はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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いつも誤字報告ありがとうございます。
ご都合主義の極み回。


フフフ、息子よ。その頃のクロスベルだ②

 マクバーンが特務支援課に合流してから時は過ぎ、クロスベルの独立に関した住民投票が行われた。

 投票率は九割を超え賛成が七割という結果に対し、ディーター・クロイスは改めてクロスベル独立国を宣言、帝国や共和国へ納めていた税収の撤廃、独自の治安維持として警察と警備隊を合併させた『国防軍』の成立を発表。

 また、独立国を認めない限りIBCで預かる資産の凍結も提示する。

 

 当然、帝国と共和国はこれに対して提言の却下を申請、だが当然のように了承されることはない。

 帝国は資産の凍結に対し、実力行使を発表。

 少なくとも近日に侵攻が予測される……というのがクロスベルの現状だった。

 それらの情報を分署ビルで整理していた特務支援課は、ただただスピード政治としか言いようのない展開の速さに困惑するしかなかった。

 

「……マクバーン。これも結社が関与しているのか?」

「ああ。っていうか、全部そいつらの仕込みだろうよ」

「ええっ!?」

 

 ロイドの質問にマクバーンが答えると、あまりにもあっさりとした言葉にエリィが驚く。

 そのリアクションを予想していたマクバーンは、一度落ち着くよう言ってから改めて口を開いた。

 

「そもそも、この独立宣言からしておかしいと思わないか? クロスベルを取り巻く状況を考えれば、それが理想ということはわからないでもない。

 だが、帝国や共和国といった大国に囲まれる中でそんな宣言をしたところで、クロスベル・タイムズが評してるように実力行使されたらどう足掻いても踏み潰されるのがオチだ」

「はい、ディーター市長がそれを理解していないとは思えません」

「だが、実際に通商会議での発表から今まで独立に向けて動いていた。が、その結果がIBCの襲撃や各地の幻獣騒動……状況はクロスベルの独立なんて許さねえ、って言わんばかりだ」

「そもそも、だ。お前らも通商会議の現場に居たなら気づいてるんじゃないか? ディーター・クロイスは当時、帝国のオリヴァルト皇子が差し出した手を振り払ったことを」

「…………そう、ですね。リィンさんのインパクトが大きかったですが、オリヴァルト皇子があの場で語ったことはクロスベルに対して有利な状況を作る流れでした」

「あの後リィン君から聞いたけど、共和国に対しても譲歩を引き出す案があったのでしょう? おじさまの独立宣言で有耶無耶になってしまったけど……」

「そこだ。どうしてディーター・クロイスはその手を振り払う必要があった?

 独立を考えているなら皇子の提案は渡りに船、乗ることが最上なのにむしろ石を投げて沈めたまである」

「…………マクバーンさん。つまり、どういうことなんですか?」

 

 代表してティオが聞く。

 ロイドは持ち前の分析力で目まぐるしく思考を繰り返しているが、結論があるならばと一度その回転を止めた。

 キーアを含めた五人の目がマクバーンに集まったのを見計らい、彼は告げる。

 

「簡単だ。ディーター・クロイスは本人じゃない(・・・・・・)。少なくとも、通商会議の段階で入れ替わっていた」

『ええっ!?』

 

 予想外の言葉に全員が声を上げる。

 絶句する特務支援課に、マクバーンは追撃を語る。

 

「おかしいと思わないか? 市長交代から今まで、ディーター・クロイスが行ってきた政策を考えればあまりにも無茶無謀の宣言だ。IBCの元総帥、やりての敏腕経営者でもあるはずなのに、クロスベルの状況がわからないほど流れをつかめないやつか?」

「そ、それは……」

 

 その言葉に、ディーターをもっともよく知るエリィが顎に手を当てながら回想する。

 幼少の頃からの付き合いであり、おじさまと呼び慕う男がそこまで耄碌したとは考えつかなかった。

 黙り込むエリィに代わり、ランディが動揺を隠しきれないまま尋ねる。

 

「待て、待て待て待て! 入れ替わっていたって簡単に言うが、今まで俺達もあの人に会ったが、おかしい様子はなかったはずだぜ?」

「そりゃそうだろう。普通に考えれば、入れ替わったとしても親しい奴にはバレる。だが、親しい奴すら騙せるほど演技が上手かったり、細かな性格の違いを指摘出来るアドバイザーが居たらどうだ? 例えば、実の娘(・・・)とかな」

