。
アリサ達の部屋から響くそれは、リィンが追いかけていたはずのスカーレットの声だった。
それは肉声ではなく、シミュレーター室へ備え付けられたスピーカーからの音だった。
「こっちは無力化させておくから、後はお願いね」
言うだけ言ってスピーカーが途切れる。
完全に壁一枚であるはずの隣の部屋との繋がりが、お互いに断たれた瞬間だった。
「なっ……それじゃあこっちに居るのは――」
「リィン様だけを釣るはずでしたが、こうなっては致し方ありません」
「………………え?」
ミリアムの呆然とした声。
彼女の視界には今まさに己の顔に迫りくるナイフが飛来していた。
アガートラムを呼び出してももう遅い。
まるで吸い込まれるように頭へと殺到する白刃の切っ先を、ミリアムはどこか他人事のように眺めながら――横から割り込んだリィンの左手から吹き出した鮮血が、少女の顔を赤く染めた。
「ぐっ…………!」
「リ……リィン?」
リィンの左の手のひらに刺さったナイフは容赦なく貫通し、ミリアムの頭を貫かんとしていた切っ先が手の甲から飛び出して出血を強いている。
この程度の怪我、任務でいくらでも見たことがあるはずなのに――その相手が自分を庇ったリィンというだけで、ミリアムは体を震わせて硬直していた。
そして、リィンの目はシミュレーター室の奥から無音で近づいてくる存在へ向けられる。だが、怪我以上の動揺がリィンの言葉を震わせていた。
「なんで、貴女が……貴女がここにいるんだ!」
認めたくないと叫ぶように否定の声を紡ぐが、現実は容赦なく事実をリィンの瞳に映し出す。
普段のメイド服ではない、どこか扇情的で露出度の高い衣装に身を包んだシャロン・クルーガーが静かにナイフを構えてそこに佇んでいた。
「ようこそ、私の世界へ――とあるオーダーを受けました故、諸々の事情合わせてお相手させていただきます」
時属性の力が場に満ちる。
暗黒に包まれていくシミュレーター室に、その言葉もまた暗闇へと沈んでいった。
導力ジェネレーターは原作に存在こそあれど、ちょっとしたダンジョンになってるのは完全に独自設定です。
ご了承ください。
そして次回は負傷したリィン&ミリアムVSシャロンです。
リィンと一緒に戦うのはアリサじゃないの、って疑問もあるかもしれませんが、閃Ⅰの彼女がシャロンと対峙したら棒立ち待ったなしで、負傷したリィンを庇えないと思うのでバトンタッチです。
その代わりにミリアムの様子が…?
そう言えばこの作品では出落ちに使った閃Ⅱでのレジェネンコフ零式、アリオスのデータを入れたとのことですが使う技はやっぱりあれ八葉一刀流の使われてない技だったんでしょうかね…
それ以上に娘のシズクに類じてシグレって名前の人形兵器をお供にしたのなら、本当に帝国貴族って嫌らしさが出てますね…