トールズ士官学院の学院祭は、二日目になってもその熱量が衰えることはない。
むしろ初日に来られなかった来場者も合わせて数が増えており、その中にはⅦ組の身内も多く含まれている。
リィンは会ったことはなかったが、六月のノルドの実習でA班が出会ったガイウスの弟トーマと、その恋人であるシャル。
小さな恋人達を引率するのはアリサの祖父であるグエンだ。
他にも、イリーナ会長やマキアスの父であるカール・レーグニッツ。
エリオットの父と姉であるクレイグにフィオナ、ラウラの父でありリィンも非常にお世話になったヴィクターとその家令であるクラウス。
さらにユーシスの兄であるルーファス、サラもトヴァルと何やら話し込んでいた。
Ⅶ組のミニステージは今日が本番ということもあり、来られる日を調整しているように思えた。
リィンはまずヴィクターに挨拶をしようと近づくと、それより早くルーファスがこちらに気づいて挨拶を交わす。
「やあリィン君。生徒会の見回りかな? 張り切るのはいいが、午後のステージに影響がない範囲で巡ってくれたまえ。
君は一度請け負うと、どんなことになっても解決してしまうからね。それこそ、帝都への戻る用事の代行なども」
「ルーファスさん、おはようございます。流石に俺でもそこまでは……まあ目的がはっきりとしてて、場所もわかってるなら行くかもしれませんが」
「そういうところさ」
「しかしルーファスさん、来られたんですね。ユーシスから聞きましたが、アルバレア家……いえ、ルーファスさんは最近社交界で距離を取られていると伺ったので」
「フフ、君らしい直球の物言い、切込み隊長のようだ。……そちらは問題ないさ。むしろ、それらへ使っていた時間を《エル=プラドー》に注げることを思えば幸いですらある」
優雅に微笑むルーファスだが、その瞳には今までにない熱を秘めていた。
そこまで騎神に興味がある理由を詳しく聞きたいところだったが、ヴィクターがリィンに気づいて近づいてきたことで質問は取りやめる。
「ヴィクターさん、お久しぶりです。先日は本当にお世話になりました。体の調子のほうはどうですか?」
「フフ、むしろ調子が良いくらいだ。最近は久しぶりに挑戦者の気持ちを取り戻したこともあるのでな。惜しむらくは、それに応じた鍛錬の質の確保が難しい、ということだが」
《理》に至ったヴィクターがさらに技量を向上させるためには、同格以上の相手が必要になる。
ユンは放浪しており、アリオスはクロスベル、オーレリアは伯爵に加えて《貴族派》のほうでも忙しいようで、今日来られないことを残念がっていたと報告を受けた。
彼女にもお礼をしたかったが、来られないのならば仕方ない。
「おや、子爵閣下はリィン君と何やら縁を?」
「うむ。剣の道を共に歩む仲間……と言ったところか」
「たどり着くのはまだ先ですが、背中くらいは見えていると信じたいですね」
「ほう、そうなると噂の剣聖に至るのも近いということかな?」
「いえ、俺はまだまだです。先日、ユミルへ帰省した時に老師に奥伝を求める、なんてこともしましたが、それがいかに傲慢だったか教えてもらいましたので」
ヴィクターにオーレリア、ユンは鬼の力込みでも届かない相手なのだから、八葉一刀流だけで並ぶのはまだまだ先の話だ。
偽物を打倒したといえ、本物のアリオス・マクレインにも未だ己は届かぬと思いながらも、諦めるつもりはない。
奥伝に至るというのは、ある意味ユンへの恩返しにもなるのだから。
「そうだ、ルーファスさん」
そう言って、リィンはルーファスへ手を差し出す。
軽く目を瞬かせるルーファスだったが、やがてかつての約束を果たしていないことを思い出し、静かに首を振った。
「すまないが、私は君との約束をまだ果たしていない。その手を取るわけにはいかないのだよ」
「ですが、《帝国解放戦線》は……」
「君の条件の一つに、スカーレットなる女性の捕縛があっただろう? それを不達成にも拘わらずエル=プラドーを受け取ってしまっているからね。当時は嬉しさで思い至ることを失念してしまったが……」
