「ほー、周りに何の被害もないとはすげえ制御力だな。お見逸れするぜ」
ルトガーはそう言って、ため息をつくヴィータへの称賛を送る。
リィンが見た、天より飛来した巨大な氷塊はユミルに落ちた。
そのことに偽りはなく、一般の家屋と同質量の氷は砕けて散れば間違いなくユミルを破壊し尽くしただろう。
「この程度は魔女としてはそう難しいことじゃないわ。猟兵だって
「それは言えてるかもしれんが、街中で大砲ぶっ放して
言いながら、ルトガーは氷塊の下で全身を砕かれた
ヴィータはユミルを攻撃したのでなく、ユミルへ足を踏み入れようとした魔煌兵をその魔術で破壊したのだ。
しかも魔術による余波で広範囲に被害が及ばないよう、対象と周囲の空間を隔絶させた上で、だ。
魔煌兵の周囲は一種の異空間となり、その中で高位アーツなどを使っても一切の余波を漏らすことはないだろう。
言ってしまえば簡易の《匣》を生成し、そこに魔煌兵を閉じ込めた上で破壊したのである。
当然ながら異空間を作り出すこと自体が高位の魔術であり、エマでさえもまだ届かぬ領域だ。
それを事も無げに行使するヴィータは、どれだけ状況に振り回されようが紛れもなく最高位の魔女なのである。
「なんで私が貴方の尻ぬぐいをしなきゃならないんだか。そもそも、リィン君でもないんだし猟兵王ともあろう者が騎神を迂闊に使いすぎでなくて? ここは妹の友人の故郷。そんな場所で被害を起こしたら、何をされるかわかったものじゃないわ」
魔煌兵は、帝国の古き魔術師達が騎神へのカウンターとして生みだされたものだ。
それはすなわち、騎神が居ればそれを殲滅するために動くということでもある。
ヴィータはエマが使うものとは別の魔煌兵の波動を感知し、ユミルへ向かった。
魔煌兵が動くということは、そこに騎神が存在する可能性が高いからだ。
マクバーンから言われた言葉もあり、まさかと思い駆けつけたヴィータが感知したのは
人違いだったのは残念だったが、それでも騎神の起動者とこうして顔を合わせることが出来たのは僥倖であると思っていた。
そして渓谷道でなくユミルの直前にまで迫った魔煌兵に何もしなかったのは、てっきりルトガーが処理すると思っていたからだ。
ユミルに居るルトガーに向かっていく魔煌兵だったが、本当に何もしなかったので慌ててヴィータが魔煌兵を破壊したのである。
リィン達によって悪女の皮を剥がされたヴィータは、どうあっても根が善人なエマの姉であった。
ルトガーはヴィータの物言いから、精霊の道を使って転位した灰を紫と誤解していると推測する。
葉巻を取り出し、一服しながらも思考に意識を傾ける。
(妙だな。俺はユミルに来てからゼクトールを呼び出した覚えはねえ。感知するとしたら灰の波動のはずだが、《深淵》ほどの魔女がそう簡単に勘違いするか?)
何やら、第三者の思惑を感じるルトガー。
とはいえ、自身と《闘神》の戦いも第三者によって意図的に誘導されたものだ。
彼らならばそんなことも出来るが、この場でそれをする理由がない。
そもそも、《北の猟兵》がユミルへ来ることをルトガーが知ったのはある情報提供者のおかげだ。
普通に考えれば、その情報提供者が自分達を引き合わせるために仕組んだと判断出来るが、ルトガーはさらなる第四者が居るような気がした。
(やれやれ、一体誰が導いてるか知らんがこっちはこっちのお勤めを果たすとしようかね)
ルトガーは痙攣でしかない身じろぎをする魔煌兵に大槍でトドメを刺し、異次元へ送還されるさまを見送りながらヴィータに問う。
「さて、ここに来た理由はわかったが俺を探す理由はあるのか? 付き合ってくれるっていうなら、今から一杯案内するぜ? 何なら温泉にでも一緒に入りたいくらいだが」
「生憎と、初対面の男に肌を見せるほど安くないの。それに予定が詰まってるからお断りさせていただくわ。
それと、場所は移動しましょう。処理したといえ、また魔煌兵が湧いてくる可能性もなくはないのだし」
そう言うと、ヴィータとルトガーの足元に転位陣が生まれる。
気づけば二人は、ユミル渓谷道にある石碑の前に立っていた。
「貴方の
「いや、構わねえさ」
ここはリィンが鬼の力に目覚めた場所。
最近ではデウスアーツと命名したロア・アークルージュを使うため、かつてリィン達Ⅶ組と上級生達による小旅行の際、ここにある精霊の力をローゼリアが借り受けていた。
「……単刀直入に聞くけど、私と組む気はない?」
「ならさっき言った――」
「その気もないくせに、女に払わせるだけ払わせて捨てる気?」
「クク、そこまで安い女じゃないって言ったのはお前さんだろうに。だが、解せないな。どういう理由で協力を求める?
