リィンとオーレリアの戦いを期待していた皆さんすみません。
二人の戦いは次回になります。
今回は立ち会いまでの裏側をどうぞ。
クルトに連れられて案内された場所は、パルムの外に鎮座した導力車であった。
唐突すぎて口をぽかんと開けるリィンに、クルトは無理もないと思いながら車内へ入るよう言った。
リィンは言われるがまま導力車の中に入ると、運転席に座る眼鏡の青年の姿が見えた。
「あの、貴方は……」
「申し訳ありません、リィン様。ある場所に着くまで私のことを聞かれてもお答えできないのです」
「えー…………」
「リィンさん、すみません。本当にこんな突然……」
「ああいや、怒ればいいのか謝ればいいのかもわからないからなんと言えばいいか」
お願いします、とクルトが言うと眼鏡の青年が導力車を発進させる。
車内でもクルトはただただ申し訳なさそうな顔をしており、理由を聞くのがはばかられる。
リィンはただ導力車に導かれるまま、どこかへ連行されていく。
そんな彼がやってきたのは、白亜の旧都と呼ばれるセントアークであった。
唖然とするリィンは導力車が止まっていることに気づかず、クルトに連れられたリィンはある人物との謁見を行うこととなった。
連れられてやってきたのは豪華すぎる屋敷。
その主と思われる年配の男性はにこやかな笑みを浮かべて、リィンに挨拶をしてきた。
「やあ、初めましてリィン君。サザーランド州の統括を任されている、フェルナン・ハイアームズだ」
リィンは突然過ぎて混乱し、挨拶を返すことも出来ない失礼なことをしてしまう。
そんなリィンにオズぼんが声をかける。
(フフフ、息子よ。唐突すぎて混乱するのはわかるが、頭は冷静にしておけ。特別実習中の生徒を呼び出す事例、ハイアームズ侯爵の人柄を思えば絶対にありえん。第三者の思惑が絡んでいる)
(そ、そうなのか?)
(ハイアームズ侯爵は貴族の中でも特に穏健派で知られている。自らの領地の民からの評判も良い。言ってみれば、ユーシス君が言った
そこまで言われたら、シュバルツァー家のように人の良い立派な貴族だということだろう。
リィンの緊張しきった挨拶にも、ハイアームズ侯は怒ることなく受け入れてくれた。
その姿に、リィンは目の前の人物が本当に良い貴族なのだと実感する。
(そんな相手の影に隠れる人ぶ…………!?)
リィンはハイアームズ侯の前であるにもかかわらず、とっさに戦闘態勢となって背後を振り返った。
天井に向けて抜き放たれた太刀は手ごたえなく空振り、リィンはそれを分け身に似た戦技であると察する。
だがリィンの突然の行動に目を丸くするのは周囲の面々だ。
ハイアームズ侯にクルトはリィンの奇行に思わず口を挟もうとするが、それよりも早く圧倒的な存在感を放つ人物が扉をくぐって表れた。
「フフ、予想以上の有望株ではないか」
豪華なマントを翻した、銀の髪の美女がそこに佇んでいる。
容姿だけでも人目を惹くだろうが、何より彼女から目を離せない存在感とも言うべきものがずぬけているとリィンは思った。
そして、それ以上の警戒心も。
「ルグィン伯……希望ある若者をからかうのはほどほどにしておいてほしいものだね」
「いえ、同じ有角の獅子の名を戴くものだからこそ、でございます。雛鳥には薫陶を与えてこそと申しましょう」
「人を選んで遊ぶこと自体は減らしてもらえないのだな……」
はあ、と息をつくハイアームズ侯に一気に親近感を抱いたリィンだった。
「フフ、改めてお初にお目にかかる。オーレリア・ルグィン。伯爵の位を頂戴している。よろしく頼むぞ、シュバルツァー」
「貴方がオーレリア・ルグィン……いえ、ルグィン伯、失礼しました。貴方のご高名は、遠くユミルの地にも伝わっております」
咄嗟にリィンは口調を正すが、オーレリアはひらひらと手を振ってその口調を改めさせる。
曰く、社交の場でないからそこまで気を使うことはない、とのことだ。
からかいが済んだのか、先程までの威圧感はそこになく、リィンは警戒を解いて納刀する。
ハイアームズ侯や眼鏡の青年、クルトに場を荒らしたことを謝罪すると、武芸者の少年が疑問を口にした。
「あの……さきほど伯爵は何を……?」
「俺にだけわかる技を飛ばしたんだ。仮に当たりそうになっても、自分で追いついて処理出来るくらいに手加減されてたけどな」
「ほう。気づくか」