「待ってください! つまり、マクバーンさんが言いたいのは」

「マリアベル・クロイスがこの状況を仕組んだ犯人、って俺は思ってる。――あの女、結社の使徒、幹部として迎えられていたからな」

「…………」

 

 何度目かの衝撃発言に、ロイド達はもう言葉もなかった。

 親友であるはずのエリィですら、ただでさえディーターのことに意識を回していたこともあり、この不意打ちは避けられようがない。

 

「……マクバーン、お前は元結社っつったな。特務支援課を訪ねた段階で、そのことを知ってたってことか……?」

「ああ、って言ったらどうする?」

「なんで今になって言ったんだ。あの時に――」

「言って信用したか? あの段階で俺を迎え入れたのは、リィンからの連絡、つまりあいつへの信用だけだ。

 もちろん、列車砲のこともあるし恩はあるんだろうが、それでもマリアベル・クロイスのことを告発したら余計な考えを生むとわかっていたからな」

「なら、どうしてこの時に言ったんですか?」

「時間がないってことさ。本当は証拠を掴んでから言おうと思ってたが、帝国と共和国は今日にでも攻めてくる。一刻を争う段階で、隠す必要はない」

 

 一同は黙る。

 何を言えば、何を聞けば、どう動けばいいのか頭ではわかっているはずなのに声に出ない。

 それだけの衝撃に、体を麻痺させているのだ。

 そのことを理解していたマクバーンは、ロイド達が復帰するまで待機の姿勢を見せる。

 不安そうな表情のキーアがこの沈黙を打破しようとしたところに、分署ビルの扉がノックされる。

 入室の返事をしてから入ってきたのは、ロイドの姉であるセシルだった。

 彼女は昨夜にアリオスが娘のシズクを勝手に退院させたことを不審に思い、こうしてロイド達を訪ねた。

 当然彼らはその理由を知る由もないが、そこにさらなる情報が舞い込む。

 クロスベル・タイムズの記者であるグレイス・リンから特務支援課へのタレコミ……つまり、ディーターがこれから導力ネットを通じた会見を行うとのこと。

 マクバーンは復帰を待つのを諦め、ロイドに告げる。

 

「――止めるなら今だぜ。導力ネットを通しているならむしろ好都合、ここでディーター・クロイスが偽物であることを全世界に証明すりゃあいい。

 あとは政治の分野になるが、帝国と共和国もひとまず侵攻を止めることだろう……もっとも、安全保障に関してはかなり不利になると思うけどな」

「それでも、戦争になるよりは何倍もマシ……か……」

「ま、全ては俺の言葉を信用するかどうか、だがな。これに関しちゃ、お前の判断次第だ。特務支援課として俺を逮捕する、ってやったところで咎はねえ」

 

 マクバーンの言葉に特務支援課は黙るしかない。

 ここで彼の言葉を偽りとして逮捕したとして、現状が何か変わるわけでもない。

 何より、彼の強さを知るロイド達は、マクバーンを捕まえられる気がしなかった。

 

「どちらにせよ、会見まで時間はない。ノエルに連絡すれば、俺の協力者のツテであいつに案内してもらうことが出来るはずだ」

「協力者?」

「ああ。いずれ偽物って暴くための仕込みに、な」

「もしもの時のためにノエルさんにあちらに行け、と行ったのはこの時のため、と」

 

 無言で頷くマクバーン。

 ここで座して待つより動くべきだ、とロイド達は席を立つ。

 ツァイトにキーアとセシルの守りを言付けてから彼らはオルキスタワーを目指す。

 

 だがその途中、先程話題に出たアリオス・マクレインがキーアを連れ去ったという連絡を受ける一同。

 すぐにキーアを連れ戻そうとするが、ディーターのこともありどちらを取るか悩む特務支援課に、マクバーンは今後のことを考えるならばオルキスタワーに向かうのはロイド達でなければならないと譲らない。

 クロスベル市民の信用度で言えば、マクバーンよりも特務支援課のほうが遥かに上であるからだ。

 そのため、マクバーンがキーアを連れ戻すために一度ロイド達と別行動を取ることになるのだった。

 

 

「皆さん……!」

「ノエル、その格好は……」

 