別にお前さん、本気で皇女様を求めてるわけじゃないんだろう?」
ルトガーは何のためらいもなく匿われているはずのアルフィンのことを言う。
この魔女は、すでにアルフィンのことなどとっくに突き止めている。
北の猟兵の始末に手を貸さなかったのは、単純にリィン達だけ(ヴィータから見れば西風の新人とシュバルツァー親娘)で足りるという判断。
わざわざ遠見の魔術で、彼らの戦いを中継してくれたのが良い証拠だ。
「北の猟兵と戦っていたのは、リィン君の父親と妹でしょう? 彼らが傷ついたら介入しようと思ったけど、思ったより強かったからその必要はなかったもの。それに、貴方のところの新人もかなりやるみたいだし」
「深淵に褒められたなら、あいつも喜ぶだろうさ」
破顔するルトガー。
リィンには八葉一刀流……つまり今までのリィンの立ち回りを匂わせないよう指示していた。
無手の型とされる破甲拳を使ったのはマイナスだが、明らかにルトガーへの反骨精神から来るかわいいものだ。
フィーにされたらやけ酒してしまいそうだが、ああいった年頃の少年の反発は微笑ましく感じるのである。
何より、ヴィータが気づいていないのなら及第点だ。
(
魔煌兵を瞬殺してみせたヴィータは因果を操る魔女だ。
当然因果を操る上で他者の把握など簡単なものであるが、ここで問題になるのは今までヴィータが知覚していたのは、鬼の力を持つリィン・シュバルツァーだ。
ルトガーもかつてノーザンブリアで彼との戦いにおいて、リィンが使った鬼気解放の力は実感している。
使っていなくても、その身に眠る鬼の力はリィンの存在感を段違いに上げていた。
例えるならば、木だろうか。
かつてのリィンの存在感を森林の中心にそびえる大樹に例えるなら、今の彼は森の中にある少し大きめの木といったところだ。
リィンの存在感は鬼の力によるものが大きく、その霊的な力で他者を知覚している魔女からしてみれば誤解してもおかしくはない。
逆に言えばそういう迂闊なところに人間味を感じるのだが、指摘すればあの氷塊が自分に向かってくることを確信していたため、ルトガーは何も言わなかった。
「つまりなんだ、リィンのご機嫌伺いのためにここへ来たのか?」
「その言い方は癪に触るけど、結果的に見ればそう見えるかもしれないわね。ただでさえ予測出来ない彼
あの劫炎と真っ向からぶつかり合い、友好を結んで、結社から引き離した時点で彼らを予想なんて出来るはずない。
そんなリィンのことについて唯一絶対に予測出来るのは、家族についてだ。
オズぼんとの日々により、家族や友を己の命以上に大事にするリィンが身内を傷つけられたと知ればどうなるか。
アルバレア公爵であろうと、おそらくリィンは家族や故郷が害されたのであれば報復に向かうことは簡単に予想出来る。
だが、今それをされたら困るとヴィータは言う。
己が導き、今は鬼に呑まれた蒼の暴走を鎮めるために、抑止力は多いに越したことはないのだ。
「まだ会ったことはねえが、随分とまあ聞かん坊になってるみたいだな。取引ってのはそれを抑える協力か?」
「間違いではないわね。貴方も不死者となったのなら《相克》については理解しているのでしょう?」