「様々な方の教えあってこそです」
リィンにとって師と言える人物はユン老師とオズぼんのことである。
未来予知じみた洞察力に加えて、老練の身でなお衰えぬ八葉一刀流の創始者である彼はリィンの中で武芸者の頂点に位置している存在である。
オズぼんは武芸に関しても詳しく、鬼の力の制御のほかにも様々なアドバイスをリィンに与えてくれた。ちなみに百式軍刀術が一番詳しいそうだ。
父親から騎士剣術を学んでいたが、鬼の力のこともありすぐに八葉一刀流がメインになってしまったのは二人の父に申し訳なく思う。
もっとも、八葉一刀流を薦めてきたのは他ならぬオズぼんだったのだが。
「あの、結局俺はどうしてこの場に連れて来られたのでしょうか?」
「…………貴族の恥を晒し、領民の恩人たる君には非常に申し訳ないのだが…………」
リィンの疑問にハイアームズ侯は頷き、ことの詳細を語ってくれた。
事のはじまりは今日の昼間のことだ。
サラの要請といえ、リィンはユーシスとマキアス相手に立ち回りを行った。
結果的に反則負けとなったが、見る者が見ればリィンの圧倒的優位と実質の勝利者は語るに及ばない。
その騒ぎは練武場から外に漏れ、パルムの一部に広まっていたらしい。
それが貴族の耳に入った。それも、伝言ゲームのようにバラバラになったあなぬけ状態で。
ユーシス……正確にはアルバレア公爵家が男爵家、それも浮浪児相手に倒されたということを許せない貴族が存在したらしい。
そこまで知っている時点で昼間の奴か、と思ったリィンだったが、貴族の中にはそういった格差をけなすことで自己満足に浸るグループが存在しているらしい。
(貴族にはよくあることだな。自らが成し遂げたわけでもない、受け継いだ権力や財力を己のものと勘違いし、他者を害することでその暴威に酔うのだ)
オズぼんが真面目な声で教えてくれる。
身分格差についてリィンは特に意識していないが、マキアスという例を見ていたので平民は貴族を嫌悪しているんだな、程度の認識でしかなかった。
だがどうやら貴族にもそういった事例は適応されるようだ。
爵位の中で頂点と底辺の差を覆される、ということは当の貴族達の中では絶対に許さないことらしい。
「そんなの、ただのこじつけじゃ……」
「その通り。生徒同士の諍いでもなく、単なる学業の一端だというのに口を挟んできた。当然最初は相手にしなかったのだが、単なる権力のひけらかしにしてはおかしなことがあってね。それは、君が起こした行動が理由だった」
「俺の、行動?」
「君がサザーランド州一帯の魔獣や手配魔獣を狩って回ったことだ。私にはその理由はわからないが、それで助かる領民がいたのも事実。故に感謝の言葉しかないのだが、その中には件の貴族が飼育していたものもあるようでね」
「飼う? 狩るのではなく?」
「知っての通り、魔獣はセピスを体内に溜める習性がある。それを利用して魔獣を狩ることでセピスを集めて資金源にしたり、クォーツの改良に励むなど様々なことに利用している。そして件の貴族は、それに目をつけて魔獣を捕らえては放置し、適度にセピスを蓄えさせていた」
「それは…………」
「シュバルツァーが狩った魔獣の中にそれが含まれていた。それを狩るだけ狩って放置した結果、貴族が目論んだセピス回収を、おまえが台無しにしてしまったというわけだ」
あの時は帰るのに必死だったが、どうやらリィンが道すがら斬り捨てた魔獣のセピスは貴族の所有するものだったらしい。
だがそれらはサザーランド州の様々な場所に放置され、回収出来たのは半分もなかったそうだ。
「なぜシュバルツァーがその場に居て、魔獣を狩り尽くしたかはこのさい置いておこう。重要なのは、シュバルツァーが倒し続けた魔獣の後を追うと、魔獣の飼育施設があった、ということだ。加えて、それらは軍用魔獣の飼育と売買にも使われていた」
「リィン君が起こしたものを調査するうちに明るみになったものでね。私としては、その事実を知れた意味でもリィン君には大変感謝しているのだが……」
そこでハイアームズ侯は苦虫を噛み潰したかのように渋面を作る。
やがて意を決したかのように静かに、怒りを押し殺すように語り始めた。
「あいにくと飼育場は他にもあるようで、君が潰したのはそのうちの一つだった。我々も調査しているうちにいくつか施設を見つけ、破壊した。だが名のあるブローカーでも雇っているのか、その貴族が関与している証拠が見つかっていない」