「……確かに叶えば嬉しいことですが、皇子が報酬として譲渡したものです。それに、俺は遭遇しながら捕縛が叶いませんでした、なら、メインである《帝国解放戦線》の壊滅が叶ったなら渡すことは契約違反にはなりませんよ」
スカーレット捕縛はあくまでサブクエストであることを告げるも、ルーファスの顔はあまり晴れない。
思ったよりも完璧主義なのかもしれない、とリィンはちょっとした人間味を覚えた。
ヴィクターも同じ感想を抱いたのか、珍しいものを見たと思うように目を軽く開いている。
「話に聞く金の騎神は、リィンからもたらされたものだったのか」
「俺はあくまで権利を渡しただけなのですので」
「……友のためといえ、こうも気軽に渡せるほどの価値ではないはずなのですがね、騎神というものは」
「逆ですよ、友達に比べたらそこまで執着するものでもないですし」
リィンの独特の価値観に、ルーファスは無言で彼を見据える。
だがこれはヴァリマールがリィンの心臓に宿っている影響が強い。
常にヴァリマールと一緒ということもあり、リィンは騎神本体にそこまでの価値を見出していなかった。
無論灰がなければマクバーンと友になることが出来なかったし、今まで数多く助けられているのだが……それでもヴァリマールが消える、ということでもない以上リィンにとって重要視すべきは騎神よりも友だった。
「……そうか。話を戻すが、スカーレットという女性はまた見つけ次第にすぐ連絡を入れる。握手はもう一つの条件が達成するまでは、控えさせてもらうよ」
「わかりました。またその時はよろしくお願いします。あ、じゃあ連絡先交換しましょう、これ俺の番号です」
ルーファスがなんとも言えない感情を抱かせていることなど露知らず、リィンは連絡先を交換し、それならばとヴィクターも名乗りを上げた。
まさかの個人連絡網にルーファスは驚いていたが、シュミットよりARCUSを譲渡されたヴィクターは個人の通信手段も手に入れていたため、それを試したいという目論見もあった。
いつまでも挑戦の心を忘れないヴィクターの若さに苦笑しながら、リィンは二人に案内役としてついていくか提案したが、それぞれラウラやユーシスと回るということだったので、改めて礼を言ってからその場を離れた。
その後は昨日見かけなかったトワのために強引に仕事を奪い、彼女をアンゼリカにジョルジュ、クロウの四人で遊ばせるために送り出す。
生徒会の役員からは小言を受けたが、良い仕事だと褒められたのでリィンとしても満足である。
一時間ほどながら四人での遊びを楽しんだトワからもお説教を受けたが、最後には礼を言ってくれたので満足である。
「お? あれは……」
トワと交代して仕事に戻ったリィンはふと、覚えのある気配を感じてそちらへ走る。
すると正門の近くにあるベンチでパンフレットを眺める一人の少女を発見した。
その少女は、リィンの知り合いだったのだ。
「ヴァレリー、来てくれたのか」
「あ……リィンさん」
少女の名はヴァレリー。
六月の特別実習において、ノーザンブリアで知り合った少女だ。
彼女は音楽の知識などにも優れており、今回のステージに関するアドバイザーとして大いに助けてくれた。
来れなければステージの動画を記憶結晶におさめて郵送しようと思っていたので、来てくれたのは嬉しい限りである。
「直接顔を合わせるのは久しぶりだな、それに今回は色々ステージのこと助けてもらって本当にありがとう。その成果、ちゃんと見せつけるから楽しみにしててくれ」
「はい……」
相変わらず声はそっけないが、そこに含まれる感情に確かな喜びを感じ取ってリィンは満足そうに頷く。
「でも、正直来てくれるとは思ってなかったよ。よく許可が出たな?」
「私も最初は無理だと思っていたのですが……」
ヴァレリーはかつてノーザンブリアが塩の杭に呑まれた時、真っ先に逃げ出した国家元首の一族と繋がりがある家の出身だった。
そのため地域では疎まれ、貧困とは別の意味で苦しい生活の日々を送っていたはずだが、どうやら今回の来訪は北の猟兵が関わっているようだった。
