はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。学院祭の開催だ③

 セリーヌにお礼を言った後、ちょうど人化の魔術の時間切れということで彼女は元の黒猫に戻ってしまった。

 別に猫のままでも一緒に回れないことはないので、このまま続きをと思ったが拒否されてしまった。

 疲れたので、しばらく屋上で休んでいるそうだ。

 慣れない人化での動きは、精神的な負担があったのかもしれないとリィンは念の為エマに連絡してセリーヌのことを伝えた。

 エマもまた文芸部の『濃度』に疲れたようで、これ幸いとセリーヌと共に休憩を始めたのを見届けて生徒会の手伝いを再開する。

 

 途中、噂の旧校舎にやっていくと、ミントの母親にしてマカロフの姉であるバニラという女性が佇んでいた。

 二人から、というよりマカロフから話を聞くにミント以上の天然とのことで迷子になった末に待ちぼうけされたと思っていたらしい。

 マカロフを呼んで無事に家族を合流させた頃には時刻も夕方に近づいており、一部の来場客も帰宅していく姿は一日目の終わりを実感させた。

 

(フフフ、だがマカロフ君がメアリー嬢とデート中だったところに押しかけたのは申し訳なかったな)

「ミントは思い切りくっつけたがってたけど、道のりは遠そうだよなあ。マカロフ教官には世話になってるし、俺もミントと同じで叶うならそのまま付き合って欲しいけど」

(メアリー嬢は伯爵令嬢……普通なら平民のマカロフ君との付き合いは難しいところだが、彼はルーレ工科大学の主席卒業に加えて、シュミット博士のニ番弟子でもある。それは決して伯爵という身分に負けない力だ)

(イツノ世モ身分差ハ消エナイモノナノダナ)

「ヴァリマールが言うってことは、ドライケルス帝の時代でも――」

「――リィンさん!」

「ん?」

 

 呼ばれて振り返ると、そこには黒髪を肩で切りそろえた少女がこちらに駆け寄って来ていた。

 かつてオルディスで出会った少女、マヤである。

 まさかの出会いに、リィンも彼女に駆け寄った。

 

「久しぶりだな、まさかこっちに来てるなんて思わなかったよ」

「お誘いを受けたのですから、それはもう。とはいえ、挨拶が夕方近くになってしまい申し訳ありません」

 

 お誘い、というのは単純に学院祭をやるから家族でどうだ、という手紙をマヤに送ったのだ。

 以前まではミュゼを通して送っていたのだが、彼女とARCUSで連絡を取り合うようになってからは住所を聞いて直接やり取りするようになっていた。

 ミュゼは少し残念がっていたが、思いの外世話焼きなのだろう。

 

「別に気にしなくていいさ。今着いたのか?」

「いえ、昼頃に到着したのですが父と母に付き合っておりました。つい屋台を巡ってしまったということもありますが」

「はは、お祭りの出店で食べる食事は美味しいからな。特にマヤは健啖家だし」

「溜め食いして備えているだけですから……」

「それはそれで野生動物じみてる気がするぞ」

 

 言いながら、リィンは折角ならとマヤと学院祭を回ることにした。

 マクバーンはもう少し後で合流するとのことで、それまでマヤに付き合うことにしたのだ。

 リィンもマヤも来場者用の特典チケットは使い切っていたので、アトラクションには寄らずマヤがまだ食していない屋台をめぐることにする。

 今日だけで何度も屋台を回っている上に、老若男女問わず違う相手を連れているリィンへ向けられる視線はなんとも言えないものがあった。

 

 働くようになったといえ、基本的にマヤは稼いだミラを家に納めている。

 そのため、屋台で必要以上に散財するのは控えたほうがいいんじゃないか、とリィンは思ったが成人前に自分で働いて生活費を稼ぐほどしっかりしているマヤに奢ると言って、素直に受け入れるだろうか?

