はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。野盗退治をするぞ

 アッシュ・カーバイドはいわゆる天才であった。

 何かを学んだことと言えば、母の影響から読書を嗜む程度。

 武術などは特に修めることもなく、天然の体格と地頭の良さで同年代はおろか大人さえも出し抜く強かさを身に着けている。

 同年代と思われる少年(クルト)が使う双剣は感心こそしたが、それでも実際に戦えば自分が勝つと信じて疑っていない。

 年下の少女(アルティナ)が使う妙なもの、戦術殻と呼ぶ人形は不可解で未知なものであるが、少女自身の戦闘力はさほどではなさそうだった。

 故にアッシュは、ここでも自分が率先して立ち回ろうとしていたが――その気持ちは真っ二つに両断された。

 そんな非凡さを持ったアッシュから見ても、彼の剣は一線を画して見えた。

 

 細長い鞘から繰り出される一閃。

 銀光が走るたび、こちらへ向かってくる魔獣は抵抗なく寸断されていく。

 周囲が攻め込む隙を生むために、率先して相手の体勢を崩す一撃を流れるように行っている。

 

 クルトやアルティナはもちろん、アッシュに対しても同じだ。

 彼が使っているのは同行者達が持つ最新鋭の戦術オーブメント、ARCUSではなく裏に流れたものを適当にちょろまかした何世代か前のものだ。

 故に戦術リンクという、意識の同調などアッシュの戦術オーブメントには搭載されていないはずなのに、こちらの意を汲んで倒しやすいように、動きやすいような立ち回りは意のままに動かされている不気味さを覚える。

 

 反骨心から、その流れにあえて逆らった動きをした時も、まるでその動きすら読んでいると思わせるように別の仕込みとして機能し、結果的に無傷でラングドッグ峡谷を進んでいる。

 

「アッシュ」

「……あ?」

「機甲兵とか、その領邦軍崩れはどこに配置してた?」

「あー……動いてなけりゃ山頂方面だ。機甲兵が目立ってたが、野盗の数もそれなりに居たぜ?」

「機甲兵を動かしたら、数は問題なくなるだろうさ。達人クラスが居るわけでもなさそうだし、浮き足立ってて連携を崩してくれるなら数を減らすのは簡単だよ」

 

 機甲兵の存在感はアッシュも遠目から見た。

 中古品と断言したものの、稼働を確かめるために動かしていた光景を目撃していたのだ。

 あれに生身の人間が立ち向うのは、自殺願望にしか思えない。

 

「問題があるとすれば、クルト・ヴァンダールでしょうか。《ギアス》を使った実戦は初めてなのでしょう? 戦いが長引いて疲労すれば、騎神との《中継率》が下がると予測されますが」

「その時は俺が割って入るよ」

「未だに灰は本調子ではないでしょう?」

「ヴァリマールが使えなくても、生身で《ギアス》操作の騎神と戦ってデータ取りしてたこともあるからな。デカい相手との立ち回りはそれなりに身に着けてる。まあ、あれは時間がかかるから、短期決戦するならやっぱり騎神を呼ぶほうが早い」

「データを閲覧した時は、ただの自殺願望者にしか思えなかったのですが」

「参考に見せられたけど、同じ意見しか浮かばなかったです」

 

 だが、黒髪の少年リィン・シュバルツァーは気負う様子もなく、ただの野盗退治でしかないと空気が物語っていた。

 

「……アッシュ。左目、どうかしたのか?」

 

 ふと、リィンがアッシュの左目に手を伸ばしている光景を直視する。

 咄嗟に下がり、威嚇するように歯をむき出しにして口元を歪めた。

 

「何すんだ、てめぇ」

「いや、言っただろう。左目からなんか妙なものを感じてな。なんか懐かしいものを」

「だとしてもテメーには関係ねえだろ。おら、さっさと行くぞ」

 

 話題を断ち切るように、アッシュは強引に先頭に出る。

 疑惑を背中に感じながらも、アッシュは隠しきれない苛立ちを覚えながらも、己の目で偵察した機甲兵の元へ彼らを案内していった。

 

 

「止まれ」

 

 リィンは道の先に多くの気配を感じて、先導するアッシュの肩を掴んで止める。

 彼は強引に手を振りほどこうとしたが、握力の強さから本気なのだと察して舌打ちを残しながらも足を止める。

 