「実は、こちらの学院教官であるサラ・バレスタインさんとはあれからちょっと繋がりができまして……それを知った北の猟兵から、窓口として仲介しているんです」
聞けば、リィンとの縁からサラも何かとヴァレリーのことを目にかけていたらしい。
サラもまたヴァレリーへ手紙を送ることとなり、彼女もそれに返信した。
ある時、サラの好きなお酒を送りたいと思ったものの、未成年の彼女に酒の購入が難しく悩んでいたところに北の猟兵――それも、リィン達が使える木を納めた時に礼を言ってくれた人物――が親切に仲介してくれたそうだ。
その時から、北の猟兵とサラの間にある微妙な空気を感じ取り、恩返しの意味も込めてお互いの近況を送っていたそうだ。
「それで、学院祭のことをリィンさんやエリオットさんから伺って、何かお祝いの品を事前に贈ろうと思っていたのですが……どうせなら直接見に行くといい、と。途中まで小隊で護衛してくれて、無事にここへたどり着けました」
あんなに堂々と歩けたのは久しぶりです、とドライ気味な声でつぶやくヴァレリー。
ヴァレリーは一度街に出れば悪魔の子としてそしられるのが常だった。
そのため人目を避けての移動なども多かったが、今回は事情を知った北の猟兵が傍に付くことでそれを防いでいた。
もちろん、軽い変装はあったそうだがそれでも俯いたり他人を気にせずに外へ出ることが新鮮な気持ちであったという。
相変わらずのノーザンブリアの事情に口を噤むのも一瞬、すぐにリィンは笑みを浮かべてヴァレリーを案内することに決めた。
ちなみに件の北の猟兵は、我らに華やかな場所は無縁だとトリスタで別れたそうだ。
翌日にまた合流するそうだが、なんとも生真面目な猟兵である。
「よし、それならとりあえずエリオットのところに案内するよ。ヴァレリーも直接会いたいだろう?」
「そう、ですね。お邪魔でなければ……」
「気にするなって。今の俺は生徒会手伝いだからな、来場者を案内するのも仕事のうちだ」
腕章を見せつけるように広げると、ヴァレリーの能面のような口元が僅かにほころぶ。
途中、屋台で軽くクレープなどを購入しながらエリオット達の元へ向かうリィン。
彼はクレイグとフィオナを案内していたようだが、リィンとヴァレリーに気づいて笑みを浮かべて応対してくれた。
「ヴァレリーちゃん、久しぶり! 来てくれるなんて思わなかったよ!」
「はい、お久しぶりですエリオットさん。偶然とはいえ、機会を設けましたので……」
「ならその偶然に感謝しないとね。ヴァレリーちゃんのアドバイスを受けたステージ、楽しみにしててよ」
「それ、俺が言ったぞ」
「あはは、そうなんだ。でもそれなら僕達は同じ気持ちで臨めてるってことだね」
ポジティブなエリオットに苦笑していると、ふとリィンはクレイグとフィオナの視線がヴァレリーに向いていることに気づく。
リィンはエリオットを促し、家族にヴァレリーを紹介しようとした瞬間、クレイグがとんでもないことを言い放った。
「エリオット、色を知る年齢か!」
「…………は?」
「エリオットもついにそんな年になったのか……フフ、士官学院に入ったことで、男を磨いたようだな……まさか現地先で」
「父さん!」
クレイグが何を言おうとしているのか察したエリオットが怒号を上げる。
顔を赤くしながらも否定と怒りでクレイグに詰め寄るエリオットだったが、父は息子の話が聞こえておらず男泣きをしていた。
「あ、あの……私は……」
「ヴァレリーちゃんだったかしら。話は聞いたことがあるわ、せっかくなら少しお話していかない?」
置いてけぼりな展開に困惑するヴァレリーの肩をフィオナが手を添えて、リィンにちらりと目線を送る。
意図を察したリィンはフィオナに頷き、喜びの抱擁から抜け出そうとするエリオットを救出すべくクレイグを引き剥がすのだった。
*
クレイグ一家とヴァレリーが一緒に回ることになり、それらを見送るとちょうどエリゼが来る時間が近づいていた。
クレイグ中将はガレリア要塞における列車砲の強奪の責任から謹慎を受けていると聞いている。
帝国最強と名高い彼らの師団が動けないのは歯がゆいはずだが、微塵もそんな気持ちを見せないクレイグは歴戦の軍人と言えるだろう。
