なんちゃって政治回。軌跡はこういうのが多くて書くのがむずいですね…
だからこその軌跡シリーズなのですが。
九月の特別実習の後日、リィン達Ⅶ組は帝都ヘイムダルのバルフレイム宮へ招かれていた。
先月にあったガレリア要塞における列車砲奪還、それに連なるクロスベルの通商会議襲撃。
ザクセン鉄鉱山における《帝国解放戦線》の壊滅および導力ジェネレーターの解放。
その他もろもろ含めた功績が認められ、エレボニア皇帝ユーゲントⅢ世、プリシラ王妃への拝謁を賜ることとなったのだ。
その間にも、ラインフォルトは取締役の横領事件によるゴタゴタも解決し、リィンも神気に魔術、アーツに道具など各種ふんだんな治療などで特別実習が終わる頃には回復していた。
シャロンはと言えば、現在も第三学生寮の管理人としての職務に復帰している。
ラインフォルトの使用人という立場も変わっていない。
フランツ・ラインフォルトが戻るまで、という契約に関してもアリサがいざとなれば独立した自分が引き抜いて強引に連れていく、と啖呵を切った。
それに対してイリーナも契約更新という手段をちらつかせており、母にしろ娘にしろ、シャロンの就職先はラインフォルト家に内定済みのようだ。
それが確定してからか、シャロンの仕事ぶりが完璧を超えて究極になっている気がしないでもない、と最近は専らの評判だ。
ただ、事あるごとにリィンへの贖罪とからかいに奴隷にして欲しい、という発言を止めないのは勘弁して欲しかった。
アリサが許可したら、と言ってからは素直に引き下がったものの、いかにして自分から許可をもぎ取るのではないか、と現在の主は戦々恐々としていた。
そして現在、バルフレイム宮に集まったⅦ組は拝謁までの時間、彼らはそれぞれ思い思いに時間を過ごしていたが、全員の表情に緊張の二文字が刻まれている。
彼らにとって自分の国を治める皇帝との面会など、公爵家のユーシスですら早々叶うものではない。
Ⅶ組で一番精神的に大人と言えるガイウスも、こうして対面するなど、ノルドに居れば一生なかったことだと苦笑しながらもやや言葉に硬さがあった。
サラも担任教官として引率しているものの、いつもの気軽さは流石に控えている。
マキアスなど十秒に一度は眼鏡を落としそうになるほど震え、エリオットもヴィータを呼ぼうなど、支離滅裂な発言を繰り返したりだ。
だが、逆にその姿は他の緊張を和らげる効果があった。
そんな中、リィンとエマはとある場所へ向かっていた。
本来はリィンだけで行くつもりだったのだが、こそこそと待機場所から離れるリィンを気にかけたエマが付いてきたというわけだ。
「リィンさん、まさかバルフレイムマラソンとか言って走り回るわけじゃないですよね?」
「すごい魅力的な案だけど、今回は違うさ。ちょっとお呼ばれしていてね」
「本当ですかぁ?」
うろんな目を向けるエマ。
半年の間リィンとの間に積み重ねた信頼がここにあった。
「それなら、一緒に来ればいい」
そう言って、エマを連れて向かった先、とある一室の中ではオリヴァルトと護衛役であるミュラー、そしてローゼリアが待っていた。
セドリックやクルトも一緒かと思っていたが、彼らはアルフィンと共に別室に居るそうだ。
というより、三兄姉弟で待機する中、オリヴァルトとミュラーだけ抜け出してこちらへ来たというのが正解らしい。
「おばあちゃん?」
「うむ、おばあちゃんじゃぞ」
「なんでここに……」
「皇子からの要請でエル・プラドーを運んでの。その報告というわけよ」
実にあっさりと、ローゼリアはこの場にいる理由を言う。
ローゼリアはオリヴァルトの要請で、金の騎神エル・プラドーをエリンからヘイムダルへ運んでいた。
《帝国解放戦線》の壊滅により、かねてより約束していた金の騎神の譲渡を、今回の席で同時にやってしまうとのことだ。
ローゼリアからも伝えられていたものの、改めて聞くそれにエマは渋面を作る。
「……良かったの、おばあちゃん。仮にも騎神を」
「妾も最初はそう思ったのじゃがな。一応、ちゃんとした理由を教えられて納得した……というか、エマも聞いておらんかったか?」
「金の騎神に関しては納得したけど、やっぱり導き手がいないというのは不安で……」
「準契約者としてユーシスが居るし、あいつに魔術を覚えてもらうとか?」
「リィンさん、一応魔術って門外不出ですからね?」
「ミュゼに教えてるのに?」
「う…………」
ローゼリアからの指示といえ、実際ミュゼに魔術を教えているエマは反論出来なかった。
(フフフ、エマ嬢。息子のことはさておき、元は私のワガママに付き合ってもらってすまなかったな。
だが、ルーファス・アルバレアには導き手など配置する必要はない。起動者と導き手を兼ねているようなものであるからな)
(兼ねている?)