「リィンさん、どうかされましたか?」

「知らない気配がこの先にある。数からして、野盗の本拠地ってところか。アルティナ、念の為偵察を頼む。百アージュくらい先だ」

「了解しました」

 

 アルティナは素直に言葉に従い、クラウ=ソラスに乗って光学迷彩を起動させる。

 少女の姿が消えたことに驚くアッシュをよそに、リィンはクルトへ視線を投げる。

 

「クルト、アルティナが戻ったら、テスタ=ロッサを呼ぶ。呼吸を整えておけ」

「……わかりました」

 

 道中の魔獣で軽いウォーミングアップは出来ているはずだが、それでもクルトは緊張に体を震わせている。

 落ち着かせるために軽妙なジョークでも飛ばそうと思ったリィンだが、アッシュが何か言いたそうな目でこちらを見ていた。

 

「どうしたアッシュ?」

「てめぇ、一体何者だ?」

「何者って、トールズ士官学院の生徒だが?」

「その生徒とやらが、なんで帝国の宰相庇ったり出来るんだよ。そもそも、狙撃されて死んだんじゃねーのか?」

「そのこと知ってるのか?」

「ジョセフのおっさんから聞いただけだ」

 

 マヤが知っていたのなら、その父親である彼もその情報を知っていてもおかしくはない。

 トールズ士官学院の生徒、それも赤い制服というだけでⅦ組ということに絞られる。

 その中でも黒髪の生徒はリィンとガイウスしかおらず、ガイウスはノルド人のことを強調されるだろうから、自然とその生徒の実情は絞られる。

 

「アッシュ、この人は……」

「聞きたいって言えばお前もだぜ。いいところの坊っちゃんにしか見えねえし、そんなのがわざわざラクウェルに来るとは思えねえ」

「クルトだけに?」

「すみません、今真面目な話をしてるので……」

 

 クルトに真顔で突っ込まれてリィンは大人しくなった。

 呆れと冷たい目を向けながら、アッシュは続ける。

 

「……かといって士官学院の生徒でもない。とどめにあのチビ……旅人って言い訳は通じねえぞ。一体何が目的だ?」

「内戦を止める。そのために、人を探していてな。あの家に行ったのは、その手がかりを得るためだ。今ここにいる理由は、言っちゃえばついでってことだ」

 

 あまりにもばっさりとした答えに、アッシュは拍子抜けたように目を丸くする。

 嘘はついていない、というよりつく必要がないので情報を隠す理由はなかった。

 ラクウェルの悪童として、幼少時から歓楽都市の中で生きてきたアッシュには、ある程度相手が嘘をついているかどうかの判断が出来る。

 そのアッシュの勘からしても、リィンが嘘をついているように見えない。

 つまり、目の前の少年は本気でこの内戦を止めようと考えていた。

 

「本気か?」

「俺にはどうやっても手段が思いつかないからな。知恵者探しってわけだ。それに、約束もある」

「約束だあ?」

「――お待たせしました」

 

 怪訝そうな目を作るアッシュに、偵察から戻ったアルティナが割り込む。

 半眼でアルティナを見るアッシュだったが、少女は気にせずリィンに内容を報告する。

 

「報告通り機甲兵、ドラッケンタイプが一機。野盗は十数名ほどです」

「クルトが先制で突っ込んで不意打ち。それで行動不能に出来れば御の字だが……よし、テスタ=ロッサを呼ぶから、アルティナはクラウ=ソラスの光学迷彩で隠してくれ。不意打ちを決めた後は、俺と一緒に野盗の相手をする。アッシュはクルトの護衛だ」

「護衛だと?」

「騎神を操縦すると言っても、《ギアス》は搭乗じゃなくて操り人形みたいな遠隔操作だ。アーツ、と呼ぶには物理的だけど、クルトを攻撃されたらまずいからな。流石に戦いながら操作は出来ないだろう?」

「そう、ですね……おそらく、操作に集中しなければ無理かと」

「そういうことだ」

 

 少なくとも、リィンが感じる気配の中に達人クラスは見受けられない。

 リィンにすら気配を隠蔽出来るほどの実力者が混じっていれば、その時は素直にヴァリマールを召喚すればいい。

 

「おい、野盗を相手にするのは俺とお前じゃないのか?」

「……失礼ですが、リィンさんと貴方が組むよりも、私とリィンさんのほうが連携の効果が高いかと」

 

