ゼムリア大陸の地図というか広さが明かされましたが、本当に帝国が巨大国家でした。
そしてクロスベルを見て、そりゃ併合されるよねと思ってしまうのもやむなしでしたね…
時は少し遡り、スカーレットに対してガイウスとアリサが対峙している頃に戻る。
スカーレットの強さはサラと同等。
一対一では確実に、特に導力弓を使うアリサは遠近対応の法剣を持つ彼女相手に懐に飛び込まれた時点で終わってしまう。
だがリィンやミリアムと離れ離れになったといえ、鬼教官に鍛えられた連携によりその攻撃を防いでいた。
分離された法剣の刃欠はアリサのメルトレインによって威力を弱められ、従来よりも勢いの落ちたそれをガイウスが防ぐ。
時には逆にガイウスが導力の風を巻き起こして法剣を防ぎ、アリサがその間隙を縫った射撃で対応する。
特にスカーレット相手に奮戦しているのはアリサだった。
戦術リンクの恩恵に加えて、直接切り結ぶガイウスの背中から横から針の穴を通すかのように冴え渡る弓術は確かな援護と安心を与えている。
士官学院に入学した時はただの学生だったアリサは、今までの経験と故郷を救うモチベーションが合わさり普段よりも高い実力を発揮することが出来ていた。
それでも、積み重ねた実力を埋めるには足りない。
元より星杯騎士団の従騎士としての下地に加え、《帝国解放戦線》に加入し鉄血宰相を討つと鍛え抜かれた意志は容易くくじけることはなかった。
最初こそ均衡していたものの、徐々に法剣の一撃がガイウスを捉え、アリサの導力弓にも対応されてしまう。
やがて地力の差が現れ、ガイウスの槍が弾かれその喉元に法剣を突きつけられる。
「ぐっ……」
「粘ったようだけど、ここまでね」
「ガイウス!」
「あら、動かないでね。不必要な殺しはするつもりはないけど……必要ならする、って意味だから」
法剣の切っ先がガイウスの喉に触れ、小さな血の玉が浮かび上がる。
アリサは悔しげに導力弓を下げると、スカーレットは満足げに笑みを浮かべた。
その様子を見ながら、ガイウスが彼女に問う。
「……リィンやロジーヌ、そして我が師バルクホルンからも貴女のことは聞いている。その境遇を理解出来る、なんて言うことは出来ないが、何故誰かに頼らなかったんだ。
少なくとも、貴女の母親はバルクホルン神父のかつての従騎士だと伺っている。その縁がある以上、きっと助けてくれたはずだ。
貴女の気持ちは貴女にしかわからないが……それでも、誰かに相談するだけでも――」
「……………」
スカーレットは法剣を持ち替えたかと思えば、柄でガイウスの頭を打つ。
苦悶の声を上げながらガイウスが床に倒れる。
その首元に法剣を添えるスカーレットは、冷酷に告げた。
「あまり女の過去を詮索するのは良くないわよ、ぼうや」
「この女……!」
「アリ……サ、待ってくれ。今のは、俺が悪かっただけだ」
皮膚が弾けたのか、ガイウスの髪の合間から血が垂れている。
その姿にアリサの怒りのボルテージが高まり、彼女は堪えきれぬように叫んだ。
「っ……故郷や家族がなくなったことは悲しいと思うわ、でもだからって人の故郷を奪って八つ当たりなんて……それこそあの宰相と理由が違うだけで、やってることは同じじゃない!」
「なんですって……」
「否定出来るはずないわよね。ザクセン鉄鉱山もだけど、それ以上にこの導力ジェネレーターはルーレの基盤とも言える場所……
何かあってここが壊れたら、ルーレの崩壊を意味するわ。そんな場所を占拠して、奪ってないなんて言わせないわ!