(フフフ、息子よ。あれはただの素だ)
(我ノ目ニモ、タダノ親馬鹿ニ見エル)
二人からすれば、単純にオンとオフの切り替えが上手いだけらしい。
リィンが鬼の力を使うか使わないようなものか、と思いながらそれは違うと否定されながら再び正門へ向かうと、見慣れた長い黒髪とカチューシャを身に着けた少女、つまりエリゼの背中が見えた。
リィンは声をかけようとするが、その隣にはなんとミュゼが同行していた。
「エリゼ、それにミュゼも?」
「兄様、お久しぶりです」
「先日ぶりですね、リィンさん」
優雅に一礼する二人をよそに、リィンはエリゼはともかくどうしてミュゼがここに居るのかを尋ねる。
無論、学院祭なのだから来ることはおかしくないのだが、ミュゼは基本的にアポイントメントを取る少女なので突然の訪問に驚いたということもある。
「ミュゼは私が連れて来たんです」
「エリゼが? 友達同士で楽しむってことなら、俺は適当に……」
「いえ、兄様がミュゼと何やら色々やっていたことに関して、色々聞きたいと思っていたのです」
「マクバーンさんの件ならもう済んだぞ。ああそうだ、前に言ってた男の友達候補、無事友達になったぞ! 時間が合えばエリゼにも紹介するよ」
「リィンさん、そういうことでは……」
「ならどういうことだ?」
「……先日以来、どうもミュゼの様子がおかしいのです。兄様が何かしたのではありませんか?」
ジト目で尋ねられるも、リィンにはとんと覚えがない。
したと言っても、ブリオニア島の決戦で彼女が折れた時にアドバイスを送った程度だ。
(フフフ、息子よ。お前は衝撃から意図して忘れるようにしたのだろうが……年頃の少女が男子と混浴して気にならない、というのは中々難しいのではないか?)
(あー…………)
リィン自身、動揺であの時のことを意識しないようにしており、学院祭のこともあって今まで思い出さなかった光景が一気に頭に浮かぶ。
少し顔を赤くしながらも、流石にそれをエリゼの前で言う勇気はリィンにはなかった。
が、リィンの考えを見抜いたミュゼがびくりと体を震わせる。
エリゼは腰に両手を当てながら、義兄を見上げた。
「せっかくですから、色々ご説明……お願い出来ますよね? 兄様、ミュゼ」
――ブリオニア島で死にかけたこと、友になった人やお世話になった人達と混浴したことなど、リィンは洗いざらい自白した。
ミュゼから間接的にバレて嫌われるより、正直に言って軽蔑されるほうを選んだのだ。
だがエリゼは軽蔑でなく、ミュゼをなんとも言えない表情で見ている。
ミュゼもまた、エリゼの視線の意味を把握しており汗を垂らしながら必死で目を反らしていた。
混浴のことで怒っているのだろう。
ならば、ユミルへ帰省した時に結社さんという女性とのことも語るべきかと思ったが、ヴァリマールですら認識出来なかったあの少女のような女性のことを言っても伝わるとは思えず、結果的に黙ってしまう。
あの女性をそういう意味で説明することを躊躇してしまったのだ。
「ミュゼ、貴女……本気に――」
「ま、まさか! そんなことないでしゅ!」
噛んでいる。
その動揺から兄妹水いらずの邪魔はしません、と逃げようとする彼女の手をエリゼが包み込む。
エリゼが抱えている感情を思えば、ありえないと思うくらいに優しかった。
「別に怒っているわけじゃないわ。ただ、友人として妹として色々……ね?」
「先輩、その色々が気になるのですけど!」
「えーっと、とりあえず回るなら行こうか?」
謎の熱気を放つ
*
その後、二人を案内したリィンはステージに向かうために離れることとなる。
だが大事な妹とその友達を放置することも出来ず、どうしようかと悩んでいるところにアルノール三兄姉弟と護衛のクルトがちょうど学院祭にやってきた。
これ幸いと二人の案内を頼み、午後のステージへ向かうリィン。
本来はヴァリマールを使った空中ステージの予定だったものの、肝心の騎神は大破したため従来のステージが行われることとなった。
ユーシスとマキアスのダブルボーカル、エマのソロパートにフィーとミリアムが舞台を舞う華やかなステージは大いに観客を盛り上がらせる。
