《ギアス》のレベルが上がれば戦技が解禁されるかもしれませんが、神気とかパートナーの恩恵は受けられません。
テスタ=ロッサの双剣がドラッケンの装甲に叩きつけられる。
操作するクルトの剣術まで模倣出来ないため、用意された双剣の軌跡は技でなくただ斬りつけるだけのような、初伝といえある程度の技を学んだクルトからしてももどかしい。
けれど騎神のスペックから繰り出される一撃は、それでも十分に機能する。
煙を割いて現れた緋に驚く間もなく、ドラッケンは小破を免れないダメージを受けた。
(くそ、せめて僕の技量が反映出来ていれば……!)
ただ斬りつけるだけでも、素人とヴァンダールの剣を学んだ者とでは攻撃力に差が出るのは当然だ。
完全な奇襲攻撃は、クルトが生身であったのなら相手を完全に倒しきれたと確信出来るほどのもの。
だが、悔やんでも仕方ない。
元より遠隔操作という手段で強引に騎神を動かしている身。
操れているだけでも十分に御の字なのだ。
「な、なんだ貴様ら!」
それに答えず――答えたとしても遠く離れているので声が届かない――Mクォーツ《ギアス》が輝きを帯び、クルトの意志を反映させて緋が動く。
ガンドルフの工房で用意してもらった騎神用の双剣が振るわれるが、流石に二度目の奇襲は対処されてしまう。
それでも性能差から構えた盾ごとドラッケンを吹き飛ばし、相手の反撃も剣で受け、避け、止めることでテスタ=ロッサへの攻撃を許さない。
それらを遠くから眺めるクルトは、いける、と先程まで抱いていた不安を結果で吹き飛ばしていた。
「ブリューナク照射」
騎神の襲撃によって混乱する戦場へ、クラウ=ソラスから放たれた光線が地を穿つ。
アッシュの導力爆弾が起こした煙を引き裂く光によって野盗達が吹き飛び、その動揺を八葉の刃が傷口を広げていく。
「疾風!」
鬼の力を失ったといえ、リィンの剣は敗残兵の野盗達にとっては脅威以外の何者でもない。
さらに戦術リンクを展開し、疾風の斬撃で飛ばした野盗達をある程度同じ場所に集め、拳を巨大化させたクラウ=ソラスの拳によってまとめて吹き飛ばす。
リィンとアルティナは、出会ってまだ二日しか経っていない。
連携訓練をしていないにも拘らず、即興でこれだけのコンビネーションを見せつけるARCUSは、まさに次世代の戦術オーブメントの名に相応しい性能を発揮していた。
(元々あまり心配はしていなかったが、あちらは任せて良さそうだな)
リィンとアルティナが戦場を蹂躙する様子を眺めていたクルトだったが、そんな彼に向けられた導力銃に咄嗟に気づいた。
だが、すでに相手は引き金に指が触れており、今まさにクルトへ向けて発射される――その寸前、野盗の手にダーツが刺さる。
「いてぇ!」
「どらぁ!」
手の甲を貫通するダーツに苦悶する野盗へ疾駆するのは、護衛としてクルトの傍に居たアッシュだった。
彼は戦斧を薙ぎ払い、導力銃を弾き返す刀で野盗へ打ち込む。
逆袈裟に切り裂かれた野盗が血溜まりに沈む様子を見るクルトへ、アッシュが吠える。
「ボサッとしてんじゃねえ! そっちに集中しろ、坊っちゃん!」
「……坊っちゃんじゃない、クルトだ!」
はっとして、クルトはドラッケンへ視線を戻す。
まだ勝負は付いていないのに目を離したのは、明らかなクルトの失態。
焦りが油断を呼んだのか、ドラッケンの一撃がテスタ=ロッサを捉えた。
機甲兵のブレードが騎神に届き、その衝撃で緋が後退。
初めての明確な一打に気を取り戻したのか、ドラッケンの猛攻が開始される。
クルトはそれらの攻撃に対し、最初こそ対応出来ていたがやがて地力の差が現れはじめていた。
