はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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前回書き忘れてしまいましたが、145話への誤字報告ありがとうございます。
記載忘れてすみません。


フフフ、皆の者。みなぎっているな

 意識が白く染まりゆく。

 閉じた視界の如く無限の暗黒に包まれた周囲に光が満ちていき、エマは母の魔術が成功したのだと理解した。

 肉の体と違い、本来触れ合うことのない魂の器に中に入り込んだエマの意識は心という水の中に溶けていく。

 同時に、エマは自分がアストラル体で侵入したのでなく、鍵を空けた扉の中を通っただけのように招かれたということも。

 

 ――だって、そこに広がる世界は自分がちっぽけな存在に見えるほど広大なのだから――

 

(な、ん、ですか……これ……)

 

 目の前に広がるのは、まるで宇宙だった。

 自分が無数に浮かぶ星々の一つ、いやそれ以下の小さな存在だ。

 他人の意識の中に潜るのは初めてといえ、エマにはイストミア異聞録からの記述によって心の景色、精神空間にある程度のイメージを持っていた。

 

 なのに、今エマの目の前に広がる光景はそれらには含まれない。

 魔女に伝わる《外の理》――成層圏を超えた宇宙空間を見ているような気がした。

 

(いいえ、どちらかと言えば大海の底……深海は光が届かない暗闇と聞きます。底なしの黒という点では同じかもしれませんが)

 

 ごぼっ、と口から泡が漏れた気がした。

 即座に口元を抑えるが、当然この身は精神体。

 空気を必要としないため、呼吸など意味がない。

 なのに、今確かにエマの口から泡が生まれた気がした。

 

(イメージに支配される、ということでしょうか。なら……)

 

 エマが意識を研ぎ澄ませる。

 泡沫が漂う宇宙は、そこからイストミア異聞録に記された精神世界……光に包まれた、精霊の道に似た輝く空間へと移り変わる。

 

(やっと記述通りになった。でも、さっきまでのは話に聞く影の国のように、想念が支配する星層のよう……リィンさんの魂に潜っているはずなのに、なんでこんなことに)

 

 エマは当初、リィンの覚醒を阻害する塩の杭の残滓を除去せんと意識に潜った。

 弾丸自体はローゼリア達の助力によって取り除かれているが、弾丸がリィンの心臓に届いたことに違いはない。

 だが心臓に到達した瞬間に起動した神なる焔により、弾頭自体は消滅したものの塩の杭の残滓が心臓に巣食っているというのがローゼリアの見解だ。

 一度は彼女自ら意識に潜ろうとしたが、エマが何も言わずにイストミア異聞録を漁ったことで孫に任せてみようと判断していた。

 

(塩の残滓はまだ見えない……もっと潜る必要が――)

 

 瞬間、来た。

 意識の外から、圧倒的に全てを染め上げる白が。

 

(!?)

 

 エマは咄嗟にイメージで作り出した愛杖を取り出し、魔術を行使しようとするが、遅い。

 構えた杖が塩と化し、その残滓がエマの精神体を飲み込み、消滅させんと波濤を上げ――

 

「フフフ、困るな。彼女は息子の大事な嫁候補なのだから」

 

 聞き慣れた声が響く。

 波濤がエマを呑み込まんとした瞬間、彼女の体が光に包まれて吸い込まれるようにその()()に搭乗する。

 気づけば、エマは先の精神空間を()()()()()()に見下ろしていた。

 

「これ、は……」

「フフフ、エマ嬢。久しぶりだな」

「オズぼんさん!?」

 

 その声は確かにリィンの左腕と共に在ったオズぼんのものだった。

 だが、エマは自分が座っている場所が騎神のコクピット。

 外見こそ見ることは出来ないが、感覚的に繋がっているような気がする。

 つまりヴァリマールの機体というわけだ。

 