 断腸の思いでマクバーンにキーアを任せた後、ロイド達はオルキスタワーにたどり着く。

 入口では数多くの記者が集う中、特務支援課が来たことで元クロスベル警備隊改めクロスベル国防軍として組み込まれた隊員に止められたものの、ノエルがとりなしてタワーへ侵入することに成功する。

 途中、グレイスが付いて来ようとしたら流石に国防軍に止められていた。

 クロスベル警備隊がクロスベル国防軍になったことに関して、ノエルは気持ちを悶々とさせることもあった。

 一種のスパイのような真似事を行うことに関しても、結社のこともありその意識を切り替えることが出来ていた。

 そしてこの日、ノエルと合流したロイド達はすぐさまマクバーンからの情報を共有。

 ひとまず偽物と思われるディーターへの謁見を望もうとしていた。

 

「だが、これから会見なんだろう? その短い時間で俺達に会ってくれるのか?」

「強引に取るさ。ノエル、マクバーンさんが言っていた協力者というのは……」

「そ、そのことなんですが……私、具体的な人物を知らないんです」

「どういうことですか?」

 

 ティオが疑問を発する。

 オルキスタワー入口でも、ノエルが来た途端に話を聞いているとしてロイド達は中に入ることが出来た。

 てっきり彼も協力者の一人なのかと思っていたが、ノエルの話ではどうやら違うらしい。

 

「協力者自体は存在しているんですが、直接の面識はないんです。時折手紙などで指示を受けたりして、このオルキスタワーの秘密を知ることが出来たので味方ということはわかるのですが……」

「オルキスタワーの秘密?」

「はい。地下に作られた区画……魔導区画と呼ばれる場所です。……正直、何故自分がそこを発見出来た上に見つかることなく帰還出来たのか、今でも信じられないのですが……」

 

 どうやらノエルもノエルで色々調査を続けていたようだ。

 だが、話を照らし合わせていけば、ディーターの偽物のことはさておいても、きな臭い何かがオルキスタワーにあるのは確実のようだ。

 

「ノエルさん、そのことはソーニャ司令に告げたりは……」

「いえ、協力者の指示で来るべき時まで黙るように、と。仮に告げたとしても意味がないとすら。最初はそれでも司令に相談しようと思ったのですが、何故かことごとく間が悪く(・・・・)会えずじまいでして」

「……そしてこのタイミング、か。マクバーンのやつの慧眼なのか知らんが、誘導されているのは確かな気がするぜ。キーアのこと、本当に任せて良かったのか?」

「それは……」

 

 押す黙るエリィ。

 マクバーンの人柄は、ここ数日共に過ごしたことである程度理解していた。

 粗暴のようで割と面倒見が良く、良識を持った男であることに違いはない。

 底知れない強さに驚くことはあれど、無闇にそれをひけらかすこともない。

 それでも、この急展開の事態に対して隠し事――親友のマリアベルのことなどもあり、最後の一線で踏みとどまってしまう。

 そんな彼女を慰めるように、ロイドは笑う。

 

「彼は信用していいはずだ。なんというか、彼の行動は巡り巡ってクロスベルのため、みたいな気がするんだよ。……皇族の護衛といえ、リィンは命をかけてクロスベルを守ってくれた。そんな彼の親友ってことなら、悪いようにはならないはずだ」

「……リーダーがそう言うなら、腹くくるか。どのみちここまで来たんだ、例え偽物うんぬんが違ってても、直接話を聞けるなら聞くべきだろう」

 

 ロイドの言葉にランディが同意し、ワジを除く特務支援課はその言葉に従うことに決める。

 オルキスタワー内を移動する特務支援課だったが、周囲からの妨害もなく会見の場へたどり着く。

 ディーターはすでにクロスベル独立国を宣言、自らを初代大統領とする旨――そして何より、クロスベルを渦巻く陰謀など独立への理由を演説しているところだった。

 導力ネットで中継され、全世界にディーターと特務支援課が映し出され、クロスベル市民の動揺がさらに激しく増す。

 周囲を警護する警備隊改め国防軍の面々がロイド達に導力銃を向けるが、ディーターが手を上げることでそれを静止させる。

 

「おや、特務支援課の諸君。私は今、世界に向けて会見中なのだが……いや、ちょうどいい。せっかくだ、これを機に紹介させてもらおう。

 先日の通商会議にして、見事にテロリスト達の魔の手から我々を守ってくれたクロスベルの英雄、特務支援課。

 クロスベル市民は無論、外国でもその名を聞くことが多くなったかもしれない。今後、彼らもクロスベル国防軍への配備が決定されており、後で紹介させていただくが国防長官にはかの――」