「加えて領邦軍は手が出せない理由がある」
ハイアームズ侯は自身が治めるサザーランド州にそんな悪が潜んでいたことを見抜けなかったことを、深く後悔している様子だった。
侯爵の様子を察したのか、オーレリアが言葉を引き継ぐ。
「その理由とは?」
「候補地の場所がクロイツェン州……アルバレア公爵の領地というわけだ。軍を動かせばあちらを刺激する。私やウォレスを放り込めば制圧する自信はあるが、決してあちらは入れてくれないだろう。もっとも、ウォレスに関しては私が無理に割り込んだ形になるので、譲ってもらった形になるが」
「ということは、アルバレア公爵が魔獣を飼っているのですか?」
「公爵自身が関与しているのか、その部下が勝手にやったことはわからない。判明しているのは、魔獣飼育施設の候補地がサザーランド州に隣接したクロイツェン州の傍にあり、我々に手出しが出来ないという事実だ」
「お話はわかりました。ですが、それで俺が呼ばれた理由はなぜでしょう? 話を聞く限り、ここに呼び出すのでしたらユーシスが適役かと思われるのですが……」
「当然、それは後で頼み込む予定だ。お前を先に呼び出したのは、貴族の目をごまかすためだ」
「ごまかす?」
「率直に言おう。大怪我をして牢に入ってくれ」
リィンはオーレリアが言っている意味がわからなかった。
「ルグィン伯、言葉が足りなさすぎるよ。……正確には、そこのセレスタンに君が大怪我を装うメイクを行う。そうして、公爵家に歯向かった男爵家の息子として、貴族の目をここに縛って欲しいんだ」
(なるほど。飼育施設の管理者である貴族からすれば、お前は今まで隠していた施設を暴いた仇敵だ。それが貴族の私刑にあい牢に入れられていると知れば、溜飲が下がり警戒心が和らぐということだ。そして、〈理〉に至っているであろう達人にして貴族がこの場にいる理由。あとはわかるな?)
なるほど、とリィンはオズぼんの言葉に頷く。
なんてことはない、自分が牢屋に入って一晩過ごせば解決するものだ。
「わかりました。俺は牢屋で一晩過ごし、翌日にルグィン伯による俺への私刑を行っている間に事件を解決させるということですね?」
リィンの答えに目を瞬かせるハイアームズ侯。
オーレリアは口元の歪みを堪えきれぬと言わんばかりに腹を抱えて笑った。
目端にうっすらと涙を浮かべて笑うさまは、童女のような印象を受ける。
「い、いやリィン君。君は何を言っているのかわかっているのか?」
「? ええ。間違っていましたか?」
「いや、およそ正解だ。違うのは私刑ではなく稽古ということだな。ただし、限りなく死合に近い、な。本来ならば私との稽古を受けるか牢で考えてもらう予定だったのだが、まさか自分から志願してくるとは思わなかった」
「リ、リィンさん。自分が何を言っているのかわかっているのですか?」
「何が?」
なんでもなさげに言うリィンに、今まで黙っていたクルトは自分のほうが慌てながらも、リィンにオーレリアのことを語る。
「オーレリア・ルグィン伯は〈黄金の羅刹〉と呼ばれるほどの剣士……加えてアルゼイド・ヴァンダールの二大流派の皆伝に至った、紛れもない傑物です。そんな相手と稽古に近いといえ死合を行うなんて……貴方がそれを受ける理由は」
「まあないと言えばないし、あると言えばある」
「あ、あるんですか?」
「友達のため……かな」
「とも……だち……?」
クルトは呆然と、放心するようにリィンの言葉を繰り返す。
「詳細は省くけど、俺は友達のために強くなりたいんだ。だから格上っていうならそれこそありがたい。そういった相手との経験で、きっと掴めるものがあると思うんだ」
リィンが持つ灰のチカラ。
旧校舎で手に入れたあの世界を書き換えるような七属性の領域。
あの世界の中でなら、ロジーヌはオズぼんを見ることが出来た。
だからリィンは、あの領域を展開出来るほど灰のチカラを必ず使いこなす必要がある。
場所は限られるかもしれないが、それでもオズぼんが見える相手が増えるということは、リィンにとって人生の目標とも言うべきものなのだから。
「クルトはそういった相手はいるか?」
「あ……その、守りたい方、ならば。今の僕では、とても力不足なことなのですが……」