この日のために練習してきた、エリオット指導の導力楽器によるBGMも決してボーカルに負けることなくパフォーマンスを発揮する。
リィンも演奏しながら、視界の端で多くの知り合いがステージに注目していることに満足しつつも、視界に端にこっそりとある人物達が入って一瞬だけ手が止まる。
それは、壁に背を預けながら妹の勇姿を見守るミスティ……そして、その隣にやってきたマクバーンとローゼリア、トマスにシャロンの姿だった。
ミスティは眼鏡と帽子を落としてしまいそうなほど驚いていたが、マクバーンが静かに口元に指を立てると咄嗟に口を塞ぐ。
その様子を見て笑うローゼリアと、こちらへ手を振るトマス、やや疲れた表情ながらアリサへ目を送るシャロン。
そして、マクバーンがこちらへ指を立てた様子を見やり――リィンは、満面の笑みを浮かべながら嬉しさのあまりに発動した鬼の力で導力楽器へ再び手を走らせていく。
当然勢いが付きすぎる演奏に一同が動揺するのも一瞬、エリオット主導ですぐさまリィンの演奏が目立つよう切り替えていく。
これは、エリオットが事前にリィンのことだから多分こうなる、と予見し彼以外のメンバーに備えるよう言いつけていた音楽への愛の勝利である。
当然パフォーマンスとしては盛り上がることに間違いなく、演奏終了後、観客からのアンコールが会場を揺らす。
そして、それも織り込み済みだったリィン達は、専用に練習していたアンコール曲を観客へ届けていった。
*
トールズ士官学院の学院祭も無事に終了し、後夜祭の時間となる。
来場者アンケートによる、各出し物への投票で見事に一位を取ったⅦ組は、疲れを取る暇もなくそれぞれ家族や友人達の元へ向かう。
キャンプファイヤーに照らされる明かりの中、各々がダンスを始めていく中でリィンが向かったのはマクバーンの元だった。
クロスベルで何をしてきたかはわからないが、今は学院祭。
後日、改めて聞けばいいのだから今は今出来ることをするべきだろう。
子犬のように自分に向かうリィンの姿に、マクバーンは盛大に呆れのため息をついた。
「おい、なんで俺のところに来るんだよ。お前なら誘う相手はたくさんいるだろう?」
「いえ、まずマクバーンさんと踊りたいと思いまして」
「はぁ?」
「別に男同士で踊ってはいけないルールもないですしね」
「だからってそれはねーよ。ほれ、さっさと魔女の嬢ちゃんなり妹なり誘いに行けっての」
しっし、と犬を払うように振られる手をリィンが取る。
げんなりとするマクバーンだが、リィンの意志は硬かった。
「大丈夫です、エマ達や今回お世話になった人達にも後で申し込みに行きますので」
「だから最初に行けっての……俺ら針の筵じゃねーか」
「祭りは記憶に残ることをしたほうが楽しいですよ」
「そういう意味で残りたくねーっての。こっち巻き込むなっつーの……」
とは言いながら、諦めたのかマクバーンは明らかにやる気がない状態ながらもダンスに付き合ってくれた。相変わらず面倒見の良い男である。
周りからは怪訝な目で見られたものの、踊っているのがリィンだと知ればなんだ、ただのシュバルツァーかと言わんばかりに生徒達は視線を元に戻す。
四月から積み重ねてきたリィンへの信頼が大きく現れていた。
そうしてリィンはマクバーンを筆頭に、エマといった友人達、Ⅶ組の面々とヴィクターにローゼリア、マヤに最後はクレアなども巻き込み、時間が許す限りに彼らと後夜祭を楽しむのであった。
マクバーン
「結社にヘイトを押し付ける。リィンの出るステージも見る。『両方』やらなくちゃあならないってのがダチのつらいところだな。覚悟はいいか? 俺はできてる」
ローゼリア
(妾もダチ扱いなんじゃろうか。盟友? ふーむ)
トマス
「なんとか間に合いましたが、後で教頭からの小言が怖いですねえ」
シャロン
「お嬢様のお姿を見るだけで体の疲れが癒やされていきます。これは学会に新説として論文を発表するべきでは?」
ヴィータ
「なにこの面子……」
リィン君が全員とダンス踊ったり語ったりする時間がない?
そんなの…ご都合主義ですよ。