 そこでリィンは一計を案じ、ひとまず大量の食べ物を買った後に食べきれないからマヤに渡す、という作戦に出た。

 実際はリィンも割と健啖家なのだが、今日は屋台が二週目の勢いで食べているのでそれなりに腹も満たされている。

 食べきれなくても、食材や道具はオズぼんが保管できるので後日改めて食べることも出来る。

 故にどちらにしても損はないものだ。

 

「マヤ、ちょっと食べ切れなくなったけど代わりに食べてもらえないか?」

「は、はい。あ、ありがとうございます……」

 

 一度だけならともかく、それが何度も続けばマヤもこの買い食いが誰のためにしているものか理解する。

 色々言いたいことはあったし、実際に言ったがリィンはむしろ残飯処理みたいになって悪いと譲らない。

 冷めても美味しい料理は、暖かければもっと美味しい。

 食べ物を粗末にすることはマヤの環境と矜持が許さない。

 そのため、マヤは大人しくその好意に甘えることにした。

 

「ふー、結局全部回っちゃったな。マヤも美味しそうに食べてて、見てるだけでもお腹が膨れるよ」

「そ、そうですか? でも本当に美味しいですからね」

 

 学生会館は学生食堂のテーブルで一息つく二人。

 食事のピークは過ぎ去っているようで、周囲にも生徒や来場者で溢れて雑談の場として使われている。

 喫茶店として使うならば、マクバーンと入った東方茶屋も同じなので今日に限って言えばこうした場は各地に作られており、スペースの余裕は待ち時間なくテーブルへの着席を行うことが出来た。

 

「食堂の食事が美味しいというのは、日々の張りになりそうです。ここに通ったら楽しそうですね」

「今日に限っては特別さ。ちょっとスーパーなメイドが居るから」

「すーぱーな、めいど?」

 

 言わずもがなシャロンのことである。

 ブレイドマスターとしてⅠ年Ⅲ組に常駐していると思いきや、フェリスと回っていたはずのアリサと同行したり食堂の手伝いをしたりと、相変わらずの万能メイドぶりだ。

 イーグレット家でメイドとして働くマヤに紹介すれば、使用人としての技量は上がるかもしれない、などと考えてしまう。

 

「ん、気にしないでくれ。でもそうなるとひょっとしたら数年後にはマヤもトールズに入学するのかもしれないな」

「……家庭が安定しつつあるといえ、今から勉強を始めてもここの入学は難しそうです。他に比べて、偏差値も高く狭き門ですから。

 学費免除の特典は入試一位のみと聞きますからね。頭が悪いとは言いませんが、一位となると壁が高いです」

「仮に一年じっくり勉強したとしても、俺は卒業してるだろうから入れ替わりになるってことか。残念だけど、別に学校はトールズだけじゃないしな。マヤならミュゼの伝を頼って、オルディスや帝都の学校でもやっていけそうだし」

「……それでも色々充実している、という意味ではやはりトールズに興味はありますね」

 

 マヤが目を向けるのは、ギムナジウムの方角だ。

 みっしぃパニックが気になるのか、と思ったがそれ以外にも地下の射撃場に興味を示していたことから、それらの設備が充実しているトールズに興味を覚えたのだろう。

 

「お父さんが昔狙撃手だったか?」

「はい。昔は尊敬に値する父でしたが、ここ十年すっかり情けなくなって……とはいえ、母が倒れたのはよほど堪えたそうで、今はお伝えした通り定職に付いています」

「そんなお父さん達と家族旅行ってことは、和解したってことでいいのか?」

「…………思うところはありますが、昔よりはマシになったかと」

「家族仲が良いのはいいことさ」

 

 そんな風に雑談していると、噂の父親と以前オルディスで助けた女性、つまりマヤの母親が娘を見つけて声を上げる。

 予想以上に大きな声に周囲の客が驚き、ぺこぺこ頭を下げている姿は印象よりも良識のある大人のように思えた。

 とりあえず移動しましょう、という提案に従って外に出ると、父親……ジョセフと母親がリィンに頭を下げた。

 

「シュバルツァー君。挨拶が遅れてしまったが、妻を救ってくれてありがとう……本当に、本当にありがとう……!」

「いえ、気にしないでください。助かったはずの命を救えないほうが嫌ですからね」

「本当に、出来た子……。本当に、感謝は付きないわ。私が頂いた薬はとても高級品だと聞きます。……用意出来るミラは少ないですが、気持ちだけでも受け取ってもらえませんか?」

「娘さんから聞きましたが、まだ生活は完全に安定していないんですよね? せっかく家族の仲が良好になったそうですから、それが続くことが一番の対価です。

 元々俺の自己満足、こちらが納得出来る結末になったことを思えばお返しなんて構いませんよ」

「リィンさん……」

 

 マヤが尊敬や憧憬など、様々な感情を含めた目をリィンに向ける。

 どこかむずかゆくなる視線に、リィンは慌てて話題を逸らす。

 