「ヴァリマールも無事、なのですか?」

「いいや、ヴァリ君は元より心臓に憑依していた。流石の騎神も思考システムを塩の杭でピンポイントに撃ち抜かれては無事ではない。

 だが、そこでマッ君の神なる焔だ。あれはヴァリ君にも与えられていた。それが確実な人格の消失を防いだのだが……彼は息子同様に休眠状態にある。目覚めるまでは、私が彼の代わりを行っているというわけだ」

 

 灰の騎神オズぼん爆誕である。

 それを想像してしまったエマは盛大に顔をしかめた。

 

「フフフ、心配するな。ヴァリ君が目覚めれば私はすぐにでもあの愛らしい人形に戻る」

小憎(こにく)らしいの間違いでは……い、いえ。オズぼんさんですしね。とにかく、ヴァリマールも無事……ではないですが、生きてるのでしたら安心しました」

 

 驚きをこの程度で済ませるエマは、もうとっくに戻れない場所まで入り込んでいた。

 けれど、ヴァリマールを一つの存在として扱う彼女にオズぼんは喜びの感情を顕にする。

 

「しかし、ここはリィンさんの意識の中のはずですが……一体、今はどうなっているのでしょうか? オズぼんさんがヴァリマールの姿として現れているのはともかく、お母さんの記述と随分と違うようですが」

「今、息子の魂は塩の杭と神なる焔による二つの力がバランスを支配しようと争っているのは承知かね?」

 

 エマは無言で頷く。

 事前の調査でそれは判明していた。

 だからこそ、エマは塩の杭を除去して神なる焔が勝利するようここへやってきたのだから。

 

「その調査に間違いはない。だが、予想以上に二つの力は相性が良かった。マッ君のアングバールが彼の力の影響で、よりその性能を高めたように……

 塩の杭もまた、神なる焔による活性化の恩恵を受けて残滓から徐々に力を増しているのだ」

 

 それが先程エマを襲った波濤……力を取り戻しつつある塩の杭の片鱗だったようだ。

 魔女である自分まで騎神に搭乗するなんて、と思ったが今更だった。

 

「流石に幽体であれに襲われてはひとたまりもない。故に私はエマ嬢を守る鎧としてヴァリ君の姿を借り受けたわけだ」

 

 オズぼんは本来、人形としての姿でエマに話しかけようとしたようだ。

 ただ、アストラル体の外見は言ってしまえば裸のようなものだ。

 心をむき出しにしているという意味では全裸よりも恥ずかしい気がする。

 一人だからこそあまり気にしなかったが、見られている相手が居るとなると急にエマは気恥ずかしくなった。

 そんな彼女の左腕にくっつこうとしたオズぼんは、リィンの父親なのだとエマは理解した。

 だがそんなエマの心情を読んだかのようにオズぼんは弁明する。

 

「誤解だエマ嬢。妻を持つ身なのだよ? だから目を閉じているから見ておらず、そもそも思春期の少女にそのようなことはしはせんよ。しいて言えばそうだな、書物にある魔法少女なる存在をサポートするマスコットのように手助けしようとしただけだ」

 

 何故だかⅦ組女子全員がくしゃみをした気がするエマだった。

 自分もむずむずする、はずのない鼻を理性で抑えつつ、助けてくれたことは確かなので感謝はしておく。

 

「改めて、助けていただきありがとうございます、オズぼんさん。でも嫁候補ではないので。ありませんので。絶対に」

「うむ。仮にだが、神なる焔が食らい尽くされてしまえば、息子は意志を持った塩の杭となるだろう。触れれば他者を塩へ変える最悪の魔人の誕生だ」

「絶対に、させません」

「同意だ」

 

 目的を同じくする頼もしい仲間を得ながら、エマはオズぼ……ヴァリマールに乗りながら魂の底へ降りていく。

 やがてそこへたどり着いた瞬間、エマは世界が変わったと認識した。

 

「あ…………」

 

 魔神化したマクバーンに似た、あの人外の巨人と全身を白に染める巨人の一騎打ち。

 互いに殴り殴られ、その形を少しずつ崩しては体の残滓を世界に撒き散らす。

 それはまるで血しぶきのようで、古来に伝わる決闘の光景を思い起こさせた。

 