オズぼんの言葉はオリヴァルト達には聞こえないため、エマは念話を通して素知らぬ顔を作る。
表面的にはユーシスに魔術を教えようとするリィンを睨むような顔だが、実際睨みたいので問題ない。
(教わらずとも、彼ならばいずれ自力で試しにたどり着き、契約したということだ。私がしたことは、それを早めたに過ぎん)
(どうして……)
(息子にも言ったが、最終的にはルーファス・アルバレア個人のため……と思ってくれたまえ)
オズぼんがルーファスを気にかける理由を聞きたいところだったが、それより早くミュラーが口を開いた。
「……オリヴァルト。本当にあれを渡すのか?」
「なんだい、ミュラーもそんなこと言うのかい?」
「灰の騎神の力はクロスベルで身をもって体感している。命を救われたからな……
列車砲の一撃を切り落とした剣さばきを見れば、シュバルツァーの技量と合わさってのことかもしれんが、それでも騎神本体の性能のおかげでもあるはずだ。
ルーファス卿は宮廷剣術の達人でアーツの扱いにも優れている。
金は灰よりもスペックの高い機体だと魔女殿から聞いた。そんなルーファス卿が搭乗するとなれば、その力は脅威に他ならない。
いくら《貴族派》のパワーバランスを崩すためといえ、それはただトップがカイエン公からルーファス卿……いや、ヘルムート公へ変わるだけではないのか?」
昨夜……いや、この話を聞いた時から疑問に思っていたのだろう。
一度口を開いたミュラーは今回の件についての疑念を語っていく。
エマとは別に、騎神という存在を明け渡すことに抵抗を覚えているようだ。
「それでも、ルーファス卿が金を持つことで特に両公爵家の天秤が揺れることは確かだろう。そうして内輪揉めしている隙を、我らの鉄血宰相が逃すはずがない」
「オリヴァルト、おまえ……」
「クロスベルと同じさ。あの時は
彼ならばこうする、というギリアス・オズボーンの力を信じているからこその決断。
ミュラーは変わり始めた主に瞠目せざるを得ない。
「あの宰相殿は結社とも繋がっているそうじゃからの。使えるものを使わなければ、すり潰されるのがオチ……そう判断したんじゃろう。
まあ、それに何度か続けば対策は取られてしまうじゃろうから、そう何度も使えんとは思うがの」
「そこはまあ、後のセドリックのブレインと含めておいおいとね。
しかし前から疑いはあったが、リィン君がルーレで戦ったという執行者から入手した情報のおかげで確信出来た。……とはいえ、それを糾弾するのは不可能なんだがね」
リィンはシャロンが自分を襲った理由、つまり父親の関与があることをオリヴァルトに伝えていた。
直接シャロンにオーダーを下したわけではないが、間接的な介入を行ったことに違いはない。
ちなみにリィンはシャロンのことは伝えず、結社の執行者から一芝居打って聞き出したとだけ報告していた。
「大丈夫ですよ、ミュラー少佐。万が一、ルーファスさんが金の騎神を不当な暴力などに使うのであれば、俺とヴァリマール、何よりユーシスがルーファスさんを必ず止めます。関わった者として、それくらいは当然の責任です」
「わ、私もその時はお手伝いします」
最終的に試しの場を呼び出したのはエマだ。
その召喚を行使した魔女として、責任は取らなければならない。
今までのリィン達の実績を踏まえて、そこまで言うのなら、とミュラーも言葉を控える。
その後、オリヴァルトはそろそろ戻ると言ってミュラーを連れて部屋を出ていく。
ローゼリアは遠見の魔術でリィン達の様子を見守り、今回の会合が終わるまではこの部屋で待機しているそうだ
なので、リィンもⅦ組の元へ戻る前にローゼリアに聞く。
「ローゼリアさん、ブリオニア島のことですが……」
「うむ、準備万端……かはわからんが、ある程度形は整っておる。じゃが、あとひと押し足りぬといったところよ」
(フフフ、案ずるなロゼ嬢。
「ほむ?」