地力と言っても、クルトとドラッケンの操縦者の強さはそこまでの大差はない。
問題は、クルトがテスタ=ロッサを遠隔操作していることに対し、領邦軍崩れというだけあってドラッケンの乗り手はある程度の訓練を行っている。
《ギアス》と騎神を繋ぐ《中継率》がまだ低いクルトにしてみれば、頭では反応出来ていても体が付いていないという感覚に陥っているのだ。
それでも互角に立ち回っているのは、一重にテスタ=ロッサと機甲兵の性能差に他ならない。
そしてクルトは若くして才能を示す優秀な少年だ。
時間がかかるかもしれないが、徐々にドラッケンへ対応する動きに敵の操縦者に焦りが見え始めていた。
勝てる、とクルトはドラッケンの剣を避け、必殺の双刃を叩き込もうとした。
その瞬間だった。
「クルト、後ろだ!」
リィンの叫び声に振り向けば、そこに迫っていたのはもう一体の機甲兵だった。
ドラッケンをベースにした上位機甲兵シュピーゲル。
それが背後からクルトへ迫っていた。
「二体目だと!?」
「援軍なのか!?」
「どちらにせよ、クルト・ヴァンダールへ明確な攻撃意志を感じます」
「バレてるのか!?」
「シュピーゲルのレーダーに、《ギアス》の導力ラインが引っかかったのかもしれません」
野盗をあらかた掃討したリィンの焦燥に、アルティナが冷静に答える。
《ギアス》による騎神操作は、あくまで導力を使ったもの。
ならば、それらを感知するレーダーが搭載されているのであれば、クルトとテスタ=ロッサの間にある戦術リンクのようなラインがシュピーゲルには見えていたのかもしれない。
「緋空連斬!」
咄嗟に放った緋空斬二連だったが、シュピーゲルの装甲の前にあえなく霧散する。
だが狙ったのはシュピーゲルのカメラ部分であり、視界を遮ったことでクルトへ迫る時間をほんの少しだけ稼いでいた。
その空白の合間に、クルトはテスタ=ロッサを己の元へ呼び寄せ、ドラッケンへ振るおうとしていた双剣を背後のシュピーゲルへ繰り出す。
機体を旋回させることで回転斬りとなったそれは騎神の性能と遠心力も含めて、いかに上位機体であろうとダメージは免れない……はずだった。
「無駄だ!」
そこに展開される障壁――《リアクティブアーマー》と呼ばれるフィールドが展開し、テスタ=ロッサの双剣を弾く。
目を見開くクルト。
そこにシュピーゲルの機甲兵ブレードが叩き込まれ――
「ノワールシェイド」
人間一人をひき肉に変えるのに十分な一撃を、アルティナが割り込ませたクラウ=ソラスが発生させた障壁が防ぐ。
だが機甲兵の馬力は強く、バリアでダメージこそ防いだが衝撃までは免れない。
機甲兵ブレードとバリアの激突の余波で転がるクルトの手からARCUSがこぼれ、同時にテスタ=ロッサが止まってしまう。
その隙を見逃す敵ではなかった。
当然、リィンも。
「来い、ヴァリマール!」
逡巡はなく、リィンはヴァリマールを召喚する。
もうクルトの経験値を稼ぐという余裕はリィンから失われていた。
呼び出しに応え、中空に転位する灰の騎神。
蒼との戦いによって破損した頭部は剥き出され、失った左腕を隠すように覆われたマントをなびかせる姿は、無理に形を整えた壊れかけの機体にしか見えない。
ただでさえ落ちていた性能から、さらに隻腕というハンデを負担することになったヴァリマール。
だがその不安を打ち消すように、ゼムリアストーンの太刀はドラッケンの盾を断ち切り、テスタ=ロッサに斬りかかろうとしていたドラッケンを後退させた。
「フフフ、息子よ。なかなか愉快な状況のようだな」
「最近こんなのばっかで悪い、な!」
リィンはヴァリマールの翼とバーニアを吹かせた高速移動でシュピーゲルに接敵。