 アッシュはアルティナの言葉に対し、苛立ちを隠さずに睨みつける。

 だが、彼女はどこ吹く風か一向に気にした様子もない。

 事実、クラウ=ソラスを倒せと言われても、明確に攻略出来るイメージが沸かなかった。

 それを自覚しているからこそ、腹立たしい。

 

「ですが、二人で大丈夫なんですか?」

「練度次第だが……生身で厳しくなればこっちも騎神を呼ぶから安心してくれ」

「最初から灰と緋で制圧すれば早いのでは」

「クルトの経験を積ませるって意味合いが高いからな。それに、追い詰められたらすぐ騎神、なんてのを繰り返してたら鬼ディーネに届かん」

「オルディーネです、リィンさん」

「わざとだよ」

 

 その騎神がやられているのだから、リィンの地力を引き上げるのは課題の一つだ。

 マクバーンと多少なりともやり合えたのは、鬼の力以上に頼もしい仲間達が居たからだ。

 だがデュバリィは元々敵であり、オーレリアは《貴族連合》の総指揮官でヴィクターは現在行方不明。

 エマ達のサポートがあったといえ、直接マクバーンと戦えたのはあの三人の達人達が居たおかげだ。

 それらに頼れない今、マクバーンに挑む時以上の成長が求められる。

 編成は決まったものの、未だに納得がいっていないアッシュにリィンは話しかける。 

 

「アッシュ、導力爆弾とかは使ったことあるか?」

「あぁ?」

「アルティナ。左側の内ポケット、真ん中に入ってるのをくれ」

「わかりました」

 

 突然の指示にも、アルティナは素直に従ってリィンから借り受けたジャケットのファスナーを開き、胸元に手を差し込む。

 その際、ちらりと見える白い肌が目に入り、年下の子供といえ、異性ということでクルトは咄嗟に目を反らした。

 アルティナのインナースーツはエリンの時点で見ているはずだが、現在は変装のためにリィンのジャケットという上着を着ているためか、服を脱ぐような行為に見えてしまったのだ。

 アッシュはクルトのその行動にガキに色気づいてんのか、と思ったが口に出さない配慮がラクウェルの悪童にもあった。

 

「アルティナ、人前でファスナーを開く時は見られないようにな。その格好だと誤解されるから」

 

 だがトールズのやべー奴にはなかった。

 

「……不埒な目で見ないでください」

「だったら今後は厚着するようにな」

 

 小型で筒状のそれは、内ポケットの留め具に三つほど仕込まれており、アルティナはジト目でリィンを見上げながらも言われた通り真ん中のものを渡す。

 

「なんだそれ?」

「導力爆弾」

 

 そんなものがジャケットに入っていることに、クルトはぎょっと目を剥いた。

 

「ここが安全ピンだから、外して五秒後に爆発する。半径五アージュくらいだから、俺が突っ込むと同時に投げてくれ」

「当てろってか?」

「当たっても当たらなくても、目くらましと少しだけ動きを止める効果があるはずだ。その間に可能な限り敵を減らす」

「なんでそんなもの持ってるんですか……」

「ユミルに行ってる間に少しだけ本場の猟兵から手ほどきを受けてな。その名残みたいなもんだ」

 

 なんでもなさげに言うリィン。

 色々ツッコミたいところはあったが、敵の前ということもありクルトとアッシュはぐっと堪える。

 特にクルトに関しては、純粋な剣士としては尊敬していたこともあるので、思ったより動揺は大きかった。

 アルティナはユミルでリィンがルトガーから色々教えを受けていたことを知っているので、特に驚くことはなかった。

 

「よし、それじゃあテスタ=ロッサを呼ぶ。作戦開始だ!」

 

 

 クルト・ヴァンダールは才能を持つ若者だ。

 父や兄の使う剛剣を振るう体格こそ得られなかったが、双剣術を学び愚直に努力を行い研鑽を振るう姿は紛れもなく天賦と呼べるものがある。

 だが心はその才覚に付いていけるわけではない。

 体格のコンプレックスに悩み守るべき主にして友との関係を遠ざけることもあり、今も己にとって初の戦場とも呼べる戦いを前に、心臓が早鐘を打っていた。

 

 皇族守護役の仕事ということであれば、八月の通商会議で経験している。

 だが、結局あれはクロスベル警察と特務支援課、そしてリィンの活躍によってクルトが双剣を抜く前に片が付いた。

 九月のルーレにおける、《帝国解放戦線》のザクセン鉄鉱山の占領においても、鉱夫達を人質に取られていたこともあり、戦いらしい戦いを経験するよりも早くⅦ組やルーファスが駆けつけることで事件は解決した。