「ところで、お二人が居るということはマヤを迎えに来たのでしょうか?」

「む……」

「そのはずだったのだけど、デートのお邪魔をしてしまったみたいでごめんなさいね?」

「違います!」

 

 母親からからかわれて、顔を赤くしながら否定するマヤ。

 その姿に苦笑するリィンだったが、ジョセフは母娘が会話している間を縫って少し距離を取ってリィンに耳を寄せた。

 

「ところでシュバルツァー君、マヤのことだが……君は恩人だし、可能な限りその恩に報いたいところだが、まだ娘にそういうのは早いと……」

「えーっと、勘違いされてるようですが俺は娘さんとそういった関係ではありませんよ?」

「しかし、手紙のやり取りをしているのだろう? 昔からあまり男を寄せ付けることはなかったあの子が、年の近い異性とあんなに積極的に文通するなんて」

「恩返しの一環みたいなものではないでしょうか」

「むむむ……シュバルツァー君側はそういうことか。だがマヤは――」

「お父さん」

 

 底冷えするマヤの声にびくりとするジョセフ。

 母との会話を終えたマヤが父に向ける目は、まるで害虫を見るかのようだった。

 

「マ、マヤ。私はだな」

「リィンさんに失礼なことをしないように」

「アッハイ」

(フフフ、息子よ。いつの世も、父は娘に勝てないようだ。お前も娘を持つようになれば、そういう日が来るやもしれんな)

 

 オズぼんが感慨深く言いながら、娘に説教される父を見やる。

 どうしたものか、と思案するリィンに待望の声が届いた。

 

「リィン、待たせたな。っと……何かトラブルか?」

「あ、マクバーンさん。いえ、知り合いの家族の、仲睦まじい場面ですよ」

 

 マクバーンと合流したことで、リィンはマヤとジョセフの間に入り込みここで別れることを告げる。

 残念そうにする母親をよそに、リィンはマヤ達を送り出し改めて礼を言われた後にマクバーンを見やる。

 

「用事は済んだんですか?」

「いや、またもう少ししたらクロスベルへ戻るつもりだ。だが、その前に一言と思ってな」

「律儀にすみません。ところであちらで――」

 

 リィンがクロスベルで何をしているのか聞こうとするより早く、ARCUSが鳴る。

 マクバーンに断って出ると、今から導力楽器などを運ぶために一度Ⅶ組で集まるという連絡。

 了承しそのことをマクバーンに伝えると、彼はせっかくだから挨拶をしていくと言ってここにリィンに付いていく。

 

「よう、お前らがリィンのクラスメイトか。改めて挨拶させてもらうが、俺はマクバーン、つい先日リィンのダチになって結社を抜けた。《死線》ともどもよろしく頼むぜ」

「マクバーン様。さらりと私の情報をバラすのやめて欲しいのですが」

 

 講堂に導力楽器を運ぶために一度正門前に集まったⅦ組に、マクバーンが自己紹介する。

 シャロンも当然のようにアリサの傍に控えていたが、正門でリィンと談笑している劫炎の姿に時の結界に身を囚われていた。一部のⅦ組も同様である。

 突然の暴露で最初に自力で脱出したシャロンが棘を出すが、マクバーンはさして気にする様子を見せない。

 

「お前が抜けるのは時間の問題だろう? 聞いたぜ、ルーレの顛末」

「それは……い、いえ。それよりも貴方が何故」

「言った通りだ。先日、こいつとダチになってなくした記憶を取り戻してな。あとはあの阿呆の身内や《殲滅天使》と同じようなもんだ。ああいや、もう結社を抜けたならヨシュアにレンって言ってやったほうがいいな。

 そういう意味じゃ、お前も今後はクルーガー……いや、シャロンって呼んでやったほうがいいか?」

「会長にいただいた名で呼ばれるのに異論はありませんが、それが貴方だと思うとなんだか色々込み上がるものがありますわね」

「……………ほ、本当にあの人だ」

 

 なんでもなさそうに語るマクバーンをよそに、エリオットはかすれた声を紡ぐ。

 五ヶ月前にブリオニア島で遭遇し、機甲兵を一瞬で融解させた劫炎の姿は強いトラウマをエリオットに与えていた。

 一時期は士官学院を辞めることすら考えたものの、リィンのおかげ学院に在籍し続けたエリオットだったが、あの衝撃は生涯忘れられない記憶として刻まれている。

 それはアリサやガイウスも同じだ。

 マクバーンの姿に目が飛び出るのではないか、というほど驚く二人は現場を見ていない他のクラスメイトから気遣われるほどだ。

 