「
無言で頷くヴィータ。
リィン達がマクバーンより教えられた《幻焔計画》。
それは焔の至宝と大地の至宝が融合して生まれた鋼……《巨イナル一》の再錬成計画である。
あまりにも大きな力のため、かつての魔女と地精によって本体と力を分離。
本体は高次元に隔離され、力は下位次元……リィン達の居るゼムリア大陸に騎神として分割された。
それら七つの騎神を元に戻すための儀式、それが《相克》なのである。
「《相克》の舞台に世界を巻き込む必要はない。この内戦で条件を整えて見せてみせる……と思っていたけど、根本から予定が狂ってしまったの」
だが、その相克を満たすには条件がある。
言ってしまえば世界を闘争に満たし、その結果は世界全てを巻き込んだ世界大戦という舞台を整えてようやく条件が揃うのだ。
今でこそ《身喰らう蛇》に所属しているが、元々魔女の眷属として活動していたヴィータにとって、世界を崩壊する要因でしかないそれは決して許容出来るものではなかった。
「元々灰と蒼の《相克》を持って結末のすり替えをしようとしていたのだけど、現状はご覧の通り。なら」
「ルーファス・アルバレアの金か俺の紫で《相克》を果たそうってことかい?」
「どうあっても避けられない結末なら、早いか遅いかの違いでしょう?」
「検証がしたいだけなら、別に俺じゃなくても金のほうがいいんじゃねえか? そっちの陣営だろう、一応」
「今、彼に別のことをさせれば内戦は終わる。それだけギリアス・オズボーンの影響があるの」
金に、あるいはルーファスに何らかの問題があるのかと思ったが、単純に《貴族連合》が押され気味のようだ。
内戦が始まって約半月。
当初は機甲兵という新兵器に押されていた正規軍だが、半年前からリィン達が仕入れた機甲兵の情報や実物の確保、何よりオズボーンの手腕によって戦線は正規軍有利となっていた。
蒼の乱入があるためひと押しが足りない状況と聞くが、逆に言えば騎神もなく有利を取っていると言える。
鉄血宰相が軍人上がりということは知っていたが、予想以上の戦上手であるらしい。
一緒に仕事出来たら、あるいは敵対しても面白そうだとルトガーは愉悦の笑みを作る。
「内戦自体は無干渉で通すつもりだったけど、クロウのこともあるし、何よりまだ準備が整っていない。このままでは私の計画を起こす前に鉄血宰相が勝利してしまう」
「だから俺に《貴族連合》側になってもらって、時間稼ぎをしてもらおうってハラか」
その台詞にヴィータは沈黙する。
対してルトガーは、携えていた大槍をヴィータに向ける。
その行為が、彼の返事を雄弁に物語っていた。
「猟兵に依頼を持ち込んでるんだ。依頼料もなしに話だけ聞かされても、何ひとつ心に響きやしねえよ」
「もちろん報酬は相応のものを――」
大槍の切っ先から、殺気の弾丸が放たれる。
引き金を押していないにも拘らず、ルトガーが漏らすそれが言葉となってヴィータへと放たれた。
「お嬢ちゃんは猟兵ってモノをわかっちゃいないな。それとも近くに居たのが《北の猟兵》だからそれが猟兵の価値観とでも思ってるのか?
