はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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プロット作っても実際に書いたらその通りにならない、特別実習編というⅦ組の絆イベント。そしてシリアス付与というATボーナスが毎ターン襲ってきます。
誤字報告、いつもありがとうございます。


フフフ、息子よ。四月の特別実習だ③

 午後の実習もいくつかこなしたリィン達は、本日最後の依頼を果たすべくパルムのヴァンダール練武場に赴いていた。

 帝国に名高い二大流派の一つ、武の名門ヴァンダール。

 そこの門下生がⅦ組の生徒達と互いの技を競わせ、互いに高みを目指す助けとなればというものであった。

 リィン達は練武場へ赴き、サラが話を通すとすぐに稽古場へ案内される。

 ヴァンダールにも八葉一刀流とアルゼイドの名は当然届いており、特に帝国最強の剣士たる〈光の剣匠〉の愛娘であるラウラに注目が集まっていた。

 彼女自身、容姿に優れ凛とした力強さと美しさを持った少女だ。

 同じ武の名門としては、深窓の令嬢よりもラウラのような女性が好みなのだろう、とリィンは思った。

 

(フフフ、息子よ。エリゼ嬢が彼らの好みのタイプでなくて複雑といったところか?)

(いきなりなんだよ。まあ、そう思わなくはないけど。エリゼが欲しかったらまず俺を倒してもらわないとな)

(りぃんノ妹ハ、相手ヲ見ツケルノガ大変ソウダナ)

 

 

 社交界デビューもしてないんだから、エリゼにそういう話はまだ早いとリィンは断言していた。

 話題を逸らす意味で、ヴァンダールの視線を集めるラウラをダシにする。

 

「ラウラがアルゼイドというわけではなく、注目を集めているようだな」

「ああ。だが、一部の同性からも熱い視線が注がれているぞ」

「ん。ラウラ、アイドルみたい」

「あしらい方も慣れてる辺り、レグラムでどういう扱いを受けているかが伺えるよ」

 

 この場では公爵家のユーシスよりもラウラのほうが注目を集めているのは、ヴァンダールならではといったところか。

 もっともユーシスはそんなことは微塵も気にせず、今も身の丈に迫る剣を振るう門下生の観察を続けている。

 マキアスが居心地悪そうにうつむく中、サラに話しかけられている。

 

「マキアス、調子はどう?」

「体はなんとか……」

「そ。これからたくさん動くから、体は念入りにほぐしておきなさい。それじゃあまずユーシス、マキアス、フィー。初伝の人達に相手してもらいなさい」

 

「えー」

「フィー、顔顔」

 

 フィーがあまり女の子がしてはいけない顔をしていたので、リィンはすぐに指摘する。

 それでもぶう、っと頬を膨らませるのは隠しきれていない。

 B班の人間関係を考えればそれも仕方ないと思うが、どうやら相手はそうは思わなかったようだ。

 フィーのような背丈も年齢も下の少女に舐められていると考えた彼らから、怒り混じり闘志が漏れ出す。

 

「それじゃみんな、あたしはちょっと責任者と話をしてくるから、頑張って実習こなしてね」

 

 そう言って煽るだけ煽ったサラは、練武場の師範代と何か話をはじめる。

 師範代が少し困ったような顔なのは、何か無茶ぶりでもしている気がした。

 

「フィー、多分教官は……」

「二人の面倒見ろってことだろうね。はあ……」

「ラウラ、あの人達に悪気はないって伝えてくれないか?」

「……無理であろう。一度勝負を終えた後でないと納得しない」

「なら、完全に二人のフォローに徹するしかないだろうな」

 

 その答えにフィーはますます憂鬱になったようだ。

 だがこれも実習、やらないわけにはいかず覚悟を決めて双銃剣を取り出す。

 ユーシスも無言で剣を構えるが、マキアスは武器を準備すらしていなかった。

 

「マキアス。実習はじまるぞ」

「あ…………ああ」

 