それとも何? 私は故郷をなくした可哀想な女です。だからその怒りを発散するために八つ当たりさせて、なんて子供の癇癪みたいなこと実行してるんだとしたら、馬鹿を通り超えて愚か以外の何者でもないわ!」
感情の赴くままにアリサは絶叫する。
ようやく母親との確執に目処が付いたと思えばこれだ。
これからの未来にケチを付ける相手に遠慮などなかった。
その意図せぬ挑発が効果を発揮したのか、スカーレットがガイウスから離れてアリサに歩み寄る。
臆することなく、アリサはスカーレットに向けて導力弓を構える。
つがえた三本の弓を引こうとした瞬間、すでにスカーレットは眼前に迫っていた。
「アリサ!」
「うっ…………」
ガイウスが叫んだ先、アリサは咄嗟の判断で矢を盾にすることで法剣の軌跡を動かす。
胸元へ吸い込まれていた刃が逸れたものの、アリサは右腕を切りつけられ、生まれた熱さに顔を歪める。
スカーレットは追撃で少女を蹴り飛ばすが、復帰したガイウスが蹴られた方向へ回り込むことでアリサを受け止める。
その表情に無を刻みながら一歩、また一歩ゆっくりと足を動かすスカーレット。
それは、じわじわと追い詰めるという彼女の気概が現れていた。
「フッ、地雷を踏むのはリィンばかり、というわけではないようだな」
「ありがと……って、言ってる場合じゃないでしょ」
背中を支えるガイウスに礼を言いながら、アリサはもうスカーレットを抑え込むのが難しいと判断していた。
斬り殺される結末すら幻視する現実を前に、それでも彼女達は諦めない。
「ねえガイウス、槍は回収してる?」
「ああ……おそらく、同じことを考えている」
「フフ、これも戦術リンクの恩恵かしら」
「いいや、なんてことはない。信頼の積み重ねが生んだ絆というものだ」
くすりと笑いながら、アリサは左腕だけで導力弓を構える。
結ばれる戦術リンクの光が一際強く輝く。
構わず歩むスカーレットだったが、次のガイウスの行動で足を止めた。
「槍のことは気にするな。壊すつもりで行け……!」
「ええ……!」
ガイウスはアリサの導力弓に、己の槍をつがえさせる。
槍を矢として放とうとする二人に冷笑を覚えるスカーレットは、構わず法剣を展開しようとして――彼らの戦術オーブメント、ARCUSが光を放っていることに気づいた。
「
「風よ……!」
それは、アリサの導力弓に仕掛けられたギミックだった。
魔導杖とは異なるものの、装填した矢を導力で強化して放つというシンプルな機構。
アリサの宣言と同時に、導力弓が一回り大きくなりガイウスの槍が矢として遜色ない大きさにまで膨れ上がる。
それを左腕だけで支えるアリサの表情は苦しいものがあったが、それよりも目の前の女に一発打ち込んでやらなければ気がすまなかった。
「カラミティ……!」
「アロオオォォォ!」
導力弓の前に生み出された魔法陣へ、ガイウスの槍が投擲される。
魔法陣をくぐり抜けた先、まるで鎧をまとうように一回り大きくなった導力槍が一直線に放たれる。
内包する導力を感じ取ったものの、その速度は驚異的ではない。
スカーレットは余裕を持って避けた。
「壊したくない、なんて言いながら最後は自分の手でなんて、世間知らずのお嬢ちゃんらしいわ!」
スカーレットは駆ける。
避けた先にあるのは、導力ジェネレーターの管理システム端末だ。
そんな場所へ打ち込まれた暴力など、察して余るものがある。
とはいえシステム障害の影響もあるだろうし、ニ人を大人しくさせて自称Gを回収して逃走すると即座に判断を下すスカーレット。
油断、だったのだろう。
矢は放たれれば飛ぶだけで、ブーメランのように戻ることなどないという前提。
その概念は、ここに崩される。
「これで終わりだよ、子供た――があっ!」
法剣の刃を分離させようとしたスカーレットの右肩を、
それは先程避けたはずの巨大な導力矢――の元になったガイウスの槍。