「リィンって、あの人に殺されかけた……のよね? ああでも、シャロンにも似たような目に合わされたのに全然気にしてなかったし……ねえラウラ、剣士ってその……そういう?」

「そういう、とはどういうことだアリサ?」

「ラウラはそのままのラウラで居てね……」

「…………師から話は伺っていたが、本当にリィンと友になった姿を見ても未だに信じられない気分だ……」

「ガイウスがそこまで言うほどか」

「……つまり、あれがヴァリマールを大破させた張本人というわけか」

 

 様々な感情を寄せる視線にも、マクバーンは特に反応を見せない。

 自らの力に対し、こういったものは慣れているからだ。

 だからこそ、その上で距離を詰めてきた上に記憶まで取り戻す手伝いをしてくれたリィンを、マクバーンは友と認めたのだ。

 

「貴方が噂の劫炎ね……」

「紫電だったか? こっちも噂は聞いてるぜ、今までの俺なら適当な理由でちょっかいを出したかもしれねえが、もう必要はない。だからそこまで構えなくていいぜ?」

「……ちょっと慣れる時間が欲しいわね」

 

 かつての最年少A級遊撃士として実力派であるサラは、自然体そのものでありながら隠せない強者の雰囲気を持つマクバーンに警戒を解けずにいた。

 彼の気分一つで己はおろかトールズ士官学院すら一晩とかけずに消滅させることが出来る相手に、培った経験は自然と構えてしまうのだ。

 

「時間があれば晩酌でも付き合ってやるが、今は生憎とそこまでの時間はない。また余裕があればな」

「……光栄、って言うべきなのかしら」

「シャロンのやつも一緒に誘ってやるから、我慢しろや」

「なぜ私が自然に付き合わされているのでしょう?」

「付き合うといやあそうだシャロン、お前もクロスベルに来て手伝ってくれや。一応《匣使い》や他にも打診はしてるが、数が多いほうが安心だからな」

「貴方一人で十分なのでは?」

「今回の俺の役割は、直接アイツらとやり合うことじゃねえ。それは特務支援課の仕事だし、意趣返しにならねえからな……ま、あっち次第じゃそうなるかもだが」

「気になりますが、はいそうですかと頷くことは出来ません。そもそも、私は明日もお嬢様のお世話を――」

「アリサ、マクバーンさんの手伝いにシャロンさんに協力してもらえないかな?」

「必要なの?」

「マクバーンさんが言うからには、強さ以外が必要なんだと思う。そういう意味でもシャロンさんは心強いからな」

「そっか。貴方には大きな借りがあるし、少しずつ返していかないとね。ってわけでシャロン、これを機にリィンへの借りを返して来て頂戴」

「お嬢様!?」

 

 まさかの身内の裏切りにシャロンが珍しく本気で驚いていた。

 事実、マクバーンがクロスベルで何をするか聞いていないが彼がいればそれこそ戦力としては申し分ない。

 その上で何をするのか、ということもあるがせっかくの学院祭という舞台でアリサの晴れ姿を眺める時間が減ることが大きなショックだった。

 けれど、リィンへの借り自体はシャロンもいずれ返したいと思っていたことに違いはない。

 一体クロスベルで何をさせられるのかという不安があるものの、シャロンは明日の予定を変更するべくひとまず関係者への連絡を入れるべく動く。

 

「それと、こっちに来る時はローゼリアを捕まえてからいけ。そっちのほうが移動の手間も省ける」

 

 それだけ言って、マクバーンはリィンにまたなと言ってシャロンと共に離れていく。

 挨拶を返しながら、どこかから「僕の女神が……!」という声が聞こえた気がしたが、明日のことを考えていたリィンはそのことを気にすることはなかった。

 

 

 そして翌日、十月二十四日。

 クロスベルから導力ネットを通じて各国への会見が発表され――同時にディーター・クロイスの失踪が全世界に明かされる。

 運命はクロスベルを起点に、時代の変革を告げる鐘を鳴らしていた。




リィンはマクバーンに強く、マクバーンはシャロンに強く、シャロンはリィンに強いという三すくみ。
マヤの出番が多いのは作者の贔屓です。

次回はクロスベル視点。
全部さんが何をしたのか、色々明かしていこうと思います。
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