「あれがリィンさんの魂に絡みつく力……」

 

 自然と、エマは体に力が入る。

 ブリオニア島の決戦では途中で気絶してしまったが、それでもエマは魔神の力は理解している。

 その魔神の形を作る神なる焔が、押しきれていない。

 塩の杭は話にしか聞いたことがないが、一つの国を半壊させた脅威はまさしく《外の理》と言えた。

 

「フフフ、エマ嬢。大きなものに目を奪われるのは自然だが、本当に見るべきものを見落とすべきではない」

「!? あ、あれは……!」

 

 オズぼんの指摘に、エマは二つの巨人の傍にリィンの残滓を発見する。

 彼の姿はエマと同様のアストラル体であるが、四肢のない首と胴体だけの状態であり、なおかつ幽体としての不安定さを示すように陽炎の如く揺らめいている。

 

 ある種凄惨としか言えないリィンの姿にエマが言葉を失う。

 だが、そこに魔神の拳が塩の巨人の顔を殴り、次いで繰り出された回し蹴りが大きく巨人を削っていく。

 するとリィンの幽体に変化があった。

 失われた四肢が徐々に復元するように再生し、健常の姿を取り戻していく。

 逆に塩の巨人が優勢となればリィンの姿は再び体を失う。

 ある意味わかりやすく、彼の状態を示していた。

 

「オズぼんさん……」

「うむ。事は実に単純明快、神なる焔と共にあの塩の巨人を倒せばいい」

 

 それはわかっているが、シンプルだからこそ難しいとエマは感じていた。

 それでも戦わなければリィンが目覚めないというのであれば、善き魔女として彼を覚醒へ導くのみ。

 

「行きますっ!」

 

 エマはイメージで作り上げた愛杖を騎神サイズに肥大化させ、ヴァリマールの手がそれを掴む。

 そこから放たれるアーツの魔弾は横合いから殴りつけるように塩の巨人を襲った。

 塩の巨人はエマの攻撃を認識していない。

 故に確実な不意打ちとして魔弾は炸裂した。

 だが、びくともしない。

 小揺るぎ一つ起こさず、塩の巨人は神なる焔との殴り合いを再開する。

 今度はアーツによる炎を使ってみるが、同じ。

 塩の巨人は動きを止めることはない。

 

「攻撃が通じてない……!」

 

 決してエマの攻撃が拙いというわけではない。

 けれど、足りない。

 あの魔神に対して、《理》に至った武の至境達でさえ防戦一方となっていたように、隔絶した壁が彼女の介入を許さなかった。

 

「オズぼんさん、これは……」

「うむ。生半可な力では無理と察してはいたが、予想以上だ」

 

 焦りもなくオズぼんが言う。

 ならば打開策はあるのですかと尋ねれば、当然あると答えが変える。

 

「エマ嬢。ARCUSを具現化するがいい」

「ARCUSを?」

「足りない力は絆で補う。それが息子の……諸君の戦いだったはずだ」

 

 言われて、エマは苦笑しながらARCUSを生み出す。

 意識へ潜る直前、ベリルとロジーヌがリィンの両手を握ってくれていたこともあり、その縁はすぐに感じ取ることが出来た。

 エリンから縁は広がり、今は遠く離れたⅦ組の仲間達。

 彼ら彼女らが重心となり、そこからさらに広がっていくリィン・シュバルツァーが作り上げた絆はARCUSを起点に広がっていくのを感じた。

 

「転位だ、エマ嬢。気持ちをここへ転位させるのだ。ARCUSが紡ぎ、魔女が記す絆の力を、ここに集結させる。だが軽い想いではいけない。ARCUSへ魔術を転写させても、言葉(想い)は僅かなものしか届かない。ならば、彼らに伝わり、なおかつここまで響かせるものが必要だ」

「大丈夫です、すぐに浮かびました」

 