「お待ちください、ディーター大統領……いえ、この場ではまだ名を尋ねるのはやめておきましょう。今はただ、貴方の真実を問いただしたい」

「真実? おかしなことを言う。私にとっての真実とは、クロスベルを守――」

 

 ディーターが笑みを浮かべながら言葉を続けるが、そこでノエルが思い出したように懐からペンダントを取り出す。

 そのペンダントを見た瞬間、ディーターの顔に驚愕が刻まれる。

 ノエルはまさか本当に、と思いながらペンダントを掲げると、それは大きな光を放ち始めた。

 ロイド達の視界、そして導力ネット越しにも肉眼で捉えることが出来なくなるほどの光が収まった瞬間――ディーターが立っていた場所には、一人の中性的な少年のような何者が佇んでいた。

 

「あ、あーあ……バレちゃったか。まさか魔女の協力を得ているなんて、君たちを少し過小評価していたよ。それに導力ネットも悪い意味で使われちゃったなあ」

「な、な…………」

 

 萌葱色の髪を揺らし、顔に模様を刻んだ少年――かつて湿地帯で遭遇した結社の執行者から向けられる視線に、ロイド達は困惑を覚える。

 

「本当に、まさか本当にディーター市長が……」

「彼のこと? もう世界へ公開されちゃってるし、打ち明けても問題ないかな。改めて、ボクは結社《身喰らう蛇》の執行者No.0道化師カンパネルラ。――ディーター・クロイスはもういない。少なくとも僕は(・・)知らないなあ」

 

 マクバーンの言葉が真実だったことに驚くと同時に、動揺から動けないでいた周囲、ソーニャを始めとする国防軍がカンパネルラへ導力銃を向ける。

 だがカンパネルラは余裕を崩さず、ロイド達も武器を構えながら言葉を続けた。

 

「いつからだ! ディーター市長を、いつから!」

「通商会議の時にはもう変わっていたよ。普通に考えれば、帝国と共和国のテロリストを片付けたクロスベルの評価が上がる交渉で、わざわざ成果をドブに捨てる真似なんてするはずないだろう?」

 

 奇しくもマクバーンの推測と同じ言葉が紡がれる。

 

「なら、今まで入れ替わっていたのは……!」

「独立宣言をすれば、帝国も共和国もこぞって襲って(・・・)来てくれるだろう? 計画のために、ちょうどいい相手を探していたんだよね」

「計画……?」

「試金石って言えばいいかな? まあいいや、これを見てる帝国や共和国の皆さん、侵攻するならご自由にどうぞ。我ら結社(・・)によるおもてなしをさせていただきます。

 先んじて、君達という英雄が捕まる所を全世界の人達に知ってもらおうか」

 

 カンパネルラが指を一つ鳴らした瞬間、彼らの体は動けなくなっていた。

 ロイド達だけでなく、ソーニャ達も同様だ。

 むしろ彼女達に限れば、ロイド達を率先して捕縛するように動いている。

 何より――先程まで特務支援課の一員として共にあり、カンパネルラの偽装を見破ったノエルがロイドの手に手錠をかけていた。

 

「な、なんで……体が、勝手に……!」

「……これは……まさかグノーシス!?」

「そこは牢獄でじっくり考えればいいさ。ここで君達を殺すのは簡単だけど、そうしたら『彼女』の機嫌を損ねてしまうからね」

「彼女……?」

「キーア・バニングス……いいや、零の御子と呼ばせてもらおうか」

 

 カンパネルラの言葉を、ロイド達は最初何を言っているかわからなかった。

 だが、彼らはその意味を否が応でも理解することとなる――

 

 

「彼に倣い、私もまたここに宣言させていただきましょう。我が名が《根源》のマリアベル。結社《身喰らう蛇》、第三柱をこのたび拝命させていただきました――」

「なんですの、あれは……!」

 