スカーレットの背後へ飛んでいった矢は、まるで意志を持つ鳥類のようにその軌道を曲げ、反転して彼女に襲いかかったのだ。
事実、彼女には見えていなかったが見る者が見ればその矢には翼を持つ鳥の姿を幻視したことだろう。
予期せぬ不意打ちに法剣を落としたスカーレットへ、ガイウスが迫る。
リィンとの稽古により飛躍的に向上した体術、そして判断力が彼を動かした。
落ちた法剣を蹴飛ばして遠くへ飛ばし、獲物を拾おうとするスカーレットをその足で払う。
そのまま馬乗りになり、予備に備えてあった短槍を首に押し付けることで彼女を押さえ込む。
アリサがティアラで右腕の傷を癒やしながら、その様子に喝采を上げた。
「やったわ、さすがガイウス!」
「このまま大人しくしてもらおうか……」
「ちっ……」
怪我をした状態で体格の良い男をはねのけるのは難しく、スカーレットは脱力する。
ガイウスは諦めてくれたか、と思いながら油断せず力を込め続けると、彼女が小さく言葉を作る。
「…………怒りだよ」
「何?」
「さっきの答えさ。確かに、バルクホルン神父なら助けてくれたかもしれない。けど、母は塩の杭の現場を見て、心が折れてしまっていた。
そんな従騎士の娘が尋ねるのは、些か恥知らずってものさ。
そうして誰かに頼れぬまま時間だけが過ぎて残ったものは、決して燻ることのない怒りの焔。
その明かりは私以外の者も持っていた。……そんな
フフ、ぼうや。そういった
まさかの答えに、ガイウスはおろかアリサも思わず聞き入ってしまう。
アリサが危機感を抱いたものの、実際に二人は故郷が失ったことはない。
そのしみじみとした語りが、逆に途方もない感情の大きさを覚えてしまったくらいだ。
「自然災害ならまだ納得出来たかもしれない。けど、それが明確な目的を持って排除されたものだと知って、飲み込めるほど私は人間が出来てなかった。
この焔を鎮めるのは、それこそ元凶を排除するしかない……だから」
ガイウスは無言。
だが、彼の無意識下で判断されたスカーレットへの共感が、ほんの僅かだけ存在した。
それを、スカーレットは見逃さない。
「こんなところで、諦めるわけにはいかないのよ!」
「ガイウス、横!」
それは意趣返しをするように、意識の外からの衝撃。
蹴飛ばして遠くへ転がったはずの法剣の刃片がガイウスへ迫っていた。
アリサの声でその存在に気づき、咄嗟にスカーレットの上から退いて刃片を避けるガイウス。
だが、それはスカーレットを自由にすることと同意義だった。
手動による操作により、分離した法剣の刃がガイウスとアリサに殺到する。
ガイウスは咄嗟にアリサを抱きかかえるように身を挺することで、背中への一撃を許したもののアリサを守ることに成功する。
「女が気を許すような言葉を発したら気をつけなさい、一つ社会の勉強になったわね?」
そう言って、スカーレットは法剣とリィンとミリアムによって気絶させられた青髪の男を回収。
颯爽とこの部屋から脱出してしまった。
アリサはスカーレットを追うか悩んだものの、ガイウスを放置しておけず先に彼の治療をしようとARCUSを手に取ろうとして――
「ミリアム・オライオン様、改めてご挨拶を。私は結社《身喰らう蛇》の執行者、No.Ⅸ《死線》のクルーガーと申します――」
「――――――え?」
そんな、シャロンの声が聞こえてきた――
*
一方的な通信でシャロンがシミュレーターに居ること、リィンとミリアム――特にリィンを襲っていること、その理由など彼女の事情を知ったアリサは、無言で導力端末を操作し始める。
ガイウスも己のARCUSで背中の傷を治療する傍ら、シャロンから語られる様々な告白にさしもの彼も言葉を失っていた。
そして、開かれた扉の先で。
シャロンによって傷つけられたリィンと、それを抱えるミリアムの姿を見てさらに感情が深く沈み込む。