とにかくクルト達から引き離すことを第一と考え、勢いを利用した蹴りに敢行する。
《リアクティブアーマー》は連続では張れないようで、ヴァリマールの蹴りを左腕の盾で受け止めたものの、衝撃を殺せず後退するシュピーゲルを見やり、リィンは叫んだ。
「クルト、無事か!?」
「は、はい……なんとか。アルティナが回復してくれました」
「アルティナ、助かった。そのままクルトの援護に回りながら《ギアス》の回収! アッシュは避難! この二機は俺が――おい!」
「はっ、この状況で逃げ回るってのは受け入れられねえな!」
アッシュはクルトの手から離れたARCUSを回収し、《ギアス》を起動していた。
護衛として下げられたのは不満だったが、幸いなことにクルトがテスタ=ロッサを操作する様子をじっくり観察することも出来た。
ある程度の動作を覚えたアッシュは、ぶっつけ本番でテスタ=ロッサをクルトの代わりに操作しようとしていたのだ。
「アッシュ待て! 操作はクルトに――」
その言葉が、最後まで続けられることはなかった。
リィンは見る。
《ギアス》による導力ラインとは別に、アッシュの左目から漏れる力がテスタ=ロッサと繋がりつつあることに。
「あれは……」
「鬼の力――その源流だ。フフフ、彼も何やら背負っているようだ」
冷静なオズぼんの声をよそに、テスタ=ロッサはアッシュの《ギアス》に従い起動する。
しかし、その姿は明らかにクルトが操作するものと雰囲気が異なっていた。
「ああ……こいつらは、人の故郷を潰そうとする
「なんだ……? ええい構わん、その小僧を――ぐおおおおっ!?」
ドラッケンがテスタ=ロッサに迫った瞬間、クルトが操作していた時よりも速い動きで繰り出された一撃がドラッケンに叩きつけられる。
その一撃を受けたドラッケンは機能を停止させる。
ただでさえ小破し、中破にまで至っていた損傷はもはや大破と呼んでも過言ではない。
もう決着は付いた。
誰の目から見ても明らかなはずだが、
技も何もない、力任せに叩きつけられる双剣。
アッシュ自身、双剣術など学んだことがないのだから自然かもしれないが、明らかにやり過ぎと呼べるほどに緋は機甲兵を打ちのめしていく。
その異様さに、ヴァリマールと対峙していたシュピーゲルすら足を止めてその光景を見入っていた。
「やめろ、アッシュ!」
「アア?」
《ギアス》でテスタ=ロッサを操作しながら、アッシュがヴァリマールを見上げる。
その表情に飄々とした彼の姿は見えず、ただ怒りと憎悪の込められた瞳と目が合った。
「邪魔するならテメェも――」
「クラウ=ソラス」
リィンへ一歩踏み出すアッシュの頭を、その背後に現れたクラウ=ソラスが殴って止める。
その動きを戦術リンクによって知り得ていたリィンは、咄嗟に《観》の赴くままに動いていた。
「幻葉切り!」
アッシュが倒れ、テスタ=ロッサの動きが鈍ったところでリィンは肆の型、その発展系である幻葉切りを放つ。
導力や霊力を伝って発生源へ斬撃を届ける戦技は、導力ラインとは別に生み出された、レイラインのような何かを断ち切る。
そこでようやく、テスタ=ロッサは動きを止める。
慌ててドラッケンから降りる操縦者。
機甲兵はテスタ=ロッサによって半壊したが、操縦者には傷がなかったようだ。
その相手を見やり、オズぼんがつぶやく。
「ほう、あれは以前特別実習のカジノで見た者だな」
「……ってことは、領邦軍崩れってあいつらのことか? いや、それより」
クルトへ指示を出そうとしたリィンだったが、すでに彼はARCUSを取り戻し、意識のないアッシュを地面に横たえさせている。