 クルトにとって、訓練ではない対人戦は初めてであり、それも伝説の騎神を操作してのもの、というのはただでさえ生真面目なクルトに予想以上のプレッシャーを与えていた。

 

(落ち着け……僕が動かなければ、リィンさん達も突入出来ないんだ)

 

 すでにヴァリマール経由でテスタ=ロッサが召喚され、クラウ=ソラスによってその姿を隠している。

 《ギアス》による恩恵で、光学迷彩によって見えないテスタ=ロッサの位置はクルトにも把握しているため、見失うこともない。

 準備は整っている。後はクルト次第でいつでも行動出来る。

 だが、その最初の一歩をクルトは中々始められなかった。

 

 セドリックを直接守るような戦いではない。

 だが、ラクウェルを襲おうとしている野盗団が持つ機甲兵の無力化という仕事は、今後の糧として役立つはずだ。

 そう理解しているはずなのに、体の震えは収まらない。

 自分はこんなにも情けないのか、と半年前に消し去ったはずの弱気が再びクルトの心に生まれようとしていた。

 

「おい、いつまで待たせやがる。それとも、オカルトの影響で動けねえのか?」

 

 そんなクルトに、護衛役として突入組から外されたアッシュが不満そうに文句を言う。

 ヴァリマールが経由させたテスタ=ロッサを召喚したことで、アッシュはその現象が信じられず、一種のオカルトだと言って自分を納得させていた。

 クルトはその言葉に答えない。

 その反応をどう受け取ったのか、アッシュはクルトのARCUSに手を伸ばした。

 

「なら俺があの騎神ってやつを操作してやる。貸せ」

「やめろ、それに無理だ。《ギアス》はいきなり動かせるようなものじゃない」

「だったらそれを習得してるてめぇはちゃんと戦力に数えられてんだ。情けねえ姿見せてんじゃねえよ」

 

 そのぶっきらぼうながら、クルトへの配慮を感じさせる言葉に彼は目を丸くする。

 

「こちとら、故郷を守るために同行を許す、なんて上から目線で言われて腹が立ってんだ。……反抗出来ねえ自分はもっと苛立つけどな」

「アッシュ、君は……」

「だが、ここでブルってるお坊ちゃんにも劣るってことは全然感じねえ。それならお前はこいつを放り投げる仕事のほうがお似合いだ」

 

 アッシュの手がついにクルトのARCUSに触れる。

 このままでは、《ギアス》のクォーツを外されてしまう。

 気のせいか、導力によって繋がっているはずのクルトのARCUSとテスタ=ロッサ以外に、アッシュから漏れるナニカがテスタ=ロッサへ伸びているようにも見えた。

 それはまるで、自分よりもアッシュが操作することを、テスタ=ロッサが求めているように見えてしまった。

 

(…………嫌だ)

 

 それは、自分にテスタ=ロッサを預けてくれたセドリックの信頼を裏切ることと同意。

 ただでさえ、帝国に伝わる伝説の一色にして、救国の騎神たるテスタ=ロッサを操作するという大役を任せられているのだ。

 それをプレッシャーに負けた、なんて理由で譲るなんてセドリックになんと言えばいい?

 もしそれがリィンやアルティナの口からセドリックに伝わってしまえば――守護役を外され、リィンがその役目に収まってしまうのではないか?

 その想像が、何よりそんなことを恩人に対して抱いてしまう自分への恐怖が、クルトの心を蝕んだ。

 

「離せ!」

「っ、テメ……」

「リィンさん、行きます!」

 

 強迫観念に突き動かされるように、クルトはテスタ=ロッサを動かす。

 アッシュは文句を言おうとしたが、()()に走った激痛で強制的に口を閉じてしまう。

 それでも、導力爆弾を投げられたのはアッシュの意地か。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 爆破と同時に、煙を引き裂いてテスタ=ロッサの双剣が機甲兵に叩きつけられる。 

 野盗討伐戦は、こうして火蓋を切っていった。 




今回で決着まで持っていこうと思ったのですが、まだ呪いが完全に除去されてないテスタ=ロッサと贄のアッシュが近づけば影響あるのでは、なんて疑問が浮かんだ結果が引き伸ばしです、すみません。
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