 ぼんやりとしていたマキアスも、リィンに言われてようやく導力散弾銃を握る。

 師範代合図の下、最初の稽古が行われたが……その内容は決して褒められるものではなかった。

 相手四人に対してB班は三人、数の不利を補うための戦術リンクであったのだが、まともに機能するのはユーシスとフィーの連携だけであった。

 だがユーシスとマキアスもまた、トールズ士官学院に入学出来るだけの実力を持っている。元々の地力の差と、フィーのフォローの甲斐もあり初伝門下生との稽古はかろうじてB班が勝利を収めた。

 リィンはフィーに無言で拍手を送り、肩で息をするユーシスとマキアスに声をかける。

 

「体動かせるか? 辛いなら肩を貸すが」

「無用だ……俺よりそちらの男の心配をしてやるといい……」

「こちらも、平気だ…………」

 

 ユーシスの息は荒れているが、足取り自体にはまだ余力が残っていそうだ。

 けれどマキアスは昼前の騒動のせいか、体のキレが少し悪い。

 謝る気はない。

 それでも手を貸そうとするが、マキアスは平民の意地とでも言わんがごとく自力で体を動かして門下生達と一礼を交わす。

 

「さて、俺とラウラの相手はどうなるんだろうな」

「うん。相手がいない、というわけではなかろうが……それならそれで、そなたと剣を交えてみたいものだが」

「許可と時間が余ればいいけど……」

「言ったな? ちゃんと聞いたぞ?」

「なんか怖いぞ。前々からお願いされていたし、俺は問題ない」

 

 私もだ、と口元に笑みを浮かべるラウラから闘気が溢れる。

 時間があればだぞ、と言ってみるがラウラは承知していると言うだけで一向に力みを抑える様子がない。

 己を高めるラウラから離れるリィンに、オズぼんが語りかける。

 

(フフフ、サンドロットの血は血気盛んなものよ)

(サンドロット?)

(ラウラ嬢のフルネームはラウラ・『S』・アルゼイド。Sはサンドロット……かの槍の聖女、リアンヌ・サンドロットから頂戴しているものなのだ。レグラムは聖女が率いた鉄騎隊由来の地……その副長であった男がアルゼイドのご先祖なのだ)

(へえ。帝国の中興の祖の一人ってわけか)

(そういう意味では、その名に恥じぬ武術馬鹿の集まりと言える)

(剣匠には絶対言わないでくれよ……そもそも通じないけど。ヴァリマール、お前の記憶にも鉄騎隊は居たのか?)

(フム。でーたばんくニハ存在スルガ、ウッスラト影ガ差ス程度ノ姿シカ思イ出セヌ)

(そっか。記憶が戻るのはのんびり待ってるよ)

 

 オズぼん達と話をしているうちにサラが戻り、リィンとラウラの名が呼ばれる。

 二人は師範代との稽古を行うこととなった。

 門下生から流石、とかおお、などざわめきの声が上がる。

 

「リィン。灰のチカラは禁止ね。あくまで素の実力と、リンクを意識して戦いなさい。ラウラはリィンに合わせる必要はないから、自分の全力を出し切りなさい」

「…………リィンは私のフォローと?」

「ぐずらないぐずらない。リィンやフィーなら出来るけど、あんたにはそれが出来ない。まず、それを認めることから始めなさい」

 

 私、不満ですとラウラの剣を握る手が強まる。

 他流派の手前、顔には決して出さないようにしているが、一部の相手にはラウラの不満をありありと感じられた。

 

「よろしくお願いします」

「………一手、ご教授を」

 

 稽古はスムーズに進んだ。

 いや、進みすぎた。

 元よりアルゼイド流の中伝としての腕を持つラウラに、フォローに徹したリィンが合わさった結果、ヴァンダールの師範代と言えど二人を崩すことが出来ず、むしろ一方的な封殺を持って勝負は決した。

 

「しょ、勝負あり!」

「強い…………」

 

 ラウラの不満など関係ない、と言わんばかりにリィンは八葉の一端を見せつけていた。

 本物と見分けがつかない分け身と共に相手を翻弄し、ラウラの一撃を届けるといった勝負所を主軸に、師範代の攻撃を遠近問わず牽制し、ラウラの攻撃を避けようとする動きを見せると同時に回避地点への移動妨害など、そのフォローは多岐に渡った。