 舞台はミシュラムへ移る。

 《鏡の城》の最上階、設置された鏡の奥にある隔離された空間でマリアベル(・・・・・)が声を上げる。

 彼女の視界では、先程まで導力ネットで中継されていた光景が次々と飛び込んでくる。

 父だったはずの男は同胞となる結社の執行者へと代わり、さらに彼が退場した後に現れたのは紛れもない自分の姿をした何者か。

 さらに己の顔をした誰かが、これから行うべき計画の一部をこれ見よがしに特務支援課へ、世界へ語りかけている。

 しかも失踪した父には己が関わり、結社に協力を要請して排除した見返りに幹部になったなど、本人にとって全てが偽りではない宣言まで加えて。

 

「おーおー。さすが結社《身喰らう蛇》様だ。悪いのは私達でクロスベルは無関係です、なんて悪の矜持ってやつか?」

「劫炎……これは貴方の仕業なのですか?」

 

 歯噛みするマリアベルを愉悦しながら嘲るのは、ロイド達と別れてキーアを連れ戻しに向かったはずのマクバーン。

 ここに彼が居るのは彼女によって予想外でしかない。

 特務支援課に外部協力者が参加した、という報告は受けていた。

 だがその名がマクバーンであるなど、今の今まで知ることはなかった。

 まるでそんな因果に導かれている(・・・・・・・・・・・・)ように、マクバーンの名をマリアベルは知ることがなかった。

 キーアを連れ去った特務支援課が来るのを待っていたマリアベルからすれば、来訪したのがマクバーンであったのは思考の埒外だ。

 

「クックック。ご自慢の頭脳で考えればいいだろ? 俺はただ結社で世話になった礼をしただけだぜ? で、てめぇが噂の《風の剣聖》か。なるほど、確かに強そうだ」

 

 それだけだな、と胸中でつぶやくマクバーンの視線の先には、同じく驚愕を刻むアリオス・マクレインの姿。

 彼もまた、ここへ来るとすればロイド達だと思っていただけに動揺は大きい。

 そして、己では決して勝ちを拾えぬ相手が目の前に居ることも、アリオスの手を止める要因の一つだった。

 

「今なら《風の剣聖》の名は出してない。遊撃士に戻って、ロイド達に協力するのも手だぜ? 何せ、お前らがしでかした全ては結社の指示だったんだからな。

 娘を人質に取られたなり何なりって説明すれば、情状酌量の余地は多分にある。今からそう説明してやってもいいぜ、アリオス・マクレイン」

「アリオスさん、今更ですわよ? 貴方が行動を起こしてきたことに――」

「それを全部結社様がかばってくれる。もちろん余罪はあるだろうが、クロスベルを自分達の手で壊すよりは十分マシだと思うがな」

 

 そして、導力ネットとは別に浮かぶ映像の先では偽のマリアベルの言葉が猛威を奮っている。

 結論だけ言えば、すでにクロスベルは結社の支配下に置かれるという宣言。

 合わせて、独立宣言といった諸々全てを結社が目論んでいたという嘘でもない話。

 だが聞こえようによっては、ディーター・クロイスの失踪と合わせた全ての罪を結社が被っているように思えた。

 

「…………」

 

 そんな様子を見守るのは、連れ去られた――否、自らの意志でアリオスに同行したキーア・バニングス。

 マクバーンとローゼリアが現れた時に、この因果……結末も見えていた。

 だが彼らが行うのは、全ての原因を結末に押し付けるだけのこと。

 本当に、ただそれだけのためにクロスベルへ訪れていた。

 ディーター・クロイスが失踪したとしても、舵取りをする人物が変わるだけで結果に変わりはない。

 ただ、その過程――クロスベル独立が結社によって起こされたものであり、それを特務支援課に解決させることでこの事件の後に訪れる苦難を回避させようとしているように思えた。

 

「どうした《根源》。さっさと止めにいかないと、お前が全ての原因として追われることになるぜ? 化けの皮が剥がれるのが早いか遅いかの違いだ、気にすることはねえがな」

「……!」

 

 マリアベルは忌々しげにマクバーンを見るが、それ以上何の行動も起こさない。

 いや、起こせない。

 マクバーンは事前にトマスに協力を要請しており、彼が《鏡の城》へ入った瞬間に《匣》で隔離しているのだ。

 つまるところ、転移封じである。

 故にマリアベルとアリオスはこの場に隔離され、強行突破をしようにも相手は元結社最強の執行者、劫炎のマクバーン。

 加えて――

 

「さっさとそいつを《零の至宝》に戻さないのか? その力があれば、ワンチャンここを突破出来るかもしれないぜ?」

 