ミリアムの顔には、おそらくリィンのものであろう血が付着し、笑顔が似合う少女の顔を赤く染めていた。
そして己を見て愕然とする、彼らを襲った
アリサには、もう行動しかなかった。
「こんのぉ…………バカああああああああああああああ!」
全力のビンタ。
シャロンの体を吹き飛ばす、には至らないが確かな音と右手に残る痺れはアリサに手応えを与えたものの、何の慰めにもならない。
ビンタによって頬を赤く染めながら、呆然とアリサを見るシャロンに詰め寄る。
「貴女、何やってるのよ……リィン達を傷つけて、その理由が命令を受けたから? 父様が戻ったら解雇される? 契約に従う? たまに馬鹿なことを言うってのはよく知ってたつもりだけど、今回はとびきりだわ!」
何も言わず、目をそらすシャロンの顔を掴み、強引に合わせる。
抵抗しないシャロンをいいことに、アリサは目元に親指を突きこんでぐりぐりと押して行く。
さすがに痛かったのか、ようやく目を動かしたシャロンの瞳がアリサの双眸と重なった。
「言いたいことはたくさんあるけど、それは後。リィン達のことはひとまずさっきのビンタに込めたから、次は私が言いたいことを、これだけは伝えておくわシャロン」
びくっとして、目を閉じるシャロン。
それは、まるで大人に叱られる子供のように映っていた。
事実、執行者としてのオーダーを請け負い、リィンとミリアムを追い詰めた。
特にリィンなど、彼女が二年ほど大人しくさせると言ったように毒の影響で今も目覚めない。
全てはシャロンがラインフォルトに残るためだったが、まっとうな感性を持つアリサが見れば何を言及されるかわからない。
そんなシャロンの感情に反して、アリサからもたらされたのは別の言葉だった。
「私は! 貴女が必要なの! 家族だと思ってるし、ずっと一緒に居たい! 母様に解雇されたなら、私が会社でもなんでも立ち上げて雇ってあげる!
どんな場所へ逃げたって、私は貴女を捕まえる! だから……だから!」
その瞳に涙を浮かばせ、頬に垂らしながらアリサがシャロンを抱きしめる。
「離れるなんて言わないで……そばにいて」
「あ…………」
シャロンは、迷子の子供のように震えながらも、アリサへ抱きとめ返そうと手を伸ばし――突然、突き飛ばされてその手は空を切った。
「え、え?」
「はい、言いたいことは言ったしこの続きは後! それより、早くリィンを治す手伝いをしなさい!」
反転し、ミリアムが抱えるリィンの元へ向かうアリサ。
急激な感情の変化に、ぽつりとシャロンは漏らした。
「お嬢様……まるで、リィン様のようです」
「何言ってるのよ」
振り返り、シャロンの手を取るアリサは笑みを浮かべて言った。
「こんなおかしい行動取る貴女だって、影響受けてるんじゃない? そういうことは相談しなさいよね、相談。私は、どんなシャロンでも受け止めてあげるから」
そう言い放つアリサの姿に、シャロンは眩しそうに目を細めた。
だが、シャロンはそれに甘えるわけにはいかなかった。
名残惜しさは一瞬、すぐにアリサの手を離すシャロン。
アンタ、まだ……と声を荒げそうになるアリサだが、言わなくてはならないとシャロンは勇気を出して言葉にする。
「お嬢様にそう言われても、私がリィン様達へしたことは変わりません。……犯罪者を匿うおつもりですか?」
「私が一緒に背負うって言ってるの」
「いいえ、いいえ。周囲は決して許しは致しません。今のリィン様は、皇族の覚えめでたくクロスベルを救った紛れもない英雄。何より……私は今、解毒薬を持ち合わせていないのです」
「そんな……!」
悲観にくれそうになるアリサの叫び。
うつむき、何も言えないシャロンだったが、そこへ弱々しい声が紡がれる。
「――ああ、つま、り、俺、次第、って、わけ、か」
「リィン!」
シャロンはその声に目を剥いた。