――別に俺はミラが欲しくて猟兵をやってるわけじゃねえんだよ。ミラはあくまでついで。俺が猟兵をする本質は、生と死を戦場で直に味わいながら渡り歩きたいってだけさ。流儀も誇りも、どっちも外面を誤魔化す衣装なだけで、俺を示してるわけじゃない」
「……呆れた男。ジャケットのトレードマーク、ハゲワシがモチーフなのかしら」
「ハッハッハ! 言っただろう、俺達は生も死も味わうって。死肉で生きてるそいつらと一緒にされちゃ困る」
「つまり、交渉は決裂ってわけね」
「最初からな。確かに《相克》は趣味じゃねえが、元より一山いくらのミラのために生きてる男だ。何より――」
言葉を言い切る前に、すでにルトガーはヴィータの目の前に殺到していた。
「この業界じゃ、ダブルブッキングはご法度なんだよ」
ルトガーが薙いだ大槍に手応えはなく、標的であるヴィータは短距離転位によって空へ浮かんでいた。
見てから避けたというより、予め条件付けしておいた転位が起動したと伺える。
「それは残念。なら、私も交渉の仕方を変えるだけ」
ヴィータが掌中に杖を召喚する。
かつてローゼリアより譲り受けた、緋杖メルゼブルク。
焔の眷属に伝わる古の秘術が集約された緋き杖は、ヴィータの魔力によって蒼き杖へと変化している。
それは、紛れもなくヴィータが杖に相応しい魔女であることの証左。
「へえ、逃げないのか?」
「ある意味予想通りではあったからね。それに……言ってはあれだけど、割となりふり構っていられないの。何より――貴方を捕らえれば、地下に潜ってる地精の情報も得られるでしょう?」
言下、ヴィータの周囲に霊力によって生成された魔剣が次々と生みだされて展開する。
その姿は、先程リィン達が撃退した《北の猟兵》達のような統一された動きだ。
同時にルトガーは、目の前の魔女を確実に捕らえると意識を切り替える。
激突は同時だった。
ヴィータの周囲を守り、時に向かってくる魔剣小隊をルトガーは大槍に仕込まれたライフルで撃ち落としていく。
《深淵》と称され、エリンでも類を見ない才女が作り出す魔剣はその一つ一つが鋼鉄をバターのように切り裂く力を秘めていた。
対するルトガーの大槍も、黒の工房と呼ばれる場所で作られた
ルトガーの技量と力で振るわれるそれは、魔剣の第一陣を苦もなく撃ち落としていった。
「さて、次は……!」
魔剣をしのぎ、逆にこちらから攻撃を仕掛けようとしたルトガーの体が止まる。
弾幕を展開するために足を止めたほんの数秒の間に、彼の足元には周囲一面ごと氷に閉ざされていた。
「砕けなさい」
「そっちがな」
だがルトガーに焦りはない。
自分の体を抱えるように頭を下げたと思った瞬間、ルトガーから放出された黒い闘気が爆発するように広がっていく。
そうしてルトガーは、己の足を凍らせる戒めを闘気だけで砕き解き放たれる。
魔剣の群れを掻い潜った先、ヴィータの細身の体躯に向けて飛びかかる―ー寸前、ルトガーは弾けるようにその場を離れた。
瞬間、ルトガーが今まで占めていた空間に放たれる蒼の息吹。
ヴィータをその雄々しい翼で守るように羽を広げた蒼い鳥、彼女の使い魔であるグリアノスが肥大化した体でブレスを放ったのだ。
ルトガーは若干のもったいなさを感じながらも仕事を果たすべく避難した先で手を掲げた。
「来な、ゼクトール!」
このまま生と死を味わう勝負に没頭したいのはやまやまだが、相手にその気がないので仕事を果たすことを優先する。
起動者の呼びかけに応じ、紫を関する騎神がこの場に召喚――されなかった。
「なに?」
「起動者と戦おうって言うのに、無策で挑むはずはないでしょう?」
見れば、ヴィータの杖が蒼い明滅を繰り返して何らかの力を発動している。
ルトガーはそれが、騎神への念話を妨害する結界のようなものを構築していると予測する。
だが、今までヴィータはそんな素振りを見せていない。
仮に結界があれば即座にルトガーが内側から破壊するからだ。
ならば、答えは一つ。
「即興で転位妨害してんのか」
「ご明察。前にそれで嫌な目にあったことがあるのよ」
ヴィータの脳裏に思い返すのは、帝都で特異点ごと《匣》に覆われたことで転位が使えなかった苦い記憶。