アルティナも同時に動いており、逃亡しようとしていたドラッケンの操縦者をクラウ=ソラスで殴って気絶させていた。
なんとも頼もしいサポーターである。
「さて、それじゃあ後は……」
「その声……貴様、あの時の小僧か!」
「そっちも覚えてたみたいだな。まさか、オーレリアさんから折檻受けたのに反省してないってことか? どれだけ腐ってるんだ」
「き、貴様ぁ!」
シュピーゲル越しに操縦者の怒りが伝わってくる。
だがリィンは相手にせず、再起動を果たしてヴァリマールの隣に並んだテスタ=ロッサへゼムリアストーンの太刀を差し出した。
「クルト。任せた」
「え……?」
その疑問は、無様にも操作を手放し、アッシュによってドラッケンが倒されたことへの悔しさを滲ませていたクルトの感情を漂白する。
「見ての通り、今のヴァリマールはあまり無理をさせられないからな。頼れる時は頼らせてもらうよ。さっきのドラッケンより上位の機体だけど……クルトならやれるはずだ」
「リィンさん……」
それは、紛れもない挽回の機会。
託された
初の実戦で上手くいかないクルトの焦燥感が反転し、覇気へと昇華されていく。
アッシュの無理な使い方によって剣身の歪む双剣を手放し、クルトはゼムリアストーンの太刀を受け取る。
太刀がテスタ=ロッサに渡った瞬間、その刀身は枝分かれし双剣として組み換えられていく。
シュミットと魔女による共同制作の作品は、担い手に合わせて形を変えていくゼムリアストーン製の武器。
伝説の騎神に最高の武器。
ここまでお膳立てをしてもらった上での敗北など、ヴァンダール家として――いや、男として許されるはずがない。
ARCUSが輝き、脈打つ鼓動のような力が《ギアス》へ伝わる。
その光を手に、クルトはテスタ=ロッサを操る。
「無駄だ、この《リアクティブアーマー》はどんなものも破れん!」
シュピーゲルの性能に任せた攻撃。
技量も強さもドラッケンの比にはならない。
だが、クルトはそれを微塵も気にすることはない。
あるのは、どこかぼんやりとした……体が燃えるように熱いはずなのに、妙に頭が冴える気分だった。
シュピーゲルの突きを、交差するように避け逆撃。
阻む《リアクティブアーマー》。
クルトは冷静に、その起動時間を観測していた。
《リアクティブアーマー》のクールタイムを終えたシュピーゲルが再び強気に攻めてくる。
けれど、その攻撃はテスタ=ロッサの機体に何一つ届くことはない。
「なん、だ、こいつ――」
「ヴァンダール流双剣術」
気づけば、テスタ=ロッサはシュピーゲルに再び迫っていた。
振るわれるゼムリアストーンの双剣。
だがシュピーゲルは冷静に《リアクティブアーマー》を起動する。
迫りくる双剣は再び《リアクティブアーマー》に弾かれ――なかった。
《リアクティブアーマー》を叩いたのは、剣でなくテスタ=ロッサの足だった。
双剣は構えたまま、突き出した足により《リアクティブアーマー》は装甲でも耐えきれた一撃に使ってしまったのだ。
故に、この結果は必然。
「――レインスラッシュ」
それは、クルトが始めて覚えたヴァンダールの剣技。
雨を裂くような縦横無尽の剣舞が、守りのために構えたシュピーゲルの剣と盾を強引にこじ開け、切り裂き――テスタ=ロッサの両手に、勝利の二文字を刻ませるのであった。
ヴァンダール流奥義・レインスラッシュと言わんばかりに使い勝手の良い戦技にお世話になった全国のリィン教官は多いはず。
現在のヴァリマールは、描写で察した方もいるかもしれませんがガンダムOOのエクシア・リペアならぬヴァリマール・リペアという外見です。
ああいう壊れかけでもなお動ける、疑似欠損の美しさはロボットの魅力の一つですよね。