彼女の瞳の中で、ミリアムの腕の中で眠っていたはずのリィンが意識を取り戻していたからだ。
「ガイ、ウス。悪、い。立た、くれ」
「わかった」
「あ、と……何か、小さな……」
いつの間にかミリアムの傍にいたガイウスが、彼女に断ってリィンの肩を持って立ち上がらせる。
途切れ途切れに礼を言いながらも、リィンの言葉に従いあるものを渡してゆっくりと離れるガイウス。
シャロンは、驚愕が過ぎてリィンの行動を見守るしかなかった。
リィンが取った構えは、神気合一、に似た何か。
ただ、一点普段と異なるのは左手を前に突き出していることだ。
「……う……き……つ!」
途端、リィンの左腕……正確には手の甲が変色する。
血の赤に混じって様々な色を内包した毒々しさが、左手に集まっているような気がして――
「まさか……」
シャロンがその先を言おうとした瞬間、リィンはガイウスから渡されたあるもの――短槍で己の掌……ミリアムによって半端に治療された傷口へ押し込んだ。
驚愕する一同をよそに、リィンの掌からナイフを伝って落ちる緋色の雫に混じって霊毒や麻痺毒など、シャロンが仕込んだ毒物が共に流れていく。
シャロン達は、ただただそれを見守るしかなかった。
「……かーっ! ようやく落ち着いた」
体中から発汗し、明らかに青白い顔に笑みを浮かべながら言葉の調子を取り戻すリィン。
何が起きたのかわからない周囲に、リィンはいつも通り客観的な視点の欠ける説明をした。
「鬼気の部分操作の応用でな。
「…………リィン、助かった、の?」
「ああ。……いつつ、少なくとも怪我で済んでるよ」
「やったぁ!」
リィンの頷きに応じて、ミリアムが突進して抱きついてくる。
毒を排出したといえ、怪我をしていることに変わりないリィンはその体当たりに盛大に顔をしかめた。
「ミリアム、リィンはまだ怪我をしているんだ。安静にさせておかないと」
「あっ、ごめんね」
「い、いや、気にする、な」
明らかに虚勢だが、普段のリィンそのものだった。
慌ててアリサが治癒のアーツを施し、ミリアムやガイウスもそれに続く。
完全に出血を止めたリィンが、改めてシャロンに向き直り――頭を下げた。
「え?」
「シャロンさん、
「何を……仰っているのです?」
「今回の件ですよ。アリサ、シャロンさんは俺の稽古に付き合ってくれてだな? だからシャロンさんの
「リィン……」
リィンが言わんとすることを察するものの、アリサは口ごもる。
それではあまりにも、と言おうとするアリサの言葉を遮りシャロンの叫びが飛んだ。
「何をお考えになっておられるのですか! 私は、貴方を害したのですよ? 毒を盛り、傷つけ、ミリアム様を守ろうとするリィン様の性格につけ込んで……!」
「だから実戦的稽古って言ったじゃないですか。オーレリアさんの実戦的稽古なんかもっと派手に怪我しましたよ」
四月の特別実習を思い返しながら頷くリィン。
《黄金の羅刹》に比べれば、こんなものは余裕だと態度で語っていた。
それは、今回におけるシャロンの行動の一切を批判しないどころか感謝までする始末。
それでも、
シャロンの中に残ったのは、リィンへの盛大な罪悪感。
「……謝らせてもくれないなんて。貴方は、本当に人の心がわかっておられない」
「鈍感らしいので、俺。それに『仕返し』する相手がいなくなるのは困りますからね。ってわけで、アリサ」
「な、何?」
「あと任せた」
そう言い切り、リィンは大の字に倒れる。
すぐに全員が駆け寄るが、彼は静かに寝息を立てていた。
「…………なんというか」
「フフ、さすがリィンというべきか。振り回すだけ振り回して、自分は寝入ってしまうとは」
「褒め言葉でいいのかなー、それ」
「…………ミリアム様。お願いがあります」
「ん。なぁに?」
「リィン様がダメというのなら、貴女が私を――」
「何のこと? ボクは
それは、ある種の意趣返し。