「そっか。その人のために強くなるためなら、自分に足りないものがあるのはむしろ嬉しいことって考えたらどうだ? 研鑽が実り成長を実感出来るのが鍛錬の醍醐味。そうやって上達のために工夫することを楽しく感じるのが、武芸者の嗜みってな。それに、いずれ本当にその人に脅威が迫った時のために、こういった格上との戦い方は学んでおいて損はないと思うぞ。勝てなくても負けない、時間を稼ぐ方法とかでもいいし」
「そんな、割り切った考えが」
「はは、これは親父の教えだけどね。クルトに合ってるかはわからないけど、力不足を感じるなら相手に引っ張り上げてもらうのも一つの手さ。――これから俺がするみたいに」
そう言ってリィンはオーレリアを見据える。
ようやく笑いが収まったのか、今度は心底愉快とも言うべき顔を覗かせている。
リィンはそれに応じるように頭を下げた。
「ハイアームズ侯。そちらの要請、引き受けさせていただきます。だからルグィン伯、どうか俺が目指すもののために協力してください。あ、あと公爵家に歯向かった男爵家とのことですが、事件が終わった後に俺はともかくシュバルツァー家の名誉は守ってもらえたら」
「あ、ああ。そこは当然だ。こちらの不手際に協力してもらうのだ、シュバルツァー男爵家には、必ず迷惑が及ばぬよう努めよう」
「そこに関しては我がルグィン家も手伝おう。フフ、私を利用しようとするその貪欲な姿勢は見事というものだな。トールズ一の問題児……クク、単に学院では扱いきれぬというだけであったか」
何故か意気投合する二人をよそに、常識人のハイアームズ侯やクルトは困惑を隠せない。
そんな中、眼鏡の青年、セレスタンがリィンに特殊メイクを施すために彼を伴ってから退室していく。
その姿をオーレリアは猛々しく、ハイアームズ侯は申し訳なく見送るのであった。
*
翌朝、生徒達への説明のために宿へ向かったクルトの案内で導力車に乗ったⅦ組B班は、リィンがハイアームズ侯から受けた要請を、改めて説明されていた。
特にユーシスは己の家が関わっているかもしれないと聞いて冷静ではいられなかった。
本日の特別実習の要請は幸いと言っていいかわからないが、手配魔獣の討伐であったため道すがらその依頼を終わらせていく。
協力者であるクルトはヴァンダール流の初伝であり、ラウラやフィーには及ばないもののユーシス達に引けをとらない実力者であるため、彼の同行を許していた。
マキアスは貴族が引き起こしたという一連の話に怒りが再燃し、導力車の空気が不穏なものになる中、ラウラが空気の入れ替えをする意味でクルトへの質問を投げていた。
「そう言えば、クルトはどうしてパルムに? 見たところ、ルグィン伯やハイアームズ侯の側仕えというわけでもなさそうだが」
「僕は十歳の頃までパルムに住んでおりまして。今日が休日ということもあり、昨日から帰省していたんです。列車の中でルグィン伯とお会いした時は、まさかこんなことに巻き込まれるとは微塵も思いませんでしたが……」
「聞いてる限り、すごい女傑って感じだね」
「アルゼイドとヴァンダールの免許皆伝……一握りの者にしか到れぬそれを、二つも。リィンは本当に無事なのか?」
「はい。ルグィン伯曰く、少なくとも死なせはしない、と。ただし貴族の目を釘付けにするために、おそらく長時間の戦闘が予想されます」
「時間が経てば経つほどリィン様の体が耐えきれないかもしれません。これは時間との勝負になります」
「オーレリアって人は、ハイアームズ侯寄りでいいんだよね?」
「はい。ですが埋伏の毒として相手の貴族側に寄られますので、協力者としては手伝うことは出来ないでしょう。彼女に許された協力は、リィン様への稽古を可能な限り長引かせることなので」
ちなみにリィンはオズぼんからのアドバイス等で説明を受けなかったが、もし彼がパルムに来ていなければオーレリアが強引に事件を解決しようと目論んでいた。
ただし解決のために相応の出血があり、ハイアームズとアルバレアの間にも緊張が走りやがて騒動の種になることは必至だったため、リィンの存在は渡りに船と言えた。
もっとも、誠実な人柄で知られるハイアームズ侯は彼抜きの作戦にこだわったが、他ならぬリィンが協力的で後の火種の懸念が消えるとなれば統治者としてうなずかないわけにはいかなかった。
「……その施設のめどはついてるの?」