 

「そんな……師範代が……」

「これがアルゼイドと、八葉の剣士……」

 

 ヴァンダールの師範代を頂戴している者が弱いわけではなく、自身の剣の自負から生まれたほんのわずかな若者への侮り、そして戦術リンクの強さと可能性を見せつけた勝利……と、ラウラを除いた面々は思っていた。

 ラウラからすれば、一手一手リィンに導かれ、用意された道をなぞるかのような奇妙な高揚感と無力感を同時に覚えていた。

 自分の動きが阻害されることなく、次の一手を秒毎に教えられるようなそれは自身の父親以来の感覚。

 つまりラウラの頭はともかく、鍛えられた体はリィンに従うことこそ最適解と認識していたのだ。

 それが、己との差をまざまざと見せつけられているようで、とてつもなく悔しかった。

 

「動きがあまりに自然。流れる水に沿って進んでるみたい」

「ああ。技とは、噛み合えばここまで目を惹きつけるものなのか……」

「………………っ」

 

 フィーとユーシスは二人の動きを称え、マキアスは目の前にそびえ立つ壁を幻視する。

 サラは予想以上に相手に合わせられるリィンに、逆に驚いていた。

 彼が学院で起こす騒動に慣れてしまったせいか、無意識にリィンは周囲を振り回す者と見ていたがとんでもない。

 むしろ相手をよく見ている、とサラは自身の目を恥じた。

 

 当然だが、リィンがここまで相手に合わせられるのは理由がある。

 八葉一刀流に及ばず、武術は相手の動きの模倣から始まる。

 達人といった格上ならともかく、リィンとラウラの実力差ならば戦術リンクも合わさって動きを真似ることは難しくない。

 加えて今でこそ部位単位での覚醒が可能になった鬼の力は、とにかく力の流れを操作することを第一としていた。

 溢れ出す衝動と力の配分にとにかく気を遣い、意図的にそれを御するための訓練を行ってきた影響は、観の眼と合わさることで絶妙のフォローを可能としているのだ。

 

(フフフ、研鑽が実り実感出来ることこそ鍛錬の醍醐味よ)

(感謝してる)

 

「さて、それじゃあ次。ユーシスとマキアス。リィンと戦いなさい」

「え?」

 

 サラの発表に、名を呼ばれた三人が目を丸くする。

 

「教官、それは一体……」

「許可はもらってるわ。これも特別実習よ」

「は、はあ」

「悪いけど、リィンは――」

 

 サラにある条件を言われたリィンは、生返事をしながらも稽古場に立つ。

 戸惑うユーシスとマキアスに、二人に寄ってきたサラはこう告げる。

 

「さて、二人とも。私からのオーダーは一つ。リンクのことは考えないことよ」

「り、リンクのことは考えず?」

「それではリィンには――」

「リィンには攻撃を一切しないよう要請してる。二人の勝利条件は、リィンの防御を崩すことよ。体も技も届かないなら、気持ちだけでも届かせて来なさい。勝つんじゃなくて――あんたらの鬱憤、全部リィンにぶつけていけ!」

 

 サラからの思わぬ活に、二人の心が震える。

 従う必要などなく、適当に剣を合わせて実習を終えればいい。

 理性はそう言っている。

 ユーシスもマキアスも、先の師範代との稽古でリィンには遠く及ばぬことを自覚している。

 ヴァンダールの人々にも迷惑がかかるのだし、早めに切り上げるのが利口なやり方なのだろう。

 だが、戦えと言われた困惑以上に――湧き上がる気持ちをリィンにぶつけたいという心に嘘はつけなかった。

 

「リィン、すまない……すまなくないかもしれないが、稽古人形になってもらうぞ」

「サンドバッグ扱いは嫌なんだが……」

「………………」

 

 リィンが太刀を構える。

 ユーシスは兄より学んだ宮廷剣術、マキアスは努力した頭脳による照準と予測を武器にした導力散弾銃。

 おそらく、いやきっとリィンには届かない。

 ただでさえ隔絶した実力差があり、パートナーは互いに気に食わぬ相手でリンクも満足に結べない状態。

 サラの命令がなければ決して共に行動しない貴族と平民。

 だが、それでも――目の前の男に届かせたいものがある。

 その気持ちは、同じだった。

 