 エマは深刻な事態の割に軽い言葉を吐く。

 絆、つまりリィンが築き上げた縁に対して、彼らが想いを同じくしているであろう言葉を言えばいい。

 そんなの、最初から決まっていた。

 

「ならば後は君達の奮闘に期待するとしよう」

「ええ、見ていてください。――絶対に、届きます」

 

 エマは魔術(想い)を問う。

 おそらく現状のリィンは行方不明という扱いだ。

 彼を知る人、気持ちが近い人ならば生存を疑っていないかもしれないが、それでも動けない事態であることは予想していると思う。

 軽い知り合いだとしても、リィン・シュバルツァーに関わったのであれば必ず浮かぶ気持ちを、エマは伝えた。

 

「皆さん――今から、リィンさんを起こします。ぐーで」

 

 エマが告げたのは、その一言。

 言葉として伝わるものもあれば、その中に含まれた気持ちだけが届く者もいた。

 この想いは彼と接していれば、一部の例外は別としてほぼ確実に浮かぶものだ。

 一発ぽかっとしてやりたい気持ちは、大なり小なり抱えているものだと判断している。

 エマはすぐにヴァリマールを操作して、本体が失ったはずの右腕の拳を握りしめる。

 彼女自身はARCUSを握り、同じように構える。

 右手に生まれた光は徐々に輝きを強め、集まる光がエマを通してヴァリマールへ伝わっていく。

 

 帝国中から――一部、クロスベルの壁を超えて想いが集まっているのをエマは感じた。

 皆思っているのだ。

 ふざけるな、リィン・シュバルツァーと。

 助けられたことはある。

 あの人が居たから、二転三転して生まれた結果もある。

 だが、それはそれとして我慢ならないものが一つや二つや三つや十は各々抱えているはずだ。

 それらが束ねられた拳は、エマの考え以上の輝きを以て応えた。

 

「フフフ、これも息子の日頃の行いというやつか」

 

 オズぼんに対してもぐー、という気持ちが浮かんだが、これは数人しか共有出来ないのでやめた。

 もし実行してれば、その数人が恐ろしい実力者ということもあって今以上に輝きが強まったことだろうが、これはリィンに対してのものだ。

 ならば、ぶつけるのはリィンへの想い(不満)だけでいい。

 神なる焔と塩の巨人が争う中、エマの乗るヴァリマールが静かに発進する。

 オズぼんが機体を操作するということで、エマがすべきことはとにかく拳に気持ちを集めることに集中すればいのだ。

 神なる焔を形どる魔神が崩した隙に、オズぼんは恐ろしく俊敏に塩の巨人の懐へ侵入した。

 あとは拳を突き出すだけ。

 ならば、エマが束ねて紡ぐべき言葉は、一つだけだった。

 

「いい加減に……してくださああああああああああああああい!」

 

 かくて拳は振り上げられる。

 寸分の狂いなく塩の巨人の心臓を穿ったヴァリマールの拳に、神なる焔が姿を崩してその拳にまとわりつく。

 かつて劫炎の記憶を取り戻した一撃、焔の騎神の如き拳が精神世界ごと全てを打ち砕き――

 

「あー、死ぬかと思った」

 

 リィン・シュバルツァーは、現実世界でそんな言葉と共に目覚める。

 その場に居た全員が顔を合わせ、代表で飛びかかったセリーヌの猫パンチがリィンの顔に突き刺さるのであった。




紡いだ縁を信じるべし(物理)
アストラル体のみんなが登場して、Ⅳの断章の如くそれぞれの言葉で復活!

シリアス「そんなふうに考えていた時期が、私にもありました」

ここのリィン君へ言葉を一つ送るなら、って考えたら自然とこんな展開に…
サブタイトルでオズぼんが復活してるのですから、是非もないよネ!

シリアス展開希望してた人はすみません。これがこの作品らしさかなってことでご勘弁。
Ⅱ編でもちゃんとシリアスさんは時折挟まれると思いますので…
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