「はい。我々が調べた結果、アルバレア公爵家が管理する坑道が怪しいと睨んでおります。リィン様が潰した施設にも残されていたようですが、魔獣を飼いならすための何かを生成しているという話です。最悪、貴族を処罰出来なくてもその何かを確保ないし焼却するのがよろしいでしょう」
「随分話が大事になってきたね。私達だけで大丈夫かな?」
「坑道に紛れているのなら、むしろ警備は少なくしないとダメだもの。少数精鋭だからこそチャンスはあるはずよ」
フィーの不安に応えたのはサラだった。
ARCUSで連絡を受けた彼女は夜のうちにパルムに駆けつけ、Ⅶ組B班とクルトを引率し、坑道へ侵入する役目を引き受けた。
ハイアームズ侯も紫電と名高いA級遊撃士のサラになら任せられるとセレスタンより伝言を受けていた。
特別実習には別の依頼を考えていたが、これはこれでとサラは柔軟な思考を持って受け入れている。
といっても、リィンがここまでの騒ぎを起こすとはまるで想像していなかったのだが。
(あの子やエマは、本当はこのことを知っていた? いいえ、多分偶然……だとしても巡り巡ってこんな結果になるなんてね。女神の加護……というより悪戯心に愛されてるのかしら)
斜め上を行き過ぎる教え子に頭痛がしてくるが、なんとか我慢する。
「だが、ユーシスが普通に坑道に行くだけでは怪しまれぬか?」
「確かに、街の中ならまだしもサザーランド州と隣接する場所だ。何らかの理由がなければ正面から行くのは難しいだろう」
「何行ってるのよ、そこで特別実習の要請でしょ」
「あ! つまり、特別実習にかこつけて坑道を探すということですね?」
「そ。邪魔をしてくるなら、ユーシスが学業の邪魔とでも言えば少なくとも監視とかの目を分けることが出来る」
「ってことは、サラは別行動?」
「ええ。セレスタンさんと私はあんた達とは別に目的の品や証拠を確保するわ」
「その……執事、なんですよね? 大丈夫なのですか?」
「ご心配ありがとうございます、マキアス様。ですが私もこう見えて武術の作法は学んでおりますので、サラ様の足手まといにならない程度には手伝わせていただこうと思います」
マキアスは同じ眼鏡をかけた人物として親近感でも抱いたのか、セレスタンのことを心配するのだが、彼は気負った様子もない。
彼の強さに気づいているのはサラとフィー、ラウラが確証はないが彼が強いのではと睨んでいる。
「しかし、僕もついていって本当に良かったのですか?」
「生徒の顔までは覚えていないし、大丈夫でしょう。むしろ制服のサイズ合ってるかしら?」
「は、はい。セレスタンさんが裾などを直してくれましたので……」
クルトは現在、トールズ士官学院の赤い制服に身を包んでいた。
これはリィンの制服を借り受けたもので、いち生徒に扮して今回の事件に協力しているのだ。
「クルト、そなたこそこちらに来て大丈夫なのか? 下手をすればヴァンダールに……」
「いえ、本来何も関係ないリィンさんが身を呈して事件の解決に乗り出しているのです。守護の剣をうたうヴァンダールとして、これを見逃すわけにはいかない」
「や、元を正せばリィンがやらかしたんだけど……」
「不正を暴いた、という点でやつは怒れぬだろうさ」
「彼が学院を数日サボった理由が、まさかこういうことだったなんて」
多分偶然だ、とクルトとマキアス以外の思考が一致する。
けれども、この事件に対して体を張っている事実は本物だった。
ならば同じ班として負けるわけにはいかない。
なんとしても魔獣飼育の証拠を暴き、リィンを助けるのだと生徒達とその協力者五人は心を一つにした。
そんな彼らを見ながら、サラはこう思う。
(リィンって協力させるより、競争相手にさせておいたほうが良い方向に働くのかしら?)
それの答えとなる結末は、これから明かされるだろうとサラは思う。
導力車が止まり、セレスタンが坑道への到着を告げる。
ここにリィンを除いたⅦ組B班、二日目の特別実習が開始された。
特別実習を通じた貴族との問題、オリジナル展開ですが楽しんでいただけたら幸いです。
地図的にここに坑道あったっけ?とかは、自分も詳しい位置情報がわからなかったので、ご都合主義でこんなのがあるよと思っていただけたら。
Ⅶ組B班+クルトの活躍は多分省略されます。
リィンVSオーレリアに気力持っていかれそうなので…