「なら、その話は今日が済んだ後……は厳しいので、また後日に」
「…………本当にやる、いいえ
ローゼリアと話すリィンに、エマが不安そうな声を上げる。
二人が会話していた問題は、エマも直接聞いている。
彼らがやろうとしているのは、マクバーン対策における切り札を作るとも言えるものだ。
その上で、本当にそんなことが出来るのかという疑問が止まらないのだ。
それでも、リィンは変わらず返答する。
「大丈夫、きっと出来るって。親父もヴァリマールもイケるって言ってるしな。それに、ダメならダメで使いようはあるさ」
そう言いながら笑みを浮かべるリィンに、エマは慣れてしまった何とも言えない表情を作るのであった。
*
「トールズ士官学院、特科クラスⅦ組……此度の騒動にまつわる働き、誠に見事であった」
「いえ。帝国に住む者として当然のことをしたまでです、皇帝陛下」
バルフレイム宮にて、改めてリィン達はユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世と王妃プリシラからの言葉を受け取っていた。
玉座に座る皇帝と王妃の横にはオリヴァルト達も備えており、皇族総出での歓迎だ。
代表してサラが言葉を返しているが、その声には流石に緊張を隠せていない。
「特にリィン・シュバルツァー。クロスベルの西ゼムリア通商会議における、我が息子達をはじめ多くの命を救ったその姿、余は感謝の念が絶えぬ」
「ありがたき幸せ。あの時は無我夢中でありましたが、皇族の方々は無論、ギリアス・オズボーン宰相などがこの場に居ることでようやく実感を覚える次第です」
その言葉にざわりと周囲が騒ぐ。
生徒達への言葉は先のサラへのもので終わると思いきや、皇帝から直接個人への名指し。
シュバルツァー男爵家は皇族との特別な縁を持つ、という噂もあり貴族達が騒ぐのも無理はない。
ただ、リィンとしてはあえてこの場で発表する意図がわからなかったが、次の言葉でその理由を知った。
「かのG・シュミットが
そう、灰の騎神ヴァリマールの所有者を明確にしておくという事実である。
あえて開発でなく所有といったのもポイントだ。
シュミットが臨時で士官学院に努めていたことは、隠していないので周知の事実だ。
内容こそ伏せられているものの、今の話と合わせてヴァリマールの開発といった噂が回るかもしれない。
そうすることで貴族達の目をシュミットに集めてリィンから反らす、という狙いもあった。
これは、オリヴァルトがクロスベルでオズボーンに対して語った屁理屈が皇帝の言葉という中身を埋めるフォローでもある。
「私からも感謝を。家族を救ってくださり、本当にありがとうございました……」
そして、プリシラ王妃からは純粋な感謝を。
これにより、《貴族派》の中でも本当に皇族の命を奪ってまでギリアス・オズボーンの殺害を成功させるべきなのか、という疑問を抱かせる。
《帝国解放戦線》……テロリストを使ってまで排除したいのはオズボーンであって、皇族への忠誠は変わらない貴族も多い。
今回はもしリィンがいなければ、オリヴァルトはもちろん未来の皇帝であるセドリックをも失っていたのだ。
それらを突きつけた上で、考えを改める機会を与えたようにも見えた。
無論、プリシラ王妃はそんな政治など知らず、純粋な感謝をリィンに送っている。
あくまで《貴族派》の穏健派とも言うべき者達への言葉であった。
(フフフ、息子よ。どうやら
(父さんはもとより、貴族達からもヴァリマールへ手が回ることを避けられる、ってことかな)
(いいや、思惑はもう一つある。今回はあくまで皆が想像している騎神への一手だ)
オズぼんの言葉を証明するように、ここでユーゲント三世からオリヴァルトが口を挟む。
「そしてもう一人、僕から言葉を送らせて欲しい。ルーファス・アルバレア卿」
「はっ」