それを克服するため、何よりオズぼん対策に編み出していた術式だ。
そんな経緯から生みだされた転位妨害は、ゼクトールの召喚を封じる成果を上げていた。
勝手に転位先を変更されたリィンとの出会い。
正直、あれが現状の全ての原因とさえヴィータは思っていた。
だいたいあっていた。
原理は実に単純、騎神へ起動者の声を届かせぬよう妨害しているだけだ。
元々ヴィータは魔女の眷属、騎神に関する知識は豊富であり術式の原理に干渉出来るのは至極当然のことだった。
「グリアノス」
ルトガーの背後に降り立つ瑞鳥が放つ冷気に、ルトガーの体に霜が立つ。
黒い闘気を超えて体感するそれに、ルトガーは笑みを浮かべた。
「へえ、魔女ってのはそこまで戦闘巧みなイメージはなかったが、良い意味で覆されたぜ」
「生憎と、貴方とのダンスに付き合う暇はないの。……さあ、吐いてもらうわよ。地精の情報を」
ヴィータの魔眼が解放される。
ローゼリアやエマが使う催眠魔術は、当然ヴィータも当たり前のように修めている。
ルトガーほどの相手となると成功率などあってないようなものだが、計画の崩壊と蒼の暴走で追い詰められた彼女の気迫はその道理を覆しルトガーの脳裏に微睡みを与え始めていた。
それでもなお、ルトガーは余裕の笑みを崩さない。
「まだ何か出来ると思っているの? 援軍を期待しているようだけど――」
ヴィータの言葉を遮るように、一発の銃弾が戦場に割り込む。
だが、射線に中に納められたグリアノスの氷の羽根一枚砕くことなく銃弾は体毛によって遮られ、一瞬で凍り付いたと思えば砕け散って雪原に落ちて行く。
視線の先で、猟銃を構えたテオが驚いている様子が見えた。
「あんな豆鉄砲ではグリアノスを超えられないわ。しかし、随分と仲良くなったものね? ある意味羨ましいわ」
猟兵であるルトガーを助けるために割り込んだテオを見やり、そうぼやくヴィータ。
遅れて駆けつけたエリゼが隣に並び、西風の新人が居ないことを疑問に思うもルトガーを助けるべく機を伺っているのだろうと判断する。
これで詰みだ、とヴィータは空から地上へ降り立ち、体をふらつかせるルトガーに告げる。
「さて、まず地精の本拠地がどこにあるかを教えてもらいましょうか」
「ああ、話そう」
片目の光が失われ、朦朧とする意識が勝手に言葉を紡ごうとするルトガー。
ヴィータは耳を済ませて一字一句逃さないとルトガーに近寄り、
「お前さんがな」
「来い、ヴァリマール!」
ルトガーの宣言と同時、
「なっ……ヴァリマール……リィン君!?」
「お久しぶりです、ヴィータさん」
体をひねって背後を見てみれば、そこに映るのは紛れもないヴァリマールの姿。
騎神越しに、クロウに狙撃されて不死者となっているはずの少年の声が響く。
「捕まえましたよ……このままエリンに連行させてもらいます。無理やりにでも、ローゼリアさんやエマに会ってもらいますよ」
「おいおい、俺の依頼はどうなるんだよ」
「少しだけ融通効かせてください」
「わがままな奴だ」
肩をすくめるルトガーはすでに催眠魔術の影響から離れ、グリアノスへ目を向ける。
主を拘束された使い魔の動揺をよそに、すでにリィンは行動を開始していた。
「よし、お誂え向きに石碑の前だ。このままエリンへ――」
ヴァリマールの体が光に包まれ、ヴィータごとエリンへ転位する――と、誰もが思ったその瞬間、ルトガーが叫んだ。
「リィン、後ろだ!」
『――――え?』
その声は、リィンとヴィータが同時に紡いだものだった。
刹那、ヴィータはほぼ本能で転位を発動。
同時に振り向いた灰の頭部、その右側に抉りこまれるように衝撃が割り込む。
「があっ……!」
「兄様!」
「リィン!」
もはや隠すことなどせず、エリゼとテオが叫ぶ。
騎神の頭部を構成するゼムリアストーンがパラパラと砕け、飛び散った破片が舞う中で、リィンは襲撃者の姿を見た。
蒼の騎神、オルディーネ。
灰や紫と同じ、蒼を冠する騎神は何の前触れもなく、突如としてリィンの前に降り立った。
オルディーネ、参戦!
なぜいきなりここに来たかは次の更新で。
次回、閃Ⅰ編で叶わなかったヴァリマールVSオルディーネの初対決です。