オズボーンから《鉄血の子供達》へ与えられたオーダーに何一つ反することなく、むしろ従っているからこそ答えられる言葉。
シャロンは最後の希望としてガイウスへ目を向けるが、
「俺が駆けつけた時には
「貴方、達は……」
「私だけじゃないわ。みんな、貴女のことを心配してたのよ? まあその、本来なら私が真っ先に気づいてあげなきゃ行けなかったんだけど……」
アリサはリィンから離れ、両足をぺたんとさせて蹲るシャロンと目を合わせるように腰を下ろす。
「話しましょう。これまでのことと、これからのこと。多分、それがリィンが貴女に求める謝罪だろうから……」
「………………はい」
差し出された手を、シャロンはおっかなびっくりと取る。
導力ジェネレーターを巡るA班の特別実習は、ここに決着を迎えるのであった。
*
ザクセン鉄鉱山にて、B班やルーファスの援護もあり《帝国解放戦線》は脱出を図ろうとしたものの、謎の射撃により高速艇ごと爆破されることで主要幹部達は死亡した。
ここに《帝国解放戦線》は壊滅し、帝国を揺るがす事件は解決した――ように見えた。
ルーレ郊外の街道外れにて、《V》――ヴァルカンは途中ではぐれた《C》との合流を待っていた。
目の前で自分達が乗り込んだ飛行艇が爆破されたのに、執拗に捜索を続ける鉄道憲兵隊の目を誤魔化すために二手に分かれたのだ。
死んだように見せかける、という手段を取り安堵させたところで次の大詰めの作戦が実行される。
そのため、ここで見つかってしまえば元も子もない。
《C》――クロウならば心配もいらないが、やはり時間は不安を加速させてしまう。
そんなヴァルカンの不安を打ち消すように、茂みから黒いコートに仮面、赤いミラーシェードで姿を隠した《C》が現れる。
「よう、遅かったじゃねえか。ったく、どうせ中身がバレてないんだから、コートとかは脱いでくれば良かったのによ。ま、それより早く行こうぜ。あっちが待ちくたびれて、勝手に飛び立つ前にな」
そのことに安堵を覚えながら、ヴァルカンは指定された合流ポイントへ向かおうと振り返る。
そして――その背中へ、《C》が抜き放った剣が差し込まれた。
「―――あぁ?」
「一身上の都合で、今回の《帝国解放戦線》の壊滅は見せかけでなく本当に滅んでもらう必要があってね。そのためには、ある程度の手土産が必要なのだよ」
背中からのバックスタブ。
ヴァルカンは、自分が何をされたのかわからず地面に倒れ込む。
熱さも痛みもなく、ただ疑問だけが彼の頭に浮かんでいた。
「彼は起動者故残ってもらう必要があるし、彼女はある少年との約束により生かしておかねばならず、元助教授殿は今も行方不明。必然的、と言っていいかはわからないが……フフ、こうすると因果のようなものを実感出来るよ」
「て、メェ、は……」
「ではさらばだ、アルンガルム元団長殿。君は最後まで私を運命の出会いへ導いてくれた、良き取引相手だった」
その言葉を最後に、ヴァルカンは意識を失った。
――その後、ルーファス・アルバレアが《帝国解放戦線》の壊滅を発表。
首謀者でありリーダーの《C》と《V》と呼ばれた両幹部の死体をギリアス・オズボーン自らが検分したとして、七月から帝国を揺るがした一連の事件は、ここに解決と
前回の感想でリィン君が一切心配されてなくて笑いました。
実にその通りできちんと復活しましたけど、なんか信頼されてるようで何よりです。
色々詰め込んだ感がありましたが、二分割よりは今回で終わらせたかったのでご了承ください。
セドリックとクルトなどのことは、こんな風に動いてました、って描写のつもりでしたが一話使うんじゃなくて地の文でやっておけばよかったかなと反省。
スカーレットはガイウスの従騎士として再登場する、と予想しながら全然そんなことなかったので、この作品ではガイウスとも絡めてみました。
最後の《C》……一体何者なんだ……