突然の言葉に驚きはあったはずだが、それでも動揺など微塵も見せずにルーファスがリィン達の横へ並んで跪く。
その様子を認め、オリヴァルトは告げた。
「此度の《帝国解放戦線》の壊滅には、卿の手腕が大いに発揮された。その功績を以て、皇族より褒賞を与えるものとする」
騒ぎが大きくなる。
そしてオリヴァルトはルーファスを連れて外に出たと思えば、以前リィンとクルトが戦った広場に一台の導力車があった。
荷台の広いタイプの導力車には、巨大なものを包む何かで覆われている。
まさか、とつぶやくルーファス。
オリヴァルトは笑みを浮かべながら、包みを取るよう指示する。
中から現れたのは、陽光によってさらなる光を放つ黄金の機体。
金の騎神、エル・プラドーがルーファスの眼前に鎮座していた。
「オリヴァルト、皇子。これは……」
「約束だっただろう? 《帝国解放戦線》の壊滅と引き換えの褒賞、さ」
皇宮からもその姿は見られるのだろう。
その威容は見る者すべてを魅了させる黄金の如く、先程のリィンへ提案された灰のことなど忘れるように一様に目を向けていた。
そして同時に、《貴族派》……特にヘルムートやカイエンといった四大名門からルーファスへの疑惑の視線が送られる。
特にカイエン公の目は一際強い。
《帝国解放戦線》の壊滅と引き換えの報酬。
オリヴァルトがもたらした言葉は、彼らにはどう捉えられるのか。
ルーファスはその意味を考えるが、すぐに頭の片隅に置く。
加えて、かつてリィンとの間に交わされた軽い約束。
《帝国解放戦線》の件が解決した後への改めての握手。
普段であれば、小さな約束も忘れぬ行動を取るはずのルーファスは、
今はただ、己の
そして――その様子を、ユーシスはじっと見つめる。
その瞳に宿る感情を、誰にも悟られないままに。
*
その後、本来ならば帝国を二分する《革新派》と《貴族派》の顔合わせによる政治抗争の勃発――は行われず、エル・プラドーへの注目とそれに連なるルーファスへの言及が多く寄せられる。
ルーファスはその一つ一つに優雅に対応していたが、《帝国解放戦線》と《貴族派》の繋がりは暗黙の了解だ。
故に、必然的に裏切りの三文字が彼らの頭に浮かんでいることだろう。
仮にルーファスが現状でもカイエン公の信頼に十二分に応えていたならば、少なくとも大きな問題はなかった。
だが、ここ数ヶ月のルーファスは《帝国解放戦線》への対応に力を注いでいた。
その理由が目の前にある以上、その疑いは避けられない。
そして、そんな《貴族派》の亀裂をオズボーンが見逃すはずもなくルーファスへの言葉を送り、さらなる混沌が場を包んでいた。
最後はユーゲント三世が呆れながらも釘を指すことでその場は収まったが、ここで生まれた新たな政争は《貴族派》と《革新派》の対立に影響を与えることだろう。
帝国の未来を背負う子供達に悪いものを見せた、少なくとも祝いの席ですることではないとして、Ⅶ組には皇帝より湯治場への招待を下賜された。
帝国の湯治場、すなわちリィンの実家である温泉郷ユミル。
Ⅶ組的には学院祭前の小旅行、そしてリィンにとってはマクバーンとの決戦を前にした最後の休養へ赴いていった。
リィン
「エル・プラドー、とったどー! って思ってるよなきっと」
ユーシス
「兄上を貴様の妙な想像で歪めるんじゃあないっ!」
次回、ユミル小旅行。何話かに分けると思います。
その後はいよいよVSマクバーンです。
この帰省シナリオ、ゲーム中の描写とドラマCDでは色々差異があるんですよねこれ。
小旅行提案したのがユーゲントとオリヴァルトの違いだったり、イラストではミリアムにクロウがいるのに、何故か不参加だったり(ジョルジュも)
その割にはⅡとかで旅行に行ったことを言及されていたりと、ドラマCDの脚本と連携取れてない感じがあってシナリオの変化を伺わせます。
というかⅡのドラマCDもですが、これ本編に入れておけばってのが多すぎる…