 劫炎の背後に影法師――魔神としてのマクバーンが浮かぶ。

 《外の理》と呼ばれる、ゼムリアの外からやってきた来訪者。

 意志を持つ塩の杭とも評される、人の形をした災厄を相手に至宝をぶつければ結末が予想出来ないのだ。

 キーアは彼の焔が己に向かうことはないと理解していたが、それを知らないマリアベルとアリオスは躊躇するしかない。

 

 何故ならば、彼の力ならば《零の至宝》と言えど破壊される可能性がどうしても浮かんでしまう。

 彼に魔神化されてしまえばクロスベルが消滅する。

 それでは、結社の本当の計画を実行することが出来ない。

 キーア・バニングス――正確にはディーターやマリアベルの家名であるクロイス家が用意した人造生命体(ホムンクルス)であり、かつて失われた《幻の至宝》を再現するべく作られた人の妄執の果て。

 クロスベル設立から今までに至るまで、全てが彼女という人為の至宝を生み出すために動いていたのだ。

 

 もう至宝の完成は目前なのだ。

 意志一つでキーアは《零の至宝》として再誕することが出来る。

 けれど、マクバーンが目の前に居る限りそれが果たされない可能性が生まれてしまった。

 それを理解しているからこその膠着状態であり、マクバーンが用意したシャロンが扮する偽のカンパネルラとマリアベルの演説による、結社へのヘイトの押し付けが進んでいた。

 

 ちなみにロイド達が動けないのも、ソーニャ達が体の支配権を奪われているのも、グノーシスと勘違いされているようだが全てローゼリアの魔術である。

 魔女の長としての実力を、ここに来て存分に発揮していた。

 つまり、ここまで全部がマクバーンの計画通り。

 元よりディーターによる独立宣言は、解決されたとしてもその後に吹く逆風は嵐の如く激しいものとなる。

 かつて王だった者として、まだ健在なのに滅びに向かう土地を見過ごすわけにはいかなかったマクバーンがクロスベルを存続させるために動いたものだ。

 当然、ディーターが偽物だったという話も全てが嘘。

 彼が行方不明になったのは昨晩の深夜。

 転移でオルキスタワーへ侵入し、エリンに拉致したマクバーンによるものだ。

 ちなみにもう一人、イアン・グリムウッドも同様にマクバーンの手によってエリンに連れ去られていた。事務所に残されていた手紙も内容を改ざん済みである。

 彼らのクロスベルへの想いは本物であったが、至宝を使った奇跡による力で独立国家を成立させようとしていた。

 気持ちが本物であっても、手段が悪い。

 奇跡によって成立する事象など、どこかで必ず破綻を迎える。

 

「奇跡ってのは、それより強い現実に覆されるってのが因果なんだよ」

 

 その言葉はキーアに向けられたものであり、彼女の特務支援課(家族)へ送られたものだ。

 その身で奇跡を超える現実(リィン・シュバルツァー)を実感したからこそ、そう思えるのだ。

 結局、帝国と共和国が攻めてくる直前までマリアベル達はこの場に隔離され、存分に結社へのヘイトを稼いだマクバーン達は、《零の至宝》発動と同時にトールズ士官学院へ転移するのだった。




マリアベル
「違いますのよ、この騒動は全てお父様が……」
特務支援課
「騙されないぞ、結社の悪者め!」スネ蹴り炸裂

難産回。
見るのはともかくざまぁネタって書くとなんか面倒ですね…
上手いセリフが出てこないというか。
悪役キャラって難しいです。

まあ今回の総括としては、全部結社ってやつの仕業なんだ、でOKです。
MVPは要請から一晩しか時間を与えられなかったのに、即興でカンパネルラとマリアベルに変装することになって、見事に演説までやりきったシャロンさんです。

結局キーアはこの後覚醒しますし、至宝の力で帝国と共和国を押し返すので、両大国にもどうにも出来なかった事件を特務支援課が解決することで、安全保障アピール、クロスベルの危機に何もしてくれなかった宗主国、という形が生まれるわけですね。

それらによって、ある意味ディーター大統領とイアン弁護士救済です。
この作品では、あくまで被害者として扱われますので。
彼らはしばらくフェードアウトですが、生き延びたギデオン同様にどこかで何かをしてくれるかも?

東亰ザナドゥも考えれば見ると碧の影響を受けてる気がしますね。
やはりファルコム作品は《外の理》という形で全てが繋がっている…?
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