「ゆくぞ、リィン!」

 

 先手はユーシス。当然のことながら力任せの剣はリィンに当たることなく、まるで反発を感じさせない流麗の技を持って受け流される。

 マキアスからの敵意をことごとく笑い流した様子を思い出し、気質が剣に現れているとユーシスは自覚する。

 ならばこその大上段。

 優雅さの欠片もない、宮廷剣術の一手と思えない気持ちだけの剣。

 だがユーシスは訂正しない。

 なぜならユーシスは、リィン・シュバルツァーという男に嫉妬を抱いているからだ。

 

 

 ――ユーシス。先日発掘した騎神、だったかな。

 その乗り手……使っている生徒達をそれとなく調べてもらえないかな?

 興味があってね。

 

 トールズ士官学院の常任理事の一人を務めるルーファス・アルバレアはユーシスの腹違いの兄である。

 ユーシスが最も尊敬する人物であり、今の自分の根幹となり基盤となる支柱のような人だ。

 そんなルーファスから、リィン・シュバルツァーを見極めるよう伝えられている。

 騎神といった理由は当然あるだろうが、クラスメイトや同窓生である女生徒のことも含めていたはずなのに、リィンへ特に興味を示していたことは記憶に新しい。

 

「リィン・シュバルツァー……!」

 

 言葉はなく、ただ敵対する相手の名を叫ぶ。

 弟として、兄が気にかける男が気に食わなかった。

 実子でないにも関わらず、愛された男が羨ましい。

 そんな幼心地の嫉妬心を表面上には出さず、しかし剣にその心を乗せてユーシスは叫ぶ。

 当然、リィンは受け流し、避け、受け止めてもその体は不動であった。

 けれどユーシスは止まらない。

 嫉妬以上に、目の前の男に負けたくない。

 浮浪児であることを隠さず、親に愛されて育まれた器の大きさに呑まれたくない。

 その一心だけで、ユーシスは癇癪にも似た気持ちを違わずぶつけていく。

 

 

 ショットガンは散弾だ。

 単銃や機銃と違い、一射で広範囲をカバーする特性を持った導力散弾銃を前にリィンはありえないスピードや間合いの錯覚によってマキアスの射線から逃れ、時に太刀で銃弾を弾くという尋常ではない技を見せつけてくる。

 マキアスはリィンの動きを頭に入れて予測しようとするも、射線上のユーシスを入れてきたり一瞬で散弾の間合いから逃れたりと、相手の動きに予測がまるで追いついていない。

 いっそユーシスごと撃ってしまえ――そんな悪魔の囁きがマキアスの脳に浮かぶ。

 そんな魅力的な提案は、リィンが飛ばしてくる意により一瞬で霧散した。

 仮にその考えを実行した次の瞬間、斬られる。そんな予感、いや確信がマキアスの胸中にあった。

 彼が使う戦技に斬撃を飛ばすものがあった、とか攻撃したら彼の負けだ、とかそんな理屈が後から浮かぶほど直感が危機を送っていた。

 

「リィン……シュバルツァー……」

 

 貴族の子。男爵家の嫡男。

 浮浪児。拾われたことで貴族となった少年。

 

 ――たまたま貴族の家に拾われた子供が貴族になるなら、マキアスにとっての貴族って随分と範囲が広いんだね

 ――『敵』がいなくなったら、今の君ならなんだかんだ因縁付けて新しい『敵』を作っていくでしょうね

 

 フィーとサラの言葉が急に浮かぶ。

 

 ――貴族、というだけで頭の中が真っ白になって、嫌な記憶だけが繰り返すんだ。僕の大事な……

 

 八つ当たりですらない独白に、ラウラはわざわざ自分に配慮して退室してくれた。

 貴族が、平民に気を遣ったのだ。

 人として、当然のように。

 

 ――阿呆が……! 貴様の発言が周りだけでなく自分を貶め、大嫌いな貴族以下の存在になっていると何故気づかん!

 

 リィンのことを、貴族が妾に産ませた子、という意味での浮浪児と罵ろうとした自分を公爵家のユーシスが止めた。

 

 ――ああ、なるほど。浮浪児を拾わせてしまったことは現在進行系で迷惑かけてるから、いずれ恩返ししたいところだ

 

 拾われて貴族になった彼は、出自に卑屈になることなく親に孝行を考えることの出来る、相手だった。

 

「くっ……………そおおおおおおおおおおおおお!」

 

 がむしゃらに叫び、散弾を放つ。

 当然当たらない。だが、構わない。

 まるで気持ちを弾に込めるように、マキアスは乱射する。

 

 マキアスが貴族を憎む理由は簡単だ。

 家族が、大事な家族が貴族によって死に追いやられた。

 だから貴族を敵だと思った。この怒りを正当なものであるとして、振る舞わなければ壊れていた。

 

 ことごとく自分達の攻撃を避けるリィンの姿は、抗えない現実を示しているようで。

 ユーシスとマキアスは何度も攻撃を繰り返したことで体力を消耗し、すでに膝をついてしまうほど息を乱していた。

 フィーとラウラはもう決着では、とサラに視線を向けるがⅦ組の教官は首を横に振る。

 まだリィンは二人の攻撃に付き合う気でいるし、何よりユーシスとマキアスは失われた体力に反して闘志が漲っているからだ。

 けれど心は屈せずとも体が限界を迎える。

 たっぷりと時間をかけて立ち上がった二人に許された攻撃は、あと一撃しか許されていない。

 そのことを二人は理解しているのか、していないのか。

 マキアスの乱射を避け、そこへ突進したユーシスの剣を受けるべく太刀を構えたリィンは――瞬間、斬撃とは異なる衝撃が刀身を襲う。

 周囲は目を見開く。

 刀身を襲った衝撃の正体――それは、マキアスの導力散弾銃だった。

 銃弾ではなく、マキアスは武器そのものをリィンに投げつけてきた。

 ユーシスの攻撃を防ぐことに意識を割いていたリィンは、散弾銃のリロードの時間を零にするそれに面食らい、一瞬だけ防御に隙が生まれた。

 ユーシスはそこを寸分違わず狙う。

 なぜなら彼はマキアスの行動を戦術リンク(・・・・・)で知っていたからだ。

 投げるタイミング、突き込むタイミングを完璧に合わせていた。

 渾身の一突きが硬直するリィンに向かい――即座に太刀を捨てたリィンの左の裏拳がユーシスの剣の腹を叩いて弾き、余った右の掌底が彼をマキアスの元へ吹き飛ばした。

 

「そこまで! リィンの反則負けで、勝者はユーシスとマキアスよ!」

 

 わっ、練武場に小さな地震が生まれる。

 生徒と思えないリィンの実力に対して、果敢に攻めたユーシスとマキアスを褒め称える言葉が雨のように二人に降り注ぐ。

 ヴァンダール流を学ぶ貴族も平民も関係ない、一体化となった称賛の嵐。

 だが膝をつくマキアスと、床に仰向けに倒れたユーシスにはその音が遠く聞こえていた。

 ただ、やってしまったと苦い顔をするリィンの表情を見られたことで、二人は同時に拳を突き上げていた。

 

「……………真似をするな」

「……………そっちが先だ」

 

 胸を晴れない、お情けの勝利。

 だが、ARCUSを通じて繋がった先に見えたお互いの心。

 リィンに勝ちたい――そんな二人に負けたくないという三人(・・)の心の一致によって得たそれは、不思議と悪く感じない。

 ラウラとフィー、サラが何か言っている。

 リィンもこちらに笑いかけて言っている。

 二人はそれを聞くことなく、全身に走る心地よい疲れに身を任せて意識を失った。




完全な和解ってわけではありませんが、そのきっかけになったと思ってもらえたら何より。

二日目はラウラとフィーとのあれこれを予定しております。
さて、どれくらいプロットから変化するか…
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